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心の鬼(こころのおに)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-11 9:29:27  点击:1287  切换到繁體中文


   中

 よそにまたあらしの山の花盛り、花の絶間を縫ふ松の、みどりも春の色添ひて、見渡す限り錦なる花の都の花の山、水にも花の影見えて、下す筏も花の名に、大堰の川の川水に、流れてつひに行く春を、いづ地へ送り運ぶらむ。川を隔てて見る人の、顔も桜になりながら、まださけさけと呼ぶもあり。菓子売る姥の強ひ上手、甘きに乗りてうつかりと、渋き財布を解くもあり。人さまざまの花莚敷き連ねたるそが中を、夫婦に子供下女丁稚五人連れにて過ぎゆくは、これ近江屋の一群なり。お糸は日頃籠の鳥、外に出る事稀なれど、春の花見と秋の茸狩[#「茸狩」は底本では「葺狩」]これのみは京の習ひとて、いかに物堅き家にても催すが例なれば、庄太郎も余儀なく、世間並に店のものは別に出しやりつ、お糸は己れ引連れて、かくは花見に出でしなり。外珍しき女の身、殊には去年近江屋へ嫁ぎてより、あるに甲斐なき晴小袖、かかる時に着でやわと、お糸はさすが若き身の、今日を晴れとぞ着飾りたれば、器量も一段引立ちて、美しき女珍しからぬ土地柄にも、これはと人の眼を驚かし、千鳥足なる酔どれの酔眼斜めに見開きて、イヨー弁才天女と叫ぶがあれば、擦れ違ひざまに、よその女連のほんに美しい内方と囁きながら振返るが嬉しく、日頃は人の眼にも触れさせじと、中垣堅く結べる庄太郎も、今日は悋気の沙汰を忘れて、これみよがしに連れ歩行あるきぬ。

 これお糸ちよつと見いな、あの桜の奇麗に咲いた事なア、もう二三日後れると、散りかかるところやつたぜ。
 さうどすなア、いつも十五六日頃どすけれど、今年はちつと早かつたと見えますなア。
 さうやどこで休もな、三軒家あたりがてうどよいのやけど、あまり人が込んでるさかい、どこぞ外の処で。

とは茶代の張るを厭ひてなるべし。折からとある茶屋の床几しやうぎに腰掛けゐたりし、廿五六の優男、ふし結城の羽織に糸織の二枚袷といふ気の利きたる衣装いでたちにて、商家の息子株とも見ゆるが、お糸を見るより馴れ馴れしげに声かけて、

 これはこれはお糸さん、あなたも今日はお花見どすか。可愛らしいお子様の、いつの間にお出来やしたの。

 ちよつと庄太郎に会釈して、愛想よし。お駒の頭撫でなどするを、苦々しげに見てをりし庄太郎に、お糸は少しも心付かず、

 ほんにあなたは幸之介様でござりましたへな、ついお見それ申しまして失礼を致しました。わたしもただ今では糸屋町の、近江屋といふ家に居りますさかい、お夏さんにもちとお遊びにお出やすやうに。

 通り一遍の世辞をいひたるなれど、庄太郎は例の心より、たちまちこれが気にかかり。

 今の人はえらひええ男やな、お前心易いと見えるな。

 疑問の前触まへぶれは早くも掲げられたれど、お糸は未だ心付かず。

 ヘイあのお方は、わたしの小学校へ行てました時分の友達の兄さんで、あの人もやつぱりおんなし学校へ行てはつたのどす。
 フムそれだけか。
 ヘイさうどす。
 それにしてはお前の顔がをかしかつたぜ。それ位の事であんな赤い顔をしたのか、妙な笑ひやうをしてたやないか。

 あまりの事に、お糸も少しムツとして、

 別に赤い顔をしたという訳もおへんやないか、そらあんた誰でも女子といふものは、人にものをいふ時には、ちつとは笑顔をしていふものどすがな。別にあの人に限つて笑ろうたのやおへん。

 素気なくいひ放ちたるに、それより庄太郎の気色常ならず、せきかくの花見もそこそこにして、帰りは合乗車といふは名のみ。面白からぬ心々を載せたればや、とかくに二人が擦れ合ふのみにて口も利かねば、たまたまの事にまた旦那が箱やを起こして、ほんに陰気な事やつたと、下女も丁稚も小言つぶやきぬ。

