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かくして、時を消すことおよそ
「だんなだんな、大てがらですぜ。ホシの
叫びながら伝六が表玄関に威勢よく
ところが、それなる腰元がまた、こはそもなんと形容したらよいのか、まるでいもりのようなあくどさを備えた女でありました。わけても、そのくちびるにこってり塗られた口紅の赤さというものは、さながらいもりの赤い腹のごとき毒々しさを示していましたものでしたから、さすがの右門もちょっと毒気に当てられぎみで、ややしばしまゆをひそめていたようでしたが、やがて威厳を持った重々しいことばが、ずばりとその口から放たれました。
「すなおに白状すればそのように、強情を張らばまたそのように、相手方しだいによって変通自在の吟味をするのが右門の本領じゃ。いったんてまえの目に止まったら、おしでも口をあけさせないではおかぬによって、そなたも心してすなおに白状なさるがよいぞ。お名はなんと申さるるか」
実際またむっつり右門の名まえを聞いているほどの者でしたら、事実右門がみずから折り紙をつけたとおり、変通自在
「いっさい白状せぬというたらなんとなさりまするか」
「ここで白状させてお目にかけまするわ」
「ま、自慢たらしい。こことおっしゃりまして、お偉そうにおつむをたたきなさいましたところをみますると、知恵で白状させてみせるとおっしゃいますのでござりまするな」
「さようじゃ。頭をたたいてここといえば、知恵よりほかにないはずでござる。それも、右門の知恵袋ばかりは、ちっとひとさまのとは品物が違いまするぞ」
「あなたさまの知恵袋とやらが別物でござりまするなら、わたしの強情も別物でござります。いま道々聞けば、秀の浦とやらを殺害の
「ほほう、なかなか強情なことを申さるるな。では、どうあっても、秀の浦をあやめた下手人ではないと申さるるか」
「もとよりにござります」
「でも、あの御前
「確かでござりまするが、それがいかがいたしました」
「いかがでもない。これなる伝六へあの時刻ごろ外出をしたものがあったら、三人五人と数はいわずに皆連れてまいれと申したところ、そなたひとりだけを召し連れて帰ったによって、そなたに下手人の疑いかかるは理の当然でござらぬか。それに、第二の証拠はこのふところ紙じゃ。見れば、そなたの内ぶところから顔をのぞかせている紙もこれと同じ品じゃが、それでも強情を言り張りますか!」
「えッ!」
ぎょッとしながら、あわててそれなる秋楓といった御殿女中がふところ紙に手を添えたとたん!――まことに
「人のくちびるは千人千色、似たのは二つとないはずじゃ! しかるに、この二つの紅跡は、小じわの数までそっくり似ているではないか! これでもまだ右門と知恵比べすると申さるるか! たわけものめがッ!」
まことに右門ならでは考えつかぬ意表を突いた証拠攻めですが、いわれたとおり新旧二つの紅跡を比較すると、げに小じわの数までが似たりも似たり、寸分たがわぬ一つのものの相似を示していたものでしたから、ここにいたって、いかに強情がまんの腰元もついに自白を余儀なくさせられたかに見られましたが、がぜん事件はそこから意外な結果を呼びまねきました。女が首筋までも青々と血色を失って、毒々しいそのくちびるをわなわなと震わせながら、なにやらもじもじとふところの中で片手を動かしていたようでしたが、実に彼女もまた電光石火の早さでありました。すでにここへ来るまえから隠し持っていたものか、ぎらり懐剣を抜き放ったかと見るまに、右門ほどの早わざ師ですらも止めるいとまのないほどの早さで、ぐさりとおのが乳ぶさに突き立てましたものですから、さすがの右門もあっと驚いて、殺してならじとその手を押えながら、ののしるごとくにしかりつけました。
「早まったことをいたしてなんとするか! すなおに申さば、ずいぶんと慈悲をかけまいものでもなかったのに、死なば罪が消えると思うかッ」
「いえいえ! 罪からのがれたいための自殺ではござりませぬ! 罪を後悔すればこそ、覚悟のうえのことにござります。それが証拠は、この内ぶところに書き置きがござりますゆえ、ご慈悲があらば今すぐお読みくださりませ!」
「なに、書き置き

「は、どのように隠しだていたしましても、いま八丁堀でご評判のあなたさまに、しょせんたち打ちはかのうまいと存じましたゆえ、いよいよ罪に服さねばならぬときがまいりましたら、いさぎよう身を殺しまして、そのかわりに用意のこれなる書き置きをお読みねがうつもりでござりました。それに、生き長らえたままで白状いたしましたら、いくじなきものよとのそしりもござりまするが、わが身を殺すとともにいたす自白ならば、おなごのいささかばかりな操もたちますことゆえ、かくお目前を汚しました。どうぞ、かわいそうとおぼしめしくださりましたら、はようこれなる書き置きをご覧くださりませ」
苦しい息の下からあえぎあえぎ語り終わると、女は用意の一封を右門の手に渡しておいて、ばったりそこへあけに染まりながらうち伏しましたので、右門も今はなんじょうちゅうちょすべき、ただちにその封を押し開きました。見ると、それはさすがに御殿仕えの筆跡もうるわしく、水茎の跡も新しい次のような一文が書かれてありました。
「――秀の浦の下手人は、いかにもてまえでござります。なれども、それには深い子細のあることにござりますゆえ、その子細からお聞きくださりませ。詳しく申せば長い物語で、それももう
右門は一気に読みくだすと同時に、じっと腕をくんでややしばし思案にふけっていましたが、恋に狂って罪を犯したいたましい女の命が、もうそのとき完全に絶たれてしまっているのを見ると、決然として立ち上がりながら、
「せっかくだが、大島弥三郎とかいった旗本
「ちぇッ、ありがてえや! もうのがしっこねえぞ!」
伝六が丸くなって表へ飛び出していきましたので、右門はそのまになおこの場にいたっても優しい心がらから、押し入れの絹夜具を取り出すと、ふうわり