藤村詩抄 |
岩波文庫、岩波書店 |
1927(昭和2)年7月10日、1957(昭和32)年7月5日第35刷改版 |
1991(平成3)年第75刷 |
自序
若菜集、一葉舟、夏草、落梅集の四卷
をまとめて合本の詩集をつくりし時に
遂に、新しき詩歌の時は來りぬ。
そはうつくしき曙のごとくなりき。あるものは古の預言者の如く叫び、あるものは西の詩人のごとくに呼ばゝり、いづれも明光と新聲と空想とに醉へるがごとくなりき。
うらわかき想像は長き眠りより覺めて、民俗の言葉を飾れり。
傳説はふたゝびよみがへりぬ。自然はふたゝび新しき色を帶びぬ。
明光はまのあたりなる生と死とを照せり、過去の壯大と衰頽とを照せり。
新しきうたびとの群の多くは、たゞ穆實なる青年なりき。その藝術は幼稚なりき、不完全なりき、されどまた僞りも飾りもなかりき。青春のいのちはかれらの口脣にあふれ、感激の涙はかれらの頬をつたひしなり。こゝろみに思へ、清新横溢なる思潮は幾多の青年をして殆ど寢食を忘れしめたるを。また思へ、近代の悲哀と煩悶とは幾多の青年をして狂せしめたるを。われも拙き身を忘れて、この新しきうたびとの聲に和しぬ。
詩歌は靜かなるところにて思ひ起したる感動なりとかや。げにわが歌ぞおぞき苦鬪の告白なる。
なげきと、わづらひとは、わが歌に殘りぬ。思へば、言ふぞよき。ためらはずして言ふぞよき。いさゝかなる活動に勵まされてわれも身と心とを救ひしなり。
誰か舊き生涯に安んぜむとするものぞ。おのがじゝ新しきを開かんと思へるぞ、若き人々のつとめなる。生命は力なり。力は聲なり。聲は言葉なり。新しき言葉はすなはち新しき生涯なり。
われもこの新しきに入らんことを願ひて、多くの寂しく暗き月日を過しぬ。
藝術はわが願ひなり。されどわれは藝術を輕く見たりき。むしろわれは藝術を第二の人生と見たりき。また第二の自然とも見たりき。
あゝ詩歌はわれにとりて自ら責むるの鞭にてありき。わが若き胸は溢れて、花も香もなき根無草四つの卷とはなれり。われは今、青春の記念として、かゝるおもひでの歌ぐさかきあつめ、友とする人々のまへに捧げむとはするなり。
明治卅七年の夏
藤村
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抄本を出すにつきて
二十五六といふ青年時代が二度と自分の生涯には來ないやうに、最初の詩集も自分には二册とは無いものだ。その意味から、曾て私はこれらの詩を作つた當時のことを原本の詩集のはじに書きつけて置いたこともある。
明治二十九年の秋、私は仙臺へ行つた。あの東北の古い靜かな都會で私は一年ばかりを送つた。私の生涯はそこへ行つて初めて夜が明けたやうな氣がした。私は仙臺名影町の宿舍で書いた詩稿を毎月東京へ送つて、その以前から友人同志で出してゐた雜誌『文學界』に載せた。それを一册に集めて、『若菜集』として公にしたのが、私の最初の詩集だ。私の文學生涯に取つての處女作とも言ふべきものであつた。その頃の詩の世界は非常に狹い不自由なもので、自分等の思ふやうな詩はまだ/\遠い先の方に待つてゐるやうな氣がしたが、兎も角も先蹤を離れよう、詩といふものをもつと/\自分等の心に近づけようと試みた。默し勝ちな私の口脣はほどけて來た。
心の宿の宮城野よ
亂れて熱き吾身には
日影も薄く草枯れて
荒れたる野こそうれしけれ
ひとりさみしき吾耳は
吹く北風を琴と聽き
悲しみ深き吾眼には
色無き石も花と見き
(草枕)
私が一生の曙はこんな風にして開けて來た。
明治三十一年の春には私は東京の方に歸つてゐて、第二の集を出した。それは『一葉舟』とした詩文集で、その中には『若菜集』以後仙臺で書いた『鷲の歌』の外に、東京に歸つてからの詩數篇をも納めたものである。同じ年の夏、郷里の木曾へ旅して、福島にある姉の家で『夏草』を書いた。私の第三の詩集だ。
私が信州小諸へ行つてあの山の上の町に落ちつくやうになつたのは、翌三十二年のことであつた。そこで私はまた詩作をはじめて、第四の詩集をつくつた。『落梅集』はその全部が千曲川の旅情ともいふべきものである。
