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小熊秀雄全集(おぐまひでおぜんしゅう)-14

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-29 7:01:02  点击:  切换到繁體中文

 


お嫁さんの自画像


 トムさんのことを村の人達は、馬鹿な詩人と、言つてをりました。
 トムさんは、無口で、大力で、正直で、それにたいへん働きました、たゞひとつ困つたことには、畠に出て仕事の最中に、いろいろなことを空想し、それからそれと空想し、しまひには、まとまりがつかなくなつて、べたりと地べたに坐り込んで、頭を抱へたきり動きません。村の人達は、これを見て『ああまた馬鹿な詩人が何か考へてゐるな。』と笑つて通りすぎます。
 トムさんは、いままでにお嫁さんを三人も貰ひましたが、トムさんがこんな具合に、畠に出て行つては、考へこんでばかりゐて、仕事が他の農夫の半分も、はかどらない始末に呆れ果て、みな逃げ帰つてしまひました。
 それでトムさんも、もうお嫁さんは貰ふまいと決心してゐました。
 村の人も、またトムさんのところへならお嫁さんにやらないと言ひました。
 或る日、トムさんが畠に出て、一鍬土を耕して、じつと鍬の柄に凭(もた)れ、ぽかんと口をあけて空想にふけりました。
 あの芋の種が、青い芽を出して、その芽が葉を出して、その葉がだんだん横にひろがつて、しまひには、村中の屋根も道路も、私の芋の葉に、くるまれてしまひ、その茎のいたるところから根がついて、果ては海も山も、世界中が、芋の葉のために、お日さまが見えなくなつてしまふ、そこで世界各国の王様が協議を開いて、かうだんだんと芋が繁つてくるといふのは、何処かに、すばらしく大きな芋の王様が住んでゐて、その親根(おやね)からかうたくさん殖えてくるにちがひない、さつそくその芋の王様を探しだせと、数百万の兵隊を繰り出す、しかし其の頃は地の底は、芋の根だらけで、まさかこのトムさんの畠に、芋の親根があるとは気づかない。
 世界の王様が困りはててゐるところに、トムさんは『私は芋の王様です。』と名乗りをあげる。そこで世界の王様は、『これは/\芋の王様、かう日増(ひまし)に芋の葉が繁つていつては、しまひには、私達の呼吸(いき)がつまつてしまひます、いつこくも早く、世界中の芋の葉を、枯らしていただきたい。』と頼みこむ、そこで私は家(うち)へ帰つて、畠の親芋を掘りだしてしまふ、すると世界中の芋の葉がみな赤く枯れてしまふ。わたしはこの功労によつて、世界の王となる、トムさんはこんな具合に、つぎからつぎと、いろいろな空想を描くのでした。
 そのときトムさんの頭の上の青空を一群の白鳥が、南の湖の方へとんで行きました。
 トムさんはこれをみつけて、『やあ綺麗な白鳥達だな……あの太つたのが白鳥の王様だな。すらつとひときは首の長いのが王妃さまだな、まんなかの一番色の白いのがお姫さまだな、あーあもう私のところには、お嫁さんが来ないかしら、もし来られるなら、あの白鳥のお姫さまでも我慢をするがなあ。然し私の家は年中焚火ばかりしてゐるから、あの雪のやうに白い、白鳥のお嫁さんのお衣装が、汚なく煤けては可哀さうだな。』こんなことを考へて居りますと一羽の鳥[#底本の「烏」を変更]が『トムさんの馬鹿。』と吐鳴(どな)つて、トムさんのつい鼻先へ石ころを、落したので吃驚(びつくり)して、思ひ出したやうに、またひと鍬土を耕しました。
 トムさんは今度は、森蔭の白い王城をながめました。
『私は一生のうちに、たつた一日で良いから、あの王城に暮らす身分になつて見たいものだ、純金の王冠をかむり黄金(こがね)づくりの太刀を佩(は)き、白い毛の馬に跨り、何千人もの兵士を指揮して見たいものだな、しかし私には、この国の王様のやうに、白い立派な長い髭がないぞ、よしよしその時は夜店で買つてきてやらう。』こんなありさまですから一日かかつても、やつと一畦(ひとうね)くらゐよりできませんでした。
