日本の神話と十大昔話 |
講談社学術文庫、講談社 |
1983(昭和58)年5月10日 |
1992(平成4)年4月20日第14刷 |
1983(昭和58)年5月10日第1刷 |
一
むかし、むかし、京都の町でねずみがたいそうあばれて、困ったことがありました。台所や戸棚の食べ物を盗み出すどころか、戸障子をかじったり、たんすに穴をあけて、着物をかみさいたり、夜も昼も天井うらやお座敷の隅をかけずりまわったりして、それはひどいいたずらのしほうだいをしていました。
そこでたまらなくなって、ある時お上からおふれが出て、方々のうちの飼い猫の首ったまにつないだ綱をといて、放してやること、それをしない者は罰をうけることになりました。それまではどこでも猫に綱をつけて、うちの中に入れて、かつ節のごはんを食べさせて、だいじにして飼っておいたのです。それで猫が自由にかけまわってねずみを取るということがありませんでしたから、とうとうねずみがそんな風に、たれはばからずあばれ出すようになったのでした。
けれどもおふれが出て、猫の綱がとけますと、方々の三毛も、ぶちも、黒も、白も自由になったので、それこそ大喜びで、都の町中をおもしろ半分かけまわりました。どこへ行ってもそれはおびただしい猫で、世の中はまったく猫の世界になったようでした。
こうなると弱ったのはねずみです。きのうまで世の中をわが物顔にふるまって、かって気ままなまねをしていた代わりに、こんどは一日暗い穴の中に引っ込んだまま、ちょいとでも外へ顔を出すと、もうそこには猫が鋭い爪をといでいました。夜もうっかり流しの下や、台所の隅に食べ物をあさりに出ると、暗やみに目が光っていて、どんな目にあうか分からなくなりました。
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