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遊星植民説(ゆうせいしょくみんせつ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-26 6:41:10  点击:  切换到繁體中文


「第一に大切なことは、エネルギーを得ることだ。これは太陽から来る輻射熱ふくしゃねつつかまえて、発電所を作る。そのエネルギーで、温めたり、明るくしたり、物を製造したりする。段々と品物は大きくなり、やがて月世界は、この大発電所だらけになって、温かくなり、水蒸気も水も出来、空気も地表にただよいはじめるだろうし、ては地球と全く同じ状態になる」
「なるほど、うまく行きそうですのネ」
「地球が古くなると、もっと太陽に近い他の遊星、たとえば金星などへ移住を開始する。場合によると、この地球も、金星のそばへ、一緒に持っていってもいい」
「そんなことが出来ますの」
「出来るとも、引力打消器いんりょくうちけしきを完成すればよい。ピエゾ水晶板すいしょうばんを使って、これの小さいのが出来る今日だから、明日にも大きいのが出来て、地球自由航路が開けるかも知れない」
「地球自由航路て、なんですの」
「地球自由航路というのは、地球が同じオービットに従って太陽の周囲を公転しなくてもいいことになるのだ。地球は宇宙のうちならどこへでも、恰度ちょうど円タクをあやつるように、思うところへ動いてゆけるようになるだろう」
「まア!」
「その途中で、地球に愛想あいそをつかした奴は、近づく他の遊星へ、どんどん移住してゆく」
「他の遊星に、また人間がいて、いつきやしませんか」
「一応それは心配だ。だが吾輩わがはいの説によると、まず大丈夫と思う。第一に、地球へ他の遊星から来る電磁波でんじはを、十年この方、世界の学者が研究しているが、その中には符号ふごうらしいものが一つも発見せられない。これは地球がどこからも呼びかけられていない証明になる。しかるに、わが地球からは、今日既にヘビサイド・ケネリーの電離層を透過とうかして、宇宙の奥深くきちらしている符号は日々非常に多い、短波の或るもの、それから超短波、極超短波の通信は地球内を目的としているが、地球外へもれている。これから考えても、地球の人類が、一番高等な生物だということが判る」
「あたしにも判りますワ」
「第二は地球の人類が他の遊星の生物から攻められたことがない点だ。人間の頭は今日、もし他の遊星へ行くんだったら、その生物を殺すつもりでいる。だのに、地球の人間の方は、まだ他の遊星からめられたことがない。これから見ても、この宇宙には、われわれ人間以上に発達した生物がいないことが知れる。人間は、広い意味にいて万物ばんぶつ霊長れいちょうだと云えるのじゃ」
「まア、博士は、なんてえらかたなんでしょ」
「よいかな、お嬢さん。いまは大丈夫だ。しかし今から二万年位経ったあとでは、果して人間が宇宙に於ておしょくりとおすかどうかは疑問なのじゃ。そのころには、優秀な生物がどこかの遊星の上に出来て、本格的に地球征服を実行するかも知れない」
「困ったわネ」
「そうなれば、世界戦争なんてなくなるだろう。何しろ、他の遊星からの攻撃を撃退しなければならなくなるのでね。だから、人類は今からよろしく、有望な他の遊星へ植民しておくのがよい。そしてイザというときには、便利な空間から敵を撃退する。とにかく大宇宙が人間の手で公園のようになるのは、案外速いよ。二十万年も経てばいいだろうか。
 だが此処ここで、一日でも早くこの事業に手をつけると、後に行っては千年や二千年は、早く目的を達することが出来る」
「手をつけるッてどうするんですの」
「いまでも全世界で、遊星へ飛ばすロケットを考えている学者が十五人、本当にロケットを建造したものが二人ある」
「まア、もうそんなに進んでいるのですか。おどろいた、あたし」
「そんなロケットに乗ってみたいとは思わないかネ」
「思いますワ、博士」
「そうかい、ではの窓から、外をのぞいて御覧」
「アラ、博士。パノラマが見えますワ。宇宙の一角から、フットボール位の大きさに地球を見たところが……」
「よく御覧、その地球は、見る見る小さくなってゆく!」
「ああ、恐ろしいこと。ああ、あたしは気持が変になった!」
「耳をましてごらん。エンジンの音がきこえるだろう。ロケットの機尾きびから、瓦斯ガスを出している音もするだろう」
「では、もしや……」
「ロケットは、地球を離れること九十五万キロメートル」
「博士、冗談はよして、元の地球へ帰して下さい!」
「わしは、君のような、若くて美しい女性がこの室に入ってくれるのを待っていた」
「博士、あたしには許婚いいなずけが……」
「わしのロケットはあの第三十八階ですべての出発準備をととのえていたのだ。ただけていたのは遊星植民に大事な一対いっついの男女――男はこのわし。その相手の女さえ来てくれると、それで準備は完了したのだ。さあオリオン星座附近で、新しい遊星を見付けて降下しよう。そこでお前は、幾人ものむのだ。今はさびしいが、もう二十万年も経てば、地球位にはにぎやかになるよ。おお、なんと愉快な旅ではないか」
「ああ、あの人。編集長め! そして、ああ、地球よ……」





底本:「海野十三全集 第1巻 遺言状放送」三一書房
   1990(平成2)年10月15日第1版第1刷発行
初出:「新青年」
   1932(昭和7)年6月号
※本作品中には、身体的・精神的資質、職業、地域、階層、民族などに関する不適切な表現が見られます。しかし、作品の時代背景と価値、加えて、作者の抱えた限界を読者自身が認識することの意義を考慮し、底本のままとしました。(青空文庫)
入力:tatsuki
校正:ペガサス
ファイル作成:
2002年12月3日作成
青空文庫作成ファイル:
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