アーサのおじさん――ジェイムズ・ミリガン
わたしがマチアの
「なぜきみだけ色が黒くって、うちのほかの人たちは色が白いのだ」とかれはくり返して、その点を問いつめようとした。
「どうしてびんぼう人がやわらかなレースや、
マチアはわたしの
「ぼくらは二人でフランスへ帰るのがいいと思う」とかれは
「そんなことができるものか」
「きみは一家といっしょにいるのが
こういうおし問答の
ある日曜日のことであった。父親はきょうは用があるからうちにいろとわたしに言いわたした。かれはマチアだけを一人外へ出した。ほかの者もみんな出て行った。
それからしばらくして、かれはほとんどなまりのないフランス語で話し始めた。
「これがきみの話をした子どもか」とかれは言った。「なかなかじょうぶそうだね」
「だんなにごあいさつしろ」と父親がわたしに言った。
「ええ、ぼくはごくじょうぶです」
こうわたしはびっくりして答えた。
「おまえは病気になったことはなかったか」
「一度
「はあ、それはいつだね」
「三年まえです。ぼくは
「それからからだの具合はなんともないか」
「ええ」
「つかれることはないか、ねあせは出ないか」
「ええ。つかれるのはたくさん歩いたからです。けれどほかに具合の悪いところはありません」
かれはそばへ
これはなんのわけだろう。あの人はわたしをやとい入れるつもりなのかしら。わたしはマチアともカピとも
父親は帰って来て、「行きたければ外へ出てもいい」とわたしに言った。わたしは
「うまやのドアを開けたまえ」とかれは小声で言った。「ぼくはそっとあとから出て行くからね。ぼくがここにいたことを知られてはいけない」
わたしはけむに
「きみはいま父さんの所へ来た人がだれだか、知ってるかい」とかれは
わたしはしき石道のまん中に行って、ぽかんとかれの顔をながめた。かれはわたしのうでをつかまえてあとから
「ぼくは一人ぼっちで出かける気にならなかった」とかれは
『どうして、岩のようにじょうぶだ』とその
『おいごさんはどうですね』ときみの父さんがたずねた。
『だんだんよくなるよ。
ぼくがこの名前を聞いたとき、どうして
『ではおいごさんがよくなるのでは、あなたの仕事はむだですね』ときみの父さんがことばを
『さしあたりはまずね』ともう一人が答えた。『だがアーサがこのうえ生きようとは思えない。それができれば
『ご心配なさいますな。わたしが見ています』とドリスコルさんが言った。
『ああ、おまえに
これがマチアの話すところであった。
マチアのこの話を聞きながら、わたしの
それから二、三日ののち、マチアはぐうせん
かれはまたすぐとカピやわたしが
マチアの心配
春の来るのはおそかったが、とうとう一家がロンドンを去る日が来た。馬車がぬりかえられて、商品が
馬車はもういっぱいになった。馬が買われた。どこからどうして買ったか、わたしは知らなかったが、いつのまにか馬が来ていた。それでいっさい出発の用意ができた。
わたしたちは、いったい
「ねえ、フランスへ帰ろうよ」とマチアは
「なぜイギリスを旅行して歩いてはいけないのだ」
「なぜならここにいると、きっとなにか始まるにちがいないから。それにフランスへ行けば、ミリガン
でもわたしはかれに、どうしてもこのままいなければならないと言った。
その日わたしたちは出発した。その午後かれらがごくわずかの
「
「あいつはどろぼうして来たにちがいない」
品物の
かれらはしかしわたしに気がつかなかったとしても、マチアは気がついていた。
「いつまできみはこれをしんぼうしていられるのだ」とかれは言った。
わたしはだまっていた。
「フランスへ帰ろうよ」とかれはまた
「おお、マチア……」
「きみが目をふさいでいれば、ぼくはいよいよ大きく目をあいていなければならない。ぼくたちは二人ともつかまえられる。なにもしなくっても、どうしてその
わたしはついにそこまでは考えなかった。こう言われて、いきなり顔をまっこうからなぐりつけられたように思った。
「でもぼくたちはぼくたちで自分の食べ物を買う金は取っている」と、わたしはどもりながら
「それはそうだ。けれどぼくたちはどろぼうといっしょに住まっていた」と、マチアはこれまでよりはいっそう思い切った調子で答えた。「それでもし、ぽくたちが
「まあもう二、三日考えさしてくれたまえ」とわたしは言った。
「では早くしたまえ。大男
こんなふうにして
わたしたちがロンドンを立ってから数週間あとであった。父親は
イギリスの競馬場のぐるりには、たいてい市場が立つことになっていた。いろいろ
わたしたちはあるテント
わたしたちはそこでかれの
わたしが帰ってこのもくろみを父に話すと、かれはカピはこちらで入用だから、あれはやられないと言った。わたしはかれらがまた人の犬をなにか悪事に使うのではないかと
「ああ、いや、なんでもないことだよ」とかれは言った。「カピはりっぱな番犬だ。あれは馬車のわきへ
わたしたちはそのまえの
そのあくる日、カピを馬車に
わたしたちは行くとさっそく、音楽を始めて、夜まで
もう夜中を
そこでかれはその
わたしはイギリスに来てから、かなりうまくイギリス語を使うことを
わたしは
あくる朝ボブはルイスへ行く道を教えてくれたので、わたしは出発する用意をしていた。わたしはかれが
カピがわたしを見つけたしゅんかん、かれはひもをぐいと引っ張った。そして巡査の手からのがれてわたしのほうへとんで来て、うでの中にだきついた。
「これはおまえの犬か」と
「そうです」
「ではいっしょに来い。おまえを
かれはこう言って、わたしのえりをつかんだ。
「この子を拘引するって、どういうわけです」とボブが火のそばからとんで来てさけんだ。
「これはおまえの兄弟か」
「いいえ、友だちです」
「そうか。ゆうべ、おとなと子どもが二人、セント・ジョージ寺へどろぼうにはいった。かれらははしごをかけて、
わたしはひと言も言うことができなかった。この話を聞いていたマチアは、車の中から出て来て、びっこをひきひきわたしのそばに
「寺へはいったのは一時十五分
「ここから町までは十五分
「なに、かければ行けるさ」と巡査が答えた。「それに、こいつが一時にここを出たという
「わたしが
「まあ子どもが
わたしが引かれて行くときに、マチアはわたしの首にうでをかけた。それはあたかも、わたしをだこうとしたもののようであったが、マチアにはほかの考えがあった。
「しっかりしたまえ」とかれはささやいた。「ぼくたちはきみを
「カピを見てやってくれたまえ」とわたしはフランス語で言った。けれど
「おお、どうして」とかれは言った。「この犬はわしが
今度
わたしはカピがお寺にいたという事実に対して、自分の
わたしは
わたしはその
「おはいり」とかれは言った。
わたしのはいった
部屋は大きな
わたしのために言われたことはいたってわずかであった。わたしの友人たちはわたしが
わたしの
そのとき
巡回裁判。わたしはこしかけにたおれた。おお、なぜわたしはマチアの言うことを聞かなかったのであろう。