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獄中消息(ごくちゅうしょうそく)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-26 6:59:23  点击:  切换到繁體中文


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 堀保子宛・明治四十三年一月二十五日
 せっかく来たものを、しかもあんな用なのを、会わしてもよさそうなものをと思うけれど、お上のなさることは致し方がない。代りに臨時発信を願って今日この手紙を書く。
 あの時まだ着かないという委任状はその後どうなったろう。あれはこういう訳なのだ。先月の二十七日であったか八日であったか、書信係の看守が来て、典獄宛でこういうものが来ているがどうするかと言う。見るとあの一葉の委任状だ。しかし封筒も何もないので、誰が何処から送って来たのか分らない。それを聞くと、それを調べるには、明日になれば発信はできぬかも知れぬと言う。仕方がない。いずれ送ったものは足下に違いない。ただ足下の居所が分らない。しかしすぐまた三保へ行くとも言っていたし、またあの字を見るといかにもよく僕のをまねてはいるが伸の書いたもののようだ。そこで三保へ宛てることとした。そして足下の名だけでは分るまいと思って、伸の名をも添えて置いた。別に間違いはなかったろうね。
 家のことは、僕がいろいろな事情があるのだから是非会わしてくれと、少々理屈を言いかけたら、ついに僕の返事を聞かないで行ってしまったから、看守長は足下に何と言ったか知らんが、ともかく売ることにきめてあるのだし、それに委任状にも印を押して置いたから、いいように取りはからったことと思う。いい買手があったのか。
 家が売れたとなれば、これで遺産の大体の処分はついた。これからは僕等が、六人の弟妹という重荷を負って行くこととなる。僕等と言ったが、実はすべてのことの衝に当るのは僕でなくして足下だ。したがって、実際に重荷を負うのは足下だ。僕は、もし霊とかいうものがあって亡き父がこれを見たら何と思うだろうかなどと考えて見た。しかし父のためではない、僕のためだ。僕は、足下がこの運命に甘んじていることと思う。
 それは別問題として、この重荷を実際に負う足下としては、またいろいろ将来の細かいことを心配する女性の足下としては、ずいぶん心配なことと思う。僕もいろいろ考えて見た。目下僕が出獄後これに処する策は、大体次のような次第になる。
 まず出版をやって見たい。これは足下もかねて望んでいるところだ。しかし、僕はこれを商売としてよりは、むしろ社会教育の一事業としてごく堅く真面目にやりたい。あるいはその方がかえって商売になるかも知れん。若宮の雑誌を機関としてもよし、また別に何か出してもいい。
 第二に、出版は今言うがごとく純商売でないとすれば、何か別に生活の道がなければならぬ。これには出版と直接関係のある本屋をやるのも面白いと思う。いつかもこんな計画はあった。
 しかし僕は、僕の今までの成行として、これもかつて計画はあった、支那の先生達の世話をするのがもっとも確実な、もっとも安全な、もっとも容易なことではないかと思う。すでに十分の信用はある、十分の同情はある、さらに僕も語学や何かを教えるという実利を加えれば、ほとんど申し分がない。少ししっかりした女中が居れば、足下にもさほど骨の折れることでもない。もしできるなら、僕の出獄後、すぐにこの業を少し大仕掛けにしてやって見たい。また、出版の方も、多少支那と関係のあるものをやって見たいと思う。
 以上は足下を主とし、僕を客としての仕事だ。