私の青春の形見ともいふべき四卷の詩集は、明治二十九年より三十三年へかけ前後五年に亙つて、それ/″\別册として公にしたものであつたが、三十七年の夏に『一葉舟』や『落梅集』から散文の部を省いて、合本一卷とした。私の詩集として世に流布してゐるものがそれである。
さういふ私は今、岩波書店の主人から普及叢書の一册として、この詩集の抄本をつくることを求められた。思ふに、原本の詩集を縮め、僅かの省略を行ひ、たゞ形を變へるといふだけのことならば、抄本をつくることもさう骨は折れまい。しかしそれでは意味はすくない。長い月日の間には原本の詩集も幾度かの編み直しと改刷とを經たものであるが、更に私は編み方を變へて、此の抄本をつくることにした。尤も、詩集としての内容にさう變りのあらう筈もないが、編み方に意を用ひたなら、抄本は抄本として意味あるものとならうかと思ふ。
これを編むにつけても、もつと私は嚴しく選むべきであつたかとも考へる。今になつて見ると『若菜集』の中に、仙臺時代以前に書いた二三の古い詩を見つける。『君と遊ばむ』『流星』なぞがそれで、さういふものは省いたらとも考へたが、自分の出發の支度はそんなところにあつたことを思ひ、未熟なものも一概にそれを省き去る氣になれなかつた。原本の詩集のうち、一番多くを省いたのは『夏草』の中からで、『若菜集』や『落梅集』からも長短數篇を省いた。題目等もこの抄本にはいくらか改めて置いたものもある。すべてはこれらの詩を書いた當時の自分の心持に近づけることを主にした。
思へば私が『若菜集』を出したのは、今から三十一年の前にもあたる。この古い落葉のやうな詩が今日まで讀まれて來たといふことすら、私には意外である。頭髮既に白い私がこれを編むのは、自分の青年時代を編むやうなものである。この抄本をつくるにつけても、今昔の感が深い。
昭和二年五月
麻布飯倉にて
著者
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藤村詩抄目次
自序
抄本を出すにつきて
――――――――
若菜集より
序のうた
草枕
二つの聲
松島瑞巖寺に遊びて
春
一 たれかおもはむ
二 あけぼの
三 春は來ぬ
四 眠れる春よ
五 うてや鼓
明星
潮音
おえふ
おきぬ
おさよ
おくめ
おつた
おきく
醉歌
哀歌
秋思
初戀
狐のわざ
髮を洗へば
君がこゝろは
傘のうち
秋に隱れて
知るや君
秋風の歌
雲のゆくへ
母を葬るのうた
合唱
一 暗香
二 蓮花舟
三 葡萄の樹のかげ
四 高樓
ゆふぐれしづかに
月夜
強敵
別離
望郷
かもめ
流星
君と遊ばむ
晝の夢
四つの袖
林の歌
一葉舟より
鷲の歌
白磁花瓶賦
銀河
きりぎりす
春やいづこに
夏草より
子兎のうた
晩春の別離
うぐひす
かりがね
野路の梅
門田にいでて
寶はあはれ碎けけり
新潮
落梅集より
常盤樹
寂寥
千曲川旅情の歌
一
二
鼠をあはれむ
勞働雜詠
一 朝
二 晝
三 暮
爐邊雜興
黄昏
枝うちかはす梅と梅
めぐり逢ふ君やいくたび
あゝさなり君のごとくに
思より思をたどり
吾戀は河邊に生ひて
吾胸の底のこゝには
君こそは遠音に響く
こゝろをつなぐしろかねの
罪なれば物のあはれを
風よ靜かにかの岸へ
椰子の實
浦島
舟路
鳥なき里
藪入
惡夢
響りん/\音りん/\
翼なければ
罪人と名にも呼ばれむ
胡蝶の夢
落葉松の樹
ふと目はさめぬ
縫ひかへせ
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若菜集より
明治二十九年――同三十年
(仙臺にて)
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序のうた
心無き歌のしらべは
一房の葡萄のごとし
なさけある手にも摘まれて
あたゝかき酒となるらむ
葡萄棚ふかくかゝれる
紫のそれにあらねど
こゝろある人のなさけに
蔭に置く房の三つ四つ
そは歌の若きゆゑなり
味ひも色も淺くて
おほかたは噛みて捨つべき
うたゝ寢の夢のそらごと
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草枕
夕波くらく啼く千鳥
われは千鳥にあらねども
心の羽をうちふりて
さみしきかたに飛べるかな
若き心の一筋に
なぐさめもなくなげきわび
胸の氷のむすぼれて
