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菊模様皿山奇談(きくもようさらやまきだん)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-7 10:43:59  点击:  切换到繁體中文


        二十六

 さて其の頃はお屋敷は堅いもので、当主が他人ひとに殺された時には、不憫ふびんだからたかを増してやろうという訳にはまいりません、不束ふつゝかだとか不覚悟だとか申して、おいとまになります。の渡邊織江が切害せつがいされましたのは、明和の四年亥歳いどし九月十三に、谷中瑞林寺の門前で非業な死を遂げました、屍骸を引取って、浅草の田島山たじまさん誓願寺せいがんじへ内葬を致しました。其の時検使に立ちました役人の評議にも、誰が殺したか、織江も手者てしゃだから容易な者に討たれる訳はないが、たくんでした事か、どうも様子が分らん。死屍しがいわきに落ちてありましたのは、春部梅三郎がお小姓若江と密通をいたし、若江から梅三郎へ贈りました文と、小柄こづかが落ちてありましたが、春部梅三郎は人を殺すような性質の者ではない、是も変な訳、何ういう訳で斯様かような文が落ちてあったか頓と手掛りもなく、詰り分らず仕舞でござりました。織江には姉娘あねむすめのお竹と祖五郎という今年十七になるせがれがあって、家督人かとくにんでございます。此者これ愁傷しゅうしょういたしまして、昼は流石さすがに人もまいりますが、夜分はう者もござりませんから、位牌に向って泣いてばかり居りますと、同月どうげつ二十五日の日に、お上屋敷からお呼出しでありますから、祖五郎は早速麻上下あさがみしもで役所へ出ますと、家老寺島兵庫差添さしそえの役人も控えて居り、祖五郎は恐入って平伏して居りますと、
寺島「祖五郎も少し進みますように」
祖「へえ」
寺島「此のたびは織江儀不束の至りである」
祖「はっ」
寺島「仰せ渡されをそれ…」
 差添のお役人が懐から仰せ渡されがき取出とりいだして読上げます。

一其の方父織江儀御用に付き小梅中屋敷へまかり越し帰宅の途中何者とも不知しれず切害被致候段いたされそろだん不覚悟の至りに被思召おぼしめされ無余儀よぎなくなが御暇おいとま差出候さしだしそうろう上は向後こうご江戸お屋敷は不及申もうすにおよばず御領分迄立廻り申さゞる旨被仰出候事おおせいでられそろこと
家老名判

 祖五郎は
「はっ」
 とかしらを下げましたが、心のうちでは、父は殺され、其の上に又此のお屋敷をおいとまになることかと思いますと、年がきませんから、只畳へひたえを摺付けまして、残念の余りこらえかねて男泣きにはら/\/\となみだを落す。御家老は膝を進めて言葉を和らげ、
寺「マヽ役目は是だけじゃが、祖五郎如何いかにもお気の毒なことで、おかゝさまには確か早く別れたから、大概織江殿の手一つで育てられた、其の父が何者かに討たれあまつさえ急にお暇になって見れば、差向さしむき何処どこと云って落着く先に困ろうとお察し申すが、まゝ又其のうちに御帰参のかなう時節もあろうから、余りきな/\思っては宜しくない、心を大きく持って父のあだを報い、本意ほんいを遂げれば、其のかどによって再び帰参を取計らう時節もあろう、いては事を仕損ずるという語を守らんければいかん、年来御懇意にもいたした間、お屋敷近い処にもいまいが、遠く離れた処にいても御不自由な事があったら、内々ない/\で書面をおよこしなさい」
祖「千万せんばん有難う存じます……志摩しま殿、幸五郎こうごろう殿御苦労さまで」
志摩「誠にどうも此のたびは何とも申そうようもない次第で、実にえゝ御尊父さまには一方ひとかたならぬ御懇命ごこんめいを受けました、志摩などは誠にあゝいうお方様がと存じましたくらいで、へえどうか又何ぞ御用に立つ事がありましたら御遠慮なく……此処こゝは役所の事ですから、小屋へ帰りまして仰せ聞けられますように」
祖「千万有難う」
 と仕方なく/\祖五郎はわが小屋へ立帰って、急に諸道具を売払い、奉公人にいとまを出して、弥々いよ/\此処こゝ立退たちのかんければなりません。何処どこと云って便たよって目途あてもございませんが、の若江から春部の処へ送った文が残っていて、春部は家出をしたかどはあるが、春部が父を殺す道理はない、はて分らん事で……確か梅三郎の乳母と云う者は信州の善光寺にいるという事を聞いたが、梅三郎に逢ったら少しは手掛りになる事もあろうと考えまして、前々ぜん/\勤めていた喜六という山出し男は、信州上田の在で、なか条村じょうむらにいるというから、それを訪ねてまいろうと心を決しまして、忠平という名の如く忠実な若党を呼びまして、
祖「忠平手前はちっとも寝ないのう、ちょいと寝なよ」
忠「いえ眠くも何ともございません」
