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旗本退屈男(はたもとたいくつおとこ)03 第三話 後の旗本退屈男

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-7 10:20:11  点击:449  切换到繁體中文


       四

 行くほどに青葉がくれの陽はおちて、ひたひたと押し迫ったものは、夕六ツ下がりの紫紺流した宵闇です。
 然るに、こはそも何ごとぞ!――まだそんな門限の刻限ではないのに、さながら退屈男の乗り込んで行くのを看破りでもしたかのごとく、奥平屋敷の江戸詰藩士小屋を抱え込んだお長屋門が、ぴたりと閉じられてありましたので、乗りつけるや、怒髪(どはつ)して退屈男が呼び叫びました。
「早乙女主水之介、直参旗本の格式以て罷(まか)りこした。早々に開門せい!」
 だのに、答えがないのです。
 とみるや、ひらり一蹴(しゅう)!
「面倒じゃ。開けねばこうして参るぞ!」
 ぱッと土を蹴って、片手支(ささ)えに、五尺の築地塀上(ついじべいうえ)におどり上がりながら、ふと、足元の門奥に目をおとしたとき!
 ――見よ!
 そこに擬(ぎ)せられているのは、意外にも、十数本の槍先でした。それに交って六本の刄襖(はぶすま)! しかも、その六本の白刄(はくじん)を、笑止千万にも必死に擬していたものは、ほんの小半時前、根津権現裏のあの浪宅から、いずれともなく逐電(ちくでん)した筈の市毛甚之丞以下おろかしき浪人共でしたから、門を堅く閉じ締めていた理由も、うしろに十数本の槍先を擬しているものの待ち伏せていた理由(わけ)も、彼等六人の急を知らせたためからであったかと知った退屈男は、急にカンラカンラ打ち笑い出すと、門の外に佇んだままでいる京弥に大きく呼びかけました。
「のう京弥々々! ちとこれは面白うなったぞ。早うそちもここへ駈け上がってみい!」
「心得ました。お手かし下されませ」
 退屈男のさしのべた手にすがりついて、これも身軽にひらり塀の上におどり上がったとみえましたが、中の意外な光景に打たれたとみえて、ややおどろきながら叫びました。
「よおッ。あの六人が先廻りしておりまするな!」
「のう。よくよく斬って貰いたいと見ゆるわ。久しぶりに篠崎流を存分用いるか」
「はッ。けっこうでござりまするが、うしろの槍はなんとした者共でござりましょうな」
「言うがまでもない。あの真中にいるのが、確かに昼間見かけた黒住団七じゃ。思うに、同藩のよしみじゃとか何とか申して、はき違うべからざる武士道をはき違えおる愚か者共じゃろうよ」
「笑止千万な! では、手前も久方ぶりに揚心流を存分用いて見とうござりますゆえ、お助勢お許し下されませ」
「ならぬ」
「なぜでござります」
「退屈男の名前が廃(すた)るわ。そちはこれにてゆるゆる見物致せ」
 言うや、ひらり、体を浮かしたとみえましたが、およそ不敵無双です。槍、剣(つるぎ)、合わしたならば二十本にも余る白刄の林の中へ、恐るる色もなくぱッとおどりおりました。
 しかも自若(じじゃく)としてそこに生えたるもののごとくおり立つと、腰の物を抜き合わそうともせず、あの凄艶(せいえん)無比な額なる三日月形の疵痕を、まばたく星あかりにくっきり浮き上がらせながら、静かに威嚇して言いました。
「よくみい! この疵痕がだんだん怖うなって参るぞ。抜かば斬らずにおけぬが篠崎流の奥義じゃ。いってもよいか」
 しかし、相手の前衛を勤める六人の浪人共は、今、もう必死とみえて、いずれも呼吸のみ荒めながら無言でした。
「ほほう。大分、胸に波を打たせて喘ぎおるな。しかし、真中の市毛甚之丞! そちには小塚ッ原で、獄門台が待っているゆえ、今宵は生かしておいてつかわすぞ。では、左の二人、参るぞ」
