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黄金虫(こがねむし)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-7 6:52:11  点击:  切换到繁體中文


 ‘A good glass in the bishop's hostel in the devil's seat forty-one degrees and thirteen minutes northeast and by north main branch seventh limb east side shoot from the left eye of the death's-head a bee-line from the tree through the shot fifty feet out.’
(『僧正の旅籠はたご悪魔の腰掛けにて良き眼鏡四十一度十三分北東微北東側第七の大枝髑髏どくろ左眼ひだりめより射るより弾を通して五十フィート外方に直距線』)」
「だが」と私は言った。「謎は依然として前と同じくらい厄介やっかいなようだね。『悪魔の腰掛け』だの、『髑髏』だの、『僧正の旅籠』だのというような、こんな妄語たわごとから、どうして意味をひっぱり出すことができるのかね?」
「そりゃあね」とルグランが答えた。「ちょっと見たときには、まだ問題は容易ならぬものに見えるさ。まず僕の努力したことは、暗号を書いた人間の考えたとおりの自然な区分に、文章を分けることだった」
「というと、句読くとうをつけることだね?」
「そういったようなことさ」
「しかしどうしてそれができたんだい?」
「僕は、これを書いた者にとっては、解釈をもっとむずかしくするために言葉を区分なしにくっつけて書きつづけることが重要な点だったのだ、と考えた。ところで、あまり頭の鋭敏ではない人間がそういうことをやるときには、たいていは必ずやりすぎるものだ。文を書いてゆくうちに、当然句読点をつけなければならんような文意の切れるところへくると、そういう連中はとかく、その場所で普通より以上に記号をごちゃごちゃにつめて書きがちなものだよ。いまの場合、この書き物を調べてみるなら、君はそういうひどく込んでいるところが五カ所あることをたやすく眼にとめるだろう。このヒントにしたがって、僕はこんなふうに区分をしたんだ。
 ‘A good glass in the bishop's hostel in the devil's seat ―― forty-one degrees and thirteen minutes ―― northeast and by north ―― main branch seventh limb east side ―― shoot from the left eye of the death's-head ―― a bee-line from the tree through the shot fifty feet out.’
(『僧正の旅籠悪魔の腰掛けにて良き眼鏡――四十一度十三分――北東微北――東側第七の大枝――髑髏の左眼より射る――樹より弾を通して五十フィート外方に直距線』)」
「こういう区分をされても」と私は言った。「まだやっぱり僕にはわからないね」
「二、三日のあいだは僕にもわからなかったよ」とルグランが答えた。「そのあいだ、僕はサリヴァン島の付近に『僧正の旅館ビショップス・ホテル』という名で知られている建物がないかと熱心に捜しまわった。むろん、『旅籠ホステル』という古語はよしたのさ。が、それに関してはなにも得るところがなかったので、捜索の範囲をひろげてもっと系統的な方法でやってゆこうとしていたとき、ある朝、まったくとつぜんに頭に浮んだのは、この『僧正の旅籠ビショップス・ホステル』というのは、島の四マイルばかり北方にずっと昔から古い屋敷を持っていたベソップという名の旧家となにか関係があるかもしれない、ということだった。そこで、僕はそこの農園へ行って、その土地の年寄りの黒んぼたちにまたいろいろきいてみた。とうとう、よほど年をとった一人のばあさんが、ベソップの城というような所のことを聞いたことがあって、そこへご案内することができるだろうと思うが、それは城でも宿屋でもなくて高い岩だと言ってくれた。
 僕は骨折り賃は十分出すがと言うと、婆さんはしばらくためらったのち、その場所へ一緒に行ってくれることを承知した。大した困難もなくそこが見つかったので、それから婆さんを帰して、僕はその場所を調べはじめた。その『城』というのはがけや岩が雑然と集まっているところのことで、そのなかの一つの岩は、ずっと高くて、また孤立していて人工的なふうに見えるので、たいへん目立っていた。僕はその岩のてっぺんへよじ登ったんだが、さて、それからどうしたらいいかということには大いに途方に暮れてしまったね。
 さんざんに考えこんでいるうちに、僕の眼はふと、自分の立っている頂上からたぶん一ヤードくらい下の岩の東の面にあるせまい出っ張りに落ちた。この出っ張りは約十八インチほど突き出ていて、幅は一フィート以上はなく、そのすぐ上の崖にくぼみあるので、われわれの祖先の使ったあの背をった椅子いすにあらまし似ているんだ。僕はこれこそあの書き物にある『悪魔の腰掛け』にちがいないと思い、もうあの謎の秘密をすっかり握ったような気がしたよ。
『良き眼鏡』というのが望遠鏡以外のものであるはずがないということは、僕にはわかっていた。船乗りは『眼鏡』という言葉をそれ以外の意味にはめったに使わないからね。そこで、僕は望遠鏡はここで用いるべきであるということ、ここがそれを用いるに少しの変更をも許さぬ定まった観察点であるということが、すぐにわかったのだ。また、『四十一度十三分』や『北東微北』という文句が眼鏡を照準する方向を示すものであることは、すぐに信じられた。こういう発見に大いに興奮して、急いで家へ帰り、望遠鏡を手に入れて、また岩のところへひき返した。
