九[#「九」は底本では「八」と誤記]
親父は涙をこぼしまして、
孫「はい、有難う、私(わたくし)は此様(こん)な業病(ごうびょう)に成りましたもんだから、彼(あれ)が私を介抱するので内職も出来ませんゆえ追々其の日に追われ、何も彼(か)も売尽して仕方がない処から、彼が私に内証で袖乞に出る様な事に成ったので、斯(こ)う云う災難に出会ったかと思いますと、私(わたし)が彼を牢へ遣った様なものでございます、然(そ)うして此の寒いのに牢の中へ這入りましては貴方彼は助かる気遣いはございません、繊細(かぼそ)い身体ですから、其の上今迄引続いて苦労ばかりして居りますので、身体が大概傷(いた)んで居ります処へ又牢へ這入り寒い思いをして、彼に万一(もしも)の事でも有りますと、私は此の通り腰が抜けて居る、他に身寄頼(たより)はなし死ぬより他に仕方がございません、お家主さん貴方何卒(どうぞ)筆がお免(ゆる)しに成って帰れる様にお願いなすって下さいまし」
家「願うと云う訳にゃアいけない、素(もと)より家尻を切って取った八百両の内の金子(かね)だと云うから、何(いず)れ其金(それ)を呉れた奴が有るんだろうが、其奴(そいつ)が出さえすれば宜(い)いんだが、お調べが容易に届けば宜(よ)いが、調べが届きさえすれば彼(あ)の娘(こ)は帰るんだからね、是も災難だ」
孫「災難だって此様(こん)な災難が有る訳のものじゃア有りません」
家「お前が困るなら宅(うち)の奴も来るし、又長家の者も世話をして呉れるから然(そ)う泣いてばかり居ちゃア身体が堪らねえ」
孫「えゝ、神も仏もないんで、此様な災難に罹(かゝ)るてえのは、あゝ私は死にたい」
家「其様(そん)な気の弱い事を言ってはいけない、いか程死度(しにた)いからって死なれる訳のものではない」
と頻(しき)りに宥(なだ)めて居る処へ、門口から立派な扮装(なり)をして、色白な眉毛の濃い、品格(ひん)と云い容子(ようす)と云い先(ま)ずお旗下(はたもと)なら千石以上取りの若隠居とか、次三男とか云う扮装(こしらえ)の武家がずっと這入って参り、
武「御免小間物屋孫右衞門[#「孫右衞門」は底本では「孫兵衞」と誤記]さんのお宅(うち)は当家(こっち)かえ」
家「はい、是は入らっしゃいまし、是は入らっしゃいまし」
武家「はい、御免を」
家「其処(そこ)は濡れて居りまして誠に汚のうございますが、サ、何(ど)うぞ此方(こちら)へ入らっしゃいまして……奥の喜兵衞(きへえ)さんが願って呉れたのだから…誠に有難う存じまして、斯(こ)ういう貧乏人の処へお出でを願いまして恐入りますが、能く来て下さいました、貴方は奥の喜兵衞さんから願いました、番町のお医者様で」
武「なに私(わし)は医者じゃアないが、貴方は何かえ、此の長屋を支配なさる藤兵衞殿と仰しゃる仁(かた)かえ」
藤「ヘエ/\、ヘエ」
武「今御尊家(ごそんか)へ出たよ」
藤「私(わたくし)の宅(うち)へ入っしゃいました、左様ですか、えゝ此者(これ)がその孫右衞門[#「孫右衞門」は底本では「孫兵衞」と誤記]と申す者」
武「はい始めまして、えゝ承れば当家(とうけ)でもとんだ災難で、何かその数寄屋河岸の柳番屋の蔭へ袖乞いに出た娘に、通り掛った侍が金子(かね)を呉れて、それが不正金で親子の者が、図らざる災難を受けたというは気の毒な事で、お前は嘸(さぞ)かし御心配な事で」
藤「へえ誠に心配致して居りますので、何うか分りますれば宜(い)いと思って居ります」
