四
いよいよしたくができて、勢揃いがすむと、ねずみ仲間は、親ねずみ、子ねずみ、じじいねずみにばばあねずみ、おじさんねずみにおばさんねずみ、お婿さんねずみにお嫁さんねずみ、孫、ひこ、やしゃ子ねずみまで何万何千という仲間が残らずぞろぞろ、ぞろぞろ、まっ黒になって、猫の陣取っている横町の原に向かって攻めていきました。
猫の方も、「そら来た。」というなり、三毛猫、虎猫、黒猫、白猫、ぶち猫、きじ猫、どろぼう猫やのら猫まで、これも一門残らず牙をとぎそろえて向かっていきました。
両方西と東に分かれてにらみ合って、今にも飛びかかろう、食いかかろうと、すきをねらっているところへ、ひょっこりお寺の和尚さんが、話を聞いて仲裁にやって来ました。和尚さんは猫の陣とねずみの陣のまん中につっ立って、両手をひろげて、
「まあ、まあ、待て。」
と言いますと、猛りきっていた猫の軍もねずみの軍も、おとなしくなって、和尚さんの顔を見ました。
和尚さんはまずねずみの軍に向かって、
「これ、これ、お前たちがいくら死にもの狂いになったところで、猫にかなうものではない。一ぴき残らず食い殺されて、この野原の土になってしまう。わたしはそれを見るのがかわいそうだ。だからお前たちもこれから心を入れかえて分相応に、人の捨てた食べ物の残りや、俵からこぼれたお米や豆を拾って、命をつなぐことにしてはどうだ。そして人のめいわくになるような悪いいたずらをきれいにやめれば、わたしは猫にそういって、もうこれからお前たちをとらないようにしてやろう。」
こういうとねずみたちは喜んで、
「もう決して悪いことはいたしませんから、猫にわたくしどもをとらないようにおっしゃって下さいまし。」
と言いました。
「よしよし、その代わりお前たちがまた悪さをはじめたら、すぐに猫に言ってとらせるが、いいか。」
と和尚さんが念を押しますと、
「ええ、ええ。よろしゅうございますとも。」
と、ねずみたちはきっぱりと答えました。
そこで和尚さんはふり返って、こんどは猫に向かって言いました。
「これ、これ、お前たちもせっかくねずみたちがああ言うものだから、こんどはこれでがまんして、この先もうねずみをいじめないようにしておくれ。その代わりまた、ねずみが悪さをはじめたら、いつでも見つけ次第食い殺してもかまわない。どうだね、それで承知してくれるか。」
「よろしゅうございます。ねずみが悪ささえしなければ、わたくしどももがまんして、あわび貝でかつ節のごはんや汁かけ飯を食べて満足しています。」
こう猫たちが声をそろえて言いますと、和尚さんも満足らしく、にこにこ笑って、
「さあ、それでやっと安心した。ねずみは猫にはかなわないし、猫はやはり犬にはかなわない。上には上の強いものがあって、ここでどちらが勝ったところで、それだけでもう世の中に何もこわいものがなくなるわけではないし、世の中が自由になるものでもない。まあ、お互いに自分の生まれついた身分に満足して、獣は獣同士、鳥は鳥同士、人間は人間同士、仲よく暮らすほどいいことはないのだ。そのどうりが分かったら、さあ、みんなおとなしくお帰り、お帰り。」
「どうもありがとうございました。これからはもう咎のないねずみを取ることは、やめましょう。」
「そうです。わたくしどもも、けっしてよけいな人の物を取ったりなんかいたしません。」
猫とねずみは口々にこう言って、和尚さんにおじぎをして、ぞろぞろ帰っていきました。
●表記について
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