とけて涙となりにけり
蘆葉を洗ふ白波の
流れて巖を出づるごと
思ひあまりて草枕
まくらのかずの今いくつ
かなしいかなや人の身の
なきなぐさめを尋ね侘び
道なき森に分け入りて
などなき道をもとむらむ
われもそれかやうれひかや
野末に山に谷蔭に
見るよしもなき朝夕の
光もなくて秋暮れぬ
想も薄く身も暗く
殘れる秋の花を見て
行くへもしらず流れ行く
水に涙の落つるかな
身を朝雲にたとふれば
ゆふべの雲の雨となり
身を夕雨にたとふれば
あしたの雨の風となる
されば落葉と身をなして
風に吹かれて飄り
朝の黄雲にともなはれ
夜白河を越えてけり
道なき今の身なればか
われは道なき野を慕ひ
思ひ亂れてみちのくの
宮城野にまで迷ひきぬ
心の宿の宮城野よ
亂れて熱き吾身には
日影も薄く草枯れて
荒れたる野こそうれしけれ
ひとりさみしき吾耳は
吹く北風を琴と聽き
悲み深き吾目には
色彩なき石も花と見き
あゝ孤獨の悲痛を
味ひ知れる人ならで
誰にかたらむ冬の日の
かくもわびしき野のけしき
都のかたをながむれば
空冬雲に覆はれて
身にふりかゝる玉霰
袖の氷と閉ぢあへり
みぞれまじりの風勁く
小川の水の薄氷
氷のしたに音するは
流れて海に行く水か
啼いて羽風もたのもしく
雲に隱るゝかさゝぎよ
光もうすき寒空の
汝も荒れたる野にむせぶ
涙も凍る冬の日の
光もなくて暮れ行けば
人めも草も枯れはてゝ
ひとりさまよふ吾身かな
かなしや醉うて行く人の
踏めばくづるゝ霜柱
なにを醉ひ泣く忍び音に
聲もあはれのその歌は
うれしや物の音を彈きて
野末をかよふ人の子よ
聲調ひく手も凍りはて
なに門づけの身の果ぞ
やさしや年もうら若く
まだ初戀のまじりなく
手に手をとりて行く人よ
なにを隱るゝその姿
野のさみしさに堪へかねて
霜と霜との枯草の
道なき道をふみわけて
きたれば寒し冬の海
朝は海邊の石の上に
こしうちかけてふるさとの
都のかたを望めども
おとなふものは濤ばかり
暮はさみしき荒磯の
潮を染めし砂に伏し
日の入るかたをながむれど
湧きくるものは涙のみ
さみしいかなや荒波の
岩に碎けて散れるとき
かなしいかなや冬の日の
潮とともに歸るとき
誰か波路を望み見て
そのふるさとを慕はざる
誰か潮の行くを見て
この人の世を惜まざる
暦もあらぬ荒磯の
砂路にひとりさまよへば
みぞれまじりの雨雲の
落ちて汐となりにけり
遠く湧きくる海の音
慣れてさみしき吾耳に
怪しやもるゝものの音は
まだうらわかき野路の鳥
嗚呼めづらしのしらべぞと
聲のゆくへをたづぬれば
緑の羽もまだ弱き
それも初音か鶯の
春きにけらし春よ春
まだ白雪の積れども
若菜の萌えて色青き
こゝちこそすれ砂の上に
春きにけらし春よ春
うれしや風に送られて
きたるらしとや思へばか
梅が香ぞする海の邊に
磯邊に高き大巖の
うへにのぼりてながむれば
春やきぬらむ東雲の
潮の音遠き朝ぼらけ
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二つの聲
朝
たれか聞くらむ朝の聲
眠と夢を破りいで
彩なす雲にうちのりて
よろづの鳥に歌はれつ
天のかなたにあらはれて
東の空に光あり
そこに時あり始あり
そこに道あり力あり
そこに色あり詞あり
そこに聲あり命あり
そこに名ありとうたひつゝ
みそらにあがり地にかけり
のこんの星ともろともに
光のうちに朝ぞ隱るゝ
暮
たれか聞くらむ暮の聲
霞の翼雲の帶
煙の衣露の袖
つかれてなやむあらそひを
闇のかなたに投げ入れて
夜の使の蝙蝠の
飛ぶ間も聲のをやみなく
こゝに影あり迷あり
こゝに夢あり眠あり
こゝに闇あり休息あり
こゝに永きあり遠きあり
こゝに死ありとうたひつゝ
草木にいこひ野にあゆみ
かなたに落つる日とともに
色なき闇に暮ぞ隱るゝ
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松島瑞巖寺に遊びて
舟路も遠し瑞巖寺
冬逍遙のこゝろなく
古き扉に身をよせて
飛騨の名匠の浮彫の
葡萄のかげにきて見れば
菩提の寺の冬の日に
刀悲しみ鑿愁ふ
ほられて薄き葡萄葉の
影にかくるゝ栗鼠よ
姿ばかりは隱すとも
かくすよしなし鑿の香は
うしほにひゞく磯寺の
かねにこの日の暮るゝとも
