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家なき子(いえなきこ)01

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-1 11:43:28  点击:  切换到繁體中文



     養父ようふ

 おっかあはご亭主ていしゅにだきついた。わたしもそのあとから同じことをしようとすると、かれはつえをつき出してわたしを止めた。
「なんだ、こいつは……おめえいまなんとか言ったっけな」
「ええ、そう、でも……ほんとうはそうではないけれど……そのわけは……」
「ふん、ほんとうなものか。ほんとうなものか」
 かれはつえをふり上げたままわたしのほうへ向かって来た。思わずわたしは後じさりをした。
 なにをわたしがしたろう。なんのつみがあるというのだ。わたしはただだきつこうとしたのだ。
 わたしはおずおずかれの顔を見上げたが、かれはおっかあのほうをふり向いて話をしていた。
「じゃあ感心に謝肉祭しゃにくさいのおいわいをするのだな、まあけっこうよ。おれははらっているのだ。晩飯ばんめしはなんのごちそうだ」とかれは言った。
「どらきとりんごのものをこしらえているところですよ」
「そうらしいて。だが何里も遠道とおみちをかけて来た者に、まさかどらきでごめんをこうむるつもりではあるまい」
「ほかになんにもないんですよ。なにしろおまえさんが帰るとは思わなかったからね」
「なんだ、なんにもない。夕飯ゆうはんにはなにもないのか」とかれは台所を見回した。
「バターがあるぞ」
 かれは天井てんじょうをあお向いて見た。いつもしおぶたがかかっていたかぎが目にはいったが、そこにはもう長らくなんにもかかってはいなかった。ただねぎとにんにくが二、三本なわでしばってつるしてあるだけであった。
「ねぎがある」とかれは言って、大きなつえでなわをたたき落とした。「ねぎが四、五本にバターが少しあれば、けっこうなスープができるだろう。どらきなぞは下ろして、ねぎをなべでいためろ」
 どら焼きをなべから出してしまえというのだ。
 でも一言も言わずにバルブレンのおっかあはご亭主ていしゅの言うとおりに、急いで仕事に取りかかった。ご亭主はのすみのいすにこしをかけていた。
 わたしはかれがつえの先で追い立てた場所から、そのまま動きなかった。食卓しょくたく背中なかを向けたまま、わたしはかれの顔を見た。
 かれは五十ばかりの意地悪らしい顔つきをした、ごつごつした様子の男であった。その頭はけがをしたため、少し右のかたのほうへ曲がっていた。かたわになったので、よけいこの男の人相にんそうを悪くした。
 バルブレンのおっかあはまたおなべを火の上にのせた。
「おめえ、それっぱかりのバターでスープをこしらえるつもりか」とかれは言いながら、バターのはいったさらをつかんで、それをみんななべの中へあけてしまった。もうバターはなくなった……それで、もうどらきもなくなったのだ。
 これがほかの場合だったら、こんな災難さいなんに会えば、どんなにくやしかったかしれない。だが、わたしはもうどらきもりんごのものも思わなかった。わたしの心の中にいっぱいになっている考えは、こんなに意地の悪い男が、いったいどうしてわたしの父親だろうかということであった。
「ぼくのとっつぁん」――うっとりとわたしはこのことばを心の中でくり返した。
 いったい父親というものはどんなものだろう、それをはっきりと考えたことはなかった。ただぼんやり、それはつまり、母親の声の大きいのくらいに考えていた。ところが、いま天からって来たこの男を見ると、わたしはひじょうにいやだったし、こわらしかった(おそろしかった)。
 わたしがかれにだきつこうとすると、かれはつえでわたしをつきのけた。なぜだ。これがおっかあなら、だきつこうとする者をつきのけるようなことはしなかった。どうして、おっかあはいつだってわたしをしっかりとだきしめてくれた。
「これ、でくのぼうのようにそんな所につっ立っていないで、来て、さらでもならべろ」とかれは言った。
 わたしはあわててそのとおりにしようとして、あぶなくたおれそこなった。スープはでき上がった。バルブレンのおっかあはそれをさらに入れた。
 するとかれはばたから立ち上がって、食卓しょくたくの前にこしをかけて食べ始めた。合い間合い間には、じろじろわたしの顔を見るのであった。わたしはそれが気味が悪くって、食事がのどに通らなかった。わたしも横目でかれを見たが、向こうの目と出会うと、あわてて目をそらしてしまった。