武「いやそれは心配には及ばん、明日(あした)私(わし)が其のお筆さんと云う娘(こ)を町奉行所へ訴え出て帰れるようにして遣る、其の金は己(わし)が遣ったんだ」
藤「へえー、左様で、それなれば何も仔細無い事で、何かお上でもお疑いがございまして、不正金とか何とか云う事を申すので困りましたが、誠にどうも殿様が下さいましたのなら何も仔細は有りません、孫右衞門[#「孫右衞門」は底本では「孫兵衞」と誤記]さんお前さん一寸(ちょっと)御挨拶を」
武「はいお父(とっ)さんか始(はじめ)てお目に懸ったが実は日外(いつぞや)私(わし)が数寄屋河岸を通り掛るとお前の娘子が私(わたくし)も親の病中其の日に困り親共には内々(ない/\)で斯様(かよう)な処へ出て袖乞をすると言って涙を溢(こぼ)して袖に縋られ、誠に孝行な事と感服して聊(いさゝ)か恵みをしたのが却(かえ)って害に成って、不図(とんだ)災難を被(き)せて気の毒で有ったが、明日(あす)私が訴えて娘子は屹度(きっと)帰れる様にして上げるが、名前も明さずに金子(かね)を遣った処は誠に済まんが、明日は早々にお筆さんの帰れる様にして上げるから、金子を遣って苦労をかけた段は免(ゆる)して下さい」
藤「何う致しまして、有難い事で、お礼を云いなよ、殿様が下さったんだから心配はない」
孫「はい、誠に有難う、心の中(うち)で私(わたくし)は一生懸命に観音を信心致しました、どうも昨夜(ゆうべ)貴方少しうと/\致しまして夢を見て、観音様が私の枕辺(まくらべ)に立って、助けて遣るぞ助けて遣るぞと仰しゃいました、目が覚めますと矢張り宅(うち)に寝て居ったので、不断其の事ばかり思って居るから観音様の夢を見たのだ、あゝ観音様も分らねえと神や仏を恨む様な愚痴を云って居ましたが殿様が出て己(おれ)が遣ったと云って下さいますればお上に於いてもお疑いは無い事で、お筆は免されて帰れますが、少しも早く、成ろう事なら今晩帰る様に」
武「今日は些(ちっ)と遅いから明日(あした)屹度帰す、是は誠に心ばかりだが……娘は明日屹度取戻してお前の家(うち)へ帰るようにして上げるが、此金(これ)は真(ほん)の心ばかりだ、是は決して不正金でも何(なん)でもない仔細の無い金子(かね)だから、どうか心置きなく使って下さい、私(わし)が遣ったに違いない」
藤「誠に恐入ります、是は何うも娘を帰して下さるのみならず多分の金子(かね)を……」
武「いや沢山(たんと)はないたった十金だから、何(なん)ぞ暖(あったか)い物でも買っておあがり」
藤「是は恐入ります、おい孫右衞門[#「孫右衞門」は底本では「孫兵衞」と誤記]さん旦那様が十両下すったよ」
孫「十両よりはお筆を早く帰して下さい」
藤「そんな事を云うものじゃアない親父は少し取逆上(とりのぼせ)て居ますので」
武「えゝお家主一寸自身番まで一緒に行って貰いたい」
藤「へえ、自身番は直(すぐ)其処(そこ)で」
武「少し御相談が有るから、じゃアお父(とっ)さん私(わし)は帰る、明日(あした)屹度お筆さんを帰すよ心配しちゃアいかん、心を確(しっ)かり持っておいで、大丈夫だから」
藤「はい有難う存じます、又(ま)た多分のどうもお恵みで有り難う存じます」
武「さ、行きましょう」
藤「へえ、じゃア宜(い)いかえ孫右衞門[#「孫右衞門」は底本では「孫兵衞」と誤記]さん、今宅(たく)の何をよこすから、旦那と一緒に自身番まで往って来るから、此方(こちら)へ入(いら)っしゃいまし、板ががた付いて居ます、修(なお)そうと存じて居ますが、遂(つい)大金が掛りますので、何卒(どうぞ)此方へ」
