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右門捕物帖(うもんとりものちょう)16 七化け役者

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-7 9:23:48  点击:  切换到繁體中文


     4

 その翌朝。――
 勤番出仕の時刻が来ても、なお名人は床にはいったままでした。ほんとうに世の中があじけなくなりでもしたか、いつまでもいつまでも床の中にはいったままでした。また、名人の身になってみれば、およそこの世にこれ以上のせつないことはなかったのでありましょう。日ごろご愛顧くださる伊豆守様までが詮議を禁じたうえに、そのまた禁じ方なるものが、さながら尾州家において名人の出馬するのを恐るるもののごときけはいがうかがわれましたものでしたから、身分の相違、役の低さに、しみじみとこの世がはかなく思えたのはむべなりというべきでした。しかも、その身に無双の才腕、無双な慧眼けいがん知力のあるにおいてをや[#「おいてをや」は底本では「おいておや」]です。だから、伝六、辰の両名が、河童かっぱおかへ上がったよりより以上に、日月星晨せいしんをいちじに失いでもしたかのごとくすっかり影が薄くなったのは当然なので、しょんぼりと小さくまくらもとにすわりながら、黙々、ぽつねんとうち沈んだままでした。
 だのに、世間の中にはうるさいやつがあればあるものです。
「お願いでござります! お願いでござります!」
 不意に表玄関先で、けたたましく言いどなった声がありましたものでしたから、おこり上戸の伝六が八つ当たりに爆発させました。
「やかましいや! きょうはお取り込みがあるんだから、手の内ゃ出ねえよ!」
「いいえ、物もらいではござりませぬ! 右門のだんなさまのお屋敷と知って、お力借りに駆けつけました者でござりますゆえ、おはようお取り次ぎくださりませ!」
「うるせえな! お通夜つやに行ったって、こんなに悲しかねえんだッ。用があるなら庭へ回れッ」
 よほどうろたえているとみえ、ずかずか庭先へはいってくると、あわただしく言いたてました。
「てまえはつい目と鼻の小伝馬町に、もめん問屋を営みおりまする駿河屋太七するがやたしちの店の手代でござりまするが、ただいまたいへんでござります。おかしなご家人ふうのゆすりかたりがやって参りまして、小判千両出さずばぶった切るぞと、だんびらをひねくりまわしながら、しつこくおどかしてでござりますゆえ、お早くお取り押えくださりませ。お願いでござります!」
 伝六がちょっと色めきながら、どういたしましょうというように振り返ったのをぴたりと押えて、名人が吐き出すごとくにいいました。
「世の中があじけなくなってくると、訴えてくることまでがこれなんだッ。たかの知れたご家人ふぜいのゆすりかたりぐれえで、もったいなくもこのおれが、そうやすやすとお出ましになれるけえ。二、三十枚方役者が違わあ。おめえたちふたりにゃちょうどがら相当だから、てがらにしたけりゃ、行ってきなよ」
「じゃ、辰ッ。どうせ腹だちまぎれなんだから、あっさり締めあげちまおうかッ」
「おもしれえ。そうでなくとも、おいら、ゆんべから投げなわの使い場がなくて、うずうずしてるんだから、ちょっくら行ってこようよ」
 勢い込んで、手代のあとに従いながら、駆けだしていったようでしたが、ものの四半刻しはんときもたたないうちにすごすごと帰ってきたのは、伝六、辰の両名でした。出がけにいったほどあっさりといかなかったのか、およそ面目なさそうでしたから、名人がややいぶかって、きき尋ねました。
「どうしたい。がら相当でもなかったのかい」
「へえい……」
「ただへえいだけじゃわからぬよ、向こうが強すぎたのかい。それとも、おまえたちが弱すぎたのか」
「ところが、どうもそいつが、からっきしどっちだかわからねえんでね。今も道々辰とふたりで、首をひねりひねり来たんですよ」
「あきれ返ったやつらだな。じゃ、ご家人でなかったのかい」
「いいえ、それがいかにも変なんだから、まあ話をお聞きなせえよ。行ってみると、ひと足ちげえに、ご家人の野郎め千両ゆすり取りやがって、今ゆうゆうとあの駕籠で出かけたばかりだからといったんでね。それっとばかりに、辰とふたりしながら追っかけて、手もなく駕籠を押えたまではいいんだが、それからあとが、いかにもおかしいじゃござんせんか。駿河屋の店先から乗ったときにゃ、正真正銘のご家人だったというのに、中を改めてみるてえと、いつの間に人間をすり替えりゃがったか、似てもつかねえ按摩あんまめが澄まして乗り込んでいるんですよ」