「こいつはいつもこのくらいしか食わないのか」とかれはふいにこうたずねた。
「きっとおなかがいいんですよ」
「しょうがねえやつだなあ。こればかりしかはいらないようじゃあ」
 バルブレンのおっかあは話をしたがらない様子であった。あちらこちらとはたらき回って、ご亭主ていしゅのお給仕きゅうじばかりしていた。
「てめえ、はららねえのか」
「ええ」
「うん、じゃあすぐとこへはいってねろ。ねたらすぐねつけよ。早くしないとひどいぞ」
 おっかあはわたしに、なにも言わずに言うとおりにしろと目で知らせた。しかしこの警告けいこくを待つまでもなかった。わたしはひと言も口答えをしようとは思わなかった。
 たいていのびんぼう人の家がそうであるように、わたしたちの家の台所も、やはり寝部屋ねべやをかねていた。のそばには食事の道具がのこらずあった。食卓しょくたくもパンのはこもなべも食器しょっきだなもあった。そうして、部屋へやの向こうのかどが寝部屋であった。一方の角にバルブレンのおっかあの大きな寝台ねだいがあった。その向こうの角のくぼんだおし入れのような所にわたしの寝台があって、赤い模様もようのカーテンがかかっていた。
 わたしは急いでねまきに着かえて、ねどこにもぐりこんだ。けれど、とても目がくっつくものではなかった。わたしはひどくおどかされて、ひじょうにふゆかいであった。
 どうしてこの男がわたしのとっつぁんだろう。ほんとうにそうだったら、なぜ人をこんなにひどくあつかうのだろう。
 わたしは鼻をかべにつけたまま、こんなことを考えるのはきれいにやめて、言いつかったとおり、すぐねむろうとほねったがだめだった。まるで目がさえてねつかれない。こんなに目のさえたことはなかった。
 どのくらいたったかわからないが、しばらくしてだれかがわたしの寝台ねだいのそばにって来た。そろそろと引きずるような重苦しい足音で、それがおっかあでないということはすぐにわかった。
 わたしはほおの上に温かい息を感じた。
「てめえ、もうねむったのか」とするどい声が言った。
 わたしは返事をしないようにした。「ひどいぞ」と言ったおそろしいことばが、まだ耳の中でがんがん聞こえていた。
「ねむっているんですよ」とおっかあが言った。「あの子はとこにはいるとすぐに目がくっつくのだから、だいじょうぶなにを言っても聞こえやしませんよ」
 わたしはむろん、「いいえ、ねむっていません」と言わねばならないはずであったが、言えなかった。わたしはねむれと言いつけられた。それをまだねむらずにいた。わたしが悪かった。
「それでおまえさん、裁判さいばんのほうはどうなったの」とおっかあが言った。
「だめよ。裁判所ではおれが足場の下にいたのが悪いと言うのだ」そう言ってかれはこぶしで食卓しょくたくをごつんと打って、なんだかわけのわからないことを言って、しきりにののしっていた。
裁判さいばんには負けるし、金はなくなるし、かたわにはなるし、びんぼうがじろじろつらをねめつけて(にらみつけて)いる。それだけでもまだ足りねえつもりか、うちへ帰って来ればがきがいる。なぜおれが言ったとおりにしなかったのだ」
「でもできなかったもの」
孤児院こじいんれて行くことができなかったのか」
「だってあんな小さな子をてることはできないよ。自分のちちで育ててかわいくなっているのだもの」
「あいつはてめえの子じゃあねえのだ」
「そうさ。わたしもおまえさんの言うとおりにしようと思ったのだけれど、ちょうどそのとき、あの子が加減かげんが悪くなったので」
「加減が悪く」
「ああ、だからどうにもあすこへれては行けなかったのだよ。死んだかもしれないからねえ」
「だがよくなってから、どうした」
「ええ、すぐにはよくならなかったしね、やっといいと思うと、また病気になったりしたものだから。かわいそうにそれはひどくせきをして、聞いていられないようだった。うちのニコラぼうもそんなふうにして死んだのだからねえ。わたしがこの子を孤児院こじいんに送ればやっぱり死んだかもしれないよ」
「だが……あとでは」
「ああ、だんだんそのうちに時がたって、び延びになってしまったのだよ」
「いったいいくつになったのだ」
「八つさ」
「うん、そうか。じやあ、これからでもいいや。どうせもっと早く行くはずだったのだ。だが、いまじゃあ行くのもいやがるだろう」
「まあ、ジェローム、おまえさん、いけない……そんなことはしないでおくれ」
「いけない、なにがいけないのだ。いつまでもああしてうちにけると思うか」
 しばらく二人ともだまり返った。わたしは息もできなかった。のどの中にかたまりができたようであった。
