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貧乏(びんぼう)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-4 10:05:56  点击:  切换到繁體中文

底本: ちくま日本文学全集 幸田露伴
出版社: 筑摩書房
初版発行日: 1992(平成4)年3月20日
入力に使用: 1992(平成4)年3月20日第1刷


底本の親本: 現代日本文学全集4
出版社: 筑摩書房

 

  その一

「アアつまらねえ、こう何もかもぐりはまになった日にゃあ、おれほどのものでもどうもならねえッ。いめえましい、酒でもくらってやれか。オイ、おとま、一しょうばかり取って来な。コウト、もう煮奴にやっこも悪くねえ時候だ、刷毛はけついでに豆腐とうふでもたんと買え、田圃たんぼの朝というつもりで堪忍かんにんをしておいてやらあ。ナンデエ、そんなつらあすることはねえ、おんなぷりが下がらあな。
「おふざけでないよ、ているかとおもえばめていて、出しぬけにとこん中からお酒を買えたあ何のこったえ。そして何時だと思っておいでだ、もう九時だよ、日があたってるのに寝ているものがあるもんかね。チョッ不景気な、病人くさいよ、眼がさめたら飛び起きるがいいわさ。ヨウ、起きておしまいてえば。
あだあ、かあちゃん、お眼覚めざが無いじゃあぼうは厭あだあ。アハハハハ。
「ツ、いい虫だっちゃあない、あきれっちまうよ。さあさあおおきッたらお起きナ、起きないと転がし出すよ。
と夜具をりにかかる女房にょうぼうは、身幹せいの少し高過ぎると、眼のまわりの薄黒うすぐろく顔の色一体にえぬとは難なれど、面長おもながにて眼鼻立めはなだちあしからず、つくり立てなばいきに見ゆべき三十前のまんざらでなき女なり。
 今まで機嫌きげんよかりし亭主ていしゅ忽然こつぜんとして腹立声に、
「よせエ、この阿魔あまあ、おれが勝手だい。
いながらすそかたに立寄れる女をつけんと、掻巻かいまきながらに足をばたばたさす。女房はおどろきてソッとそのまま立離たちはなれながら、
「オヤおっかない狂人きちがいだ。
と別に腹も立てず、少し物を考う。
「あたりめえよ、狂人にでもならなくって詰るもんか。アハハハハ、ぜにが無い時あ狂人が洒落しゃれてらあナ。
「おあしが有ったらエ。
「フン、有情漢いろおとこよ、オイ悪かあ無かったろう。
「いやだネ知らないよ。
「コン畜生ちくしょうめ、れやがったくせに、フフフフフ。
「お前少しどうかおしかえ、変だよ。
「何が。
「調子が。
「飛んだお師匠様ししょうさんだ、笑わせやがる。ハハハハ、まあ、いいから買って来な、一人飲みあしめえし。
「だって、無いものを。
「何だと。
「貸はしないし、ちっとも無いんだものを。
智慧ちえがか。
「いいえさ。
「べらぼうめえ、えものは無えやナ、おれの脱穀ぬけがらを持って行きゃ五六十銭はよこすだろう。
「ホホホホ、いい気ぜんだよ、それでいつまでももぐっているのかい。
「ハハハハ、お手の筋だ。
「だって、あとはどうするエ。一張羅いっちょうらを無くしては仕様がないじゃあないか、エ、後ですぐ困るじゃ無いか。
「案じなさんな、銭があらあ。
みょうだねえ、無いから帯や衣類きものを飲もうというのに、その後になって何が有るエ。
「しみッたれるなイ、裸百貫はだかひゃっかん一匹いっぴきだ。
「ホホホホホ、大きな声をお出しでない、隣家おとなりが起きると内儀おかみさんの内職の邪魔じゃまになるわネ。そんならいいよ買って来るから。
と女房は台所へ出て、まだ新しい味噌漉みそこしを手にし、外へ出でんとす。
「オイオイ此品これでも持って行かねえでどうするつもりだ。
と呼びかけて亭主のいうに、ちょっとりかえってうれしそうに莞爾にっこり笑い、
「いいよ、だまって待っておいで。
 たちまち姿すがたは見えずなって、四五けん先の鍛冶屋かじやつちの音ばかりトンケンコン、トンケンコンと残る。亭主はちょっと考えしが、
「ハテナ、近所のやつに貸た銭でもあるかしらん。知人なじみも無さそうだし、貸す風でもねえが。
