二
コスモは自分の獲物を注意して持ち帰った。その途中も、誰かそれを見付けはしないか、誰か後から
コスモはつつがなく下宿に帰り着いて、買って来た鏡を壁にかけた。彼は体力の強い男であったが、それでも帰って来たときには、鏡の重さから逃がれて、初めて救われたように感じた。彼はまずパイプに火をつけて、寝台に体をなげ出して、すぐにまた、いつもの幻想にいだかれてしまった。
次の日、かれは常よりも早く家へ帰って、長い部屋の片端にある
「この鏡はふしぎな鏡だな。この鏡に映る影と、人間の想像とのあいだに何か不思議な関係がある。この部屋と、鏡に映っている部屋と、同じものでありながら、しかもだいぶ違っている。これは僕が現在住まっている部屋のありさまとは違って、僕の小説のなかで読んだ部屋のように見える。すべてありのままとは違っている。一切のものは事実のさかいを脱して芸術の境地に変わっている。普通ならば、ただ粗末な
こんな
コスモはしばらく身動きもせずに、
コスモは自分の心持ちを、自分で何とも言いあらわすことが出来ないくらいであった。彼はもう自覚を失って、ふたたび元へはかえらない人になってしまった。彼はもう鏡のそばに立っていられなくなった。それでも、
鏡にうつっている部屋のうちには、彼女の眼を
彼女はだんだんに骸骨の上に眼を落とした。そうして、それを見るとにわかにふるえて眼をとじたように思われた。彼女は再び眼をひらかなかったが、その顔にはいつまでも
彼は今や何の遠慮もなしに彼女を見つめることが出来た。かれは質素な白い長い着物を着ている彼女の寝すがたを見た。その白い着物がいかにもよくその顔に値いして、いい調和をなしていた。しなやかなその足、おなじように優しい手、それらは彼女がすべての美をあらわして、その寝すがたは彼女の完全な肢体のくつろぎを見せていた。
コスモは飽きるほどそれを見つめていた。のちにはこの新しく発見した神殿のほとりに座を占めて、さながら病床に
彼は自分でも分からないほど長く腰をかけていたが、やがて驚いて