ボブ
かれらはただいま
その
ふとわたしはよくとおる声で、「あした夜明けに」とフランス語で言う声を聞いた。わたしはそれがなんのことだか
暗くなるとさっそくわたしはハンモックにはいった。たいへんつかれてはいたけれど、ねこむにはなかなか手間がとれた。そのうちやっとぐっすりねこんだ。目が
わたしはごく
朝の風が耳がちぎれるように寒かったけれど、わたしは
大きな白い雲が空にうかんだ。夜明けであった。わたしの
するとかべをがりがり引っかく音が聞こえた。でも足音をすこしも聞かなかった。わたしは耳をすませた。引っかく音が
かれは
「
かれはわたしに
わたしは
「あしたきみは汽車に乗せられて、
助かった。わたしは
わたしは書きつけを二度読み直した。汽車が出てから四十五分……左手の小山……汽車からとび下りるのはけんのんな仕事だ。でもそれをやり
わたしはまたもう一度書きつけを読んでから、それをくちゃくちゃにかんでしまった。
そのあくる日の午後、
「おまえはイギリス語がわかるか」と
「あまり早く言われなければわかります」とわたしは答えた。
「そうか。よし。それでは少しおまえに
わたしはなにも
「まあ、よく考えてごらん」とかれは
わたしはうなずいた。
「ドルフィンさんと言ってお聞き。おまえ、名前を
「ええ」
わたしはドアによりかかっていた。
いよいよだいじなしゅんかんが来た。わたしは急いてドアをおし開けて、できるだけ遠くへとんだ。運よく前へ出していたわたしの手が草にさわった。でも
「きみは助かったよ」とかれは言って、犬をおしのけた。
「ぼくはどこにいるんだ」
「きみは馬車の中だよ。ボブが
「どうだな」とボブが御者台から声をかけた。「手足が動かせるか」
わたしは手足をのばして、かれの言うとおりにした。
「よし」とマチアは言った。「どこもくじきやしない」
「どうしたんだ」
「きみはぼくらの言ったとおりに、汽車からとび下りた。だが
わたしはかれの手をさすった。
「それから
「汽車はあのまま進んだ。止まらなかった」
わたしの目はまた、そばでわたしをながめている、みにくい黄色い犬の上に落ちた。
それはカピに
「なんだね、この犬は」とわたしはたずねた。
マチアが答える間もないうちに、そのみっともない小さな動物はわたしの上にとびかかった。はげしくなめ回して、くんくん鳴いていた。
「カピだよ。絵の具で
「染めた、どうして」
「だって見つからないようにさ」
ボブとマチアが馬車の中にうまくわたしをかくすようにくふうしてくれているあいだに、わたしは、いったいこれからどこへ行くのだとたずねた。
「リツル・ハンプトンへ」とマチアが言った。「そこへ行けば、ボブのにいさんが船を持っていて、ノルマンデーからバターと
「それからカピは。カピをうまく取り返したのはだれだ」
「ぼくだよ。だが、ぼくらが犬を交番から取りもどしたあとで、見つからないように黄色く絵の具をぬったのはボブだった。
「それからきみの足は」
「よくなったよ。たいていよくなったよ。じつはぼくは足のことを考えているひまがなかった」
夜になりかかっていた。わたしたちはまだ長い道を行かなければならなかった。
「きみはこわいか」とわたしがだまって
「いや、こわくはない」とわたしは答えた。「だってぼくはつかまるとは思わないから。でもにげ出すということが
「ボブもぼくも、きみを
あれから、汽車が止まったところで、
まもなくわたしたちは、ときどき明かりのちらちらするのを見つけた。それが
ボブはひじょうに遠くへ行ったらしかった。わたしは口をきかなかった。すぐ間近の岸に、波のくだける音が聞こえた。マチアはふるえていた。わたしもふるえていた。
「寒いね」とかれはささやいた。わたしたちをふるえさせるのは寒さのためだけであったろうか。
やがて
「これがぼくの
わたしはボブに礼を言おうとしたが、かれは手短に打ち切った。わたしはかれの手をにぎった。
「それは言いっこなしだ」とかれは軽く言った。「きみたち二人は、このあいだの
わたしたちはボブの兄弟のあとについて、いくつか
「二時間すれば船を出す」とかれは言った。「そこにはいって、音のしないようにしておいで」
でもわたしたちはもうふるえてはいなかった。わたしたちはまっ暗な中で