 その夜近年にない大暴風で、トムさんの家の屋根は、いまにも吹き飛ばされさうな、激しさでした。
 トムさんはあまりの物凄さに、炉の焚火によつて、小さくふるへて居りました、するとこの激しい暴風雨の中にトントンと表戸を叩くものがありました、トムさんは不審に思ひながら、そつと戸を開きますと、雨風といつしよに一人の若い女が室(へや)の中に転げこみました。
 女は白い羽で出来た長いマントを着た、それは美しいひとでした、女は南の国のある王のお姫さまで、たくさんの家来をつれて旅行をいたしましたが、丁度この土地へきかかつた時、暴風雨に襲はれて、家来とちりぢりになつてしまつたのですと、トムさんに語りました。
 その翌日、すつかり暴風雨が収まつたのですが、お姫さまは出発しようとはしません、その翌日も、そのまた翌日も帰らうとはしません。
 或る日お姫さまはトムさんにむかつて『何卒、わたしを、あなたのお嫁さんにして下さい』
 と頼みました、トムさんは大喜びで早速承知をいたしました。
 村の人達は馬鹿な詩人の美しいお嫁さんを見て吃驚(びつくり)しました、しかし心のうちでは、あのお嫁さんも、三日経たぬ内に逃げだしてしまふわいと思ひました。
 お嫁さんはたいへんよく働きました。その手が柔らかくお上品にできて居りましたから、畑を耕したり、荒仕事ができません、そのかはり針仕事をしたりお料理をしたりすることが、たいへん上手でした、トムさんはまた、一粒の豆でも半分に分けて喰べるやうに、仲善くしましたので、お嫁さんも満足をいたしました。
 ところがトムさんが働きに出かけますが、ものの一時間も経たぬうちに、さつさと仕事を止(よ)して帰つてきてしまひます。
 それはもしも、トムさんの不在に、たいせつなお嫁さんが、鼠にひいてゆかれたり、犬にくはえてゆかれたりしては大変だと、心配になつて仕事が手につかないからです。
 トムさんは、このことをお嫁さんに話しますと、お嫁さんは、それではよいことをしてあげようと言つて、鏡をもつてきました。
 この鏡に自分の顔をうつして、これを見ながら一枚の紙に自分の顔を描きました。
 この自画像がまた、それは上手にかかれて、生きてゐるやうに見えました。一本の竹きれをもつてきて、この先をちよつと割つて、このお嫁さんの自画像をはさみました。
 トムさんは、お嫁さんに言はれたとほり、この竹の棒を、畠の畦の、いちばん向うの土に立て、こつちの方からこの画をながめながら、耕しはじめました。
 お嫁さんの自画像は、いつもにこにこ笑つてゐました。
 お嫁さんの自画像のところまで耕してくるとこんどはこの自画像を第二の畦の、反対の向うはじに立てて、こちらからせつせと耕してゆきます、ですからその仕事のはかどることと言つたらたいへんです。
 村の人はちかごろのトムさんの働きぶりに眼をまるくしてゐました。
 ある日大風がふいてきて、このお嫁さんの自画像を吹きとばしてしまひました。
 自画像は、ひらひらと風に舞ひあがつて、どこまでも飛んでゆきます。
 トムさんは、はんぶん泣きながら、『お嫁さん待つてくれ。やーい。』『お嫁さん。やーい。』と叫びながら、どこまでも追ひかけました。
 とうとうお嫁さんの自画像は、王城の塀(かべ)の中に落ちてしまひました。トムさんは泣く泣く家に帰りました、そしてその訳をお嫁さんに話しました、お嫁さんは『あんな絵はいくらでもかいてあげませう。』とトムさんをなだめました。
 お城の塀(かべ)の中に落ちた自画像は、兵士が拾つてこれを王様に差上げました。
 王様はこの画をひとめ御覧になつて、あまりの美しさにお驚きになりました。
 いたつてわがままな王様は、まだお妃(きさき)がありませんでしたから、この画(ゑ)の女を、是非探し出して連れて参れと、一同の兵士に厳重に命令いたしました。