祖「姉様あねさま昨夜ゆうべのう種々いろ/\お話をしたが、屋敷に長くいる訳にもいかんから、此の通り諸道具を引払ってしまった、しかし又再び帰る時節もあろうからと思い、大切な品はごく別懇にいたす出入町人の家へ預けて置いたが、姉様とともに喜六を便たよって信州へ立越たちこえる積りだ、手前も長く奉公してくれたが、親父もの通り追々る年だし、菊はあゝ云う訳になったし、手前だけは別の事だから、こりゃア何の足しにもなるまいが、おとっさまの御不断召ごふだんめしだ、いさゝか心ばかりの品、受けて下さい、是まで段々手前にも宜く勤めて貰い、お父さまがのちも種々骨を折ってくれ、わしは年がかんのに、姉様は何事もお心得がないから何うしていかと誠に心配していたが、万事手前が取仕切ってしてくれ、誠にかたじけない、此品これはほんの志ばかりだ……また時が来て屋敷へ帰ることもあったら、相変らず屋敷へ来て貰いたい、此品これだけを納めて下さい」
忠「へえ誠に有難う……」
竹「手前どうぞ岩吉にも会いたいけれども、立つ時はこっそりと立ちたいと思うから、よく親父にそう云っておくれよ」
 と云われて、忠平は祖五郎とお竹の顔を視詰みつめて居りました。忠平は思い込んだ容子ようすで、
忠「へえ……お嬢さま、わたくしだけはどうかお供仰付け下さいますように願いたいもので、まア斯うやって私も五ヶ年御奉公をいたして居ります、成程親父はる年ですが、まだ中々達者でございます、旦那様には別段に私も御贔屓を戴きましたから、忠平だけはお供をいたし、御道中と申しても若旦那様もお年若、又お嬢様だって旅慣れんでいらっしゃいますから、私がお供をしてまいりませんと、誠にお案じ申します、うちで案じて居りますくらいなら、かえってお供にまいった方が宜しいので、どうかお供を」
竹「それは私も手前に供をして貰えば安心だけれども、親父も得心しまいし、また跡でも困るだろう」
忠「いえ困ると申しても職人も居りますから、何うぞ斯うぞ致して居ります、なまじ親父に会いますと又かく申しますから、立前たちまえに手紙でくわしく云ってやります、どうかわたくしだけはお邪魔でもお供を」
竹「誠に手前の心掛感心なことで……私もって貰いたいというは、祖五郎も此の通りまだ年はかず……しかしそれも気の毒で」
忠「何う致しまして、わたくしの方から願っても、此のたびは是非お供を致そうと存じてるので、どうか願います」
竹「そんなら岩吉を呼んで、く相談ずくの上にしましょう」
忠「いえ相談を致しますと、訳の分らんことを申してとても相談にはなりません、それより立つ前に書面を一本出して、ずっとお供をしてまいっても宜しゅうございます、心配ございません」
 そんならばと申すので、是から段々旅支度をして、いよ/\翌日あした立つという前晩まえばんに、忠平が親父のもとへ手紙をりました。親父の岩吉は碌に読めませんから、他人ひとに読んで貰いましたが、驚いて渡邊の小屋へ飛んでまいりました。
岩「お頼ん申します」
忠「どうれ……おやお出でかえ」
岩「うん……手紙が来たからすぐに来た」
忠「ま此方こっちへお出で」
岩「手前てめえ何かお嬢様方のお供をして信州とかへくてえが飛んだ話だ、え飛んだ話じゃアねえか、そんなら其の様にちゃんと己に斯ういう訳でお供を仕なければならぬがと、宜く己に得心させてからくがい、ふいと黙って立っちまっては大変だと思ったから、遅くなりましてもと御門番へ断って来たんだ、えゝおい」
忠「お供してまいらなければならないんだよ、お嬢様は脾弱ひよわいお体、若旦那さまは未だお年がいかないから、信州までお送り申さなければなりません、お屋敷へ帰る時節があれば結構だが、容易に御帰参は叶うまいと思うが、長々なが/\留守になりますから、お前さんも身をおいといなすって御大切ごたいせつに」
岩「其様そんなことを云ったって仕様がない、己は他に子供はない、お菊と手前てめえばかりだ、ところが菊はんな訳になっちまって、おらアもう五十八だよ」
忠「それは知ってます」
岩「知ってるたって、おれを置いて何処どこかへ行ってしまうと云うじゃアねえか、前の金太きんたの野郎でも達者でいればいが、己も此の頃じゃア眼が悪くなって、思うように難かしい物は指せなくなって居るから困る」
忠「困るって、是非お供をしなくっちゃアなりません」
岩「成らねえたって己を何うする」
忠「私がって来るうち、お前は年をったって丈夫な身体だから死ぬ気遣いはありません」
岩「其様そんな事を云ったって人は老少不定ろうしょうふじょうだ、それもちけえ処ではなし、信州とか何とか五十里も百里もある処へ行くのだ、人間てえものは明日あすも知れねえ、其の己を置いて行くようにく相談してから行け、手紙一本投込んで黙って行っちまっては親不孝じゃアねえか」
忠「それは重々私が悪うございましたが、相談をして又お前に止めたり何かされると困るから……これは武家奉公をすれば当然あたりまえのことで」
岩「なに、武家奉公をすれば当然あたりまえだと、旦那さまが教えたのか」
忠「お教えがなくっても当然あたりまえだよ」
岩「ういうことを手前てめえは云うけれども、親父を棄てゝ田舎へ一緒に行けと若旦那やお嬢様は仰しゃる訳はあるめえ」
忠「それは送れとは仰しゃらんのさ、若旦那様や嬢様の仰しゃるには、る年の親父もあるから、跡に残った方が宜かろう、と云って下すったが、多分にお手当も戴き、形見分けも頂戴し、ことに五ヶ年も奉公した御主人様が零落おちぶれて出るのを見棄てゝはられません、何処どこまでもお供をして、ともに苦労をするのが主従の間だから、悪く思って下さるな」
 と説付ときつけました。

