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菊模様皿山奇談(きくもようさらやまきだん)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-12 9:27:57  点击:  切换到繁體中文


        四十七

 幇間ほうかんの五蝶が、
五「大夫様、此のお庭はいお庭でございますな」
數「なか/\好いの」
五「大きな緋鯉ひごいが居ります、更紗さらさや何か亀井戸もよろしく申すので」
數「何ういう訳で、誰が亀井戸でよろしくと申した」
五「いえなに、ういう訳ではありません、これはどうも恐入りましたな」
數「わしも一つ洒落ようかな」
五「これは恐入ります、みん此処こゝへ来て伺いな、大夫様がお洒落遊ばすと、お上屋敷の御家老様が」
數「貴公はうまい物で洒落るから、わしも一つ洒落よう」
五「改まって洒落ようというお声がかりは恐入ります」
數「わしが国は美作で」
五「へえ成程」
數「わしは城代家老じゃ」
五「へえ/\」
數「そこで洒落るのだ」
五「大層どうもお洒落の御玄関ごげんかんから大広間おおびろまは恐入りました、へえ、成程」
數「美作城代家老私みまさかじょうだいかろうわし、というのは何うだ」
五「へえ、恐入りましたな、それは何ういう訳なんで」
數「分らんの、いまさか羊羹ようかん鹿もち
五「へゝえ、成程気が付きません、美作城代家老私、いまさか羊羹鹿の子餅、これは恐入りました……どうも恐入ったね」
喜「恐入りました、御家老様からお洒落がお菓子で出たから、可笑おかしな洒落と云うのをやろうかね、さアと云うと一寸ちょいと出ないものでげすが」
みの吉「私がちょいと一つやるよ」
喜「や、これはみの吉さん感心」
みの「私が赤飯おこわべたんだよ」
喜「可笑しな洒落だね」
みの「汁粉屋で赤飯を出したのだよ」
喜「此の節は汁粉屋で赤飯を売るよ」
みの「だから白木屋しろきやこまというのを汁粉屋赤飯しるこやおこわさ」
喜「さき本文ほんもんことわってあとから云うのは可笑しい」
岩越「手前が一つ洒落ようかの」
五「岩越さま、あなた様のお洒落は」
岩「手前は考えたが余程むずかしいて、これはムヽウ…待ってくれ、えー阿部川餅あべかわもちというのが有るの」
五「へえ/\ございます」
岩「一つ八文で」
五「阿部川、へい、一つは八文で」
岩「あべ川の八銭では本当のだというのは何うだ」
五「へえー、変なお洒落で、それは何う云う訳なんで」
岩「姉川あねかわ合戦かっせん本多ほんだが出たというのだ」
五「それは余りお固いお洒落でげすな、わたくしが洒落ましょう、斯ういうのは何うでございます、大黒様が巨燵こたつ※(「火+共」、第3水準1-87-42)あたってるのでございます、大黒あったかいと」
數「うん、成程是は分った、大福あったかいか」
五「御家老様の御意にりましたか」
數「わしう一つ洒落ようか、是は何うだの、松風は固い岩おこしは柔らかいと云うのは」
五「へえ、それは何ういう訳で」
數「松蔭は堅い男、岩越は柔術家やわらとり
五「へえ成程中々ちょっくら分りませんが誠に恐入りました事で、早くお三味線を」
 とお座付ざつきが済み、あとは深川の端唄はうたにぎやかにやる大分興にった様子、御家老も六十ぢかいお年で、初めて斯ういう席に臨みましたので快く大分に召上りました。
數「お前のお蔭でわし斯様こんな面白い事に逢ったのは初めてだ、実にたまらんな、た其のうち来たいものだ」
大「何うか御在府中御遠慮なくおいで下されば、清左衞門は如何いかばかりの悦びか知れません、芸者はどれがお気に入りました」
數「皆いの、其のうちにもあれいの、小まんに雛吉か」
大「あれが御意に入りましたら、今度はお相手に前々ぜん/″\から頼み置きまして、呼寄せるように致しましょう」
數「それは誠にかたじけない、大きに酔うたな、殿様は御病気での」
大「へえ/\わたくしも大きに心配を致して居ります」
數「しかわしが顔を御覧があってから、大きにお力が附いて大分に宜しいと、ことほかお悦びでおしょくも余程進むような事で」
大「大夫、何ぞおなぐさみを」
數「いやわしは誠に武骨な男で、音曲おんぎょくや何かはとんと分らん、能が好きじゃ」