 その翌日も日一日庄太郎は、絶えてお糸にものいはず、されどその人に在りては、かかる事珍しきにもあらねば、また旦那の病が起こりしとのみ思ひて、お糸も深く心にとめず。まさかに昨日の幸之介一条、心にかかりてとまでは推せねど、ただ危きものに触るやうにして、やうやくに日を暮せしに、やがて寝に就かむとする十時頃に、

 ヘイ郵便が参りました。

み女の梅の持ち来りしを、庄太郎は手に取りて、見て見ぬ振り、無言にお糸の方へ投げ遣りぬ。お糸は近江屋様にてお糸様とあるに、我のなりとうなづきて開き見れば、きのう逢ひし幸之介の妹なつといふより寄せしなり。たださらさらと書き流して何の用もなければ、きのう兄より御噂承りて、あまりの御なつかしさにとあるのみ。されど絶えて久しき友よりの手紙なれば、お糸は我知らず繰返して眺め居たるを、先刻より恐ろしき眼にてじろじろと見ゐたる庄太郎だしぬけに、

 お糸それはどこからの手紙じや。

 きのふ逢ひました人の妹よりといはむは、いとも易き事ながら、前夜より口を利かざりし人の、すさましく問ふ気色さへあるに、ふと今日の不機嫌もその人の事にはあらぬかと心付きては、何となく隠したる方安全らしく思はれもして、

 ヘイ友達の処からの手紙でござりまする。
 フム昨日の人の妹か。
 いいえ。

 つがひたる一矢は、はや先方の胸を刺したり、かかる事に注意深き庄太郎の、いかでかは昨日夏と聞きし名の、その封筒に記されたるを見のがすべき。

 フムそれに違ひないか。
 ヘイほんまでござります。

 勢ひ確答を与へざるを得ずなりしお糸、庄太郎はクワツと怒りて立上り、

 おのれ夫に隠し立するなツ。

 いふより早し肩先てうと蹴倒し、詫ぶる詞は耳にもかけず、力に任せて打擲ちやうちやくしつ、

 お前のやうな不貞なものは、ちよつとも家に置く事は出来ぬ。たつた今出て行けツ。

 血相も変はりて、逆上したるらしき庄太郎、これもこなたの常なれど、不貞の名を負はされては、お糸もくせと知りつつだまつてゐられず。一生懸命にて夫の拳の下を潜りながら、

 ど、どうぞその手紙を見ておくれやす。け、決して悪いつもりで隠したのではござりませぬ。あんまりあんたの、お疑ひが怖さに……
 ナ何というた、おれが疑深ひ――おのれツ人にあくたいきおるな。

 怒りはますます急になり、今は太き火箸を手にしての乱打。

 サア出て行かぬか、何出る事は出来ぬ、出ぬとて出さずに置くものか。

 勢ひすさまじく飛びかかり、十畳の間をかなたこなたへ追ひ廻す騒ぎも、広き家とて、始めは台所のものも気付かざりしが、あまりの物音にやうやく駈け来りたる下女三人、

 マ……旦那さんお待ちやす、お糸さん早うお断りおいひやす、どうぞ旦那さん旦那さん。

 おづおづとして止めてゐたれど、庄太郎の暴力とても女の力に及ばざれば、側杖喰はむ恐ろしさに、下女等は店へ駈け付けて、若い者呼びさましたれど、これは日頃覚えあれば出も来ず、男の顔見せてはかへつて主人の機嫌損はむと、いづれも寐た振して起きも来ず。お糸も今はその身の危さに、前後を顧ふにいとまあらず、我を忘れて表の方に飛出したるを見て、庄太郎は我手づからくわんぬきを※(「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)し、