        二十七

 段々訳を聞いても岩吉はまだ腑に落ちんので、
岩「主従はそれで宜かろうが、己を何うする」
忠「屋敷奉公をすりゃア斯ういう場合にはお供をするが当然あたりまえさ、お前さんには済まないが忠義と孝行と両方は出来ません、忠孝まったからずというは此の事さ」
 岩吉にはまだ言葉の意味が分りませんから、怪訝けゞんな顔をして、
岩「なんだア、いやに理窟を云やアがって、手前てめえちけえ処じゃアなし、えおう五十里も百里もある処へ行くものを、まったからずって待たずにられるか」
忠「うじゃアありません、忠義をすれば孝行が出来ないという事です」
岩「それは親に孝行主人に忠義をしろてえ事は己も知っている、講釈や何かで聞いたよ」
忠「それですから孝行と忠義と両方は出来ませんよ」
岩「出来ねえって……骨を折ってやんなよ」
忠「うふゝゝ骨を折ってやれと云ったって出来ませんよ」
岩「手前てめえは生意気に変なことを云って人を困らせるが、己は他に子供が無し、手前たった一人だ、年をった親父を置いて一緒に行けと旦那様が仰しゃりアしめえし、跡へ残れ、可愛相だからと仰しゃるのに、手前の了簡で己を棄てゝ行く気になったんだ、親不孝な野郎め」
忠「なに親不孝ではありませんがね、私は御当家様へ奉公に来て、一文不通いちもんふつうの木具屋のせがれが、今では何うやら斯うやら手紙の一本も書け、十露盤そろばんも覚え、少しは剣術も覚えたのは、皆大旦那のお蔭、今日こんにちの場合にのぞんで年のいかない若旦那様やお嬢様のお供をして行かないと、忠義の道が立ちませんよ」
岩「それは分っているよ」
忠「分っているならって下さいな」
岩「分ってはいるが、己を何うするよ」
忠「其様そんな分らないことを云っては困りますな、何うするたって私が帰るまで待って下さい」
岩「待てねえ、おれア待てねえ(さめ/″\と泣きながら)婆さんが死んでから己ア職人の事で、思うように育てることが出来ねえからってんで、御当家様へ願ったんだ、それは御恩にはなったけれども、旦那様が何も手前てめえを連れてって下さる事アねえ、何うかんげえても」
忠「分らん事をいうね、自分の御恩になった御主人様が斯ういう訳になったからだよ」
岩「何ういう訳に」
忠「他人ひとに殺されておいとまになったんだよ」
岩「お暇……てえのは……お屋敷を出るんだろう」
忠「うさ」
岩「出て……」
忠「分らんね、零落おちぶれてしまうんだよ、御浪人になるんだよ、それだから私がいて行かなければならない、仮令たとえ私が御免をこうむると云ってもお前が己が若ければお供をしてくとこだが、手前てめえ何処どこまでもお供申して御先途ごせんどを見届けなければならんとうのが[#「うのが」は底本では「のが」]当然あたりまえな話だ、其のくらいな覚悟が無ければ、あたまで武家奉公をさせんければいや、うじゃアありませんか、お前さんは屹度きっと野暮やぼに止めるに違いないと思ったから、手紙を上げたんだ、分りませんかえ」
岩「むゝ……分った、むゝう成程さむらいてえものは其様そんなものか……だから最初てんで武家奉公は止そうと思った」
祖「忠平、親父が来たのじゃアないか」
忠「へい、親父がまいりました」
祖「おや/\宜くおいでだ、岩吉はいんな」
岩「御免なせえまし、誠にお力落しさまで……今度急に忰を連れてお出でなさる事になったんで、まゝ是はどうも武家奉公をすれば当然あたりまえのことで、へえわたくしも五十八で」
祖「貴様もる年で親父も困ろうから跡へ残っているがいにと云っても、あれが真実に何処までもいて行ってくれるという、その志を止められもせず、貴様には誠に気の毒でね」
岩「どうも是もまア武家奉公で、へゝゝゝわたくしは五十八でげす」
忠「おとっさん、一つ事ばかり云ってゝ困るね其様そんな事を云うものではない、明日あしたお立だからお餞別はなむけをしなければなりませんよ」
岩「え」
忠「お餞別はなむけをしなさいよ」
岩「なんだ……お花……はげて来たよ」
忠「分らないよ、お餞別せんべつ
岩「え……煎餅せんべいを……なんだ」
忠「旅へ入らっしゃるお土産みやげをよ」
岩「うん/\……なんぞ上げましょう、烟草盆のあつらえがありますから彼品あれを」
忠「其様そんな大きなものはいけない」
岩「じゃア火鉢を一つ」
忠「いけないよ」
岩「それでは何か途中であが金米糖こんぺいとうでも上げましょう、じゃア明日あしたわしが板橋までお送り申しましょう」
祖「そんな事をしないでも宜しい、忙がしい身体だから構わずに」
岩「へえ、忰を何卒どうぞ何分お頼み申します、へゝゝ誠にもうわしは五十八でごぜえます」
 と一つ事ばかり云って、人のい、理由わけの分りません人だから仕方がない。翌朝よくあさ板橋まで送る。下役の銘々めい/\多勢おおぜいぞろ/\と渡邊織江の世話になった者が、祖五郎お竹を送り立派な侍も愛別離苦あいべつりくで別れをおしんで、互に袖を絞り、縁切榎えんきりえのきの手前から別れて岩吉は帰りました。祖五郎お竹等は先ず信州上田の在で中の条村という処へ尋ねてかんければなりません。こゝで話二つに分れまして、の春部梅三郎は、奥の六畳の座敷に小匿こがくれをいたして居り、お屋敷の方へは若江病気について急においとまを戴きたいというねがいを出し、老女のはからいで事なく若江はお暇の事になりましたは御慈悲ごじひでござります。さて此の若江のうち宗桂そうけいというごく感の悪い旅按摩たびあんまがまいりまして、わたくしは中年で眼がつぶれ、誠に難渋いたしますから、どうぞ、御当家様はお客さまが多いことゆえ、療治をさせて戴きたいと頼みますと、慈悲深なさけぶかい母だから、
母「療治は下手だが、うちにいたら追々得意もえるだろう、清藏丹誠をしてやれ」
清「へえ」
 と清藏も根が情深い男だから丹誠をしてやります所から、療治は下手だが、やすいのを売物うりものに客へ頼んで療治をさせるような事になりました。其の歳の十一月二十二日の晩に、母が娘のお若を連れまして、少々用事があって本庄宿ほんじょうじゅくまで参りました。春部梅三郎はくだん隠家かくれがに一人で寝て居り、行灯あんどうを側へ引寄せて、いつぞややしきを出る時に引裂ひきさいたふみは、何事が書いてあったか、事に取紛れて碌々読まなかったが、と取出してなぐさみ半分に繰披くりひらき、なに/\「かねて申合せ候一儀大半成就致し候え共、絹と木綿の綾は取悪とりにくき物ゆえ今晩の内に引裂き、其の代りに此の文を取落しおき候えば、此の花はたちま散果ちりはて可申もうすべくじく其許そこもとさまへつぼみのまゝ差送さしおくり候」はて…分らん…「差送候間御安意ごあんい為め申上候、好文木こうぶんぼくは遠からず枯れ秋の芽出しに相成候事、ことに安心つかまつり候、余は拝面之上※(「勹<夕」、第3水準1-14-76)そう/″\已上いじょう[#「已上」は底本では「己上」]、別して申上候は」…という所から破れて分らんが、これは何の手紙だろう、少しも訳が分らん……どうも此の程から重役の者の内、殊に神原五郎治、四郎治の両人ふたりの者は、どうも心良からん奴だ、御舎弟様のお為にもならん事が毎度ある、伯父秋月は容易に油断をしないから、神原の方へ引込まれるような事もあるまいが、何の文だろう、何者の手跡しゅせきだか頓と分らん、はてな。と何う考えても分りませんから、又巻納めて紙入の間へ挟んで寝ましたが、寝付かれません。其の内に離れて居りますけれども、宿泊人とまりゅうどいびきがぐう/\、往来も大分だいぶ静かになりますと、ボンボーン、ばら/\/\とのきへ当るのはみぞれでも降って来たように寒くなり、襟元から風が入りますので、仰臥あおむけに寝て居りますと、廊下をみしり/\抜足ぬきあしをして来る者があります。廊下伝いになっては居るが、締りが附いていて、別に人の来られないようになって居りますから、
梅「誰が来たろう、清藏ではあるまいか、何だろう」
 とわざねむった振で、ぐう/\と空鼾そらいびきをかいて居りますと、廊下の障子をそっと音のしないように開けて這込はいこむ者を梅三郎が細目をひらいて見ますると、面部を深く包んで、しり端折ぱしょりを致しまして、廊下を這って来て、だん/″\行灯あんどうもとへ近づき、下からふっとあかりを消しました。漸々だん/″\探り寄って春部が仰臥あおむけざまに寝ている鼻の上へ斯う手を当てゝ寝息を伺いました。
梅「す……はてな……何だろうか知ら、気味の悪い奴だ、どうして賊が入ったか、るものもない訳だが……己を殺しにでも来た奴か知らん」
 とそこは若いけれども武家ぶげのことだから頓と油断はしません。眼を細目にいて様子を見て居りますと、布団ふとんの間に挟んであった梅三郎の紙入を取出し、中から引出した一封の破れた手紙をすかして、ひろげて見て押戴おしいたゞ懐中ふところへ入れて、仕すましたり…ときにかゝるすそを、梅三郎うゝんと押えました。