独語ひとりごつところへ、うッそりと来かかる四十ばかりの男、薄汚うすぎたな衣服なり髪垢ふけだらけの頭したるが、裏口からのぞきこみながら、おつつぶれた声でぶ。
「大将、風邪かぜでも引かしッたか。
 両手で頬杖ほおづえしながら匍匐臥はらばいねにまだふしたる主人あるじ懶惰ぶしょうにも眼ばかり動かして見しが、身体からだはなおすこしも動かさず、
日瓢にっぴょうさんか、ナニ風邪じゃあねえ、フテ寝というのよ。まあ上るがいい。
とは云いたれど上りてもらいたくも無さそうな顔なり。
「ハハハ、運を寝て待つつもりかネ、上ってもご馳走ちそうは無さそうだ。
ちげえねえ、煙草たばこの火ぐらいなもんだ。
「ハハハ、これではおたがいに浮ばれない。時に明日あすの晩からは柳原やなぎはらの例のところに○州屋まるしゅうや乾分こぶんの、ええと、だれとやらの手で始まるそうだ、菓子屋のげん昨日きのうそう聞いたが一緒いっしょに行きなさらぬか。
かれたら往こうわ、ムムそれを云いに来たのか。
「そうさ、お互に少しあたさんにならねばならん。
「誰だってそうおもわねえものはえんだ、御祖師様おそしさまでも頼みなせえ。
「からかいなさるな、ばちが当っているほうだ。
「ハハハ、からかいなさんなと云ってもらいてえ、どうも言語ものいい叮嚀ていねいうちがいい。
「ガリスのはてと知れるかノ。
「オヤ、気障きざ言語ふちょうを知ってるな、大笑いだ。しかし、知れるかノというノの字で打壊ぶちこわしだあナ、チョタのガリスのおんはてとは誰が眼にも見えなくってどうするものか。
「チョタとは何だ、田舎漢いなかもののことかネ。
「ムム。
忌々いまいましい、そう思わるるがいやだによって、大分気をつけているが地金じがねはとかく出たがるものだナ。
「ハハハ、厭だによってか、ソレそれがもういけねえ、ハハハ詰らねえ色気いろけを出したもんだ。
「イヤれば居るだけ笑われる、明日あす来てみよう、行かれたら一緒に行きなさい。
と立帰り行くを見送って、
「おえねえ頓痴奇とんちきだ、坊主ぼうずけえりの田舎漢いなかものの癖に相場そうば天賽てんさいも気がつええ、あれでもやっぱり取られるつもりじゃあねえうち可笑おかしい。ハハハ、いいごうざらしだ。
一人ひとり笑うところへ、女房おとまぶらりッと帰り来る。見れば酒も持たず豆腐も持たず。
「オイどうしたんだ。
「どうもしないよ。
 やはり寝ながらじろりッと見て、
「気のぬけたラムネのようにおつうすますナ、出て行った用はどうしたんだ。
「アイ忘れたよ。
「ふざけやがるなこのばばあ
邪見じゃけんな口のききようだねえ、阿魔だのコン畜生だの婆だのと、れっきとした内室おかみさんをつかめえてお慮外りょがいだよ、はげちょろじじい蹙足爺いざりじじいめ。
と少しあまえて言う。男は年も三十一二、頭髪かみうるしのごとく真黒まっくろにて、いやらしく手を入れ油をつけなどしたるにはあらで、短めにりたるままなるが人にすぐれて見きなり。されば兀ちょろ爺とののしりたるはわざとになるべく、蹙足爺いざりじじいとはいつまでも起き出でぬ故なるべし。男は罵られてもはげしくはおこらず、かえって茶にした風にて、
「やかましいやい、ほんとに酒はどうしたんでエ。
「こうしてから飲むがいいサ。
突然だしぬけに夜具を引剥ひつぱぐ。夫婦ふうふの間とはいえ男はさすが狼狙うろたえて、女房の笑うに我からも噴飯ふきだしながら衣類きものを着る時、酒屋の丁稚でっち
「ヘイお内室かみさんここへ置きます、お豆腐は流しへ置きますよ。
徳利とくりと味噌漉を置いて行くは、此家ここ内儀かみさんにいいつけられたるなるべし。
「さあ、お前はおぶうへいっておいでよ、その間にチャンとしておくから。
 手拭てぬぐいと二銭銅貨を男に渡す。片手には今手拭を取った次手ついでに取ったほうきをもう持っている。
「ありがてえ、昔時むかしからテキパキしたやつだったッケ、イヨ嚊大明神かかあだいみょうじん
と小声ではやしてあとでチョイと舌を出す。
「シトヲ、馬鹿ばかにするにもほどがあるよ。
 大明神まゆしわめてちょいとにらんで、思い切ってひどく帚で足をぎたまう。
「こんべらぼうめ。
 男は笑ってしかりながら出で行く。