 僕は、前に言った雑誌が出せるなら、まずこの編集をやりたい。雑誌は『研究』くらいの大きさで、科学と文芸とを兼ねた高等雑誌にしたい。世の中は大ぶ真面目になって来た。真の知識、真の趣味の要求が、はなはだ盛んになっている。僕等が、実際の思想よりも数歩引き下がれば、ちょうどこの要求にもっともよく応ずるものになる。文学も多少僕等の時代に近づいて来た。僕等の思想なり僕等の筆致なりにシックリ合うアナトール・フランスなどいう連中が、大分もてはやされて来た。もし雑誌が出せぬとしても、僕はこの方面において大いに僕の語学力を発揮して、(三字削除)としての以外に旗上げをするつもりだ。
 その他、何でもやれることはやる。そして二、三年間には、何とか家の基礎をつくりたい。僕のミリタリ・サーヴィスも、出獄後なお三年は延ばせる。
 次は弟等の学校の撰択だ。
 伸は語学校へとの望みのようだが、何科をやるつもりなのだろう。僕の思うには、語学校の卒業生は別に何かの才学のあるものの外は、実際において教師あるいは通訳の外にはほとんど役に立たぬ。もし語学に趣味があるようなら、早稲田の英文科でもやったらどうだろう。もっとも、必ずしも語学校は悪いと言うのではない。いずれにしても入学期は四月だ。急いでその準備をさすがいい。
 松枝は三月まで今の学校にいて、四月には東京の何処かに転校して、そしていろいろ足下の手伝いをさせたい。
 勇の学校の規則書を見ないので程度がよく分らんが、僕は次のように思う。この四月あるいは九月に、何処かの中学の三年か四年に入れたい。神田の正則予備校を始めその用意をする学校はいくらもある。また、各中学では、毎学期に盛んに募集をやる。そして中学校を終えて高等工業へでもはいる予定でいるがいい。もっとも中学へはいるよりは、他の多少専門的の同程度の学校の方が都合よければ、それでもいい。自分でよく調べて見るがいい。また、他に相談する人もあろう。
 進は、もう中学校にはいってもいい頃と思う。近くもあり、また比較的整ってもいる早稲田がよかろう。
 ともかく、みんなにできるだけ望みの専門学校をやらすつもりだから、よく勉強するように言ってくれ。
 松枝と勇との手紙は見た。この項はそれぞれ読んできかすなり、また見せるなりしてくれ。
 いつか話のあったように、もし兄が誰か世話してくれるというなら、一つ伸を頼んで見ないか。これならもう三、四年学校へやればモノになるのだし、中学も一番か二番で卒業しているのだから、相応のことはやると思う。もっとも、全部の世話でなくとも多少でもいいが。実際、六人の世話はとても僕等にはできない。またもし銀之丞から何とか言って来たら、誰でもいい一人頼むことにしたい。あれはごく正直な、そしてかなり裕福ないい農夫だ。これらのことはなお僕の出獄後いろいろ取計らうつもりだ。
 まず大体の結末はついた。ついては、一応の始末を、主なる親族に報告せねばなるまい。うるさい親類交際もいやだが、ともかく義務だけは果して置こう。母の処分、遺産の処分、現在の生活、近き将来の生活(すなわち伸や松枝のこと)の大体を書いて、以後は僕等二人で引受ける、安心してくれ、なお僕等の手のとどかぬところは有形無形のお助けを乞う、というようなことにして、足下と伸との連名で出してくれ。東京では、山田、茂生。名古屋附近では猪、銀之丞、中村、中根、小塩、および名をちょっと忘れたが何とかいう弁護士。和歌山附近では山田、楠井、津村。および春と菊。なお山田(東京)には米川へ、茂生には浅草の何とかいう家へ、猪へは他の名古屋附近の親類へ、それぞれよろしくと添えてくれ。
 また、いろいろ世話になった人達へは、僕からよろしくと言って礼状を出してくれ。
 なお、伸に、仙台や新発田で父がごく親しくしていた人達に大体のことを書いて安心するようにと言ってやるよう、伝えてくれ。
 郵便の本は着いたか。差入れのものは来た。来月は早く面会に来い。
 ドイツ文の本を何か頼む。ストリー・オブ・ゼ・ヒューマン・マシン(機械的心理学)、『帝国文学』の合本、『現代評論』の合本を差入れ願う。
 この手紙にも書いた僕の出獄後のことは、いろいろうるさいから誰にも話しせずに、足下一人でその無形的の準備をして置いてくれ。僕の準備としては、フランスへ少し本を注文したいが、五十円ばかり都合できないか。