大「はア、左様でございますか、それでは能役者を」
數「いや連れて来たよ、二人次の間にるが、せめてつゞみぐらいはなければなるまいと思って、婦人で皷をく打つ者があって、幸いだから、わしが其の婦人おんなを連れてまいった」
大「それは少しも心得ませんでした、何時いつにまいりましたか」
數「芸者どもは少しはしへ寄って居れ」
 と是からあかりを増し折から月が皎々こう/\差上さしのぼりまして、前の泉水へ映じ、白萩しろはぎは露を含んで月の光りできら/\いたしてる中へあかりを置きまして、此方こちらには芸者が並んで居りますから、何方どちらを見ても目移りが致しますような有様、今ふすまを開けて出て来ましたは仙台平せんだいひらはかまに黒の紋付でございます。其の頃だから半髪青額はんはつせいてんでまだ若い十七八の男と、二十七八になる男と二人がすうと摺足すりあしをして出て来ました。脇を見ると隅の方に女が一人振袖ふりそでを着まして、調べを取ってポン/\という其の皷の音が裏皮へ抜けまして奥へ響き中々上手に打ちます。大藏は何うして何時の間に斯様かような能役者を連れて来たかと思って見ますと、どうも見た様な能役者であるとは思いましたが、松蔭にも分りません。少し前へ膝を進めて熟々よく/\見ますと若い方は先年おいとまが出て、お屋敷を追放になりました渡邊織江のせがれの祖五郎、今一人は春部梅三郎、両人共にお屋敷を出てって、二人が何うして此処こゝへ能役者に成って来たことかと、皷打つゞみうちを見ると祖五郎の姉のお竹ですから松蔭は驚きまして、是は何ういう訳かと濱名左傳次とたがいに顔を見合せて居ります内に、舞もしまいました。
數「大きに御苦労/\、さア/\こゝへ来て、ずうっとこゝへ来な、構わずに此処こゝへ来て一盃いっぱい……それから松蔭もこゝへ来て……えゝ、これは貴公も知ってる通り、渡邊織江の忰祖五郎で、あれは春部梅三郎じゃ、不調法があってお暇になり、浪人の活計たつきに迫り、自分も好きな所から能役者となりたいと、何うやら斯うやら今では能役者でやってるそうだ、これは祖五郎の姉だ、器量もいがお屋敷へ帰るまでは何処どこへも嫁付かたづくことはいやだと、皷を打ったり、下方したかたが出来る処から出入町人の亭主に心安い者があって、其処そこにいると云うが、今日こんにちは幸いな折柄で、どうか又贔屓にして斯ういう事が有ったら前々まえ/\屋敷にいた時の馴染もあるから呼んでやってくれ」
大「これは思掛けない事で、祖五郎殿にも春部氏にもしばらく……」
 と松蔭も腹の中では驚きました。
大「えゝ、只今は何処どこに」
數「いや、国へ尋ねて来た、それからま何うするにも仕方がないから、奈良あたりで稽古をして、此方こちらへ出て来たので、是からが本当の修業じゃ、さア/\一盃いっぱい/\」
梅「松蔭殿、面目次第もない、尾羽打枯した浪人の生計たつき、致し方なく斯様な営業なりわいをいたして居り、誠に恥入りました訳で、松蔭殿にお目通りを致しますのも間の悪い事でございますが、構わんから参れと、御家老の仰せを受けて罷出まかりでました、貴方様には追々おい/\御出世、蔭ながら悦び居ります」
祖「祖五郎も蔭ながら、貴方様の御出世は父織江がお世話致した甲斐がござると蔭ながら悦び居ります、今日こんにちは思掛けなく御面会を致しました、此の共御贔屓を願いとう……斯様な御酒宴のございます節には必ずお招きを願います」
竹「松蔭さま暫く、竹でございます」
大「これはお竹さま、これは実に妙でげすな」
數「いや実に妙だ、芸者は帰したら宜かろう、かえって此処こゝにいると屋敷の話も出来んから、取急いで秋田屋芸者共を早く帰せ/\」
番頭「へえ/\」
 と急に船に載せて帰しました、
數「さ、こゝへ来て昔の話をしよう、この祖五郎の父織江は福原別懇であった、忠義無二な男であったが、武運つたなくして谷中瑞麟寺の藪蔭で何者とも知れず殺害せつがいされ、不束ふつゝかの至りによってながのおいとまを仰付けられ、討ったるかたきが知れんというが、さぞ残念であろう」
祖「はっ、誠に残念至極で」
 と眼に涙をうかめてお竹と祖五郎が松蔭の顔をじろりと横目でめ上げるから、松蔭は気味悪くなり、下を向いている。
數「春部梅三郎は腰元の若江と密通して逃げたという事だったの」
梅「はい、誠に恥入った事でございます」