夕闇かけてたゝずめば
こひしきやなぞ甚五郎
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春
一 たれかおもはむ
たれかおもはむ鶯の
涙もこほる冬の日に
若き命は春の夜の
花にうつろふ夢の間と
あゝよしさらば美酒に
うたひあかさん春の夜を
梅のにほひにめぐりあふ
春を思へばひとしれず
からくれなゐのかほばせに
流れてあつきなみだかな
あゝよしさらば花影に
うたひあかさむ春の夜を
わがみひとつもわすられて
おもひわづらふこゝろだに
春のすがたをとめくれば
たもとににほふ梅の花
あゝよしさらば琴の音に
うたひあかさむ春の夜を
二 あけぼの
紅細くたなびける
雲とならばやあけぼのの
雲とならばや
やみを出でては光ある
空とならばやあけぼのの
空とならばや
春の光を彩れる
水とならばやあけぼのの
水とならばや
鳩に履まれてやはらかき
草とならばやあけぼのの
草とならばや
三 春は來ぬ
春はきぬ
春はきぬ
初音やさしきうぐひすよ
こぞに別離を告げよかし
谷間に殘る白雪よ
葬りかくせ去歳の冬
春はきぬ
春はきぬ
さみしくさむくことばなく
まづしくくらくひかりなく
みにくくおもくちからなく
かなしき冬よ行きねかし
春はきぬ
春はきぬ
淺みどりなる新草よ
とほき野面を畫けかし
さきては紅き春花よ
樹々の梢を染めよかし
春はきぬ
春はきぬ
霞よ雲よ動ぎいで
氷れる空をあたゝめよ
花の香おくる春風よ
眠れる山を吹きさませ
春はきぬ
春はきぬ
春をよせくる朝汐よ
蘆の枯葉を洗ひ去れ
霞に醉へる雛鶴よ
若きあしたの空に飛べ
春はきぬ
春はきぬ
うれひの芹の根は絶えて
氷れるなみだ今いづこ
つもれる雪の消えうせて
けふの若菜と萌えよかし
四 眠れる春よ
ねむれる春ようらわかき
かたちをかくすことなかれ
たれこめてのみけふの日を
なべてのひとのすぐすまに
さめての春のすがたこそ
また夢のまの風情なれ
ねむげの春よさめよ春
さかしきひとのみざるまに
若紫の朝霞
かすみの袖をみにまとへ
はつねうれしきうぐひすの
鳥のしらべをうたへかし
ねむげの春よさめよ春
ふゆのこほりにむすぼれし
ふるきゆめぢをさめいでて
やなぎのいとのみだれがみ
うめのはなぐしさしそへて
びんのみだれをかきあげよ
ねむげの春よさめよ春
あゆめばたにの早わらびの
したもえいそぐ汝があしを
たかくもあげよあゆめ春
たえなるはるのいきを吹き
こぞめの梅の香ににほへ
五 うてや鼓
うてや鼓の春の音
雪にうもるゝ冬の日の
かなしき夢はとざされて
世は春の日とかはりけり
ひけばこぞめの春霞
かすみの幕をひきとぢて
花と花とをぬふ絲は
けさもえいでしあをやなぎ
霞のまくをひきあけて
春をうかがふことなかれ
はなさきにほふ蔭をこそ
春の臺といふべけれ
小蝶よ花にたはふれて
優しき夢をみては舞ひ
醉うて羽袖もひら/\と
はるの姿をまひねかし
緑のはねのうぐひすよ
梅の花笠ぬひそへて
ゆめ靜なるはるの日の
しらべを高く歌へかし
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明星
浮べる雲と身をなして
あしたの空に出でざれば
などしるらめや明星の
光の色のくれなゐを
朝の潮と身をなして
流れて海に出でざれば
などしるらめや明星の
清みて哀しききらめきを
なにかこひしき曉星の
空しき天の戸を出でて
深くも遠きほとりより
人の世近く來るとは
潮の朝のあさみどり
水底深き白石を
星の光に透かし見て
朝の齡を數ふべし
野の鳥ぞ啼く山河も
ゆふべの夢をさめいでて
細く棚引くしのゝめの
姿をうつす朝ぼらけ
小夜には小夜のしらべあり
朝には朝の音もあれど
星の光の絲の緒に
あしたの琴は靜なり
まだうら若き朝の空
きらめきわたる星のうち
いちいと若き光をば
名けましかば明星と
[#改ページ]
潮音
わきてながるゝ
やほじほの
そこにいざよふ
うみの琴
しらべもふかし
もゝかはの
よろづのなみを
よびあつめ
ときみちくれば
うらゝかに
とほくきこゆる
はるのしほのね
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