   *
 堀保子宛・明治四十三年二月二十四日
 僕等の室の窓の南向きなこと、およびそれがために毎日二時間ばかり日向ぼっこができることなどは、いつか話したように思う。
 こうして日向ぼっこをしながら仕事をしていると、何だか黒いものが天井から落ちて来る。見ると蝿だ。老の身をようように天井の梁裏に支えていたが、ついに手足が利かなくなって、この始末になったのだ。落ちて来たまま仰向きになって、羽ばたきもできずに、ただわずかに手足を慄わしている。指先でそっとつまんで日向の暖かいところへ出してやると、二分してようやく歩き出すようになるが、ついに飛ぶことはできない。よろばいながら壁を昇っては落ち、昇っては落ちしている。
 これは十二月から一月にかけて毎日のように見る悲劇だ。毎朝の室の掃除には必ず二、三疋の屍骸を掃き出す。
 横田が茅ヶ崎あたりにゴロゴロしていたのも、また金子※(始め二重括弧、1-2-54)喜一君※(終わり二重括弧、1-2-55)がわざわざ日本まで帰って箱根あたりをぶらついていたのも、要するにこの日向へつまみ出して貰っていたのだなどと思う。若宮もとうとうこの日向ぼっこ連にはいったのか。十年の苦学をついに何等なすことなくして、肺病の魔の手にささげてしまうのか。こんど出たら彼の指導の下におおいにソシオロジイの研究をしようと思っていたが、あるいはその時にはもうこの良師友に接することもできぬかも知れんのか。まず何よりも摂生を願う。足下もできるだけの手を尽して看護なり何なり努めてくれ。ただ横田のかわりに僕は寒村を得た。彼は目今失意の境にある。よく慰めてやってくれ。
 きのうの面会の時には、足下が何となく元気のないように見えたが、どこかからだが悪いのか。あるいはいろいろ奔走に疲れたのか。それとも種々なる重荷に弱り果てたのか。
 僕は、足下のこんどの処置については少しの不足もない。むしろ心中大いに感謝している。本当によくやってくれた。もし足下がいなかったらどうなったのだろうと思う。
 会うたびに予算の金額が減ってくるので、したがって家政のこともかえなければならんが、子供等の処置についてなお一言しよう。
 伸を下宿生活さすのはずいぶん不経済だが、若宮のところへ仲間入りをさせてもらうことはできんか。あるいは兄のところなり山田のところなり、食料付で置いてもらうことはできんか。来年試験を受けるとしても、はたして及第するか否かは分らんのだから、この四月には早稲田へでもはいったらどうだろう。それができなければ、兄とでも相談して何か手軽な職業をさがしてやってくれ。
 僕はずいぶんながい間会わんので、彼の性行については何とも言えぬが、足下と彼との間にはまだ何となく意志の疎通がないように思う。従来、足下は彼については、母からの悪口のみを聞いている。彼もまた同様のことと思う。僕は初めからこの間を心配していた。なお、お互いによく努めてくれ。僕は、たとえ彼が如何様であっても、僕のできるだけのことは尽してやる考えでいる。また彼としてはこの際、自ら進んで他の弟妹等の世話のやけないように努めるのがその務めだと思う。これらのことは渡辺弁護士をでも通じて、彼に理解させて置いてくれ。
 もし春が誰か一人引受けるとなれば、松枝よりは菖蒲でも頼んだらどうだろう。松枝は僕等の手ででもいくらでも嫁に行先はある。
 勇は工場へでも出るというなら、家で食わして、その得る金はすべて本人の自由にさせたらどうだろう。それでも勉強もできよう。また、ためる気ならそれもできよう。その上、僕等はなおできるだけの力を尽してその望みを果させてやろう。
 進はまだ静岡にいるのか。これは早くきまりをつけてやってくれ。
 僕等夫婦は、元来親類間に非常な不信用であった。したがって僕は、親類に本当に親切気があるなら、こんどなどは盛んな干渉のあることと思っていた。干渉のあるくらいなら僕等の我を棄てて、それらの人に多少のことは委してもいいと思っていた。事は違った。もし今になって、自分に責任のかからぬ範囲において何等かの干渉を試みるものがあっても、もうそれらの人の言はあまり重きを置くに及ばない。ことに遺った金と言ってもいくらもあるではなし、その処分は実際に責任を帯びる足下がいいように計っていい。僕は今まで、足下がただ責任だけあって、そして万事に遠慮しなければならぬ位置にはなはだ同情していた。