數「うん、それが露顕した訳でもなし、是まで勤めむきも堅く、ほんの若気わかげの至りで、女を連れて逐電いたしたのじゃが、いまだお暇の出たわけではなし、只家出をしたかどだから、お詫をして帰参のかなう時節もあろう、若江という小姓もちいさい時分から奉公をしていた者で、先年体好ていよくお暇になったとの事、是も出入りは出来ようかと思う、所でお前たちにわしが問うがな、大殿様は今年はもう五十五にお成りなさる、昨今の処では御病気も大きにいようじゃが、どうもお身上みじょうが悪いので、今度の御病気は數馬決して安心せん、もしお逝去かくれにでもなった時には御家督相続は誰が宜かろう、春部だの祖五郎はお暇になってゝも、代々の君恩のかたじけない事は忘却致すまい、君恩を有難いと考えるならば、御家督は何う致すが宜しいか少しは考えも有ろう」
祖「手前の考えでは若様はだお四才よっつかお五才いつゝ御頑是ごがんぜもなく、何わきまえない処のお子様でございますから、万々一まん/\いち大殿様がお逝去かくれに相成った時には、お下屋敷にならせられる紋之丞様より他に御家督御相続のお方は有るまいかと存じます」
數「それはと違うだろう、菊様はお血統ちすじだ、仮令たとえ四才よっつでも菊様が御家督にならなければなるまい、御舎弟を直すのは些と道理に違ってるように心得る」
梅「いや、それは違って居りましょう」
數「違っては居らん」
梅「しかしお四才よっつになる者を御家督になされば、矢張やっぱり御後見が附かなければなりません、それよりは矢張やっぱりお下屋敷の御舎弟紋之丞様が御家督御相続になって、菊様追々御成人ののち御順家督ごじゅんかとくに相成るが御当然ごとうぜんのことゝ存じます」
數「いや/\うでない、お血統ちすじは別だ、誰しも我子は可愛もので、御実子ごじっしもって御家督相続と云えば殿様にもお快くお臨終が出来る、御兄弟の御情合も深い、深いなれども御舎弟様が御家督と云えばお快くないから御臨終ごりんじゅうが悪かろうと思う、どうもお四才よっつでもお血統はお血統、若様を御家督にするが当然かと心得るな」
祖「是は御家老様にお似合いなさらんお言葉で、紋之丞様が御家督相続に相成れば、万事御都合が宜しい事で、お舎弟様は文武の道にひいで、お智慧も有り、ず大殿様が御秘蔵の御方おんかた度々たび/\めのお言葉も有りました事は、父から聞いて居ります」
數「それはお前たちの知らん事、何でも菊様に限る」
大「えゝ、松蔭横合より差出ました横槍を入れます、これは春部氏祖五郎殿の申さるゝが至極もっともかと存じます、菊様はいまだお四才よっつで、何のおわきまえもない頑是がんぜない方をお世嗣よとりに遊ばしますのも、と不都合かのように存じます、菊様御成人の後は兎も角こゝ十四五年の間は梅の御印様おしるしさまが御家督になるのが手前においては当然かと、はゞかりながら存じます」
數「うじゃアあるまい」
大「いや/\それは誰が何と申しても左様かと心得ます」
 福原數馬はにわか面色めんしょくを変え、かたちを正して声を張上げ。
數「黙れ……白々しい事を申すな、松蔭手前はそれ程御舎弟紋之丞様を大切に心得てるならば、何故なぜ飴屋の源兵衞を頼んだ」
大「はっ」
數「神原五郎治、四郎治と同意致して、殿をないがしろにする事をわしが知らんと思うてるか、白痴たわけめ、左様に人前ひとまえを作り忠義立を申してもな、其の方は大恩人の渡邊織江を谷中瑞麟寺脇の細道において、手槍をもって突殺した事を存じてるぞ、其のとがを梅三郎に負わそうと存じて、証拠の物を取置き、其の上ならず御舎弟様を害そうと致した事も存じてる、百八十余里へだった国にいても此の福原數馬はく心得てるぞ、人非人にんぴにんめ」
 と云い放たれ、びっくり致したが、そこは悪党でございますから、じりゝと前へ膝を進めて顔色がんしょくを変え。
大「御家老さましからん事を仰せられます、思い掛けない事を仰せられまする……手前が何で渡邊織江を殺害せつがいし、ことに御舎弟紋之丞さまを失おうとしたなどと誰が左様な事を申しました、手前においては毛頭覚えはございません、何を証拠に左様なことを仰しゃいますか、承わりとうござる」