 出っ張りのところへ降りると、一つのきまった姿勢でなければ席を取ることができないということがわかった。この事実は僕が前からもっていた考えをますます確かめてくれたのだ。それから眼鏡の使用にとりかかった。むろん、『四十一度十三分』というのは現視地平(17)の上の仰角を指しているものにちがいない。なぜなら、水平線上の方向は「北東微北」という言葉ではっきり示されているんだからね。この北東微北の方向を僕は懐中磁石ですぐに決めた。それから、眼鏡を大体の見当でできるだけ四十一度(18)の仰角に向けて、気をつけながらそれを上下に動かしていると、そのうちにはるか彼方かなたに群を抜いてそびえている一本の大木の葉のしげみのなかに、円い隙間すきま、あるいは空いているところがあるのに、注意をひかれた。この隙間の真ん中に白い点を認めたが、初めはそれがなんであるか見分けがつかなかった。望遠鏡の焦点を合わせて、ふたたび見ると、今度はそれが人間の頭蓋骨ずがいこつであることがわかった。
 これを発見すると、僕はすっかり喜びいさんで、なぞが解けてしまったと考えたよ。なぜかと言えば、『東側第七の大枝』という文句は、木の上の頭蓋骨の位置を指すものに決っているし、また『髑髏の左眼より射る』というのも、埋められた宝の捜索に関して唯一の解釈しか許さないものだったから。僕は、頭蓋骨の左の眼から弾丸を落す仕組みになっているので、また、幹のいちばん近い点から『弾』(つまり弾丸の落ちたところ)を通して直距離、あるいは別の言葉で言えば一直線を引き、そこからさらに五十フィートの距離に延長すれば、ある一定の点が示されるだろう、ということを悟った。――そして、この地点の下に貴重な品物が隠されているということは、少なくともないとも言えぬことだと考えたしだいなのさ」
「なにもかもすべて、実にはっきりしているね」と私は言った。「また巧妙ではあるが、簡単で明瞭めいりょうだよ。で君はその『僧正の旅籠』を出て、それからどうしたんだい?」
「もちろん、その木の方位をよく見定めてから、家へ帰ったさ。だが、その『悪魔の腰掛け』を離れるとすぐ、例の円い隙間は見えなくなり、その後はどっちへ振り向いてもちらりとも見ることができなかったよ。この事件全体のなかで僕にいちばん巧妙だと思われるのは、この円く空いているところが、岩の面のせまい出っ張り以外のどんな視点からも見られない、という事実だね。(幾度もやってみて、それが事実ということを僕は確信してるんだ)
 この『僧正の旅籠』へ探検に行ったときには、ジュピターも一緒についてきたが、あいつは、それまでの数週間、僕の態度のぼんやりしていることにちゃんと気がついていて、僕を一人ではおかぬようにとくに注意をしていた。だがその次の日、僕は非常に早く起きて、うまくあいつをまいて、例の木を捜しに山のなかへ行ったんだ。ずいぶん骨を折った末、そいつを見つけた。夜になって家へ帰ると、やっこさんは僕を折檻せっかんしようというんだよ。それからのちの冒険については、君は僕自身と同様によく知っているはずだ」
「最初に掘ったときに」と私が言った。「君が場所をまちがえたのは、ジュピターがまぬけにも頭蓋骨の左の眼からではなくて右の眼から虫を落したためだったんだね」
「そのとおりさ。そのしくじりは『弾』のところに――つまり、木に近いほうのくいの位置に――二インチ半ほどの差ができた。そして、もし宝が『弾』の真下にあったのなら、この誤りはなんでもなかったろう。ところが、『弾』と、木のいちばん近い点とは、ただ方向の線を決定する二点にすぎなかったのだ。むろんその誤りは、初めは小さなものであっても、線をのばしてゆくにしたがって大きくなり、五十フィートも行ったときには、すっかり場所が違ってしまったのさ。宝がどこかこの辺にほんとうに埋められているという深い確信が僕になかったなら、僕たちの骨折りもすっかり無駄になってしまうところだったよ」
頭蓋骨を用いるという思いつき――頭蓋骨の眼から弾丸を落すという思いつき――は、海賊の旗からキッドが考えついたことだろうと、僕は思うね。きっと彼は、この気味のわるい徽章きしょうで自分の金を取りもどすことに、詩的調和といったようなものを感じたんだぜ」
「あるいはそうかもしれん。だが僕は、常識ということが、詩的調和ということとまったく同じくらい、このことに関係があると考えずにはいられないんだ。あの『悪魔の腰掛け』から見えるためには、その物は、もし小さい物なら、どうしても白くなくちゃならん。ところで、どんな天候にさらされても、その白さを保ち、さらにその白さを増しもするものとしては、人間の頭蓋骨にかなうものはないからな(19)」
「しかし君の大げさなものの言いぶりや、甲虫かぶとむしを振りまわす振舞いといったら――そりゃあ実に奇妙きてれつだったぜ! 僕はてっきり君が気が狂ったのだと思ったよ。で、君はなぜあの頭蓋骨から、弾丸ではなくて、虫を、落させようと言い張ったんだい?」
「いや、実を言うと、君が明らかに僕の正気を疑っているのが少ししゃくだったので、僕一流のやり方で、真面目まじめにちょっとばかりけむに巻いて、君をこっそりらしてやろうと思ったのさ。甲虫を振りまわしたのもそのためだし、あれを木から落させたのもそのためなんだ。君があれを非常に重いと言ったので、木から落すというその考えを思いついたのだ」
「なるほど。わかったよ。ところで、僕にはもう一つだけ合点のゆかぬことがある。あの穴のなかにあった骸骨がいこつはなんと解釈すべきだろうね?」


 

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