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半七捕物帳(はんしちとりものちょう)55 かむろ蛇

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-28 18:58:04  点击:981  切换到繁體中文


  五

 九月二十日の夜なかに、下谷坂本の煙草屋次右衛門は何者にか殺された。その怪しい物音を聞きつけて、近所の者共が駈け付けた頃には、相手はもう姿を隠していた。次右衛門は刃物でのどと胸を刺されていたが、微かな息の下で云った。
「大……年……年造……」
 まだ何か云いたそうであったが、それぎりで息は絶えた。勿論、早速に訴え出て検視を受けたが、下手人は遺恨か喧嘩か物奪ものとりか、すぐには判らなかった。善八がそれを聞き込んだのは明くる日の朝で、半七を案内して下谷へ乗り込んだのは四ツ(午前十時)頃であった。二人は自身番へ寄って、ひと通りの報告を聞いて、更に家主の案内で次右衛門の煙草屋へ踏み込んだ。二間間口まぐちの小さい店で、奥は六畳と二畳のふた間、二階は四畳半のひと間である。
 女房には死なれ、娘は奉公に出ているので、次右衛門は当時ひとり者である。その裏に下駄の歯入れが住んでいて、その婆さんのおとりというのが朝晩の手伝いに来ていたと、家主は説明した。
「じゃあ、そのお酉というのを、ともかくも呼んで貰いましょう」
 呼ばれて、半七の前に出て来たのは、五十四五の正直そうな老婆であった。それと一緒に隣りの荒物屋の亭主も呼ばれた。亭主は喜兵衛といって、ゆうべ一番さきに駈け付けた男である。お酉と喜兵衛の申し立てによると、次右衛門は道楽者の揚がりだけに、近所の人達にも愛想がよく、これまで別に悪い噂もなかった。場所も悪し、店も小さいので、碌々の商売もないのに、毎日かなりの酒を飲むので、暮らし向きは楽でなかったらしい。それでも娘に婿を取れば、自分は左団扇ひだりうちわで暮らせるなどと大きなことを云っていた。殊に先ごろお酉にむかって、酔ったまぎれに、こんなことを云った。
「おれは今、大金儲けが眼の先にぶらさがっているのだ。ここでコロリなんぞになっちゃあ堪まらねえ」
 娘が不意に死んだので、彼はひどく力を落としたらしく、毎日やけ酒を飲んでいた。そうして、関口屋から弔い金をうんと取ってやると云っていた。その掛け合いもどうにか旨くまとまったらしく、この二、三日は機嫌がよかった。
「ここのうちへふだん近しく来る者はねえかね」と、半七はいた。
「煙草屋の大さんです」と、お酉は答えた。「色の白い、華奢きゃしゃな人で……。次右衛門さんの口ぶりじゃあ、行くゆくはお由ちゃんの婿にでもするような様子でした。そのほかには大工の年さんという人がときどき来ましたが、この人はコロリで死んだそうです」
「そうかね」と、喜兵衛が口を入れた。「その年さんという人は、二、三日前の晩にたずねて来たようだが……。わたしの店の前を通ったのは、どうもあの人のように思ったが……。それとも人違いかな」
「大さんという煙草屋は、この頃に来なかったかね」と、半七は又訊いた。
「きのうお午過ぎに見えました」と、お酉は云った。「わたしに少し店を頼むと云って、次右衛門さんと大さんと一緒に二階へあがって、暫く話していました」
 半七は二階へあがって見ると、狭い四畳半は案外に綺麗に片付いていた。念のために戸棚をあけてあらためたが、そこにはちっとばかりのがらくたを押し込んであるばかりでなく、これぞというほどの物も見あたらなかった。更に台所へ降りて来て、揚げ板などを払ってあらためたが、ここにも変ったことは無かった。
「次右衛門は、死にぎわに何か云ったそうだね」
「はい」と、喜兵衛は答えた。「それが微かな声でよく聴き取れなかったのですが……。なんでも『大……年……年造』と云ったように聞こえましたが……」
「そうすると大工の年造だね」と、善八は云った。
「ですが、その年造という人は、コロリで死んだそうですから……」
「おめえは二、三日前の晩に見たと云うじゃあねえか」と、善八は又云った。
「それは人違いかも知れませんので、どうもはっきりした事は申し上げられません」
 これで先ずひと通りの調べを終って、半七と善八はここを出た。
「大工の年造という奴は生きているんでしょうか」と、善八はあるきながら訊いた。
「コロリで死んで、焼き場へ運んで、骨揚げをして来た奴が、生きていると云うのも不思議だが、関口屋の長屋へも年造の幽霊が出たと云うから、どうかして生きているのかも知れねえ」と、半七は云った。「次右衛門が死にぎわに、年造と云った以上、どうも年造が殺したとしか思われねえ。そこで『大』と云ったのは大工の『大』か、煙草屋の大吉の『大』か、それを考えなけりゃあならねえ。おそらく大吉だろうな」
