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菊模様皿山奇談(きくもようさらやまきだん)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-7 10:43:59  点击:  切换到繁體中文


        四十六

 時は八月十四日のことで、橋場の秋田屋の寮へ国家老の福原數馬という人を招きまして何ぞすきがあったらば……という松蔭がたくみ、濱名左傳次という者としめし合せ、けて遅く帰るようで有ったらば隙をうかゞって打果してしまうか、あるいは旨く此方こちらへ引入れて、家老ぐるみ抱込んでしまうかと申す目論見もくろみでございます。大藏は悪才にはけ弁もし愛敬のある男で、秋田屋に頼んで十分の手当でございます。此の寮も大して広いうちではございませんが客席が十五畳、次が十畳になって、入側いりかわも附いて居り誠に立派な住居すまいでございます。普請は木口きぐちを選んで贅沢ぜいたくなことで建てゝから五年もったろうというい時代で、落着いて、なか/\席の工合ぐあいも宜しく、とこは九尺床でございまして、探幽たんゆうの山水が懸り、唐物からものかご芙蓉ふよう桔梗ききょう刈萱かるかやなど秋草を十分にけまして、床脇の棚とうにも結構な飛び青磁の香炉こうろがございまして、左右に古代蒔絵こだいまきえの料紙箱があります。飾り付けも立派でございまして、庭からずうと見渡すと、潮入しおいりの泉水せんすいになって、模様を取って土橋どばしかゝり、紅白の萩其のの秋草が盛りで、何とも云えんい景色でございます。饗応を致しますに、丁度宜しい月のあがりを見せるという趣向。深川へ申付けました芸者は、ごくあたまだった処の福吉ふくきち、おかね、小芳こよし雛吉ひなきち延吉のぶきち小玉こたま、小さん、などという皆其の頃の有名の女ばかり、鳥羽屋五蝶とばやごちょう壽樂じゅらくと申します幇間たいこもちが二人、れは一寸ちょっと荻江節おぎえぶしもやります。荻江喜三郎おぎえきさぶろうの弟子だというので、皆美々びゞしく着飾って深川の芸者は只今の芸者と違いまして、長箱ながばこで入りましたもので、大概橋場あたりで言付ければ残らず船でまいりまして、着換えなど沢山着換えまして、髪は油気なし、つぶしという島田に致しまして、丈長たけなが新藁しんわらをかけまして、こうがいは長さ一尺で、厚み八も有ったという、長い物を差して歩いたもので、狭い路地などは通れませんような恐ろしい長い笄で、夏を着ましても皆肌襦袢はだじゅばんを着ませんで、深川の芸者ばかりは素肌へ着たのでございます。裾模様すそもようが付いて居ります、べにかけ花色、深川鼠、路考茶ろこうちゃなどが流行はやりまして、金緞子きんどんすの帯を締め、若い芸者は縞繻子しまじゅすの間に緋鹿ひがをたゝみ、畳み帯、はさみ帯などと申して華やかなこしらえ、大勢並んで、次の間にお客様のおいでを待って居ります。秋田屋清左衞門の番頭も、其の頃大名の御家老などが来るといえほま名聞みょうもんだというので、庭の掃除などを厳しく言付けぐる/\見廻って居ります。そらおいでだと云ってお出迎いをいたし、
番「えゝ、いらっしゃいまし」
數「あゝ、これは成程どうもい庭で、松蔭い庭だの」
大「はい誠にその、当家の亭主が至って茶人で、それゆえ此の庭や何かは、更に作りませんで、自然の様を見せました、実に天然のような工合で」
數「うん余程い庭である、むう、これは感心……岩越いわこし何うだえ」
岩「へえ、わたくし斯様かような処へ参ったのは始めてゞごすな、国にいてはとても斯ういう処は見られませんな、うゝん、これはどうも」
數「お前は何だ」
大「えゝ、これなるは当家の番頭、伊平いへいと申します不調法者で」
番「えゝ、今日こんにちうこそ御尊来ごそんらい有難い事で、貴所方あなたがたのお入来いでのございますのは実に主人も悦び居りまして、此の上ない冥加みょうが至極の儀で、土地の外聞で、わたくしにおいても、誠に有難いことで」
數「いや其様そんなに、大層に云わんでもい、土地の外聞なんて、亭主は余程好事家こうずかのようだな」
番「えゝ鬼灯ほおずきなどは植えんように致してございます」
數「うふゝゝ鬼灯じゃアない、風流人と申すことじゃ」
番「でございますか、なにほうずは出来ます」
數「何を申す」
番「へい、船の上をずる/\何時いつまでもいているような長いものをほうずと申しますそうで」