 渡辺弁護士の世話には大いに感謝している。それから向いの加藤家、いずれもよろしく言ってくれ。
 この次の面会は春、その次の面会は夏、僕の出るのも大ぶ近づいた。
 前の手紙に言ったよう、音楽院のような組織で自由語学塾というようなものを建てたら、これで家の生活だけは保証できると思う。その上僕は、できるなら雑誌も出そう、反訳もしよう、先生もしよう。また雇手があるなら、ドウセ当分は公然のムーブメントできまいから、運動をしないという条件で雇人にもなろう。要するに二、三年はまったく家政のために犠牲になろう。そのつもりで足下もあまり心配しないでくれ。
 フランスへ本を注文したいと言ったのは、(一)ソシオロジイの名著、(二)露仏辞書、独仏辞書、伊仏辞書、西仏辞書、スペイン語文法、(三)最近哲学、最近科学の傾向を書いたもの、(四)最近文学、ことにローマンおよびドラマの形勢、これは欧州一般のものの外に、仏、独、伊の各国別のもの、(五)アナトール・フランス、オクタブ・ミルボー、およびこれに類する現代文人の創作(なるべく短篇集)および評論。
 張か、あるいはパリにいる谷の友人のところへ金を送ってやって、この五種のものをなるべく専門家に尋ねていい名著を、できるだけ古本でなるべく多く(もっとも二は一冊ずつでいいが)買ってくれという、ずいぶん厄介な注文をしてくれないか。
 次の書物、買入れまたは借入れを乞う。買うのは毎月一冊ぐらいずつでいい。それも無理にとは言わない。
 ディーツゲン著哲学(三冊ばかりある筈)、イブセン文学神髄、ジャングル(米国文学)、ジャック・ロンドン著ワー・オブ、クラッセス、バーナード・ショー作ドラマ(五、六冊ある筈、綺麗な表紙にして合本することをお為さんに相談してくれ)以上堺家。
 ビュヒネル著物質と精力、ドーソン著近代思想史、ゴーリキー短篇集。以上幸徳家。
 近代政治史、ゴーリキー平原。以上上司家。
 外に前に言ったのはどうした。
   *
 堀保子宛・明治四十三年四月十三日
 戸籍法違犯とかいうので、この八日に裁判所へ喚び出された。ちょうど一年半目に人間の住む社会なるものを例の金網ごしにのぞき見した。僕等の住んでいる国に較べると、妙に野蛮と文明とのごっちゃまぜになったとこのように感じた。いちょう返しがひどく珍らしかった。桜も四、五本目についた。事は相続の手続きが遅れたとかいうのでほんのちょっとした調べではあったが、口の不自由になっているのには自分ながらほとほとあきれた。それと最初の答から海東郡だの神守かもり村だのという言いにくい言葉ばかりなんだから。僕はこんど出たら、どこか加行や多行の字のないところに転籍する。その後その決定が来た。科料金弐拾銭。
 ことしは四月にはいってから毎日のように降ったり曇ったりばかりしていて、したがって寒いので少しも春らしい気持をしなかったが、きょうはしばらく目のいい天気だ。何だかぽかぽかする。このぽかぽかが一番社会を思出させる。社会と言っても別に恋しいところもないが、ただ広々とした野原の萌え出づる新緑の空気を吸って見たい。小僧※(始め二重括弧、1-2-54)飼犬の名※(終わり二重括弧、1-2-55)でも連れて、戸山の原を思うままに駈け廻って見たい。足下と手を携えて、と言いたいが、しかし久しい幽囚の身にとってそんな静かな散歩よりも激しい活動が望ましい。寒村などはどうしているか。