武「はい/\」
是から路地を出て町内の角の自身番まで参り、
藤「誠に爺嗅い処で、何うか此方へ」
武「いやもう構ってお呉れでない心配をせんが宜(よ)ろしい、え明日(あした)私(わし)が奉行所へ出て私が金子(かね)を遣ったに相違ない事を訴えれば、仔細はない、が長屋に事の有る時は支配を致して居(い)る処のお家主の御迷惑はお察し申して居る」
藤「へえ実は私(わたくし)も心配致して居ましたが、殿様が遣ったと仰しゃって下さいますれば何も仔細ない事で」
武「明日は少し早く四ツ時分から腰掛へ出て居て貰い度(た)い」
藤「へえ/\四ツ時分からへえ成程」
武「えゝ此の近辺でなんですかえ、金満家(かねもち)は何処(どこ)ですな」
藤「えゝ金満家と申しますと」
武「いえさ、町内で金満家の聞えの有る家(うち)は」
藤「左様でございますなどうも太刀伊勢屋(たちいせや)などは大層お金持だそうで」
武「他には」
藤「質屋で伊勢銀(いせぎん)と云うが有ります」
武「じゃア伊勢銀の方に仕様」
藤「是からお出でに成りますなら御一緒に参りましょうか」
武「いや一緒に行かんでも宜しい、エ、明日お筆さんをお前が引取に来なければならんから、組合を連れて印形(いんぎょう)持参でお出(いで)を願い度(た)い」
藤「宜しゅうございます、承知致しました」
武「あれは天正金(てんしょうきん)で有るか無いかは明日出れば分ります、大きに御厄介で有った」
藤「まアお茶を」
武「いえ宜しい、左様なら」
すうっと帰って仕舞いましたから何(なん)だか家主にも薩張(さっぱり)分りません。家主の藤兵衞はあれ程の殿様だから嘘も吐(つ)くまい、併(しか)しよもやあの人が盗賊では有るまい、それにしても何(ど)う云う事であの金が彼(あ)の人の手に這入ったか、と考えて見たが少しも分りません、まさか彼奴(あいつ)が盗賊なら私(わたくし)が泥坊でござると云って奉行所へ出る気遣いは無いが何うしよう。と町代(ちょうだい)の與兵衞(よへえ)という者と相談の上で四ツ時に町奉行の茶屋に詰めて居ります。四ツ半に成っても来ません。
與「藤兵衞さん」
藤「えゝ」
與「何(なん)だかお前の云う事は当(あて)にならねえ、未(ま)だ来やアしねえ、何(な)んだか変だぜ」
藤「だって誠に品格(ひん)の好(よ)い、色白な眉毛の濃い、目のさえ/″\した笑うと愛敬の有る好い男の身丈(せい)のスラリとした」
與「男振や何かは何うでも宜(よ)いが是は来ないぜ」
藤「然(そ)うですな、おやお隣町内の伊勢銀さん何うです」
芳[#「芳」は底本では「若」と誤記]「なに盗賊が這入りまして金を二百両盗まれましたから訴えるんで、宅(うち)は大騒ぎです」
藤「昨夜(ゆうべ)盗賊が、へえー、何処(どこ)から這入りました、家尻を切ったって、へーえ何うもそれはとんだ事でしたな、お代(だい)に芳造(よしぞう)さんですか、それはまア不図(とんだ)御災難で」
芳「へえ、酷(ひど)い目に遭いました」
藤「少しも知りませんでげした」
芳「土蔵や何かは余程気を注(つ)けますんですが」
藤「へえー」
と話をして居ります処へ件(くだん)の武家(さむらい)が雪駄でチャラリ/\腰掛へ這入って来ました。
藤「おや是は入らっしゃいましそれ見なせえ嘘う吐くものか入らしった、さどうぞ此方(こちら)へ」
