霊鐘
陳述古が建州浦城県の知事を勤めていた時、物を盗まれた者があったが、さてその犯人がわからなかった。そこで、陳は欺いて言った。 「かしこの廟には一つの鐘があって、その霊験あらたかである」 その鐘を役所のうしろの建物に迎え移して、仮りにそれを祀った。彼は大勢の囚人を牽き出して言い聞かせた。 「みんな暗い所でこの鐘を撫でてみろ。盗みをしない者が撫でても音を立てない。盗みをした者が手を触るればたちまちに音を立てる」 陳は下役の者どもを率いて荘重な祭事をおこなった。それが済んで、鐘のまわりに帷を垂れさせた。彼はひそかに命じて、鐘に墨を塗らせたのである。そこで、疑わしい囚人を一人ずつ呼び入れて鐘を撫でさせた。 出て来た者の手をあらためると、みな墨が付いていた。ただひとり黒くない手を持っている者があったので、それを詰問すると果たして白状した。彼は鐘に声あるを恐れて、手を触れなかったのである。 これは昔からの法で、小説にも出ている。
(夢渓筆談)
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