您现在的位置: 贯通日本 >> 作家 >> 織田 作之助 >> 正文

青春の逆説(せいしゅんのぎゃくせつ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-29 10:05:30  点击:  切换到繁體中文

 

東洋新報記者撲らる
   原因は女出入か?


 そんな風な見出しであった。どの新聞にも出ているというわけではなく、載せているのは「中央新聞」だけだったが、「中央新聞」は「東洋新報」と色彩を同じくし、いわば文字通りの商売敵だった。従って皮肉な調子が記事にあらわれていた。朝の珈琲を応接間の長椅子に腰かけて飲みながら、新聞を読むという余り柄にもないことをやったばっかしに、そんな記事を読まされてしまったのである。豹一は黙ってそれを多鶴子に渡した。
 多鶴子は記事のなかから、自分の名前を見つけてしまうと、いきなり、(あ、佐古が書かしたんだわ)と思った。
 豹一とそのような関係になった以上、佐古の嫉妬の仕業だと思うのは一応当然ではあったが、じつはその記事は撲った道頓堀の勝の友人の記者が書いたのだった。佐古のためにここで弁解して置くが、佐古の与り知らぬことだった。藪蛇になるようなことを佐古がするわけもない筈だ。それに、出されてわるい「オリンピア」の名もちゃんと出ているではないか。
 しかし、「中央新聞」もまた「オリンピア」の広告を毎週掲載している以上「オリンピア」の悪宣伝をするために、その記事を載せたわけではない。全く正反対だった。
「村口多鶴子を迎えて連日満員の『オリンピア』の前で」東洋新報の某記者が口論の末なぐられたと、ただそれだけの記事で、いわば「オリンピア」の宣伝をしているようなものだったが、多鶴子は自分の名前が出ている以上、昨夜豹一が撲られたことをあわせ考えて、なにかそれに深い意味を見つけざるを得なかった、彼女はもはや「オリンピア」へ行く気がしなかった。ひとつには豹一と一緒に居る時間を割くのがいやだった。
「私お店へ行くのをよすわ」多鶴子は新聞を伏せると、そう言った。
 が、その前に豹一は東洋新報をやめる決心をつけていた。そんな記事が出た以上社に迷惑を掛けたことになる。
「僕も社をやめます」豹一は、「やめんでもええぜ」という編輯長の言葉をふときく想いで、しかし強い口調でそう言った。
「そう? じゃ、今日は二人で遊ぼうね」多鶴子が言うと、豹一は、
「…………」赧い顔をした。そんな朝の豹一が多鶴子にはたまらなく可愛いと思ったが、じつは豹一はその「遊ぼうね」という媚を含んだ言葉でやはり辛い嫉妬をそそられていたのだった。
 多鶴子が顔を見せないので、佐古は周章てて多鶴子の家へ飛んで来た。多鶴子は豹一と芝居を見に行って居り、留守だった。佐古は役目柄辛抱強く待った。夜おそくやっと帰って来たのを掴えて、佐古は、
「休むなら前もって言うてくれはらんと困りまんな。芝居とちごてあんたの役は代役がききまへんよってな」と、言った。
「あら、すみません」
「そない、あら、すみませんテあっさり言われたら困りまっせ。いったい来てくれはるんでっか、くれはれしまへんのか、どっちだんねん?」
「すみませんが、やめさせていただきます」
「えっ?」佐古は「げっ」と聴えるような声を出した。
「私、これでも随分辛抱したもんですわ。最初の一晩でじつはやめさせていただきたかったんです」それは約束がちがうという佐古の顔へ、多鶴子はにやりと微笑を投げかけて、「……いいえ、最初の二晩で、……」と、言った。
 佐古ははっとした。多鶴子は続けて、
「あの晩あんなことがございましたし、……私よっぽどあれきりお店へ出るのよそうと思ったんですけど……」
 佐古の顔をまじろぎもせずに見つめながら、待合へ連れ込まれようとした晩のことを徐々に持ち出した。佐古は引き下らざるを得なかった。玄関まで見送って、
「夜分冷えますのに、御足労でした」多鶴子はそう言葉を残して、すっとなかへ消えてしまった。
 佐古は莫迦にされたような気持でぷりぷりした。多鶴子があんなに周章てて奥へはいったのは、誰かが待っているためだろうと思うと、一層腹が立った。佐古の想像通りだった。豹一が待っていたのである。
 佐古を追っぱらったあとの応接間へ多鶴子が再びはいって来ると、いままで佐古が腰かけていた椅子に豹一がいて、多鶴子が食い残したチョコレートをむしゃむしゃ食べていた。