        二十八

 姿は優しゅうございますが、柔術やわらに達した梅三郎に押えられたからたまりません。
曲者「御免なさい」
梅「黙れ……賊だな、さ何処どっから忍び込んだ」
曲者「何卒どうぞ御免なすって」
梅「相成らん……何だ逃げようとして」
 と逆に手を取って押付おさえつけ。
梅「怪しい奴だ、清藏どん、泥坊が入りました。清藏どん/\聞えんか、困ったものだ、清藏どん」
 少し離れた処に寝て居りました清藏が此の声を聞付け、
清「あい、はアー……あい/\……何だとえ、泥坊がへいったとえあれま何うもはア油断のなんねえ、庭伝えにへえったか、なんにしろ暗くって仕様がねえ、店の方へってあかりけて来るから、逃してはなんねえ」
梅「何だ此奴こいつ……動かすものか、これ……灯を早く持って来んかえ」
 清藏は店から雪洞ぼんぼりを点けて参り。
清「泥坊は何処どこに/\」
梅「清藏どん、取押えた、なか/\勝手を知った奴と見えて、廊下伝いに入った、力のある奴だが、柔術やわらの手で押えたら動けん、今暴れそうにしたからうんと一当ひとあてあてたから縛って下さい」
清「よし、此奴こいつ細っこい紐じゃア駄目だ、なに麻縄ほそびきい」
 とぐる/\巻に縛ってしまいました。
曲者「何卒どうぞ御免なすって……実はなんでございます、へえ全くひんの盗みでございますから、何卒御免なすって」
清「貧の盗みなんてえ横着野郎め」
 此のうち下女などが泥坊と聞いて裸蝋燭はだかろうそくなどを持ってまいりました。
清「これもっと此方こっちあかりを出せ、あゝ熱いな、頭の上へ裸蝋燭を出す奴があるかえ、行灯あんどん其方そっち片附かたしちめえ、此の野郎頬被ほっかぶりいしやアがって、何処どこからへいった」
 と手拭をとって曲者の顔を見て驚き、
清「おや、此の按摩ア……われは先月からおらうちへ来て、俄盲にわかめくらで感が悪くって療治が出来ねえと云うから、可愛相だと思って己ア家へ置いてやった宗桂だ、よく見りゃア虚盲そらめくらで眼が明いてるだ、此の狸按摩うぬ、よく人を盲だってだましアがった、感が悪くって泥坊が出来るかえ、此のはッつけめえ」
 と二つばかり続けてちました。
曲「御免なさい、誠にどうも番頭ばんつさん、実ア盲じゃアごぜえません、けれども旅で災難に遭いまして、あとへは帰れず、先へもかれず、仕様が有りませんから、実は喰方くいかたに困って此方こちらはお客が多いから、按摩になってと思いまして入ったんでございますが、漸々だん/\銭が無くなっちまいましたから、江戸へ帰っても借金はあり、と云って故郷こきょうぼうがたく、何うかして帰りてえが、借金方の附くようにと思いまして、ついふら/\と出来心で、へえ、沢山たんと金えるという了簡じゃアごぜえません、貧の盗みでございますから、お見遁みのがしを願います」
清「此の野郎……此奴こいつのいう事ア迂濶うっかり本当にア出来ねえ、嘘をく奴は泥坊のはじまり、う泥坊に成ってるだ此の野郎」
曲「どうか御免なすって」
梅「いや/\手前は貧の盗みと云わせん事がある、貧の盗みなれば何故なぜ紙入れの中の金入れか銭入れを持ってかぬ、何で其の方は書付ばかり盗んだ」
曲「え……これはそのなんでございます、あゝあわてましたから、貧の盗みで一途いちずにそのわたくしは、へえ慌てまして」
梅「黙れ、手前はどうも見たような奴だ、此奴こいつしっかり縛って置き、たゝくじいても其の訳を白状させなければならん、さ何ういう理由わけで此の文をった、手前は屋敷奉公をした奴だろう、谷中の屋敷にいた時分、どうも見掛けたような顔だ……手前は三崎の屋敷にいた事があったろうな」
曲「いえ……どう致しまして、わたくしは麻布十番の者でごぜえます、古河こがに伯父がごぜえまして、道具屋に奉公して居りましたが、つい道楽だもんでげすから、おふくろが死ぬとぐれ出し、伯父の金え持逃げをしたのが始まりで、信州小室こむろぜえに友達が行って居りますから無心を云おうと思いまして参ったのでごぜえますが、途中で災難に遭い、金子かねを……」
梅「いや/\幾ら手前が陳じても、書付を取るというは何か仔細があるに相違ない、清藏どんって御覧、云わなければ了簡がある、真実に貧の盗みなれば金を取らなければならん、書付を取るというはどうも理由わけが分らんから、責めなければならん」
清「さ云えよ、云わねえといてえめをさせるぞ、誰か太っけえ棒を持って来い、かどのそれ六角に削った棒があったっけ、なになげえ…切ってう……うむし…さ野郎、これでつが何うだ」
 と続けちに打ちますと、曲者は泣声を致しまして、
曲「御免なすって、貧の盗みで」
清「貧の盗みなんて生虚なまそらきやアがって、うちへ来た時にわれ何と云った、ちいせえ時に親父が死んで、おふくろの手にかゝっている内に、眼が潰れたって、言うことがみん[#「みんな」は底本では「みなな」]出たらめばかりだ、此の野郎(つ)」
曲「あいた/\/\いとうごぜえやす、どうか御勘弁を…悪い事はふッつりめますから」
清「やめるたって止めねえたって、何で手紙を盗んだ(又つ)」
曲「あ痛うごぜえやす、何う云う訳だって、全く覚えがねえんでごぜえやす、只慌てゝわっしが……」
梅「黙れ、何処までも云わんといえば殺してしまうぞ、此方こっちが先程から此の手紙が分らんと、幾度も読んで考えていたところだ、これは何かかくぶみで、お屋敷の大事と思えば棄置かれん、五分試ごぶだめしにしても云わせるから左様心得ろ…」
 と
「脇差を取って来る間逃げるとならんから」
清「なに縛ってあるから大丈夫だよ」
梅「五分だめしにするが何うだ、云わんければ斯うだ」
 とすっと曲者の眼の先へ短刀みじかいのを突付ける。
曲「あゝあぶのうごぜえやす、鼻の先へ刀を突付けちゃア……どうぞ御勘弁を」
梅「これ、手前が幾ら隠してもいかん事がある、手前は谷中三崎の屋敷で松蔭の宅に居た奴であろうな」
曲「へえ」
梅「もういけん、此書これは松蔭から何者へ送るところの手紙か、又わきから送った手紙か、手前は心得てるか」
曲「へえ」
梅「いやさ、云わんければ手前はなぶごろしにしても云わせなければならん、其の代り云いさえすれば小遣こづかいの少しぐらいは持たしてゆるしてやる」
清「そうだ、早く正直に云って、小遣を貰え、云わなければ殺されるぞ、さ云えてえば(又つ)」
曲「あゝ痛うごぜえます、ああぶのうございます、鼻の先へ……えゝ仕方がないから申上げますが、実はなんでごぜえます、わたくしが主人に頼まれてほかへ持っていく手紙でごぜえます」
梅「むゝ何処どこへ持ってく」
曲「へえ先方さきは分りませんけれども持ってくので」
梅「これ/\先方さきの分らんということがあるか、何処へ……なに、先方が分っている、種々いろ/\な事を云いるの、先方が分ってれば云え」
曲「へえ、そのなんでごぜえます、王子の在におりょうがあるので、その庵室あんしつ見たような所のわきの、ちっとばかりの地面へうちを建てゝ、楽に暮していた風流の隠居さんが有りまして、王子の在へ行って聞きゃアすぐに分るてえますから、実は其処そこいけはた仲町なかちょう光明堂こうみょうどうという筆屋の隠居所だそうで、其家そこにおいでなさる方へ上げればいと云付いいつかって、わたくしが状箱を持ってお馬場口から出ようとすると、今考えれば旦那様で、貴方につかまったので、状箱をられちゃアならんと思いやして一生懸命に引張ひっぱる途端、落ちた手紙を取ろうとする、奪られちゃア大変と争うはずみに引裂ひっさかれたから、屋敷へ帰ることも出来ず、貴方の跡をけて此方こちらへ入ったり影も形も見えず、だん/\聞けば、あのお小姓のおうちだとの事ですから、俄盲にわかめくらだと云って入り込んだのも只其の手紙せえ持ってけばいんで、是を落すとわたくしが殺されたかも知れねえんで」
梅「うん、わかった、いや大略あら/\分りました」
清「大略あら/\ってお前さんの心に大概分ったかえ」
梅「少し屋敷に心当りの者もある、此の書面は其の方の主人松蔭が書いたのか」
曲「いえ……誰が書いたか存じませんが、大切に持ってけよ、落したりなくしたりする事があると斬っちまうと云われてびっくりしたんで、其の代り首尾好く持ってけば、金を二十両貰う約束で」
梅「むゝう……清藏どん、今にが明けてから一詮議ひとせんぎしましょうから、冷飯ひやめしでも喰わして物置へ棒縛りにして入れて置いて下さい」