數「いや中々の博識ものしりじゃ、うふゝゝ面白い男だの、此の泉水せんすい潮入しおいりかえ」
番「へえ何と…」
數「いやさ此の泉水は潮がはいるかえ」
番「へえ、何と御意遊ばします」
數「潮入りかというのじゃ」
番「へえ/\只今差上げますあの誰かお盆へ塩を持って来て上げな、どうも御癇癖ごかんぺきだから、お手をお洗い遊ばすのだろう、へえお塩を」
數「何を持って来るのだ、此の泉水は潮入かと申すのだ」
番「へえ、左様でございます」
大「何卒どうぞこれへ入らっしゃいまし」
數「うん岩越、ひょろ/\歩くと危いぞ池へおっこちるといかん、あゝ妙だ、家根やね惣体そうたい葺屋ふきやだな、とんと在体ざいてい光景ありさまだの」
大「外面そとから見ますと田舎家いなかやのようで、中は木口を選んで、なか/\好事こうずに出来て居ります」
數「其のもとは斯ういう事も中々くわしい、わしはとんと知らんが、石灯籠いしどうろうは余りなく、木の灯籠が多いの」
大「えゝ、これはその、野原のような景色を見せました心得でございましょうか」
數「あ成程、これは面白い/\……此処こゝからあがるのか、成程玄関の様子が面白く出来たの、入口いりくちかえ」
大「これからおあがり遊ばしませ、お履物はきものわたくしがしまい置きます」
數「これはい席だ」
大「さゝ、是へどうぞ/\」
 と松蔭が段々案内をいたし、座敷の床の前へしとねを出し、烟草盆や何か手当が十分届いて居ります。
大「どうぞ此処これへお坐りを願います」
數「余りい月だによって、縁先で見るのが至極宜しい、これは妙だ、此の辺は一体隅田川の流れで……あれに見ゆるのは橋場の渡しの向うかえ、如何いかにも閑地かんちだから、斯ういう処は好いの、えゝ一寸ちょいと秋田屋をこれへ」
大「えゝ御家老これが当家の主人秋田屋清左衞門と申します、年来お屋敷へお出入を致すもので、染々しみ/″\いまだお目通りは致しませんが、日外いつぞやあの五六年以前、大夫たいふが御出府のおりにお目通りを致した事がありますと申し、斯様な見苦しい処ではござるが、一度御尊来を願いたいと申して居ったので、当人もこと/″\今日こんにちは悦び居ります、どうかお言葉を」
數「はゝあ、秋田屋か」
清「へえ、えゝ今日こんにちうこそ、御尊来で、誠に身に取りまして有難い事でございます、えゝ年来お屋敷さまへお出入をいたします不調法者で、此ののちとも何分御贔屓お引廻しを願います」
數「あい、秋田屋か、成程、貴公は知らんが、貴公の親父の時分であったか、江戸詰の時種々いろ/\世話になった事もあった、中々立派ないえだ、至極面白い」
清「いえ、見苦しゅうございまして、此の通り粗木そぼくを以てこしらえましたので、中々大夫さまなどがお入来いでと申すことは容易ならんことで、此のいえはくが付きます事ゆえ、誠に有難いことで」
數「いや/\、格別の手当でかたじけない、あい/\、成程、これは中々立派な茶碗だな、余程道具好きだと見えるな」
大「はい、い道具を沢山所持してる様子でございます、今日こんにちは御家老のお入来いでだと、何か大切な品を取出した様子で、なにろくなものもございますまいがほんの有合ありあいで」
數「いや中々い茶碗だ」
大「えゝ道具は麁末そまつでござるが、主人が心入れで、自ら隅田川の水底みずそこの水を汲上げ、砂漉すなごしにかけ、水をやわらかにしてい茶を入れましたそうで」
數「成程それは有難い、其処そこが親切というもので、茶はたとえ番茶でも水を柔かにして飲ませる積りで、自身に川中まで船で水を汲みにく志というものは、千万きんにも替えがたく好い茶を飲ませるより福原かたじけなく飲む」
大「えゝ恐入りました事で」
數「大藏、立派な菓子を取ったの」
大「いえ、どうもはなはだ何もございませんで、此の辺は誠にどうも……市ヶ谷から此処これ出張でばりますことで、い道具や何かは皆此方こちらの蔵へ入れ置きますという事で」
數「成程、火事がないから道具のいのを運んで置くか、それは宜かろう」
大「今日こんにちは何も御馳走は有りませんが、御家老へ此の向うから月のあがります景色を………これは御馳走でございます、求めず天然のたのしみで、幸い今宵は満月の前夜で」
數「おゝ成程な、いやかけ違って染々しみ/″\挨拶もしなかったが、段々と上屋敷の事も下屋敷の事も、貴公が大分に骨を折って大きに殿様にも格別に思召おぼしめし、新参でありながら、存外の昇進で、えらいものだ」