 城中の兵士が総出で探したあげく、この画の主はトムさんのお嫁さんとわかりました。
 王様はトムさんに『余の妃に差出すやうに。』と命令いたしました。
 万一命令をきかなければ、トムさんの首を切りかねない権幕なので、トムさんは悲しくなつて泣き出しました。
 お嫁さんは『さあ泣いてはいけません、私達に運が向いてきたのです。私はこれから王様の妃になります、しかし心配をしてはいけません、私はあなたの永久のお嫁さんです。私が王様の御殿へいつてから、近いうちに、お城の門が開かれる日が御座います。その時に一番目立つた汚ないぼろぼろの服をきて、城門のまぢかに、見物にまぢつて、立つてゐてください。』かう云つてお嫁さんは、王様の家来に連れて行かれました。
 昔からこの国では、三年に一日だけ大きな城門を全部押しひらいて、臣民に城の内部をみせる習慣になつてゐるのです。
 その日は王様を始め何千といふ家来達が、ふさふさの赤い帽子をかむつたり、金の鎧を着たり、色々な盛装して[#「色々に盛装して」または「色々な盛装をして」と思われる]門の中の床几に、腰をかけるのです、人民たちは門の中には入ることが、出来ませんが、城門の傍(そば)まで立ちよつて中を見ることが出来るのでした、そして午後の五時になると、重い鉄の扉がガラガラと閉ぢてしまふのです。
 果してトムさんのお嫁さんの言つたやうに、城門開きの、おふれが人民に伝はりました。愈々当日になりますとトムさんは、乞食のやうな、汚ないボロ/\の服を着て、顔には泥を塗つて杖をつき、腰をかがめて、お嫁さんに言はれたとほり、見物人の一番前に出しやばつて、お城の門のひらかれるのを待つて居りました。
 やがて時間が来て、城門は大きな響きをたてゝ、がらがらと開かれました。
 みると王様は、けふを晴れと、りつぱな金の冠に、ぴか/\の着物を着飾つて、ゆつたりと床几に腰をかけてゐます。その傍にはトムさんの夢にも忘れることの出来ない可愛ゆいお嫁さんが、今ではりつぱなお妃となつてみな白鳥でできた、純白の上衣(うはぎ)をきて、坐つてゐるではありませんか。トムさんは悲しいやら、情ないやら、王様が憎らしいやらで、胸がいつぱいになり、涙をためた眼で、じつとお嫁さんをながめました。するとお嫁さんもトムさんの顔を見て、につこり美しく笑ひました。
 王様はたいへん喜びました。それはトムさんのお嫁さんが、妃になつてから、いちども笑つたことがないのに、いま笑つたのを見たからです。
『これ妃そなたはいま笑つたではないか、何を見て笑つたのか、さあいま一度笑つてみせて呉れ。』と言ひました。
 お妃はトムさんを指さして『王様あれを御覧なさい、なんといふ滑稽な姿の乞食でせう。もし王様があの男の着物をきて、あの男のかはりにあそこへお立ちになつたら、どんなにお可笑いことで御座いませう。』と申しました。
 王様はいま一度妃の笑顔をみたいばつかりに、トムさんを御前に呼び出して、王様のりつぱな着物を着せて、お妃の傍へ坐らせ、自分はトムさんの着てゐた、ボロボロの服をきて、杖を握つて、城門の外の、見物の中にお立ちになりました。
 しかしいつまでたつても、トムさんのお嫁さんのお妃は、すこしも笑ひませんでした。
 王様はお妃の笑ふのを、いまかいまかと待つてをりました。しかしお妃は笑ひません。
 そのうちに門を閉ぢる時刻の、午後五時がきて城門は閉ぢて了ひました。
 そこで王様はまんまと城外に追ひ出され、馬鹿な詩人のトムさんが、王様と早変りをしてしまひました、城の兵士たちも、王様のわがままを憎んでをりましたので、誰もみな喜んだくらゐです。
 不思議なお嫁さんは、いつかトムさんが空を仰いでながめた白鳥のお姫さまでした。(大14・4愛国婦人)

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