いちばん下の おひめさま、 あけてください たのみます。 つめたい泉の わくそばで、 きのう やくそく したことを、 あなたは おぼえて いるでしょう。 いちばん下の おひめさま、 あけてください たのみます。
すると王さまはいいました。 「それはおまえがいけないね。いちどやくそくしたことは、きっとそのとおりしなければなりません。さあ、はやく行って、あけておやり。」 おひめさまはしぶしぶ立って、戸をあけました。とたんに、かえるはぴょこんととびこんで来て、それから、おひめさまのあとについて、ひょこひょこ、いすの所までやってきました。 かえるは、そこにしゃがみこんで、上をみながら、 「わたしも、そのいすに上げてください。」といいました。おひめさまがもじもじしていると、おとうさまがまた、かえるのいうとおりしておやりといいました。 おひめさまはしかたなく、かえるをいすにのせてやりました。 するとかえるがまたいいました。 「どうぞ、わたしを、テーブルの上にのせてください。」 おひめさまが、かえるをテーブルにのせてやると、こんどは、 「さあ、その金のお皿をずっとわたしのほうによせてください。そうするとふたりいっしょにたべられるから。」といいました。 おひめさまは、かえるのいうとおりしてやりました。ほんとに、かえるが、ぴちゃぴちゃ、さもおいしそうに舌づつみうってたべているそばで、おひめさまは、ひとくちひとくち、のどにつかえるようでした。 かえるはたべるだけたべると、おなかをまえへつきだして、 「ああ、おなかがはって、ねむくなった。おひめさま、さあ、わたしをあなたのおへやにつれて行ってください。かわいらしい、あなたのきぬのお床のなかで、わたしはゆっくりねむりたい。」 おひめさまは、もうがまんができなくなって、しくしく泣きだしてしまいました。ほんとに、ぬるぬる、ぴちゃぴちゃ、さわるのもきみのわるいかえるが、おひめさまのきれいなお床のなかで、ねむりたいなんていうのですもの、おひめさまがかなしくなるのもむりはありません。 するとまた王さまが、 「泣くことがあるか。たれでも、こまっているとき、たすけてくれたものに、あとで知らん顔するのは、いけないことだよ。」といいました。 おひめさまは、さもきみわるそうに、指のさきでそっとかえるをつまみあげて、上のおへやまでもって行くと、そっと隅っこにおきました。そうして、じぶんだけが、お床にはいってしまいました。 ところが、かえるは、さっそく、のこのこはいだしてきて、 「ああくたびれた、くたびれた。はやくゆっくりねむりたい。さあ、そこへ上げてください。でないと、おとうさまにいいつけるから。」といいました。 これでおひめさまは、すっかり腹が立ちました。そこでいきなりかえるをつかみ上げて、ありったけのちからで、したたか、壁にたたきつけました。 「さあ、これでたんとらくにねむるがいい。ほんとにいやなかえるったらないよ。」 ところで、どうでしょう。かえるは、ゆかの上にころげたとたん、もうかえるではなくなって、世にもうつくしいやさしい目をした王子にかわっていました。 さて、この王子が、おひめさまのおとうさまのおぼしめしで、おひめさまのお友だちでも、おむこさまであることになりました。そのとき、王子はあらためて、じぶんの身の上の話をして、あるわるい魔法つかいの女のためにのろわれて、みにくいかえるの姿にかえられたが、それを泉のなかからたすけだして、もとのにんげんにかえしてくれるものは、この王さまのおひめさまのほかになかったといいました。それで、あしたはもうさっそく、ふたりつれだって、じぶんの国にかえって行くつもりだともいいました。
三
それでふたりはゆっくりやすみました。そして、あくる朝、お日さまがにこにこ、ふたりをお起しになるじぶん、八頭だての白馬をつけた馬車が、はいって来ました。どの馬も、あたまに白いだちょうのはねをかぶって、金のくさりをひきずっていました。馬車のうしろには、わかい王さまのごけらいが、しゃんと立っていました。これが忠義もののハインリヒでありました。 忠義もののハインリヒは、鉄のたがを三本も胸にまきつけていました。それは、ご主君がかえるにされてしまったので、かなしくてかなしくて、いまにも胸がはれつしそうになったので、やっとたがをはめて、おさえていたのです。たいせつな王さまが、もとの姿にかえったので、きょうさっそく、八頭だての馬車が、おむかえにきたのです。忠義もののハインリヒは、おふたりを馬車のなかに入れてあげて、じぶんはまた馬車のうしろにしゃんと立ちながら、ご主君のまた世に出たことをおもって、ぞくぞくするほどうれしくてなりませんでした。 さて馬車がすこしはしりだしたとおもうころ、王さまのお耳のうしろで、ぱちり、ぱちり、なにかはじける音がしました。わかい王さまはそのとき、うしろをふりかえっていいました。
「ハインリヒ、馬車がこわれるぞ。」 「いいえ、いいえ お殿さま、 あれは馬車では ござんせぬ。 せっしゃのむねに はめたたが。 殿さま、げえろにならしゃって、 ぎゃあぎゃあ、泉でなかしゃるで、 はりさけそうな このむねを、 むりにおさえた そのたがが。」
それでも、ぱちり、ぱちり、また二どもはじける音がしました。わかい王さまは、そのたんびに馬車がこわれるのではないかとおもいました。けれども、それはやはり、ご主君がにんげんにかえって、たのしい日をおくられることになったので、ふさがっていたハインリヒのむねが、ひらけたため、胸のたががはれつして、とびちる音でございました。
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