        二十九

 清藏は曲者を引立ひったてまして、
清「これ野郎立たねえか、今冷飯まんま喰わしてやる、棒縛り程楽なものはねえぞ」
 と是から到頭棒縛りにして物置へ入れて置きました。翌日梅三郎は曲者から取返した書面を出して見ると、再び今一つの裂端きれはしも一緒になっていたので、これ幸いと曲者の持っていた書面と継合つぎあわせて見まして、
梅「中田千早なかだちはや様へ常磐ときわよりと……常磐の二字は松蔭の匿名かくしなに相違ないが、千早と云うが分らん、の下男を縛ってお上屋敷へ連れてこう、それにしても八州の手に掛け、縛って連れてかなければならん」
 と是から物置へまいり、曲者を曳出ひきだそうと思いますと、何時いつ縄脱なわぬけをして、の曲者は逐電致してしまいました。そこで八州の手を頼み、手分てわけをいたして調べましたが、何うしても知れません、なか/\な奴でございます。さて明和の五年のお話で……此の年は余り良い年ではないと見えまして、三月十四に大阪曾根崎新地そねざきしんちの大火で、山城は洪水でございました。続いて鳥羽辺が五月朔日ついたちからの大洪水であった、などという事で、其の年の六月十一日にはお竹橋たけばしらいが落ちて火事が出ました、などと云う余り良い事はございません。二月五日いつか、粂野のお下屋敷では午祭うまゝつり宵祭よみやで大層にぎやかでございます。なれども御舎弟様御不例にきまして、小梅のお中屋敷にいらしって、お下屋敷はひっそり致して居りますが、例年の事で、大して賑かな祭と申す方ではないが、ちら/\町人どもがお庭拝見にまいります。松蔭大藏の家来有助は姿を変え、谷中あたりの職人ていこしらえ、印半纏しるしばんてんを着まして、日の暮々くれ/″\に屋敷へ入込いりこんで、灯火あかりかん前にお稲荷様のそばに設けた囃子屋台はやしやたいの下に隠れている内に、段々日が暮れましたから、町の者は亥刻よつ[#「亥刻」は底本では「戌刻」]になると屋敷内へ入れんように致します。灯火あかりたちまち消しまして静かになりました。是から人の引込ひっこむまでと有助は身をかゞめて居りますと、上野の丑刻やつの鐘がボーン/\と聞える、そっと脱出ぬけだして四辺あたりを見廻すと、仲間衆ちゅうげんしゅうの歩いている様子も無いから、
有「めた」
 とつぶやきながらお馬場口へかゝって、裏手へ廻り、勝手は宜く存じている有助、主人松蔭大藏方へ忍び込んで、縁側の方へ廻って来ると、烟草盆を烟管きせるでぽん/\と叩く音。
有「占めた」
 と云うので有助が雨戸の所を指先でとん/\とん/\と叩きますと、大藏が、
大「今開けるぞ、誰も居らんから心配せんでもい、有助今開けるぞ」
 と云われて有助は驚きました。
有「去年の九月屋敷を出てしまい、それっきり帰らない此の有助が戸を叩いたばかりで、有助とは実に旦那は智慧者ちえしゃだなア…これだから悪い事も善い事も出来るんだ」
 松蔭大藏は寐衣姿ねまきすがたで縁側へまいり、音をさせんように雨戸を開け、雪洞ぼんぼりを差出してすかし見まして、
大「此方こっちへ入れ」
有「へえ、旦那様其のうちは、面もかぶらずのめ/\あがられた義理じゃアごぜえませんが、何うにも斯うにも仕方なしに又お屋敷へけえってまいりました、誠に面目次第もありません」
大「さ、誰も居らんから此方へ入れ/\」
有「へえ/\」
大「構わず入れ」
有「へえ、足が泥ぼっけえで」
大「手拭をやろう、さ、これで拭け」
有「此様こんな綺麗な手拭で足を拭いては勿体ねえようで……さてわたくしも、ぬっとけえられた義理じゃアごぜえませんが、けえらずにもられませんから、一通りお話をして、貴方に斬られるとも追出されるとも、何うでも御了簡に任せようと、斯う思いやして帰ってまいりましたので」
大「彼限あれきりで音沙汰が無いから、何うしたかと実は心配致していた、手前はの手紙を何者かにられたな」
有「へえ、春部に奪られたので、春部の彼奴あいつが若江という小姓と不義いたずらをして逃げたんで、其の逃げる時にお馬場口から柵矢来さくやらいの隙間の巾の広い処から、身体を横にしてわたくしが出ようと思います途端に出会でっくわして、実にどうも困りました」
大「手紙を何うした奪られたか」
有「それがお前さん、鼻をつままれるのも知れねえ深更よふけで、突然いきなり状箱へ手を掛けやアがッたから、奪られちゃアならねえと思いやして、引張ると紐が切れて、手紙がおっこちる、とうとう半分引裂ひっさかれたから、だん/\春部の跡をいてくと、鴻の巣の宿屋へ入りやしたから、感が悪い俄盲ッてんで、按摩に化けて宿屋に入込いりこみ一度は旨く春部の持っていた手紙のきれったが、まんまとそこなって、物置へ棒縛りにして投込まれた、所でようや縄脱なわぬけえして逃出しましたが、近辺にもられやせんから、久しく下総しもふさの方へ隠れていやしたが、春部にあれを奪られて何う致すことも出来やせんので、へえ」
大「いや、それは宜しい、心配致すな、手前は己の家来ということを知るまい」
有「ところが知ってます/\、済まねえけれどもお前さん、ギラ/\するやつをひっこ抜いてわっしの鼻っ先へ突付け云わねえけりゃア五分だめしにしちまう、松蔭の家来だろう、三崎の屋敷に居たろう、顔を知ってるぞ、さア何うだと責められて、つい左様でごぜえますと申しやした」
