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出るといっしょのように、ポツリ、ポツリと、えり首を見舞ったものは、このごろの青葉どきにはつきものである降りみ降らずみのさみだれです。さみだれの降るところ、決まってまたついてまわるものは、俗に幽霊風ととなえるあのぬんめりとした雨風で、しかも時刻は
そのぶきみこのうえない幽霊風吹きなでる深夜の町中を、思ってみただけでも身の毛のよだつまっくろな
しかし、当時の練塀小路は河内山宗俊が
「起きろ起きろッ、戸をあけろッ」
徒弟らしい若者が、なにげなく繰りあけたその足もとで、いまだになおつけ慕っていた
「八丁堀のおだんながたでござりまするか」
早くも右門主従をそれと知ったらしく腰を低めましたので、名人もまたおごそかにきき尋ねました。
「藤阿弥は在宿か」
「へえい。急ぎの注文がござりますので、まだ起きてでござります」
「少しく調べたいことがあるによって、取り次ぎいたせ」
「いえ、参ります。ただいまそちらへ参りまするでござります」
きき知ったか、奥の仕事べやから、両手をどろまみれのままで、当の藤阿弥がいかにも名ある人形造りらしい
「この
受け取って、丁子油のにおいをかいでいたようでしたが、名人の
「お察しどおりでござります。たしかに、てまえが注文をうけまして、さる人形に植えつけた品にござります」
第一の手がかりがついたものでしたから、いかでそのことばのさえないでいらるべき!
「油もそちがつけたか」
「いいえ、それがどうも妙なんでござりまするよ。この丁子油のしみた毛束に、そこへ使ってある戒名の書いた
「いつじゃ」
「つい三日まえでござりました」
「注文先も存じおろうな」
「へえい。
――いよいよいでて、いよいよいぶかし! 注文主は名まえも奇態な吉原
「ちぇッ。これだから伝六様というしょうべえはやめられねえや。ねこめがピカピカ目を光らしゃがるんで、人ごこちゃなかったが、もうここへくりゃどんな音でも出らあな。おい、辰ッ。おめえはほぞの緒切ってはじめてなんだろうから、後学のため、本場の
かりにもご公儀お町方の
「いまさら愚痴をいうんじゃねえが、こうべっぴんばかりいるところへ来てみるてえと、せめてもう五寸背がほしいね」
「泣くなよ、泣くなよ。ちっちぇえ
たわいのない配下たちの、たわいないささやきを聞き流しながら、名人はしきりと行きかう人を物色していましたが、おりよく通りかかった金棒ひきを見つけると、しらばくれて尋ねました。
「幇間の蛸平というは、どこにいるか存ぜぬか」
「ついそこですよ。ほら、あそこに四ツ