大「えへゝゝ、不束ふつゝかの大藏格別かみのお思召ぼしめしをもちまして、重きお役を仰付けられ、冥加至極の儀で、此の上とも何卒どうぞ御家老のお引立をこうむりたく存じます」
數「其様そんなに出世をしてはく処があるまい、中々どうして男はし、弁に愛敬を持ち、武芸も達しておるから自然と昇進をするたちだ」
大「えゝ、恐入りました事で」
數「手前も壮年の折柄おりからは一体虚弱だが、大きに老年に及んで丈夫になったが、どうも歯が悪くなって、旨い物をべても余り旨いとは思わん、楽しみと云っても別になし、国にれば田舎侍だから美食美服は出来んばかりでは無い、一体若い時分からそういう事は嫌いじゃ、斯ういう清々せい/\とした処を見るが何よりの楽しみじゃの」
 大藏は座を進ませまして、
大「えゝどうも今日こんにちは何もおなぐさみもなく、お叱りを受けるかは存じませんが、亭主が深川の芸者を呼び置きましたと申すことで、一寸ちょっとお酌を取りましても、武骨な松蔭や秋田屋がお酌をいたしましては、池田伊丹の銘酒も地酒程にも飲めんようなことで、甚だ御無礼ではございますが、お目通りへ其の深川の芸者どもを呼寄せることに致します」
數「おゝ成程その噂は聞いている、深川には大分美人もり、芸のいものもるという事だが、それはいの、手前は芸者に逢った事はない、武骨者でことに岩越という男が是非一緒にきたい、何でも連れてってくれ、いまだ碌に御府内を見たことが無いというから同道して来たが、起倒流きとうりゅうの奥儀をきわめあるだけあって、膂力ちからが強いばかりで、頓と風流気ふうりゅうぎのない武骨者じゃ」
岩越「えゝ拙者は岩越賢藏けんぞうと申す至って武骨者で此のともお見知り置かれて御別懇に」
大「今日こんにちは図らず御面会を致しました、手前は松蔭大藏で……い折柄、此の後とも御別懇に……御家老れは濱名左傳次と申す者で、小役人でございましたが、図らず以上に仰付けられ、今日こんにちは何うかお目通りを致しまして、何かのお話を承われば身の修行だと申して居ります、武骨ではござるが洒落しゃれた口もきゝ、皺枯しゃがれっ声で歌を唄い、面白い男ゆえお目をお掛け遊ばして、何分お引立を」
數「はい/\、中々様子のい男、なれども近い処だといがの、上屋敷までは遠いから、どうかちっと早く帰りたいがの」
大「いえ、今晩は小梅のお中屋敷へ御一泊遊ばしては如何いかゞ寺家田じけだの座敷が手広でござる、あれへ御一泊遊ばしますように、是から虎の門までお帰りになっては余り遅うなりますから」
數「それは宜かろう」
大「じゃア早く/\」
 と是からお吸物に結構な膳椀で、古赤絵ふるあかえ向付むこうづけに掻鯛かきだいのいりざけのようなものが出ました。続いて口取くちとり焼肴やきざかなが出る。数々料理が並ぶ。引続いて出て来ましたのは深川の別嬪べっぴんでございます。
大「さ、これへ」
芸「今日こんにちは」
數「いや/\大勢呼んだの」
大「さ、これへ来てお酌を、大夫様たいふさまから」
芸「へえ、大夫様お酌をいたしましょう」
數「いや成程これは綺麗、あい/\、成程松蔭年をっても酌はたぼと云って幾歳いくつになっても婦人は見て悪くないもんだの、むゝう、中々どうも……なんてえ名だなに、小玉か成程、どんずりやっこの男がいる、あれは何だ」
幇間「えゝ手前は鳥羽屋五蝶と申します幇間たいこで」
數「ほゝう、なに太鼓を叩くか」
五「いえ、只口で叩きます」
數「口で太鼓を…唇でかえ」
五「いえ、なに、太鼓持で、えへゝゝ」
數「うん成程、口軽くちがるなことをいう、幇間ほうかんか、成程聞いていた、中々面白い頭だの」
五「へゝゝ、どうもだどんずりやっこでございます」
數「太皷持の頭は、みな此様こんなかえ」
五「みんなお揃いと云う訳ではございませんが、自然と毛が薄くなりましたので」
數「いや形が変って妙だ、幇間たいこもちは口軽だというが、何か面白いことを云いなさい」
五「これは恐入りましたな、御家老さま、改まってこれを云えと仰せあられますと困りますが……喜三郎こゝへ出なよ、金公きんこう此処これへ出なよ」
喜「口軽なんぞとてもお目通りは出来ないというのは何うだ」
五「何だえ、それは」
喜「足軽という洒落しゃれだ」
五「縁が遠いの、口軽と足軽では」
數「わしは酒が頓といかん、岩越一盃いっぱいやれ」
岩「わたくしは斯ういう形のものは始めて見ました、余程違って居ります、云うことも中々面白いようで」
五「これから追々おい/\繰出します」

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