   その二

 浴後ゆあがりの顔色冴々さえざえしく、どこに貧乏の苦があるかという容態ありさまにて男は帰り来る。一体にがばしりて眼尻めじりにたるみ無く、一の字口の少しおおきなるもきっとしまりたるにかえって男らしく、娘にはいかがなれど浮世うきよ鹹味からみめて来た女にはかるべきところある肌合はだあいなリ。あたりを片付け鉄瓶てつびんに湯もたぎらせ、火鉢ひばちも拭いてしまいたる女房おとま、片膝かたひざ立てながらあらい歯の黄楊つげくし邪見じゃけん頸足えりあしのそそけをでている。両袖りょうそでまくれてさすがに肉付にくづきの悪からぬ二のうでまで見ゆ。髪はこの手合てあいにおさだまりのようなお手製の櫛巻なれど、身だしなみを捨てぬに、小官吏こやくにん細君さいくんなどが四銭の丸髷まるまげ二十日はつかたせたるよりははるかに見よげなるも、どこかに一時はみがたてたる光の残れるがたすけをなせるなるべし。亭主の帰り来りしを見て急に立上り、
「さあ、ここへおいで。
あたう。男は無言で坐り込み、筒湯呑つつゆのみに湯をついで一杯いっぱい飲む。夜食膳やしょくぜんと云いならわしたいやしいかたの膳が出て来る。上には飯茶碗めしぢゃわんが二つ、箸箱はしばこは一つ、猪口ちょくが二ツとこうのものばちは一ツと置ならべられたり。片口は無いと見えて山形に五の字のかれた一升徳利いっしょうどくりは火鉢の横に侍坐じざせしめられ、駕籠屋かごやの腕と云っては時代ちがいの見立となれど、文身ほりものの様に雲竜うんりゅうなどの模様もようがつぶつぶで記された型絵の燗徳利かんどくりは女の左の手に、いずれ内部なか磁器せとものぐすりのかかっていようという薄鍋うすなべもろげな鉄線耳はりがねみみを右の手につままれて出で来る。この段取の間、男は背後うしろ戸棚とだな※(「馮/几」、第4水準2-3-20)りながらぽかりぽかり煙草たばこをふかしながら、あごのあたりの飛毛とびげを人さし指の先へちょとはいをつけては、いたずら半分にいている。女が鉄瓶を小さい方の五徳ごとくへ移せば男は酒を燗徳利に移す、女が鉄瓶のふたを取る、ぐいと雲竜をしずませる、あやうく鉄瓶の口へ顔を出した湯がおどり出しもし得ず引退ひっこんだり出たりしているに鍋は火にかけられる。
「下の抽斗ひきだし鰹節かつぶしがあるから。
と女は云いながら立って台所へ出でしが、つと外へ行く。
「チョツ、けといやあがるのか。
と不足らしい顔つきして女を見送りしが、何が眼につきしや急にショゲて黙然だんまりになって抽斗をけ、小刀こがたな鰹節ふしとを取り出したる男は、鰹節ふし亀節かめぶしというちさきものなるを見て、
「ケチびんなものを買っときあがる。
独言ひとりごとしつつそこらを見廻して、やがて膳のふち鰹節ふしをあてがって削く。
 女はたちまち帰り来りしが、前掛まえかけの下より現われて膳にのぼせし小鉢こばちには蜜漬みつづけ辣薑らっきょう少しられて、その臭気においはげしくわたれり。男はこれに構わず、膳の上に散りしかいたる鰹節を鍋のうちつまんで猪口ちょくを手にす。ぐ、む。
「いいかエ。
「素敵だッ、やんねえ。

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