 僕等の室の建物に沿うて、二、三間の間を置いて桐の苗木が植わっている。三、四尺から六、七尺の丈ではあるが、まだ枝というほどのものはない。何のことはない。ただ棒っ切れが突っ立っているようなものだ。それにちょっとした枝のあるものがあっても、子供の時によく絵草紙で見た清正の三本槍の一本折れたのを思い出されるくらいの枝だ。こんなのが冬、雪の中に、しかもほかに何にもない監獄の庭に突立っているさまは、ずいぶんさびしい景色だ。しかしこの冬枯れのさびしい景色が僕等の胸には妙に暖かい感じを抱かせた。棒っ切れがそろそろ芽を出して来る。やがてはわずかに二、三尺の苗木にすら、十数本の、あの大きな葉の冠がつけられる。その頃には西川が出よう。
 うちのことについて、いろいろ書かなければならんこともあると思うが、足下からの便りがないので、何がどうなっているのか少しも事情が分らない。足下からの手紙はたしか十一月の父の死の知らせが最後だ。一月には松枝※(始め二重括弧、1-2-54)※(終わり二重括弧、1-2-55)と勇※(始め二重括弧、1-2-54)三男※(終わり二重括弧、1-2-55)からのが来た。三月には足下のと思って楽しんでいたら、伸※(始め二重括弧、1-2-54)次弟※(終わり二重括弧、1-2-55)の、しかも一月に出した、用事としてはすでに時の遅れた、内容の無意味極まる、実に下らないものを見せられた。面会はいつもあんな風にいい加減のところで時間だ時間だと言っては戸を閉められてしまうのだし、用の足りぬこともまたおびただしいかなだ。今うちに誰と誰がどうしているのやら、またどんな経済の事情やら、その他万端のことを本月の面会の時によく話の準備をして来て、簡単にそして詳細によく分るように話してくれ。
 足下は初めて子供等の世話をするのだが、どうだいずいぶんうるさい厄介なものだろう。※(始め二重括弧、1-2-54)継母は父のいくらもない財産の大部分を持って去った。そしてすでに嫁入っている二人の妹の外の六人の弟妹が保子の許に引き取られた。※(終わり二重括弧、1-2-55)僕は別にむずかしい注文はしない。ただみんなを活発な元気な子供に育ててくれ。ナツメ※(始め二重括弧、1-2-54)飼猫※(終わり二重括弧、1-2-55)は急にいたずらをされる仲間ができて困っていやしないか。
 去年の十月からほとんど毎月の手紙のたびにドイツ文の本の注文をしているのだが、どうしたのだろう、さらに送ってくれないじゃないか。せっかくできあがりかけた大事なところを半年も休みにされてはまたもとのもくあみに帰ってしまう。大至急何か送ってくれ。
 目録の中から安い本を書き抜こう。
 フンボルト著、アンジヒテン・デル・ナトゥル。
 ヤコブセン著、ゼックス・ノベルレン。
 ヴィッセンシャフトリヘ・ビブリオテク 6-8.[#「6-8.」は縦中横]17.[#「17.」は縦中横]73.[#「73.」は縦中横]
 ベルタ・フォン・ズットネル著、ディ・ワッヘン・ニイデル。
 しばらくドイツ語を休んだかわりに、ロシア語に全力を注いだので、こっちは案外にはやく進歩した。生立の記※(始め二重括弧、1-2-54)トルストイ※(終わり二重括弧、1-2-55)のようなものなら何の苦もなく読める。来月中にまた何か送ってくれ。先月の末からの差入れのものは大がい不許になった。近日中に送り返す。なお次のものを至急送ってくれ。※(始め二重括弧、1-2-54)これは、実はいったん不許になったものを、また別な名で差入れる指図をしたものだ※(終わり二重括弧、1-2-55)
 伊文。プロプリエタ(経済学)。フォンジュアリヤ(哲学の基礎)、ロジカ(倫理学)。
 英文。ルクリュ著、プリミチフ(原人の話)。ドラマチスト(文学論)。スカンジネビアン(北欧文学)。フレンチ・ノベリスト(仏国文学)。
 仏文。ラポポルト著、歴史哲学。ノビコオ著、人種論。
 なおほかに英文で、ウォドのピュア・ソシオロジイとサイキカル・ファクタアス、ギディングスのプリンシプル・オブ・ソシオロジイ。
 ここまで書いたら、体重をとるので呼び出された。十三貫四百目。去年の末からとるたびに百目二百目ずつ増える。からだの丈夫なのはこれで察してくれ。

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