 物静かに呟きながら、大きく腰がひねられたかと見えた途端!――きらり、玉散る銀蛇が、星月宵にしゅッと閃めいたと見えるや、実にぞっと胸のすく程な早技でした。声もなく左の二人が、言った通りそこへぱたり、ぱたりとのけぞりました。同時に退屈男の涼しげな威嚇――。
「みい!――今度は右側の三人じゃ。参るぞ」
 言いつつ、片手正眼に得物を擬して、すい、すい、と一二歩近よったかと思われましたが、殆んどそれと同時でした。
「生兵法を致すゆえ、大切な命をおとさねばならぬのじゃ。そら! 一緒に遠いところへ参れ」
 一歩、さらにずいと歩みよって、右へ一閃。
「早うそちも行けッ」
 つづいてまたすいと歩みよって、さらに一閃。
「主水之介とは段が違うわ。急いでそちも地獄へ参れ!」
 そして、不敵にも刄(やいば)を引きながら、しゅッしゅッと一二遍、血のりの滴(しずく)を振り切っておきながら、至って物静かに市毛甚之丞に言いました。
「みい! これが主水之介の正眼くずしじゃ。段々とあとへ下がりおるが、怖うなったか」
 威嚇しながら、同じくすいすいと歩み近よったかと思われましたが、同時に大喝(だいかつ)!
「馬鹿者ッ。今、御番所へ土産(みやげ)に持たしてやるゆえ、暫くここで休息せい!」
 峯を返しながら、急所の脳天(のうてん)を軽く打っておいて、莞爾(かんじ)と打ち笑いながら、うしろに控えていた真槍隊(しんそうたい)に言い呼ばわりました。
「江戸旗本は、斬ると言うたら必ず斬るぞ。主君の馬前に役立てなければならぬ命を、無用な意地立てで粗末に致すつもりかッ。逃ぐる者は追わぬ。逃げたくば今のうちに早う逃げえいッ」
「………」
 いずれもやや暫し無言でしたが、退屈男の冷厳な訓戒と、その眉間傷(みけんきず)の何にもまさる威嚇におじ毛立ったか、じり、じりと、どこからとなく槍の林が、うしろに逃げ足立ったかとみるまに、ばらばらと隊形が総崩れとなりました。
 しかし、それと知った一瞬!
「余の者は逃がしてつかわすが、その方だけは退屈男の武道が許せぬわ」
 痛烈に叫びざま、黒住団七のあとに追い近づいたかと思われましたが、およそ団七こそは武人の風上(かざかみ)にもおけぬ奴でした。笑止や武士には第一の恥辱たる後傷をだッとその背に浴びて、声もなくどったりとそこにうっ伏しました。
 ――ほっと息をついて、退屈男はやや暫し黙然。ほんとうに、黙然とやや暫し、そこに佇(ただず)みながら、血刀をさげたままで、何ごとか沈吟しているもののようでしたが、と見て、塀の上からおどりおりつつ、駈けよって来た京弥を見迎えながら、突如、わびしげに、呟くごとく言いました。
「あそこに倒れおる市毛甚之丞と、これなる死骸となった黒住団七の両名を、駕籠にでも拾い入れて、約束通り南町御番所の水島宇右衛門めへ土産に送ってつかわせ」
「送るはよろしゅうござりまするが、お殿様はいかがなさろうとおっしゃるのでござります」
「少し寂しゅうなったわ。退屈じゃ、退屈じゃと思うていたが、今となって思い返してみると、やはり人が斬りたかったからじゃわ。――しかし、もう斬った。久方ぶりにずい分斬った。そのためか、わしはなんとのう心寂しい! ――では、ずい分堅固で暮らせよ。菊路をも天下晴れて存分にいとしんでつかわせよ」
「ま! おまち下されませ!……どこへお越しになるのでござります。お待ち下されませ! どこへお越しになるのでござります!」
 おろおろして、後を京弥が追いかけましたが、しかし、江戸名物旗本退屈男は、ふり返ろうともしないで、黙然と打ちうなだれながら、とぼとぼと闇の向うへ歩み去りました。



底本:「旗本退屈男」春陽文庫、春陽堂書店
   1982(昭和57)年7月20日新装第1刷発行
入力:tatsuki
校正:M.A Hasegawa
ファイル作成:野口英司
2000年6月29日公開
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

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