大「なにそれは云ってもい、の晩には実ア神原もひどい目に遭った、何事も是程の事になったら幾らも失策しくじりはある、丸切まるッきりしくじって、此の屋敷を出てしまったところが、有助貴様も己と根岸に佗住居わびずまいをしていた時を思えば、元々じゃアないか」
有「それはうでごぜえます」
大「彼処あすこに浪人している時分一つ鍋で軍鶏しゃもつッつき合っていたんだからのう」
有「旦那のように然う小言を云わずにおくんなさるだけ、一倍面目無めんぼくのうござえます」
大「だによってる処までやれ、今までの失策しくじりも許し、何もかも許してやる、それに手前此処こゝに居ては都合が悪い、ついては金子かねが二十両有るからこれをやろう」
有「へえ、是は有難うごぜえます」
大「其の代り少し頼みがある、手前小梅のお中屋敷へ忍び込んで、お居間ぢかく踏込み……いや是は手前にア出来ん、夜詰よづめの者も多いが、何かに付けて邪魔になる奴は、の遠山權六だ、あれがどうも邪魔になるて」
有「へえー、あの国にいて米搗こめつきをしてえた、滅法界めっぽうかいに力のある……」
大「うん、彼奴あいつ終夜よどおし廻るというので、何うも邪魔だ」
有「へえー」
大「あれを手前殺して、ふいと家出をしてしまえ、何処どこへでもいから身を隠してくれ」
有「あれは殺せやせん、それはお前さん御無理で、からどうものくれえ無法に力のある奴ア沢山たんと有りません、植木屋が十人もよって動かせねえ石を、ころ/\動かします、天狗見たような奴で、それじゃアお前さんわっしを見殺しにするようなもので」
大「いや、通常たゞじゃアかなわない、だますに手なしだ、あゝいう剛力ごうりきな奴は智慧の足りないもので、それに一体彼奴あいつ侠客気きょうかくぎが有ってのう、人を助けることが好きだ、手前何うかして田圃伝たんぼづたいに行って、田圃の中へ入らなければならんが、彼所あすこにも柵があるから、其の柵矢来の裏手から入って、藪の中にうん/\うなっていろ」
有「わっしがですかえ」
大「うん、藪の中に泥だらけになって呻っていろ」
有「へえ」
大「すると忍び廻りで權六がやって来て何だととがめるから、構わずうん/\呻れ」
有「気味の悪い、そいつア御免をこうむりやす、お金は欲しいが、彼奴あいつの側へ無闇に行くのは危険けんのんです、おのれは何だと押え付けられ、えゝとたれりゃア一打ひとうちで死にやすから」
大「そこが欺すに手なしだ、私は去年の九月松蔭をいとまになりまして、どこがございません、何うかして詫にまいりたいが中々主人は一旦言出すときません、あなたはお国からのお馴染だそうでございますが、貴方が詫言わびごとをして下すったらいやとは云いますまいから、何分お頼み申しますと、斯う手前泣付け」
有「うすりゃア殺しませんか」
大「うん、只手前が悪い事をしたと云って、うん/\呻っていろ、何うして此処こゝへ来たと聞いたら、実はお下屋敷の方へ参られませんから、此方こちらへ参ったのでございます、旅で種々いろ/\難行苦行をして、川をわたり雪にい、みぞれに遭い風にくしけずり、実に難儀を致しましたのが身体へ当って、疝癪せんしゃくが起り、少しも歩けませんからお助け下さいましと云え、すると彼奴あいつは正直だから本当に思って自分のうちへ連れて行って、粥ぐらいは喰わしてくれるから、大きに有難う、お蔭さまで助かりましたと云うと、彼奴が屹度きっと己の処へ詫に来る、もし詫に来たら、あれは使わん、しからん奴だ、これ/\の奴だと手前の悪作妄作あくざもくざを云ってぴったり断る」
有「へえ、それはつまらねえ話で、其様そんな奴なら打殺ぶっころしてしまうってんで…」
大「いや/\大丈夫だ、まア聞け、とてもいかん/\といううちに、段々あじわいを附けて手前の善い所を云うんだ」
有「成程」
大「正直の人間……とも云えないが、働くことは宜く働き、口も八丁手も八丁ぐらいな事は云う、手前を殺さないように、そんなら己のうちへ置くと云ったら幸い、し世話が出来ん出て行けと云ったら仕方が有りませんと泣く/\出れば、小遣いの一分や二分はくれる、それを貰って出てしまった所が元々じゃアないか、もし又首尾好く權六の方へ手前を置いてくれたら、深更よふけに權六の寝間へ踏込んで權六を殺してくれ、また其の前にも己の処へ詫びに来る時にも、すきが有ったら、藪に倒れてゝ歩けない、かついでやろうとか手を引いてやろうとか云った時にも隙があったら、懐から合口あいくちを出してやっちまえ、首尾好く仕遂しおおせれば、神原に話をして手前を士分さむらいに取立てゝやろう、首尾好く殺して、ポンと逃げてしまえ、十分に事成った時には手前を呼戻して三百石のものは有るのう。手前が三百石の侍になれる事だが、どうか工夫をしてって見ろ、もし己のいう事を胡乱うろんと思うなら、書附をやって置いても宜しい、お互に一つ鍋の飯を食い、燗徳利が一本限いっぽんぎりで茶碗酒を半分ずつ飲んだ事もある仲だ、しくじらせる事も出来ずよ、旨くけば此の上なしだ、出来損ねたところが元々じゃアないか」
有「成程……って見ましょうが、の野郎をるのには何か刄物が無ければいけませんな」
大「待てよ、人の目に立たん証拠にならん手前の持ちそうな短刀がある、さ、これをやろう、見掛は悪くっても中々切れる、せき兼吉かねよしだ、やりそくなってはいかんぞ」
有「へえ宜しゅうごぜえます」
大「闇の晩がいの」
有「闇の晩、へえ/\」
大「小遣をやるから手前今晩のうち屋敷を出てしまえ」
有「へえ」
 と金と短刀を受取って、お馬場口から出てきました。