 わるいところを見つけられたと、豹一は真赧になってしまったが、多鶴子は、
「まあ!」子供の盗み食いを見つけた母親のような顔になった。たとえ、その時豹一が子供のように見えなくとも、そしてまた、どんな見つけられてわるいようなことをしていたとしても、この時の豹一なら多鶴子の気に入った筈だ。佐古のいやな顔を見たあとだったからである。「さあ、いやな奴を追っぱらった。もう二人きりね」
 多鶴子は豹一の傍にぴったり体をつけて坐りながら言った。昨夜から妙にそわそわと落ち着かなかった母親も、多鶴子に無理に説き伏せられて、温泉へ行ってしまった。残るのは女中だけだった。
 豹一と多鶴子の仲が心配していた通りになったとはっきりわかると、ひそかに豹一に恋をしている女中は、すっかりしょげてしまって、溜息ばかしついていた。泪ぐむことさえあった。
 多鶴子はさすがにそれを気づくと、豹一にそのことを冗談めかして言った。
「あんた罪な人ね」恋をすると、いくらか下品な調子が出るのだろうか、多鶴子はそんな風に蓮っ葉に言って、豹一の膝をつねるのだった。
「痛ア!」そんな声を出す自分を、豹一はさすがに浅ましいと思い、昨夜来谷町九丁目の家へ帰らずにいることをふっと思い出し、「お帰り、えらい遅かったな。はよ寝エや、炬燵いれたるさかい」といういつもの母親の声が遠くからチクチク胸を刺して来るのだったが、もはや嫉妬のためにますます多鶴子への恋を強められている豹一には、多鶴子の傍をはなれて家へ帰るなど到底出来そうにもなかった。
 ふとした拍子に豹一が自嘲的に思い泛べた表現を借りていえば、そんな風に多鶴子の「食客」となって、二週間経った。
 恋をしている証拠に、豹一はもはや多鶴子以外になんの興味も感じ得なかった。もともとたいして世上百般のことに興味をもたない彼ではあったが、しかし、少くとも彼の自尊心を刺戟することに対しては情熱的に興味をもっていた。ところが、その自尊心も彼には残り少なかった。そんな風に嫉妬に苦しみながらも多鶴子を愛している以上、自尊心にははじめから兜をぬいでいたのである。
 ところが、一方多鶴子の方は、それがはじめての経験ではないという点だけでも、豹一よりいくらか余裕があった。おまけに、彼女は嫉妬する必要もない。従って彼女には豹一のこと以外になお興味をもち得る余裕があった。「人気」がそれだった。
 彼女は豹一との恋以外になんら為すところのない生活に漸く焦り出して来た。もし彼女が毎晩「オリンピア」へ出掛けて、くだらぬ男たちに取りまかれていたのなら、豹一と一緒にいることにほっとした救いめいたものを感じ、そうした生活に飽くこともなかったわけだが、ただ豹一とばかしいる生活では、折角の豹一の魅力も薄らいで来るのだった。豹一の魅力をほんとうに味うためには、彼女には、やはり「俗物」とまじわることが必要だった。彼女はもう一度返り咲きすることを想った。むろん、それは彼女の虚栄からばかしではなかった。ひとつには生活の資を得る手段でもあった。
 しかし、ともあれ彼女が「人気」への憧れをだんだんに見せるようになったのは、豹一にとっては苦々しいことだった。その持論からいっても苦々しかったが、ひとつはなにか不安気な気持もあったのだ。
 じつは、豹一は多鶴子が矢野を愛したということがどうにも我慢がならず、散々努力したあげく、多鶴子の口から、矢野とああいう関係になったのはみな人気をあげるためで、愛したおぼえは少しもないと無理に言わせて、それをまた自分に無理に思いこませて、僅かに慰めていたのである。だから、彼女がふたたび、「人気」への色気を見せたということは、そのためには彼女はなにをしでかすかもわからぬとして漠然とした不安を、豹一の心に強いる結果になったわけである。
 そしてこの不安は単なる杞憂では終らなかった。

 << 上一页  [11] [12] [13] [14] 下一页  尾页


 

作家录入:贯通日本语    责任编辑:贯通日本语 

  • 上一篇作家:

  • 下一篇作家:
  •  
     
     
    网友评论:(只显示最新10条。评论内容只代表网友观点,与本站立场无关!)
     

    没有任何图片作家

    广告

    广告