 誰でも彼でも、断りなしにお糸を内へ入れたものには、きつとそれだけの仕置をするぞ。

 わめき散らして立去りたる後は、家内寂然ひつそとして物音もせず。多くの男女も日頃の主人の気質を知ればか、これも急に開けに来る様子はなきにぞ、お糸はしばし悄然として、その軒下に佇み居たりしが、折悪しくも巡行の査公、通りかかりてジロジロとその顔を眺め、幾度か角燈の火をこなたに向けて、ピカリピカリとお糸の姿を照らしながら過ぎゆくも心苦しく、自然咎められては恥の恥と、行くともなし二足三足歩みかけしが、さてどこへと指さむ方はなし。媒妁人の家は遠きにあらねど、これは媒妁とはいへ他人なれば、恥を曝すも心苦し。里方へ帰りては事むつかしくなりもやせむ、とてもこのまま家へは入れらるまじき身を――お、それよそれよ程近き叔父様の家、そこまでゆきてともかくも身を頼まむと、平常着ふだんぎのまましかも夜陰に、叩き苦しき戸を叩きぬ。
 叔父も一時は驚きしが、若きものには有うちの事とて取合はず。

 ハ……出て行けといふのは男の癖やがな、それを正直に出るといふのがお前の間違へじや。そのままあやまつて寝さへすれば、翌朝あすは機嫌が直るといふものじや。それを下手に人が口を入れると、何でもない喧嘩に花が咲いて、かへつて事がめんどうになるものじや。私が挨拶してやるのは何でもないが、それよりはお前が一人でいんだ方が、何事なしに納まるやろ。あんまり仲が好過ぎると、得て喧嘩が出来るさかい、仲好しもゑい加減にしとくがよいじやハ……

 事もなげにいはれてみれば、泣顔見するも恥づかしけれど、お糸は更にさる無造作なる事とは思はず。さはいへこれこれでと打明けむは、いかに叔父甥の間柄とはいへ、夫の恥辱はぢとなる事と思へばそれもいはれず。ただ責めを己れ一身に帰して、

 なるほど承つてみますれば、そんなものでござりまするか存じませぬが、何分にも今晩のうちの人の立腹は尋常ひととほりの事ではござりませぬ。決して決して喧嘩といふではございませぬ、何事も不調法なる私うちの人の立腹も無理はござりませぬが、それはどこまでも私があやまりますさかい、どうぞ叔父さん御慈悲に御挨拶下されまして。

と声を顫わせ頼むけしき、容易の事とも思はれねば、叔父もやうやく納得して、

 それでは私が送つてやろ、おおもう十二時は過ぎたのや。家で一晩位泊めてもよいのやけど、なんぼ甥の嫁でも人の女房、断りなしに泊めても悪かろ、そんなら今から。

 煙草入腰に※(「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)して立上るに、お糸もやうやく力を得て、どうぞこれで済めばよいがと、危ぶみながら随ひ行きぬ。
 さて叔父のおとなひに、一も二もなく門の戸は開かれたれど、さぞ叔父様のお骨の折れる事であろと、お糸は我が家ながらしきゐも高くおづおづと伯父の背後うしろに隠れゐたるに、案じるよりは生むが易く、庄太郎は前刻せんこくの気色どこへやら、身に覚えなきもののやうなる顔付にて、

 これはこれは伯父様どうも夜中に恐れ入りまする、お糸のあはうめが正直に、あんたとこまで行きましたか。ほんまに仕方のない奴でござりまする。ほんの一と口叱つただけの事で。

 一言を労するにも及ばぬ仕儀に、叔父はそれ見た事かといはぬばかり、お糸の方を顧みて苦き笑ひを含みながら、

 おおかたそんな事やろと思うたのやけど、お糸が泣いて頼むものやさかい、よんどころなくついて来たのじや。――がマア痴話もよい加減にして人にまで相伴させぬがよい。

 日頃庄太郎の仕向けを、快からず思へるままに、少しは冷評をも加へて、苦々しげに立去りぬ。跡にはお糸叔父の手前は面目なけれど、まづ夫の機嫌思ひの外なりしを何よりの事と喜びしに、これはただ叔父の手前時の間の変相なりしと見えて、叔父が帰りし後はまたジリジリと責めかけて、

 なぜお前は、日頃心易くもない叔父さんの許へ逃げて行く気になつたのじや。ただしおれの留守に叔父さんと心易くした事があつてか。

 さすがに再び手あらき事はせねど、火の手は叔父の方へ移りて、夜一夜いぢり通されぬ。

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