        三十

 さて二のうまも済みまして、二月の末になりまして、大きに暖気に相成りました。御舎弟紋之丞様は大した御病気ではないが、如何いかにも癇がたかぶって居ります。夜詰よづめの御家来も多勢おおぜい附いて居ります、其の中には悪い家来が、くば毒殺をしようか、あるいは縁の下から忍び込んで、殺してしまう目論見もくろみがあると知って、忠義な御家来の注意で、お畳の中へ銅板あかゞねいたを入れて置く事があります。是は将軍様のお居間にはくあることで、これは間違いの無いようにというのと、今一つは湿しっけて宜しくないから、二重に遊ばした方が宜しいと二重畳にして御寝ぎょしんなる事になる。屏風を建廻たてまわして、武張ったお方ゆえ近臣に勇ましい話をさせ昔の太閤たいこうとか、又眞田さなだは斯う云う計略はかりごとを致しました、くすのきは斯うだというようなお話をすると、少しはまぎれておいでゞございます。悪い奴が多いから、庭前にわさきの忍び廻りは遠山權六で、雨が降っても風が吹いても、嵐でも巡廻みまわるのでございます。天気のい時にも草鞋わらじ穿いて、お馬場口や藪の中を歩きます。はかますそ端折はしょって脊割羽織せわりばおりちゃくし、短かいのを差して手頃の棒を持って無提灯むぢょうちんで、だん/\御花壇の方から廻りまして、畠岸はたけぎしの方へついて参りますと、森の一叢ひとむらある一方かた/\業平竹なりひらだけが一杯生えて居ります処で、
男「ウーン、ウーン」
 とうなる声がしますから、權六は怪しんですかして見て、
權「なんだ……呻ってるのは誰だ」
男「へえ、御免下さい、どうかお助けなすって下さいまし」
權「誰だ……暗い藪の中で……」
男「へえ、疝癪せんしゃくが起りまして歩くことが出来ません者で…」
權「誰だ……誰だ」
男「へえ、あなたは遠山様でございますか」
權「何うして己を……われは屋敷の者か」
男「へえ、お屋敷の者でごぜえます」
權「誰だ、判然はっきり分らん、待て/\」
 と懐から手丸提灯てまるぢょうちんを取出し、懐中附木かいちゅうつけぎへ火を移して、蝋燭へ火をともして前へ差出し、
權「誰だ」
男「誠に暫く、御機嫌宜しゅう……だん/″\御出世でお目出度うござえます」
權「誰だ」
有「えゝ、お下屋敷の松蔭大藏様の所に奉公して居りました、有助と申す中間ちゅうげんでござえます」
權「ウンうか、碌に会った事もない、それとも一度か二度会った事があるかも知れんが、忘れた、それにしても何うしたんだ」
有「へえ、あなたはくわしい事を御存じありますめえが、去年の九月少し不首尾な事がありまして、うちへは置かねえとって追出され、中々詫言をしてもかねえと存じまして、友達を頼って田舎へめえりましたところが、間の悪い時にはいけねえもんで、其の友達が災難で牢へ行くことになり、留守居をしながら家内を種々いろ/\世話をしてやりましたが、借金もあるうちですから漸々だん/\行立ゆきたたなくなって、居候どころじゃアごぜえませんから、出てくれろと云われるのは道理もっともと思って出ましたが、ほかに親類身寄もありませんから、詫言をして帰りてえと思いましても、主人はの気象だから、詫びたところが置く気遣きづかいは有りません、種々考えましたが、あなたは確か美作のお国からのお馴染でいらっしゃいますな」
權「うよ」
有「あなたに詫言をして戴こうと斯う思いやして、旅から考えて参りましたところが、中々入れませんで、此の田の中をずぶ/\入って此処こゝ這込はいこみやしたが、久しく喰わずにいたんで腹がいてたまりません、雪に当ったり雨に遭ったりしたのが打って出て、疝癪が起って、つい呻りました、何分にも恐入りますが何うか主人に詫言をお願い申します」
權「むう、余程悪い事をしたな、ゆるすめえ、困ったなア、なに物を喰わねえ」
有「へえ、実は昨日きのう正午ひるから喰いません」
權「じゃア、まくか肯かねえか分らんけれど、話しても見ようし、おまんまは喰わしてやろう」
有「有難うござえます」
權「屋敷へつか/\無沙汰むさたに入って呻ったりしないで、門から入ればいに……何しろう泥だらけじゃア仕方がねえから小屋へ来い」
有「有難うごぜえます」
權「さ行け」
有「貴方ね、疝癪で腰がって歩けません」
權「困った奴だ、何うかして歩け、此の棒をけ」
有「へえ、有難うごぜえます」
權「それしっかりしろ」
有「へえ」
權「提灯を持て」
有「へえ」
 と提灯の光ですかし見ると、去年見たよりもふとりまして立派になり、肩幅が張ってゝ何うも凛々りゝしい男で、怖いから、
有「へえ参ります」
權「さけ」
有「旦那さま、誠に恐入りますが、片方かた/\に杖を突いても、此方こっちの腰が何分ちませんから、左の手をお持ちなすって」
權「世話アやかす奴だな、それつらまれ」
 と右の手を出して、
有「へえ有難う」
 とひょろ/\よろけながら肩へつらまる。
權「しっかりしろい」
有「へえ」
 と云いながら懐よりすらりと短刀を抜いて權六のあばらを目懸けてプツーり突掛けると、早くも身をかわして、
權「此の野郎」
 と其の手を押えました。手首を押えられて有助は身体がしびれて動けません力のある人はひどいもので。しかすぐに役所へ引いてかずに、權六が自分のたくへ引いて来たは、何か深い了簡あってのことゝ見えます。此のお話はしばらきまして、是から信濃国しなのゝくにの上田ざい中の条に居ります、渡邊祖五郎と姉の娘お竹で、お竹は大病たいびょうで、田舎へ来ては勝手が変り、何かにつけて心配勝ち、なきだに病身のお竹、遂に癪の病を引出しました。大した病気ではないが、キヤキヤと始終痛みます。祖五郎も心配致しています所へ手紙が届きました。ひらいて見ますと、神原四郎治からの書状でございます。渡邊祖五郎殿という表書うわがき、只今のように二日目に来るなどという訳にはまいりません。飛脚屋へ出しても十日とおか二十日はつかぐらいずつかゝります。読下よみくだして見ると、

一簡いっかん奉啓上候けいじょうそうろう余寒よかん未難去候得共いまださりがたくそうらえども益々御壮健恐悦至極きょうえつしごく奉存候ぞんじそうろう然者しかれば当屋敷御上おかみ始め重役の銘々少しも異状かわり無之これなく御安意可被下候ごあんいくださるべくそうろうついては昨年九月只今思いだし候ても誠に御気の毒に心得候御尊父を切害せつがい致し候者は春部梅三郎と若江とこれ/\にて目下鴻ノ巣の宿屋にひそよし確かに聞込み候間早々の者を討果うちはたされ候えば親のあだを討たれ候かどを以て御帰参相叶あいかない候様共に尽力可仕候じんりょくつかまつるべくそうろう右の者早々御取押おんとりおさえ有って可然候しかるべくそろ云々しか/\

 と読了よみおわり、飛立つ程の悦び、年若でありますから忠平や姉とも相談して出立する事になりましたが、姉は病気で立つことが出来ません。
祖「もし逃げられてはならん、あなたはあとから続いて、わたくし一人ひとりでまいります」
 と忠平にも姉の事を呉々くれ/″\頼んで、鴻の巣を指して出立致しました。五日目に鴻の巣の岡本に着きましたが、一人旅ではございますが、お武家のことだから宿屋でも大切にして、床の間のある座敷へ通しました。段々様子を見たが、手掛りもありません、宿屋の下婢おんなに聞いたが頓と分りません、
祖「はてな……こゝに隠れていると云うが、まさか人出入ひとではいりの多い座敷に隠れている気遣いはあるまい、此処こゝにいるに相違ない」
 と便所へ行って様子を見廻したが、更に訳が分りません。

