二
又「これ/\婆ア/\」
婆「厭だよ婆アなんてさ」
と云いながら屏風を開けて、
婆「お呼びなはいましたか」
又「いや
婆「誠にねどうも、
又「左様かね、
婆「まアね
吉原の上等の娼妓ならお座敷切りという事も有りましたが、岡場所では左様なことは有りませんが、そこが国育ちで知りませんから、成程そうかと又四五日置いて来ましたが、また振られ、又二三日置いて来たが振って/\振抜かれるが、
小増「誠に済まねえのだよ、今度
と云われるのが嬉しく思いまして、しげ/\通いましたが、又市も馬鹿でない男でございますから、
婆「藤助どん行っておくれ、小増さんも時々顔でも見せて
又「これ/\袴を出せ」
婆「おや誠にどうもお
又「婆ア
婆「
又「そんな事は
婆「不実と云ったって
藤助「へい、あのお
又「小増の身体を
婆「あれさ、小増さんに
又「成程是まで度々参っても振られる故、屋敷へ帰っても同役の者が…それ見やれ、
婆「ねえ藤助どん、金ずくで自由になればと云うが……まアねえ
又「婆アの云う事は
藤「それは義理人情で、
又「
と笑って、其の日は屋敷へ帰ったが、勤番者で
婆「
藤「困りますね」
婆「今日は
藤「困りますな、
婆「私は怖いからお前一寸行ってお呉れよ」
藤「困りますね何うも……御免」
又「
藤「どうも誠に」
又「何も最早聴かんで宜しい、再度欺かれたぞ、小増が来られなければ来ぬで宜しい、
藤「何ともどうも
又「いや
婆「一寸水司はん、生憎今日も
又「黙れ、婆アの云う事は
藤「中々男子だって
又「これ」
藤「あいた、痛うございます、何をなさる」
又「これ
藤「あいた……いけません、遊女屋で
と
三
大騒ぎになりますと、此の事を小増が聞き、生意気
小増「
又「これさ返せという訳ではないが、お前が一度も来てくれんからの事さ、来てさえ呉れゝば宜しい、今まで
小「悪かったじゃアないよ、
と云いながら又市の膝へ投付けて、
小「いけ好かないよう、
と部屋着の
藤「あいた/\/\、あなた、あいた……そんな乱暴なことをしては困りますねえ、
又「田舎侍は
藤「あいた……腕が折れます、
大騒ぎになりましたが、丁度此の時遊びにまいって居たのが榊原藩の
取巻「もし困るではございませんか、遊女屋の二階で
小増「
と大勢に云われますと、そこが年の
又「是は
善「これこれ水司、
又「まことに面目次第もございません、つい
四
善「左様か、この小増は
又「へえー左様で、貴方のお馴染で、ふうー」
小「
と云われるから胸に込上げて、又市
藤「あなたいたい……
又「黙れ、今中根様の仰せらるゝ事を手前存じて
藤「あいた……これはあなた気が遠くなります、お助け下さい、死にます」
善「これ/\水司、あれほど云うに分らぬか、若い者を
と云いながら十三間の平骨の扇で続け
又「はアお打擲に
善「左様なまねをするから打擲したが
又「何も心得ません処の田舎侍でござって、一つ屋敷の侍が斯様なる所へ来て恥辱を受けますれば、その恥辱を上役のお方が
と急に支度をしてどん/\/\/\と毀れるばかりに
小「あれさ、お上役に逢っては一言もないからさ
とわい/\言われるから猶更
又「残念な、武士の面部へ疵を付けられ、此の
と恋の遺恨と面部の疵、捨置きがたいは中根めと、
善「なゝ何者」
と振り
又「おゝ最前の遺恨思い知ったか」
と云う若気の至り、色に迷いまして身を果すと云う。これが