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秘密の風景画(ひみつのふうけいが)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-6 9:32:24  点击:  切换到繁體中文


     四

 誰か軽く扉をたたいた。彼女達は同時にそのノックの音の方へ顔をむけた。その瞬間に、扉が外から開いて、洋服の青年紳士が顔を突っ込んだ。
「おい! 房子さん! まだかい?」
 青年は美佐子を別の名で呼んで言った。
「あら! もう、そんな時間なの?」
 美佐子はすぐに立って行った。美佐子は何もかも忘れて、暗い空気の中で伸子と話していたのだった。
 美佐子はあわてていた。
「約束の時間より、一時間も過ぎているんだよ。」
 青年紳士のそんなことを言う声がして、扉はバタンと閉まってしまった。そして美佐子と青年とは扉の外でささやっていた。しばらくすると、美佐子だけが、微笑ほほえみながら部屋の中へ這入はいって来た。
「会社の方なのよ。これから、活動に伴れて行ってくれるって言うの。伸ちゃんも一緒に行かないこと?」
「私、一緒に、行ってもいいの?」
「いいも悪いも無いわ。私よりも、伸ちやんを伴れて行って上げようって言うのよ。さあ! 早く支度をなさいよ。」
 美佐子はきたてるようにして言った。そして、彼女は大急ぎで顔の白粉おしろいなおしにかかった。
随分ずいぶん時間がかかるんだね。」
 青年紳士は、そんなことを言いながら部屋の中へ這入って来て、煙草をくゆらし燻らし歩き廻った。

     五

 映画館を出たときには五時を過ぎていた。美佐子はひどくそわそわしていた。青年紳士は、ゆったりと、煙草をくゆらしながら地面を蹴るようにして歩いた。
「伸ちゃん! ちょっと。」
 美佐子は立ち止まりながら言った。青年紳士は二人を置いて前へ前へと地面を蹴って行った。
「私達ね、会社の人達と、ちょっと集まることになっているのよ。伸ちゃんも一緒にれて行きたいんだけど、場所が場所だから、伸ちゃんは先に帰ってよ。ね!」
 伸子は、突然に突き飛ばされたような気がした。
「場所がカフェでなければ、一緒に伴れて行くんだけど……」
「いいわ。私一人で帰っているわ。」
 明るい声で伸子は言った。そして二人は青年紳士の後を追って小走こばしった。
 青年紳士は、とあるカフェの前に蒼紫あおむらさきのネオンサインを背負って立っていた。
 美佐子はすぐにそれを見つけた。
「じゃ、先に帰ってね。」
 美佐子はそうなだめるように言って、青年紳士の立っている方へけて行った。青年は煙草をはさんだ手を眼のところまで上げて、微笑ほほえみながら伸子への挨拶を送っていた。

     六

 夜更よふけになっても姉の美佐子は帰って来なかった。伸子は寂しい気がした。伸子はふらふらと街へ出て行った。もやめた街を、伸子は、あのネオンサインのカフェの前まで来ていた。伸子はそこの電柱に身をもたせて、寂しい気持ちでカフェの入り口に眼をえていた。そこで姉の帰るのを待っていようという気持ちが、無計画ながら伸子のなかには動いていた。
「電車が無くなるじゃないか。」
 和服の青年が、大声おおごえにそんなことを言って、カフェの中からけ出して来た。伸子はその向こう側の光景に驚かされて、電柱のかげへ逃げ込むようにして廻った。
「――では、今夜はこれで帰らしてあげるから、明晩、きっといらっしてよ。」
 美佐子であった。逃げ出した和服の青年の後を追って、道路へ出て来てそう叫んだのは、たしかに美佐子であった。扉に片手をかけて、げらげらと笑いながらその青年を見送っているのは、たしかに美佐子であった。
 伸子はひどく突きのめされた気持ちで、ふらふらとそこを歩き出した。姉の美佐子が、まさかそんなところに、そんな職業に従事していようとは想像さえ及ばなかったのだ。

     七

 眼が覚めて見ると、伸子は頭が痛んでいた。姉の美佐子が、昨晩とうとう帰っては来なかったので、彼女は冷たい朝飯あさめしを食べて学校へ出て行った。併し伸子は、ひどく頭が痛むので、二時間だけで帰って来た。寝ないではえられそうもなかった。
「あらっ!」
 伸子は扉を開いた瞬間に、低声こごえながら、思わずそう叫んだ。誰もいまいと思ったその薄暗い部屋の中に、姉の美佐子と活動へれて行ってくれたあの青年紳士とがいたからであった。――美佐子はベッドの上に腹匐はらばって、青年紳士はその頭のところへ立って。――青年紳士は蟇口がまぐちから何枚かの紙幣をつかみ出してベッドの上にならべているところであった。
「じゃあ、またそのうち……」
 青年紳士はそう言ってあっさりと帰って行った。
「伸ちゃんの意地悪いじわる! 私が誰のためにこんなことをしていると思うの? 私が好きでこんなことをしていると思うの?」
 美佐子は投げつけるようにして怒鳴った。
「決して私が堕落したんでなんかないわよ。食べて行かれなければ仕方がないじゃないの? 伸ちやんの意地悪! 意地悪! 意地悪!」
 美佐子は叫びながらとうとう泣き出してしまった。

――昭和五年(一九三〇年)『蝋人形』十二月号――




 



底本:「佐左木俊郎選集」英宝社
   1984(昭和59)年4月14日初版
入力:大野晋
校正:しず
1999年11月15日公開
2005年12月20日修正
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