 しばらくして.バルブレンのおっかあが言った。
「まあ、パリへ出て、おまえさんもずいぶん人がわったねえ。おまえさん、行くまえにはそんなことは言わない人だったがねえ」
「そうだったかもしれない。だが、パリへ行っておれの人が変わったかしれないが、そこはおれを半殺はんごろしにもした。おれはもうはたらくことはできない。もう金はない。牛は売ってしまった。おれたちの口をぬらすことさえおぼつかないのに、おたがいの子でもないがきをやしなうことができるか」
「あの子はわたしの子だよ」
「あいつはおれの子でもないが、きさまの子でもないぞ。それにぜんたい百姓ひゃくしょうの子どもじゃあない。びんぼう人の子どもじゃあない。きゃしゃすぎて物もろくに食えないし、手足もあれじゃあはたらけない」
「あの子は村でいちばん器量きりょうよしの子どもだよ」
「器量がよくないとは言いやしない。だがじょうぶな子ではないと言うのだ。あんなひょろひょろしたかたをしたこぞうが労働者ろうどうしゃになれると思うか。ありゃあ町の子どもだ。町の子どもをせきはないのだ」
「いいえ、あの子はいい子ですよ。りこうで、物がわかって、それでやさしいのだから、あの子はわたしたちのためにはたらいてくれますよ」
「だが、さし当たりは、おれたちがあいつのために働いてやらなければならない。それはまっぴらだ」
「もしかあの子のふた親が引き取りに来たらどうします」
「あいつのふた親だと。いったいあいつにはふた親があったのか。あればいままでにたずねて来そうなものだ。あいつのふた親が訪ねて来て、これまでの養育料よういくりょうをはらって行くなどと考えたのが、ずいぶんばかげきっていた。気ちがいじみていた。あの子がレースのへりつきのやわらかい産着うぶきを着ていたからといって、ふた親があいつを訪ねに来ると思うことができるか。それに、もう死んでいるのだ。きっと」
「いいや、そんなことはない。いつかたずねて来るかもしれない……」
「女というやつはなかなか強情ごうじょうなものだなあ」
「でも訪ねて来たら」
「ふん、そうなりゃ孤児院こじいんし向けてやる。だがもう話はたくさんだ。おれはあしたは村長さんの所へあいつをれて行って相談そうだんする。今夜はこれからフランスアの所へ行って来る。一時間ばかりしたら帰って来るからな」
 そのあいだにわたしはさっそく寝台ねだいの上で起き上がって、おっかあをんだ。
「ねえ、おっかあ」
 かの女はわたしの寝台のほうへかけてやって来た。
「ぼくを孤児院こじいんへやるの」
「いいえ、ルミぼう、そんなことはないよ」
 かの女はわたしにキッスをして、しっかりとうでにだきしめた。そうするとわたしもうれしくなって、ほおの上のなみだがかわいた。
「じゃあおまえ、ねむってはいなかったのだね」とかの女はやさしくたずねた。
「ぼく、わざとしたんじゃないから」
「わたしは、おまえをしかっているのではない。じゃあ、あの人の言ったことを聞いたろうねえ」
「ええ、あなたはぼくのおっかあではないんだって……そしてあの人もぼくのとっつぁんではないんだって」
 このあとのことばを、わたしは同じ調子では言わなかった。なぜというと、この婦人ふじんがわたしの母親でないことを知ったのはなさけなかったが、同時にあの男が父親でないことがわかったのは、なんだか得意とくいでうれしかった。このわたしの心の中の矛盾むじゅんはおのずと声にあらわれたが、おっかあはそれに気がつかないらしかった。
「まあわたしはおまえにほんとうのことを言わなければならないはずであったけれど、おまえがあまりわたしの子どもになりすぎたものだから、ついほんとうの母親でないとは言いだしにくかったのだよ。おまえ、ジェロームの言ったことをお聞きだったろう。あの人がおまえをある日パリのブルチュイー町の並木通なみきどおりで拾って来たのだよ。二月の朝早くのことで、あの人が仕事に出かけようとするとちゅうで、赤んぼうのごえを聞いて、おまえをある庭の門口かどぐちで拾って来たのだ。あの人はだれか人をぼうと思って見回しながら、声をかけると、一人の男が木のかげから出て来て、あわててにげ出したそうだよ。おまえ[#「おまえ」は底本では「おえ」]てた男が、だれか拾うか見届みとどけていたとみえる。おまえがそのとき、だれか拾ってくれる人が来たと感じたものか、あんまりひどくくものだから、ジェロームもそのまま捨てても帰れなかった。それでどうしようかとあの人もこまっていると、ほかの職人しょくにんたちもって来て、みんなはおまえを警察けいさつとどけることに相談そうだんを決めた。おまえはいつまでも泣きやまなかった。かわいそうに寒かったにちがいない。けれど、それから警察へれて行って、あたたかくしてあげてもまだいていた。それで今度はおなかがっているのだろうというので、近所のおかみさんをたのんでちちを飲ました。まあ、まったくおなかが減っていたのだよ。
