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半七捕物帳(はんしちとりものちょう)62 歩兵の髪切り

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-28 19:06:44  点击:  切换到繁體中文


     六

「なんでも油断をしちゃあいけません。亀吉がうっかり油断した為に、折角の探索をめちゃめちゃにしてしまって、当人も後々まで悔んでいましたよ」と、半七老人は云った。
「二人のゆくえはとうとう知れないんですか」と、わたしはいた。
「知れません。幸次郎をやって、鮎川の故郷の大宮在を探索させましたが、そこへも立ち廻った形跡がありません。勿論、江戸市中や近在には姿をみせず、そのうちに御一新の大騒ぎですから、そんな詮議をしてもいられません。明治になったのは二人の仕合わせで、どこにか天下晴れて暮らしているでしょう。世の中が変ると、思いも寄らないとくをするものも出来ます」
「増田の方はつかまったんですな」
「これは前に申した通りで、髪切りは全く鮎川と自分の仕業に相違ないと白状しました。代地河岸のお園の家へ押込んだのも、二人の仕業でした。ところが、これも困ったことには吟味中に押込み所を破って逃げてしまいました。歩兵隊も重々不取締りで致し方がありません」
「一体、誰に頼まれたんですか」
「それが肝腎の問題ですが、増田は鮎川と米吉に誘い込まれて、最初に十五両、二度目に十両貰っただけで、その頼み手は知らないと強情を張っていました。何分にも一方の鮎川が見付からないので、詮議も思うように捗取はかどらない。そのうちに増田は逃亡してしまって、これもゆくえ不明ですから、詮議の手蔓も切れたわけで……。こんにちの言葉で申せば五里霧中です」
「しかし、まだほかに米吉がいる筈ですが……」
「その米吉が又いけないのです」
「どうしました」
「王子辺の川のなかで浮いていました」
「殺されたんですか」
「豹にわれて……」
「本当に啖われたんですか」
「と、まあ、云っているのですが……」と、老人は笑った。「わたくしはその死骸を見ませんでしたが、なにかのけものに体を啖われていたそうです。野良犬に咬まれたのでしょうね。坊主あがりの良住と一緒に押込みを働いて、ふところは相当に重い筈ですから、どこかの大部屋へでも遊びに行って打ち殺されたか、ごろつき仲間にでも狙われたか、それとも別に仔細があるのか、ともかくも誰かに打ち殺されて、死骸を王子辺のさびしい所へ捨てられた。それを野良犬どもが咬み散らして、川のなかへでも転がし込んだのでしょう。しかしその当時は豹に啖い殺されたという評判でした」
「観世物の豹は本当に逃げたんですか」
「逃げたというのは例の噂で、上州から野州の方を持ち廻っていたのだそうです。しかし、米吉の死んだのは本当です」
「そうすると、詮議の種も尽きたわけですな」と、わたしも失望したように云った。
「まあ、そういうことになります。良住という奴は髪切り一件に関係が無いとすれば、あとは鮎川と増田ですが、この二人はいずれも行方不明、お房も同様、残る米吉は豹に啖われたと云うようなわけですから、関係者は種切れです。そこで、屯所側の鑑定では、この事件のうしろには大名屋敷の黒幕が付いていて、鮎川らをあやつって歩兵隊にケチを付ける計画だろうと云うのでした。幕府反対の大名たちが……と云っても主人が知ったことじゃあありますまいが、その家来たちがいろいろの策動をして、幕府困らせをやる。今度の一件も薩州屋敷あたりの者が内々で運動費を使って、こんな悪戯いたずらをして、幕府の歩兵の信用をおとさせようと企てたのであろうと云うのです。今から考えると、子供のような悪戯とも思われますが、その時代にはこんな悪戯もなかなか有効であったのですから、誰かが考え付いたのかも知れません。