        三十一

 渡邊祖五郎はしきりに様子を探りますが、少しも分りません、夜半よなかに客が寝静ねしずまってから廊下で小用こようしながら見ますと、垣根の向うに小家こやが一軒ありました。
祖「はてな……一つ庭のようだが」
 と折戸おりどを開けて、
祖「の家に隠れて居りはしないか」
 と手水場ちょうずば上草履うわぞうりいて庭へり、開戸ひらきを開け、折戸のもとたゝずんで様子を見ますと、本を読んでいる声が聞える。何処どこから手を出して掛金を外すのか、たゞ栓張しんばりを取っていか訳が分りません、脊伸せいのびをして上からさぐって見ると、かんぬきがあるようだが、手が届きません。やがて庭石をわきから持ってまいりまして、手を伸べて閂を右の方へ寄せて、ぐいと開けて中へ入り、まるで泥坊の始末でございます。縁側からそっのぞいて見ますると、障子に人の影が映って居ります。
祖「はてな、此方こっちにいるのは女のような声柄こえがらがいたす」
 と密と障子の腰へ手をかけて細目に明けて、横手から覗いて見ますると、見違える気遣いはない春部梅三郎なれば、
祖「あゝ有難い、神仏かみほとけのお引合せで、はからず親のかたきめぐり逢った」
 と心得ましたから、飛上って障子を引開け、中へ踏込んで身構えに及び、声をあららげ、
祖「実父のかたき覚悟をしろ」
 と叫びましたが、梅三郎の方では祖五郎が来ようとは思いませんから驚きました。
梅「いやこれは/\思い掛ない……斯様かような処でお目にかゝり面目次第もない、まア何ういう事で此方こっちへ」
祖「なんじも立派な武士さむらいだから逃隠にげかくれはいたすまい、なんの遺恨あって父織江を殺害せつがいして屋敷を出た、ことに当家の娘と不義をいたせしは確かに証拠あって知る、汝のもとへ若江から送った艶書が其の場に取落してあったが、よもや汝は人を殺すような人間でないと心得て居ったる処、屋敷から通知によって、確かに汝が父織江を討って立退たちのいたる事を承知致した、くなる上は逃隠れはいたすまいから、届ける処へ届けて尋常に勝負を致せ」
 とつめかけました。
梅「御尤ごもっともでござる、まア/\お心を静められよ、決して拙者逃隠れはいたしません、何も拙者が織江殿に意趣遺恨のある理由わけもなし、何で殺害せつがいをいたしましょうか、其の辺の処をお考え下さい、何者が左様な事を申したか、実に貴方へお目にかゝるのは面目次第もない心得違い、此処こゝへ逃げてまいりまして、当家の世話になって居ります程の身上みのうえの宜しくない拙者ゆえ、何と仰せられても、斯様な事もいたすであろうと、さ人をも殺すかと思召おぼしめしましょうが、何者が……」
祖「エーイ黙れ、確かの証拠あって知る事だ、天命※(「二点しんにょう+官」、第3水準1-92-56)のがれ難い、さすぐにまいれ」
梅「と何ういう事の……」
祖「何ういう事も何もない、父の屍骸しがいかたわらに汝の艶書てがみおとしてあったのが、汝の天命である」
梅「左様なれば拙者打明けて恥を申上げなければ成りませんが、お笑い下さるな、小姓若江と若気の至りとは申しながら、二人ともに家出を致しましたは、昨年の九月十一日ので、あゝ済まん事、旧来御恩を受けながら其のお屋敷を出るとは、誠に不忠不義のことゝ存じたなれども、御拝領の品を失い、ことに若江も妊娠いたし奉公が出来んと申すので、心得違いの至りではあるが、拙者若江を連出し、当家へまいって隠れて居りましたなれども、不義淫奔いたずらをして主家しゅか立退たちのくくらいの不埓者ふらちものでは有りますけれども、お屋敷に対しては忠義を尽したい心得、拙者がお屋敷を逃去にげさる時に……手にりました一封の密書、それを御覧に入れますから、少々お控えを願います、決して逃隠れは致しません、拙者も厄介人やっかいびとのこと、当家を騒がしては母が心配いたしますから、何卒どうぞお静かに此の密書を……如何いかにも若江から拙者へつかわしましたところのふみを其の場所に落して置き、此の梅三郎に其の罪を負わするたくみの密書、織江殿を殺害せつがいいたした者はお屋敷うち他にある考えであります」
祖「ムヽー証拠とあらば見せろ」
梅「御覧下さい」
 と例の手紙を出して祖五郎に渡しました。祖五郎はこれを受取り、ひらいて見ましたところ、頓と文意が分りませんから、祖五郎は威丈高いたけだかになって、
祖「黙れ、何だ斯様かようのものを以て何の云訳いいわけになる、これは何たることだ、綾が取悪とりにくいとか絹を破るとか、あるいは綿を何うとかするとちっとも分らん」
梅「いえ、拙者にも匿名書かくしぶみで其の意味が更に分りませんが、拙者の判断いたしまする所では、お屋敷の一大事と心得ます」
祖「それは何ういう訳」
梅「左様、絹木綿は綾操あやどりにくきものゆえ、今晩のうち引裂ひきさくという事は、御尊父様のお名をかくしたのかと心得ます、渡邊織江のおりというところの縁によって、斯様かような事をいたのでも有りましょうか、此の花と申すは拙者を差した事で、今を春辺はるべと咲くや此の花、という古歌に引掛ひっかけて、梅三郎の名を匿したので、拙者の文を其処そこへ取落して置けば、春部に罪を負わしてのちは、若江に心を懸ける者がお屋敷うちにあると見えます、それを青茎あおじくつぼみまゝ貴殿のもとへ送るというのは若江を取持とりもちいたす約束をいたした事か、好文木こうぶんぼくとは若殿様を指した言葉ではないかと存じますと申すは、お下屋敷を梅の御殿と申しますからの事で、梅の異名いみょうを好文木と申せば、若殿紋之丞様の事ではないかと存じます、お秋の方のお腹の菊之助様をお世嗣よとりに仕ようと申す計策たくみではないかと存ずる、其の際此の密書ふみを中ば引裂ひっさいて逃げましたところの松蔭大藏の下人げにん有助と申す者が、此の密書をられてはと先頃按摩に姿をやつし、当家へ入込いりこみ、一夜あるよ拙者の寝室ねまへ忍び込み、此の密書を盗まんと致しましたところを取押えて棒縛りになし翌朝よくあさ取調ぶる所存にて、物置へ打込んで置きましたら、いつか縄脱なわぬけをして逃去りましたから、しかと調べようもござらんが、常磐ときわというのは全く松蔭の匿名かくしなで大藏の家来有助が頼まれて尾久在おうございへ持ってまいるとまでは調べました、またそれに千早殿としたゝめてあるのは、頓と分りませんが、多分神原の事ではござらんかと拙者考えます、お屋敷の内に斯様な悪人があって御舎弟紋之丞様をうしない、妾腹めかけばらの菊之助様を世に出そうというたくみと知っては棄置すておかれん事、是は拙者の考えで容易に他人ひとに話すべき事ではござらんが、御再考下さるよう……拙者は決して逃隠れはいたしませんが、お互に年来御高恩をこうむった主家しゅかの大事、証拠にもならんような事なれども、お国家老へ是からまいって相談をして見とう存じます、是は貴方一人でも拙者一人でもならんから、両人でまいり、御城代へお話をして御意見を伺おうと存じますが如何いかゞでござる」
 と段々云われると、かねて神原や松蔭はお妾腹附めかけばらづきで、どうも心懸こゝろがけくない奴と、父もしきりに心配いたしていたが、成程うかも知れぬ、それでは棄置かれんと、それから二人が手紙を志すかたへ送りました。祖五郎は又信州上田在中の条にいる姉のもとへも手紙を送る。一度お国表くにおもてへ行って来るとのみしたゝめ、別段細かい事は書きません。さて両人は美作の国を指して発足ほっそくいたしました。此方こちら入違いりちがって祖五郎の跡を追掛おいかけて、姉のお竹が忠平を連れてまいるという、行違ゆきちがいに相成り、お竹が大難だいなんに出合いまするお話に移ります。

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