武「昨日(さくじつ)は色々お世話に……今日(こんにち)は早くから出ようと思ったが少々余儀ない事で友達に逢って暇乞(いとまご)いなどをして居たんで少々時刻が遅れてお待たせ申して済みません」
武「えゝ此のお方は」
藤「えゝ組合の名主代で」
武「大きに御苦労」
與「えへゝゝ町内の小間物屋の娘をお助け下さり有難う存じます」
武「はい御奉行のお退出(さがり)までは未だ余程間(あいだ)が有ります」
藤「えゝ殿様一体あの一件は何(ど)う云う事なんで、へゝゝ附かん事を伺います様だが、何ういう理由(わけ)かあの金子(きんす)をお上では不正金だって、三星の刻印が打って有るなどと申しますが」
武「うむ、彼金(あれ)は芝赤羽根の中根兵藏方の家尻を切って盗んだのが丁度十二月十二日の晩でね、八百両取ったんだ」
藤「へえー、其の盗賊が知れませんので」
武「いや其金(それ)を取った賊は拙者だ」
藤「えへゝゝ御冗談を、えへゝゝ」
武「いや全くだ、何うも、悪い事を誰も知らん者は無い、賊を働くは悪い事で天道に背くとは思いながら、知りつゝ此の賊になるもねお家主、是は皆前生(ぜんせい)の約束事かと思う、悪いから止(や)めようとしても止められんね、これは妙なもので、十四の時から私(わし)は盗賊を為(し)ます」
藤「えへゝゝ御冗談ばかり」
武「いや冗談じゃアない、実は中国の浪士で両親共逝去(なく)なって伯母の手許に厄介に成って居(お)ったが十四歳から賊心を発(おこ)して家出をなし長い間賊を働いて居ったが是まで知れずに居ったのだがね」
藤「へえー全く殿様が」
武「あい、何うも止めようと思っても止められんものだね、私(わし)が取った金を遣ったんだと斯(こ)う云って出れば、お筆さんの助からん事は有るまい、私も長らく他人(ひと)の物を盗み取って旨い物を喰い好(よ)い着物も着たが、金子(かね)を沢山取った割合には夫程(それほど)栄耀(えよう)はせんよ、皆(みん)な困る者に恵んだ方が多い、可哀想だと思っては恵み、己(おのれ)の罪を重ねる道理だから止そうとは思い/\止められんと云う処が是が因果じゃな、前世の約束事で有ろう、もう天命を知りこゝらが丁度宜い死に処だ、私は廿九に成りますよ」
藤「へえー、えへゝゝ、へえー」
武「名乗って出てお上の御処刑を受けた跡でお題目の一遍も称(あ)げてお呉れ」
藤「へえ、途方もない御冗談ばかり」
武「いや冗談じゃア無い全くだ、其方(そちら)のお方は」
藤「是は伊勢銀と申す町内の質屋の手代でげすが、昨晩盗賊が家尻を切りましたので今日(こんにち)お訴えに参って居りますので」
というと武士(さむらい)は平気で、
武「左様か直(すぐ)に分りますよ、昨夜お前さんの処の家尻を切ったのは私(わし)だよ」
芳[#「芳」は底本では「若」と誤記]「え、貴方、へえー」
武「それは気の毒千万な、お手数をかけて、全くはお家主が彼家(あすこ)は金持だとのお指図で……」
藤「私(わたくし)は其んな事は云やアしません、驚いたなア」
何うも沈着(おちつ)いたもので、是から八ツの御退出(おさがり)から一同曲淵甲斐守公のお白洲へ出ました、孫右衞門[#「孫右衞門」は底本では「孫兵衞」と誤記]の娘お筆も引出(ひきいだ)され、訴えの趣きを目安方が読上げますると甲斐守様がお膝を進められまして、
甲「備前岡山無宿月岡幸十郎(つきおかこうじゅうろう)」
幸「へえ」