 果たしてそうだとすれば、米吉という奴は博奕を打つので大名屋敷の大部屋へはいり込む関係から、こいつが先ず誰かに買収されたものと想像されます。米吉はお房の縁で鮎川を抱き込む、つづいて増田を味方に引き入れる。狂言の筋立ては大方こんなことでしょう。昔から悪い事をする人間はみんなそうですが、鮎川も増田も自分の髪を切られたことにして、唯黙っていればいいのに、この二人だけが何か髪切りの正体を見たようなことを云って、天鵞絨びろうどのような手ざわりがしたとか、獣のような物に出逢ったとか云い触らしたのが失敗のもとで、かえってわたくし共に眼を着けられる事にもなったのです。
 増田の申し立てによると、自分も鮎川も歩兵隊にはいったものの、毎日の調練が忙がしく、なかなか辛抱がつづかない。その上にいつか道楽の味をおぼえたので、猶さら屯所の生活が窮屈でならない。いっそ脱走でもしようかと云っているところへ、髪切りの一件をたのまれたので、金がほしさに引き受けたが、その詮議がだんだん厳重になったので、なんだか薄気味悪くなって来た。その矢先きへ、ある所から米吉を通じて、大隊長の妾宅を襲えという秘密の命令が来ました。そこで、二人は相談して、いっそここらで強盗を働いて、纒まった金をこしらえて脱走しようと云うことになったのです。妾の髪を切れば二人に十五両ずつ呉れるという約束でしたが、そのお金を米吉が中途で着服して、二人に渡さない。その捫著のあいだに、気の弱い鮎川は思い切ってお房と駈け落ちをしてしまう。思い切りの悪い増田はぐずぐずしているうちに取り押さえられたのです。妾宅で盗んだ品々は米吉の家へ持ち込んだままで、まだ処分されずに残っていたので、みんな無事にお園の手へ戻りました」
「米吉というのは随分悪い奴ですね」
「元来は大した悪党でもないのですが、急に悪度胸が据わったと見えて、鮎川や増田をあやつって旨い汁を吸っていながら、一方には自分も良住と一緒に押込みを働く。何やかやでかなりにふところを肥やした筈ですが、悪運尽きて忽ち滅亡、殺した者は大部屋の仲間でもなく、ごろつき仲間でもなく、ひょっとすると例の屋敷の連中が秘密露顕の口を塞ぐために、急所の当身あてみでも喰わせたかも知れません。まあ、大体のお話はこんなことで、その以上はわたくしにも判り兼ねます」
「結局、その陰謀の策源地は判然はっきりしないのですね」
「薩州だろうの、長州だろうのと云っても、所詮は当て推量で、確かな証拠もないのですから、表向きの掛け合いも出来ず、この一件はうやむやに済んでしまいました。三田の薩摩屋敷には大勢の浪人が潜伏していて、とかくに市中をさわがすので、とうとう市中取締りの酒井侯の討手がむかって、薩摩屋敷砲撃と相成ったのは、どなたも御存じのことでしょう。あの砲撃のために、芝の金杉、本芝、田町たまちの辺はみんな焼けました」
「良住という坊主は、本当になんにも知らないんでしょうか」
「万華寺の関係から考えると、良住は鮎川の秘密を知っていそうに思われるのですが、本人はどうしても知らないと云い張っていました。これも吟味中に牢死という始末で、何もかもうやむや……。こんな事件もめずらしいのです」
 云い終って、老人はまた思い出したように溜め息をついた。
「めずらしいと云えば、ここに少し不思議なお話があります。慶応三年十二月十三日、歩兵隊が吉原で喧嘩をはじめて、廓内の者や弥次馬に取り囲まれ、十幾人が半死半生の袋叩きに逢いました。そのなかには重傷で死んだものもありました。死んだのはみんな髪切りに出逢った連中だという噂で……。わたくしも何だか変な心持になりました」





底本:「時代推理小説 半七捕物帳(五)」光文社文庫、光文社
   1986(昭和61)年10月20日初版1刷発行
入力:tat_suki
校正:小林繁雄
1999年6月5日公開
2004年3月1日修正
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