 やっとおなかがいっぱいになると、みんなはの前へ連れて行って、着物をぬがしてみると、なにしろきれいなうすもも色をした子どもで、りっぱな産着うぶぎにくるまっていた。警部けいぶさんは、こりゃありっぱなうちの子をぬすんでてたものだと言って、その着物の細かいこと、子どもの様子などをいちいち書きめて、いつどういうふうにして拾い上げたかということまで書き入れた。それでだれか世話をする者がなければ、さしずめ孤児院こじいんへやらなければなるまいが、こんなりっぱなしっかりした子どもだ、これを育てるのはむずかしくはない。両親もそのうちきっとさがしに来るだろう。探し当てればじゅうぶんのお礼もするだろうから、と署長しょちょうさんがお言いなすった。このことばにひかれて、ジェロームはわたしが引き取りましょうと言ったのだよ。ちょうどそのじぶん、わたしは同い年の赤んぼうを持っていたから、二人の子どもを楽に育てることができた。ねえ、そういうわけで、わたしがおまえのおっかあになったのだよ」
「まあ、おっかあ」
「ああ、ああ、それで三月みつき目のすえにわたしは自分の子どもをくした。そこでわたしはいよいよおまえがかわいくなって、もう他人の子だなんという気がしなくなりました。でもジェロームは相変あいかわらずそれをわすれないでいて、三年目の末になっても、両親が引き取りに来ないというので、もうおまえを孤児院こじいんへやると言って聞かないのでこまったよ。だからなぜわたしがあの人の言うとおりにしなかった、と言われていたのをお聞きだったろう」
「まあ、ぼくを孤児院こじいんへなんかやらないでください」とわたしはさけんで、かの女にかじりついた。
「どうぞどうぞおっかあ、後生ごしょうだから孤児院へやらないでください」
「いいえ、おまえ、どうしてやるものか、わたしがよくするからね。ジェロームはそんなにいけない人ではないのだよ。あの人はあんまり苦労くろうをたくさんして、気むずかしくなっているだけなのだからね。まあ、わたしたちはせっせとはたらきましょう。おまえも働くのだよ」
「ええ、ええ、ぼくはしろということはなんでもきっとしますから、孤児院こいじんへだけはやらないでください」
「おお、おお、それはやりはしないから、その代わりすぐねむると言ってやくそくをおし。あの人が帰って来て、おまえの起きているところを見るといけないからね」
 おっかあはわたしにキッスして、かべのほうへわたしの顔を向けた。
 わたしはねむろうと思ったけれども、あんまりひどく感動させられたので、しずかにねむりの国にはいることができなかった。
 じゃあ、あれほどやさしいバルブレンのおっかあは、わたしのほんとうの母さんではなかったのか。するといったいほんとうの母さんはだれだろう。いまの母さんよりもっと優しい人かしら。どうしてそんなはずがありそうもない。
 だがほんとうの父さんなら、あのバルブレンのように、こわい目でにらみつけたり、わたしにつえをふり上げたりしやしないだろうと思った……。
 あの男はわたしを孤児院こじいんへやろうとしている。母さんにはほんとうにそれを引き止める力があるだろうか。
 この村に二人、孤児院から来た子どもがあった。この子たちは、『孤児院の子』とばれていた。首の回りに番号のはいったなまりふだをぶら下げていた。ひどいみなりをして、よごれくさっていた。ほかの子たちがみんなでからかって、石をぶつけたり、まよいぬを追って遊ぶように追い回したりした。迷い犬にだれも加勢かせいする者がないのだ。
 ああ、わたしはそういう子どものようになりたくない。首の回りに番号札を下げられたくない。わたしの歩いて行くあとから、『やいやい孤児院こじいんのがき、やいやい』と言ってののしられたくない。
 それを考えただけでも、ぞっと寒気さむけがして、歯ががたがた鳴りだす。わたしはねむることができなかった。やがてバルブレンも、また帰って来るだろう。
 でも幸せと、ずっとおそくまでかれは帰って来なかった。そのうちにわたしもとろろとねむがさして来た。


 

作家录入:贯通日本语    责任编辑:贯通日本语 

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