甲「其の方が訴え出でたる趣きは十一月廿二日の夜(よ)芝赤羽根勝手ヶ原中根兵藏方へ忍び入り、家尻を切って八百両盗み取ったる金子の内を、数寄屋河岸の柳番屋の蔭に於て是なる筆に恵み与えたるに相違なく、筆には毛頭罪なき事であればお免(ゆる)しを願い度(たき)趣を訴え出でたるが全く其の方が盗み取ったる金子を是なる筆に遣わしたに相違ないか」
幸「えゝ先夜は私(わたくし)が柳番屋の蔭を通り掛りますると、是なる筆が私の袖に縋って涙を零(こぼ)しながら頼みます故、何故(なにゆえ)袖乞をするかと尋ねましたら、父が長らくの患い、腰が抜けて起居(たちい)も自由ならず商売も出来ませんので其の日に追われ、僅(わずか)な物も売尽して仕方がなく明日(あした)米を買って与える事が出来ませんと、真に袖を絞って泣いての頼み、真実面(おもて)に顕(あら)われましたから、あゝ感心な事じゃと存じまして、遂(つい)刻印金とは存じて居ながら、是なる娘に恵み与えました金子が却(かえ)って娘の害と成りまして、長らく病んで居ります処の親を一人残して入牢仰付(おおせつ)けられたは如何にも筆へ対して手前気の毒な思いを致しました、筆には決して科(とが)のない事でございますから何(ど)うか町役人共へお引渡しに相成りますれば有難い事に存じます」
甲「うむ、是れなる筆に何両の金子を遣わした」
幸「えゝ其の勘定は確(しか)と心得ませんが五十金足らずかと心得ます、唯小菊の上へ掴み出して与えました事ゆえ勘定は確とは心得ませんが、残余(あと)の使い高に依って考えますと五十金足らずかと心得ます」
甲「うむ、此の者に貰ったに相違ないか、面体(めんてい)を覚えて居るか」
筆「其の夜(よ)は頭巾を被って在(いら)っしゃいましたからお顔は覚えませんがお声で存じて居ります、頂いたに相違ございません」
甲「うむ、町役人」
藤「へえ」
甲「此の筆なるものゝ父は長らく病中夜分(よる)もおち/\眠りもせずに看病を致して、何も角(か)も売尽し、其の日に迫って袖乞に迄出る事を支配をも致しながら知らん事は有るまい、全く存ぜずに居ったか」
藤「遂(つい)心附かずに…」
甲「呆(たわけ)、其の方支配を致す身の上で有りながら、其の店子(たなこ)と云えば子も同様と下世話で申すではないか、其の子たる者の斯(かゝ)る難儀をも知らんで居(お)るという事は無い、殊には近辺の評も孝心な者で有ると皆々が申す程の孝心の娘なれば、其の方心に掛けて筆を助けて遣らんければならぬ、夫(それ)が手前の役じゃ、貧に迫って難渋なれば難渋の由を上へ訴えてお救(すくい)を乞うとか何とか訴出れば上に於て御褒美も下(くだ)し置かれる、然(しか)るを打捨て置いて袖乞に出る迄の難渋をかけると云うは、其の方不取締(ふとりしまり)で有るぞ」
藤「お……恐れ入りました」
甲「筆其の方は見ず知らずの者より大金を貰い受け、紙を披(ひら)いて見たら多分の金子が有ったなら、早々町役人同道にて上へ訴え出なければならん処を、隠し置いて其の金を使いしは不届至極で有る、けれども其の日/\に差迫って、明日(みょうにち)は父に米を買って与える事も出来ぬ処から、其の金子を以て米薪に代えて父を救った其の孝心に依(よっ)て父を思う処から、悪い事とも心附かず迂濶(うっか)り其の金を使い是から家主と相談の上で訴え出ようと云う心得で有ったが、其の中(うち)に勘次郎という者が其の方の手許に金子の有る事を知って盗み取ったが、全く訴え出ようと心得て居(お)る内に其の金を取られたので有ろうな」
とお慈悲な事でございます。
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