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半七捕物帳(はんしちとりものちょう)30 あま酒売

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-28 9:59:00  点击:282  切换到繁體中文


     二

 それから二日目の七ツ下がり(午後四時過ぎ)に、善八と幸次郎が半七の長火鉢のまえに鼻をそろえた。二人はほかの子分たちとも申し合わせて、江戸じゅうの問屋を片っ端から調べてあるいたが、その怪しい婆さんは毎日おなじ家へ仕入れに来ないらしい。最初のうちは本所ほんじょう四ツ目の大坂屋という店へ半月以上もつづけて来たが、その後ばったりと来なくなった。近頃ではやはり四ツ目の水戸屋という店へ三日ほどつづいて来たが、水戸屋ではかれの噂を知っているので、若い者のひとりが見えがくれにそのあとをけると、かれは浅草の方角に向って遅々のろのろとたどって行った。しかしどこまで行っても際限がないので、こっちもしまいに根負こんまけがして、途中から空しく引っ返して来た。こういう訳で、かれの居どころはたしかに突き留められなかった。こっちに尾けられたことを彼女はおそらくさとったのであろう、そのあくる日から彼女はその痩せた姿を水戸屋の店先に見せなくなった。それは三月初めのことで、その後はどこの問屋を立ちまわっているか、誰も知っている者はないとのことであった。
「ところで、親分。ついでに妙なことを聞き出して来たんですがね」と、善八は云った。「やっぱりその婆に係り合いのあることなんですが、なんでも五、六日まえの午過ぎだそうです。浅草の馬道うまみちに河内屋という質屋があります。そこの女中のお熊というのが近所へ使いに出ると、やがて真っ蒼になって内へかけ込んで来て、自分の三畳の部屋をぴっしゃり閉め切ってしまって、小さくなってすくんでいたそうです。なんだか変だと思っていると、誰が見つけたか知らねえが、河内屋の裏口に変な婆が来てそっと内をのぞいているというので、番頭や小僧が行って見ると、なるほどいやに影のうすい婆が突っ立っている。変だとは思ったが、真っ昼間のことだから大きな声で呶鳴どなり付けると、婆は忌な眼をしてこっちをじっと見たばかりで、素直すなおに何処へか行ってしまった。行ってしまったのはいいが、その晩から番頭ひとりと小僧一人が瘧疾おこりのように急にふるえ出して、熱が高くなる、蒲団の上をのたくる。医者にみせても容態はわからない。相手が変な婆であったもんだから、それもきっと例のあま酒婆だったということで、うちじゅうのものは竦毛おぞけをふるっているそうです。その時に出てみたのは、番頭ふたりと小僧一人だったんですが、ひとりの番頭だけは運よく助かったとみえて、今になんにも祟りがなく、ほかの二人が人身御供ひとみごくうにあがった訳なんですが、妙なこともあるじゃありませんか。してみると、その婆は夜ばかりでなく、昼間でもそこらにうろついているに相違ねえというんで、近所の者もみんな蒼くなっているんですよ」
「そうして、その熊という女はどうした。それには別条ねえのか」
「その女中にはなんにも変ったことはないそうです。なんでも使いに行って帰ってくると、その途中から変な婆がつけて来て、薄っ気味悪くて堪まらねえので、一生懸命に逃げて来たんだということです」
「おめえはその女を見たのか」
「見ません。なんでも河内屋へ出入りの小間物屋の世話で住み込んだ女で、年は十九か二十歳はたちぐらいだが、台所働きにはちっと惜しいような代物しろものだそうですよ」
「その小間物屋というのは何という奴だ」と半七はまたいた。
「その小間物屋はわっしが識っています」と、幸次郎が代って答えた。「徳という野郎で、徳三郎か徳兵衛か知りませんが、まだ二十二三のなまちろい奴です。道楽者で江戸にもいられねえんで、小間物をかついで旅あきないをしていたんですが、去年の七、八月ごろから江戸へまた舞い戻って来て、どこかの二階借りをして相変らず小間物の荷をかつぎあるいているようです」
「そうか。よし、判った。じゃあ、おめえはその徳という野郎の居どこをさがして引っ張って来てくれ。おれはその馬道の質屋へ行って、もう少し種を洗ってくるから」
「わっしも行きましょうか」と、善八は顔をつき出した。
「そうよ。又どんな用がねえとも限らねえ。一緒にあゆんでくれ」
「ようがす」
 善八を案内者につれて、半七が馬道へゆき着いた頃には、このごろの長い日ももう暮れかかって、聖天しょうでんの森の影もどんよりとくもっていた。
「なんだかいやな空合いになって来ましたね」と、善八は空を仰ぎながら云った。
「むむ。まったくいやな空だ。今夜は一つ降るかも知れねえ」