數「これ、まだ其様そんなことを云うか、手前は五分試ごぶだめしにもせにアならん奴だ、うゝん……よく考えて見よ、まず奥方さま御死去になってから、お秋の方の気儘きまゝ気随きずい神原兄弟や手前達を引入れ、殿様をないがしろにいたす事もな存じてる。殊に其の方を世話いたした渡邊を殺害せつがい致したり、もと何処どこの者か訳も分らん者を渡邊が格別取做とりなしを申したから、お抱えになったのじゃ、かみへつらこびを献じて、とうとう寺島主水を説伏せ、江戸家老を欺きおわせて、菊様を世に出そうが為、御舎弟様をき者にしようと云う事は、うに忠心の者が一々国表へ知らせたゆえに、老体なれども此のたび態々わざ/\出て参ったのだ、其の方のような悪人は年をっても人指ひとさしゆび拇指おやゆびひねり殺すぐらいの事は心得てる、さアそれとも言訳があるか、忠義にった若者らは不忠不義の大罪人八裂やつざきにしても飽足あきたらんといきどおったのを、わしが止めた、いやそれは宜しくない、一人を殺すは何でもない、まして事を荒立る時には殿様のお眼識違めがねちがいになりお恥辱はじである、また死去致した渡邊織江の越度おちどにも相成る事、万一此の事が将軍家の上聞じょうぶんに達すれば、此の上もない御当家のお恥辱はじになるゆえ、事穏便おんびんが宜しいと理解をいたした、こりゃ最早ように陳じてものがれる道はないから、神原兄弟は国表へ禁錮おしこめ申し付け、家老役御免、跡役は秋月喜一郎に仰付けられるよう相定あいさだまってる、手前は不忠な事を致し、面目次第もない、不忠不義の大罪人御奉公も相成りかねるによってながいとま下されたしという書面を書け、これ祖五郎此の松蔭に父を討たれ、無念の至りであろう、手前はお暇をこうむってる身の上、仮令たとえ悪人でも殿様のお側近くへまいる役柄を勤める大藏を、かたきと云って無闇に討つことは出来んから、暇を取ったら、すぐに討て……梅三郎貴様は大藏のため既に罪におとされしかどもあり、祖五郎はいまだ年若じゃによって助太刀を致してやれ、これに岩越という柔術取やわらとりの名人がるから心配は無い、貴様力を添えてやれ、さ松蔭書付を書いてわしへ出せばそれで手前はお暇になったのだ…秋田屋の亭主気の毒だが此の庭で敵討かたきうちを致させるから少し貸せ」
清「へえ」
 と驚きました。
清「泉水がございますが」
數「いや、びちゃ/\おっこっても宜しい、急に一時いちじに片を附けなければならんのだ、さ書け書かんかえ」
大「はっ……しかようの証拠がござって、手前は神原兄弟と心を合せて御家老職をあざむき、あまつさえ御舎弟様を手前が毒害いたそうなどと、毛頭身に覚えない事で、殊に渡邊織江を殺害せつがいいたしたなどと」
梅「黙れ此の梅三郎が宜く心得てるぞ、手前は神原と心を合せて織江殿を殺害せつがい致した其の時に、此の梅三郎は其の場に居合せ、下男を取押えて密書を奪い現に所持いたしてる、最早のがれる道はないぞ」
 祖五郎は血眼ちまなこになって前へ進み、
祖「やい大藏、人非人恩知らず、狗畜生いぬちくしょう、やい手前はな父を討ったに相違ない、手前は召使めしつかいの菊を殺し、又家来林藏も斬殺きりころし、其の上ならず不義密通だと云って宿やどへ死骸を下げたが、其の前々まえ/\菊が悪事の段々を細かに書いて、小袖の襟へ縫附けて親元へ贈った菊の書付けを所持してる、最早のがれる道はないぞ、手前も武士じゃないか、尋常に立上って勝負いたせ」
大「はっ……不忠不義の大罪重々心に恥じ、恐入りましてござる」
數「さ、書け、もうとてもいかんから書け、松蔭手前も諦めの悪い男だ、最早にぐるも引くも出来やせん、書け」
大「はっ」
數「まだ恐れ入らんか」
大「はっ」
數「も一つ云おうか、白山前の飴屋小金屋源兵衞をだまし宗庵という医者を抱込んで、水飴の中へ斑猫を煮込み、紋之丞様へ差上げようと致したな、それはうに水飴屋の亭主が残らず白状致してある、のがれる道はない」
大「あゝ残念…是まで十分仕遂しおわせたる事が破れたか、あゝ」
 とふるえてはかまの間へ手を入れ、松蔭大藏は歯噛はがみをなして居りましたが、最早詮方せんかたがないと諦め、平伏して、
大「恐れ入ってござる」
數「おゝ、恐れ入ればそれで宜しい、お秋の方も剃髪ていはつさせ、国へ押込めるつもりだ、さ書け/\」
大「只今書きまする」
 と云いながらあと退さがるから、岩越という柔術家やわらとり万一もし逃げにかゝったら引倒して息の根を止めようと思って控えて居ります。後へ退って大藏がすゞりを引寄せてふるえながらしたゝめて差出す。