「そうでしょうか」
「なにしろ此の一件には大吉が係り合っているに相違ねえ。おれにはもう大抵見当がついた。早く大吉を挙げてしまえ。人間はずうずうしくっても、男娼かげまあがりのひょろひょろした野郎だ。おめえ一人でたくさんだろう。いや、待て。下手に逃がして何処かの寺へでも逃げ込まれると面倒だ。おれも一緒に行こう」
 二人は連れ立って小石川の水道町へゆくと、関口屋の長屋に大吉のすがたは見えなかった。隣りの甚蔵の女房の話によると、大吉は年造の幽霊を怖がっている処へ、又もや家主の関口屋にコロリ患者が二人もつづいて出来たので、いよいよ顫え上がってしまい、とてもこんな処にはいられないと云って、五、六日前から殆ど我が家へは寄りつかない。昼間ひるま一、二度帰って来たことがあるが、夜は毎晩どこをか泊まりあるいているとの事であった。半七ははらのなかで笑いながら聴いていた。
「そこで、年造の幽霊はまだ出るかえ」
「あたしは一度見たきりですが……」と、女房は声をひそめて云った。「その後にも出ると云う人もあり、出ないと云う人もあり、どっちが本当だか知りませんが、笊屋のおかみさんもあんな事になって、なんだか気味が悪くって堪まらないので、あたし達は日が暮れると滅多めったに表へ出ないようにしています」
「年造の寺はどこだね」
改代町かいだいまちの万養寺です」
「年造の菩提所かえ」
「いいえ。年さんのお寺は無いとかいうことで、大さんが自分の知っているお寺へ納めて貰ったのです」
「いや、ありがとう。わたし達が訊きに来たことは、誰にも内証にして置いてくんねえ」
 表へ出てみると、関口屋は女房の初七日しょなのかも過ぎたのであるが、コロリ患者を続いて出したので、近所へ遠慮の意味もあるのか、大戸を半分おろして商売を休んでいるらしかった。半七は気の毒に思った。
 改代町は牛込であるが、ここから遠くない。二人は江戸川の石切橋を渡って、改代町へ行き着くと、ここらは俗に四軒寺町と呼ばれて、四軒の寺のほかに、古着屋の多い町である。寺々のうしろは草原で、又そのうしろには一面の田畑が広がっている。草原にはたけの高いすすきがおい茂って、その白い穂が青空の下に遠くなびいていた。どこかでもずの啼く声もきこえた。
 二人は万養寺の前に立った。あまり大きい寺ではないが、内福であるという噂を近所で聞いた。「寺は困るな」と、半七はつぶやいた。「年造は幽霊じゃあねえ、確かにほんものらしい。大吉と一緒にここにもぐり込んでいるのだろうと思うが、迂濶に踏み込むわけにも行かねえ。又ぞろ寺社へ渡りを付けるか。うるせえな」
 この時、うしろの草原で犬の吠える声が頻りにきこえるので、二人は顔を見あわせた。半七は先に立って裏手へまわると、草原はなかなか広く、その芒の奥で幾匹かの野良犬が吠えたけっている。二人は犬の声をしるべに、高い芒をかき分けて行くと、その行く手からも芒をがさがさとくぐって来る者がある。たがいに先が見えないので、殆ど出合いがしらに眼と眼が向かい合ったとき、善八は俄かに半七のたもとをひいた。
「大吉ですよ」
 相手も不意の出合いに慌てたらしく、身をひるがえして逃げようとするのを、善八はすぐに追いかけると、彼は持っているくわをふり上げて、真向まっこうへ撃ち込んで来た。善八はあやうく身をかわすと、芒の中から又一人、すきを持って撃って来る者があった。
「幾人もいるぞ、気をつけろ」
 半七も善八に注意しながら、鋤を持つ男に飛びかかった。あとの敵の方が手剛てごわいと見たからである。何分にも芒が深いので、それが眼口めくちを打ち、手足に絡んで、思うように働くことが出来ない。善八も同様で、どうにかこうにか大吉の腕をつかんだが、芒の葉に妨げられて眼を明いていることも出来なかった。その不便は敵も同様であったが、この場合には弱い者の方に都合がよい。芒の邪魔を利用して、大吉らは必死に抵抗した。
 四、五匹の野良犬も駈け寄った。かれらは半七らの味方をするように、大吉らを取り巻いて、吠え付き、飛び付いた。鋤を持つ男は半七を突き放して、一間ほども逃げ延びたかと思うと、芒の根につまずいて倒れた。半七は折り重なって組み伏せた。
 大吉は案外に激しく抵抗したが、これもやがて善八の膝の下に倒れた。芒の葉に切られて、敵も味方も、頬や手足に幾ヵ所のかすり疵を負った。二人が早縄をかけて立ち上がる時、犬は半七らを導くように吠えて走るので、芒のあいだを付いてゆくと、そこには芒が倒れて乱れているひと坪ほどの空地が見いだされた。新らしく掘り返された土は柔らかく、そこに何物をか埋めてあるように見られたので、大吉の鍬をとって掘り起こすと、土の下には若い大工の死骸が横たわっていた。

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