「ほほう。なるほど、ちっと変だな。それからどうしたい」
「でもね、いっしょに追っかけていった番頭がいうにゃ、しかと乗って出た駕籠にちげえねえというんでね、按摩の野郎を締め上げようとするてえと、こいつが偉い啖呵たんかをきりゃがったんですよ。ご禁裏さまから位をいただいた鈴原※(「てへん+僉」、第3水準1-84-94)けんぎょうじゃ。不浄役人ふぜいに調べをうける覚えはない、下がれッとぬかしやがったんでね。くやしかったが、位のてまえ、そのまま引き揚げたんですよ」
「なかなかぬかすな。頭は坊主か。それとも、何かかむっていたかい」
※(「てへん+僉」、第3水準1-84-94)校ずきんって申しますか、ねずみちりめんの、袋をさかさまにしたようなやつを、すっぽりかむっていましたよ」
「かわえそうに、みんごとお兄いさまたち、やられたな」
「じゃ、やっぱり化けていやがったんでしょうかね」
「あたりめえだ。ずきんの下でご家人まげが笑っていたことだろうよ。たぶん、針の道具箱もあったろうがな」
「ええ、ごぜえましたよ、ごぜえましたよ。なんだか知らねえが、特別でけえやつが、ひざのところに寄せつけてありましたぜ」
「しようのねえやつらだな。その道具箱の中に、千両はいっているんだ。もうちっとりこうにならなくちゃ、みっともねえじゃねえか。どういうわけでゆすり取られたか聞いてきたか」
「へえい。このまますごすごけえったんじゃ、だんなに会わす顔がねえと思いましたんでね。それだきゃ根堀り葉掘り聞いてきたんですが、なんでもあの駿河屋に勘当した宗助とかいうせがれがあってね、もう十年このかた行き先がわからねえのに、ご家人の野郎めがどこで知り合いになったか、その宗助に千両貸しがあるから、耳をそろえていま返せっていったんだそうですよ。だけども、借りた本人は生きているかも死んだかも知らねえんでね、すったもんだをやっていたら、せがれの直筆だという借用証書をつきつけやがって、あげくの果てに、とうとうだんびらをひねくりまわしゃがったんで、命あっての物種と、みすみす千両かたり取られたとこういうんですがね。でも、おやじがそのとき、ちょっと妙なことをぬかしやがったんですよ。勘当むすこの宗助はどういうわけで縁を切ったんだときいてやりましたらね、あんまり芸ごとと、それから弓にばかり凝りゃがるんで、十年まえにぷっつりと親子の縁を切ったと、こういうんですがね」
「なにッ。もういっぺんいってみろ!」
「なんべんでも申しますが、せがれの野郎め、あんまり芸ごとと弓にばかり凝りゃがるんで、先が案じられるから勘当したと、こういうんですよ」
「もうほかにゃねえか!」
「あるんですよ、あるんですよ。こいつあおやじの話じゃねえ、あっしがこの二つの目でちゃんと見てきたことなんだが、鈴原※(「てへん+僉」、第3水準1-84-94)校の乗っていきやがった駕籠っていうのが、ちっと変ですぜ。きのう品川宿でくせ者大名が乗り拾てていったあの駕籠みてえに、金鋲きんびょう打った飾り駕籠で、おまけにやっぱり紋がねえんですよ」
「なにッ。そりゃほんとうかッ」
「正真正銘のこの目の玉で見たんだから、うそじゃねえんですよ」
 きくや同時! がばっとはねおきるや、カンカラとうち笑っていましたが、ずばりと小気味よげに言い放ちました。
「ちくしょうめッ。すっかりおれさまにあぶら汗絞らせやがって、とんだ城持ち大名もあったもんじゃねえか。な! 伝六ッ」
「えッ!」
「あんまりつまらぬうぬぼれをいうもんじゃねえってことさ。二、三十枚がた役者が違わあなんかと大きな口をきいていたが、もうちっとでむっつり右門も腹切るところだったよ」
「じゃ、なにかくせ者大名の当たりがついたんですかい!」
「大つきさ。ご家人と、按摩あんまと、にせ大名は、一つ野郎だよ」
「そ、そ、それじゃあんまり話がうますぎるじゃござんせんか」
「うまくたってまずくたって、ほんとうなんだから、しようがねえじゃねえか。おめえもとっくり考えてみねえな。いやしくも、正真正銘の大名が乗る金鋲駕籠きんびょうかごだったら、どんな小禄しょうろくのこっぱ大名だっても、お家の紋がねえはずあねえよ。しかるにもかかわらず、お大名の飾り駕籠で、まるきし紋がねえなんていうもなあ、しばいの小道具よりほかにゃねえんだ。また、小道具だからこそ、上への遠慮があるんで、駕籠はにせても紋はつけねえのがあたりまえじゃねえか。それとも知らず、品川表の出があんまり大きすぎたんで、尾州様を相手に取っ組むからにゃ、いずれ大名だろうと早がてんしたのが、おれにも似合わねえ眼の狂いだったよ」