數「爪印を押せ、其処そこへ」
大「はっ」
 と爪印をして福原數馬の前へ差出し、
大「重々心得違い、れにて宜しゅうございますか、御披見ごひけん下さい」
數「其の方の手跡しゅせきだから宜しい、さ是から庭へ出て敵討かたきうちだ/\」
 と云うと大藏はこらえかねて小刀しょうとうを引抜くが早いか脇腹へ突込つきこんで引廻しました。
祖「おのれ切腹致したな」
 と祖五郎が飛掛って二打三打斬付け、ついあだ討遂うちおおせて、すぐにお屋敷へお届けに相成り、とうとう悪人は残らず国表へ押込められて、お上屋敷の御家来十七人切腹致し、渡邊祖五郎、春部梅三郎はお召帰めしかえしに相成り、渡邊祖五郎は二代目織江と成り、菊様の後見と相成って、お下屋敷にまいりました。また秋月は跡家老職あとかろうしょくを仰付けられ、こゝにおいて福原數馬は安心して国へ帰る。殿様は御病気全快し、其の大殿お逝去なくなりになって、紋之丞さまが乗出し、美作守に任ぜられ。又お竹を何くれ親切に世話をした雲水の宗達は、美作の国までお竹を送り届け、それより廻国を致し、遂に京都で大寺だいじの住職となり、鴻の巣の若江は旅籠屋はたごやを親族に相続させ、あらためて渡邊祖五郎が媒妁人なこうどで、梅三郎と夫婦になり、お竹も重役へ嫁入りました。大力だいりきの遠山權六は忠義無二との取沙汰とりざたにて百石の御加増に相成りましたという。お芽出たいお話でございますが、長物語でさぞ御退屈。
(拠酒井昇造筆記)





底本:「圓朝全集 巻の九」近代文芸・資料複刻叢書、世界文庫
   1964(昭和39)年2月10日発行
底本の親本:「圓朝全集巻の九」春陽堂
   1927(昭和2)年8月12日発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
ただし、話芸の速記を元にした底本の特徴を残すために、くの字点(二倍の踊り字。「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)はそのまま用いました。二の字点(漢数字の「二」を一筆書きにしたような形の繰り返し記号)は、「々」「ゝ」「ヽ」にかえました。
総ルビの底本から、振り仮名の一部を省きました。
底本中ではばらばらに用いられている、「其の」と「其」、「此の」と「此」は、それぞれ「其の」と「此の」に統一しました。
底本中では改行されていませんが、会話文の前後で段落をあらため、会話文の終わりを示す句読点は、受けのかぎ括弧にかえました。
※本作品中には、人名などの固有名詞に一部不統一が見られますが、あきらかな誤植と思われる場合を除き、原則として統一はせず、底本のままとしました。
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:小林繁雄
校正:かとうかおり
2001年1月6日公開
2004年7月21日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。



●表記について
  • このファイルは W3C 勧告 XHTML1.1 にそった形式で作成されています。
  • [#…]は、入力者による注を表す記号です。
  • 「くの字点」は「/\」で、「濁点付きくの字点」は「/″\」で表しました。
  • 「くの字点」をのぞくJIS X 0213にある文字は、画像化して埋め込みました。
  • 傍点や圏点、傍線の付いた文字は、強調表示にしました。
  • この作品には、JIS X 0213にない、以下の文字が用いられています。(数字は、底本中の出現「ページ-行」数。)これらの文字は本文内では「※[#…]」の形で示しました。

    「穀」の「禾」に代えて「釆」    168-6
    「まいらせそろ」の草書体    344-6、344-6、426-5、426-7、427-1、427-2
    かしく」の草書体    345-9
    「宀/婁」    347-6

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