バルブレンのおっかあ
そのあくる朝早く、
いよいよわたしたちが出て行くときに、
「そら、これをあげるからね」とかれは言った。「どうも
わたしはかれと
わたしたちはみじめなざまで村へはいったが、今度はいばって出て行くのであった。
わたしは雌牛をつかれさせたくなかったが、きょうはどうしてもシャヴァノンまで急いで行かなければならないので、わたしたちはせかせか歩き出した。もう
マチアはどら
わたしたちはいよいよ、
「つなを持っていてくれたまえ」とわたしはマチアに言った。
一とびでわたしはこしかけの上に乗った。谷の中の
わたしはこしかけからとび下りて、マチアをだきしめた。カピがわたしにとびついて来た。わたしは二人をいっしょにして、
「さあ、こうなれば少しでも早く行こうよ」とわたしはさけんだ。
「
わたしたちが
それからわたしたちがうちの中にはいると、わたしはマチアに言った。
「じゃあ、それではぼくはこの
わたしはむかしいつも冬の
なにも
ふとわたしは白いボンネットを見つけた。門はきりきりと開いた。
「きみ、早くかくれたまえ」とわたしはマチアに言った。
わたしは自分をよけい小さく小さくした。ドアが開いて、バルブレンのおっかあがはいって来た。はいると、かの女は目を
「どなたですえ」とかの女はびっくりしてたずねた。
わたしは返事をしないで、かの女のほうを見た。かの女はわたしを見返した。ふとかの女はふるえだした。
「おやおや、おまえさん、ルミだね」とかの女はつぶやいた。
わたしはとび上がって、かの女を両うででおさえた。
「おっかあ」
「おお、ぼうや、ぼうや」これがかの女の言ったすべてであった。かの女はわたしの
数分間たって、わたしたちはやっと感動をおさえることができた。わたしはかの女のなみだをふいてやった。
「まあ、おまえ、なんて大きくおなりだろうねえ」うでいっぱいにわたしをおさえてみてかの女はこうさけんだ。「おまえ、ずいぶん大きくおなりだし、じょうぶそうになったねえ。ええ、ルミ」
息をつめた鼻声で、マチアの
「マチアです」とわたしは言った。「ぼくの兄弟のね」
「おお、ではおまえ、ご両親にお会いかえ」とかの女はさけんだ。
「いいや、これはぼくの
カピは後足で立って、もったいらしくバルブレンのおっかあにおじぎをした。かの女は
「さあ、行って庭がどんなふうになっているか見て来よう」とわたしは言った。
「わたしはおまえさんの花畑はそっくりそのままにしておいたよ」とかの女は言った。「いつかおまえがまた帰って来るだろうと思ったからねえ」
「ぼくのきくいもを食べましたか」
「ああ、おまえはわたしに
いよいよそのしゅんかんが来た。
「牛小屋はルセットがいなくなってから、そのままになっているの」とわたしはたずねた。
「いいえ。あすこにはこのごろまきがはいっているよ」
そうかの女が言うころには、わたしたちはもう牛小屋に着いていた。わたしはドアをおし開けた。するとさっそくおなかの
「雌牛だよ。まあ、牛小屋に雌牛がさ」とバルブレンのおっかあがさけんだ。
マチアとわたしはぷっとふき出した。
「これも
かの女はぽかんとした顔をして、わたしをながめた。
「ええ、これがおくり物ですよ。ぼくはあの小さな
「まあ、ねえ」とかの女はさけんで、わたしたち二人にキッスした。
かの女はいまおくり物を
「なんというりっぱな
「まあおまえ、いまではきっとたいしたお金持ちなんだね」
「お金持ちですとも」とマチアが
わたしは
それからかの女は食卓の上にどら
「ではおまえさんたちはバルブレンさんがパリへ行ったことを知っていたにちがいないね」とかの女は言った。わたしはそこで、それを知ったわけを話した。
「どうしてあの人が行ったか、話してあげよう」とかの女は意味ありげにわたしの顔をながめて言った。
「まあ先にどら
「ああ、きっとそれはそうだと思うよ」とかの女は言った。「でもバルブレンさんのことを悪くお言いでないよ」
「まあ、どら
わたしたちはみんなでさっそく
やがてマチアがあしたの朝使うまきを取りに出て行ったあいだに、かの女はバルブレンがなぜパリへ行ったか話して聞かせた。
「おまえの家族の人たちがおまえを
「ぼくの家族」とわたしはさけんだ。「おお、わたしにも家族があるのですか。話してください。
このときふとわたしはこわくなってきた。わたしは自分の一家がほんとうに自分を探していることを
こう言ってわたしはバルブレンのおっかあにその心配を話した。けれどかの女はそうではない、わたしの一家がわたしを
それからかの女はいつか一人の
「ほら、パン
『おや、だれかいますね』とその
『ええ、います。なあに
「それで、バルブレンさんが出かけてから、なにか
「いいえ、ひと言も」とかの女は言った。「わたしはあの人が町のどこに住んでいるかも知らないよ」
ちょうどそこへマチアがはいって来た。わたしは
古い友だちと新しい友だち
わたしはその
わたしはしかし行くまえにリーズに会いに行かなければならない。それには
わたしはその日一日バルブレンのおっかあとくらした。夕方わたしたちは、いまにわたしがお金持ちになったら、かの女になにをしてやろうかということを話し合った。かの女は
「でもおまえがびんぼうでいるあいだにくれた
そのあくる日、
マチアはたいへん考えこんでいた。そのわけをわたしは知っていた。かれはわたしにお金持ちの両親ができることを悲しがっていた。それがわたしたちの
しかしさしあたりわたしはまだそのお金持ちの両親の金を使うまでにならないので、通りすがりの村むらで、食べ物を買うお金を取らなければならなかった。それにリーズにおくり物を買ってやるお金も少しこしらえたかった。バルブレンのおっかあはあの
とうとうある日の夕方、わたしたちはリーズの住んでいるうちを遠方から見る所まで来た。それは木のしげった中にあった。きりでかすんだ中にあるらしかった。大きな
「ああ、なるほど」とマチアがささやいた。「セレナードをやるか。なるほどうまい考えだ」
わたしは
それからわたしは歌い始めた。かの女はいすからとび下りて、戸口へかけて来た。まもなくかの女はわたしのうでにだかれていた。
カトリーヌおばさんがそれから出て来て、わたしたちを
「おいやでなければ」とわたしは言った。「もう一
こう言ってわたしは