 旋風つむじかぜのような風が俄かにどっと吹き出して、往来には真っ白な砂けむりが渦をまいて転げまわった。ふたりは片袖で顔をおおいながら、町屋まちやの軒下を伝って歩いていると、夕ぐれの色はいよいよ黒くなって来て、どこかで雷の声がきこえた。
「おや、雷が鳴る。妙な陽気だな」
 そのうちに、ふたりは河内屋の暖簾のれんの前に来たので、善八はすぐに格子をくぐって、帳場にいる番頭に声をかけた。
「もし、番頭さん。親分がすこし用があるんだ。ここじゃあいけねえから、表までちょいと顔を貸してくんねえ」
「はい、はい」
 四十五六の番頭が帳場から出て来て、暖簾の外に立っている半七に挨拶した。
「お前さんがここの番頭さんかえ」と、半七は手拭で顔の砂をはらいながらいた。
「さようでございます。利八と申して、河内屋に三十四年勤めて居ります。どうぞお見識り置きを……」
「そこで利八さん。早速だがお前さんにちっときたいことがある。この間、こっちの裏口を変な婆さんが覗いていたとかいうじゃありませんか」
「はい。とんだ災難で、番頭ひとりと小僧一人が今にどっと寝付いて居ります」
 利八の話によると、番頭と小僧はきょうまで熱が下がらないで、生殺なまころしの蛇のようにのたうち廻っている。奉公人どもは気味を悪がって誰も寄り付かないので、主人と自分とが代る代るに看病しているが、なかなか三日や四日ではなおりそうもない。世間の噂を綜合してかんがえると、その時の怪しい婆さんはどうもの甘酒売りらしく思われる。実はきのうの午過ぎにも、その婆さんらしい女が店の前をうろ付いているのを近所のものが認めたとかいうので、この上にも重ねてどんな禍いがあろうかと、自分たちも内々恐れていると、かれは小声で半七に訴えた。
「それからお前さんのうちにお熊という女がいるそうですね」
「はい。西国さいこく生まれだそうで、年は明けて十九でございます。ちょうど去年の九月、今までの奉公人が急病で暇をとりまして、出代り時でもないもんですから、差し当りその代りの女に困って居りますところへ、てまえ方へ質を置きにまいります徳三郎という小間物屋さんが、時にこんな女があるから使ってくれないかと申しますので、ちょうど幸いと存じて雇い入れましたような訳でございますが、人柄も悪くなし、人間も正直でよく働きます。で、これはよい奉公人を置きあてたと申して、主人を始めわたくし共も喜んで居ります」
「こっちに親戚でもあるんですかえ」
「なんでも芝の方の御屋敷の足軽を頼ってまいったのだそうでございます。と申しますと、まことに不念ぶねんのようで恐れ入りますが、なにぶん手前どもでも困っている矢先でもあり、徳さんが万事をひき受けると申しますものですから、その上にくわしくも詮議いたしませんで……」と、利八は小鬢こびんをかきながら答えた。
「その後、そのお熊になにも変った様子はないんですね」
「別に変ったこともございませんが、一度その婆さんにあとをけられてから、表へ出るのをひどくいやがるので困ります。もっともそれは無理もありませんので、大抵の使いにはほかの小僧を出して居りますが、当人も別に病気というわけでもございませんから、家の内ではいつもの通りに働いて居ります。御用があるなら唯今呼んでまいりましょうか」
「いや、呼んじゃあまずい」と、半七は首を振った。「うら口へまわって、そっとのぞくわけにゃあ行きませんか」
「よろしゅうございます。ちょうど夕方でございますから、台所ではたらいて居ります筈です。どうぞ隣りの露路からおはいりください」
 利八に教えられて、半七はせまい露路の溝板どぶいたを踏んでゆくと、この二、三日なまあたたかい天気がつづいたので、そこらではもう早い蚊のうなる声がきこえた。半七は手拭を取って頬かむりをして、草履の足音を忍ばせながら、河内屋の水口みずくちに身をよせていると、ひとりの若い女が手桶をさげて来た。うす暗い夕闇のなかにも其の白い顔だけは浮き出してみえた。と思う途端に、彼女はそこに忍んでいる半七の姿を見付けてあわただしく小声で訊いた。
「徳さんかえ」
 徳さんという男の地声じごえを知らないので、半七は早速に作り声をするわけにも行かなかった。かれは頬かむりのままで無言にうなずくと、若い女は摺り寄って来た。
「おまえさん、この頃どうして来てくれないの。あれほど約束したのを忘れたのかえ」
 こっちがやはり黙っているので、女はすこしおかしく思ったらしい、だしぬけに片手をのばして半七の頬かむりを引きめくった。うす暗いなかでもその人違いをすぐに発見したらしく、かれはあれっと叫びながら手桶をほうり出して内へ逃げ込んだ。
 手拭も一緒にほうり出されたので、半七はそれを拾って泥をはたいていると、その頭の上を大きい雷ががらがらと鳴って通った。

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