「いかさまね。じゃ、野郎め、どっかの役者だろうかね」
「あたりめえさ。ご家人から按摩に化けることのうまさからいったって、しばい者だよ。しかも、おどろくことにゃ、ご家人も、鈴原※(「てへん+僉」、第3水準1-84-94)校も、にせ駕籠大名も、みんな裸にむいたら十年このかた行くえが知れねえといった駿河屋の勘当むすこの宗助めだぜ」
「えッ。そりゃまた下手人が妙な野郎のところに結びついたもんですが、どうしてそんな眼がおつきですかい」
「どうもこうもねえ、おめえが今その口で、勘当むすこが芸ごとと弓に凝りすぎたといったじゃねえか。おおかた落ちぶれやがって、器用なまねができるのをさいわい、河原者かわらものの群れにでも身をおとしゃがったにちげえねえんだ。弓にしてからがおそらく半弓にちげえねえよ。それよりも、肝心な証拠は直筆の借用証書なんだ。本人のてめえだからこそ、直筆だろうと真筆だろうと何枚だっても書けるじゃねえか」
「でも、それにしたって、生まれたうちへなにもご家人に化けていかなくたっていいじゃござんせんか」
「あいかわらずものわかりの悪いやつだな。七生までも勘当されたといったじゃねえか。あまつさえ、千両もの大金をねだりに行くんだ。勘当されたものがしらふで行かれるかい」
「なるほどね。そういわれりゃそれにちげえねえが、野郎めまたなんだって、千両もの大金がいるんだろうね」
「路銀をこしれえて、どこか遠いところへ高飛びするつもりなんだよ」
「えッ。そりゃたいへんだッ。さあ、忙しいぞッ。いう間もこうしちゃいられねえや! さ! 出かけましょうよ! な! 辰ッ。おめえも早くしたくしろよ」
「どじだな。行き先もわからねえうちに駆けだして、どこへ行くつもりなんだッ」
「そうか! いけねえ、いけねえ! あんまりだんながおどかすから、あわてるんですよ。じゃ、野郎の居どころも当たりがついていらっしゃるんですね」
「むっつり右門といわれるおれじゃねえか。じたばたせずと、手足になって働きゃいいんだッ。ふたりして、ちょっくらご番所を洗ってきなよ」
「行くはいいが、何を洗ってくるんですかい」
「知れたこっちゃねえか。このおひざもとで小屋掛けのしばいをするにゃ、ご番所のお許しがなくちゃできねえんだ。いま江戸じゅうに何軒小屋が開いてるか、そいつを洗ってくるんだよ」
「なるほど、やることが理詰めでいらっしゃらあ。じゃ、辰ッ、おめえは数寄屋橋すきやばしのほうを洗ってきなよ。おいら呉服橋の北町番所へ行ってくるからな」
「よしきた。何を洗い出しても、今みてえにあわ食うなよ。じゃ、兄貴、また会うぜ」
 まめやかなのに念を押されながら、ふたりは疾風――
 ほど経て、相前後しながら駆けもどってくると、善光寺のお公卿さまがまず一つ報告いたしました。
「ね、だんなだんな! 南町ご番所でお許しを出したというなア、神明さまの境内のあやつりしばいが一座きりきゃないっていいますぜ」
「そうかい。伝六兄いのほうはどんなもようだ」
「そいつがね、だんな、ちっとにおうんですよ。もうそろそろ夏枯れどきにへえりかけたためか、願いを出したな両国河岸がしに中村梅車とかいうのがやっぱり一座きりだそうですがね、尾州から下ってきた連中だとかいいますぜ」
「そうか! 尾州下りと聞いちゃ、犯人ほしゃその両国にちげえねえ。じゃ、例の駕籠だッ」
「ちぇッ、ありがてえ。もうこんどこそは、尾張様だろうと百万石だろうとこわかねえぞ。ちっと急がにゃならねえようだから、きょうは特別おおまけで、三丁じゃいけませんかね」
「どうやらまた晴れもようになったから、世直し祝いにかんべんしてやらあ」
「むっつり大明神さまさまだッ。じゃ、辰ッ、そのまにだんなのお召し物をてつだっておあげ申せよ。そっちの三つめのたんすが夏の物だからな」
 言いすてると、伝六は早かごの用意。お公卿さまにてつだわさせた名人は、南部つむぎに浜絽はまろの巻き羽織、蝋色鞘ろいろざやは落としざしで、素足に雪駄せったの男まえは、いつもながらどうしかられても一苦労してみたくなるりりしさでした。


 

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