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○○獣(まるまるじゅう)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-26 6:34:01  点击:  切换到繁體中文


   ○○獣生擒いけどり


 そのとき、大勢の群衆がうわーっとときの声をあげた。
さわぐな騒ぐな」
 と、蟹寺博士は群衆を一生懸命に制しているが、なかなかしずまらない。
「さあ、セメントを入れろ!」
 消防隊員は総出そうででもって、穴の中にしきりにセメントの溶かしたものをぎいれている。もちろんそれは蟹寺博士の指図さしずによるものであった。
「どうしたんです」
 と、敬二が見物人に聞くと、
「いや、とうとう○○獣が穴の中にちたんだとよ」
「えっ、○○獣が……」
 敬二がおどろいているうちにも、セメントは後から後へと流しこまれる。しかしそのたびに穴の中から真白な霧みたいなものがまい上ってくる。
 セメントはどんどん、穴の中に注がれた。
 敬二は心配になって、蟹寺博士のそばに駈けだしていった。
博士せんせい。○○獣が墜っこったって本当ですか」
「おお敬二君か。本当だとも」
「穴の中へセメントを入れてどうするんですか」
「これか。これはつまり、○○獣をセメントでかためて、動けないようにするためじゃ」
「なるほど――」
 敬二には、始めて合点がついた。○○獣はもともと二つの大きな球が、たいへん速いスピードでぐるぐると廻っているものだった。そのままでは人間の眼にもまらないのだった。その廻転を停めるためには、セメントで○○獣を固めてしまえばいい理窟りくつだった。なるほど蟹寺博士はえらい学者だと敬二は舌をまいて感心した。
 しかしそのとき不図ふと不審ふしんに思ったのは、セメントはかわくまでになかなか時間がかかるということだ。ぐずぐずしていれば、○○獣はまた穴のなかからとびだして来はしまいか。そう思ったので、敬二は心配のあまり蟹寺博士にたずねた。
 すると博士は、眼鏡の奥から目玉をぎょろりと光らせて云った。
「なあに大丈夫だとも。今穴の中に流し込んでいるセメントは、普通のセメントではないのだ。永くとも一時間あれば、すっかり硬くなってしまうセメントなんだよ。そのセメントのなかで○○獣は暴れているから、摩擦熱まさつねつのため、セメントは一時間もかからないうちに固まってしまうだろう」
 なるほどそういうものかと敬二は、また感心した。
「そんなセメントがあるのは知らなかった。これも博士の発明品なのですか」
「そうじゃない。この早乾はやかわきのセメントは前からあるものだよ。歯医者へ行ったことがあるかね。歯医者がむし歯につめてくれるセメントは五、六分もあれば乾くじゃないか。一時間で乾くセメントなんて、まだまだ乾きが遅い方なんだよ」
 あっそうか。むし歯のセメントのことなら、敬二もよく知っていた。じゃあ○○獣は、そろそろセメント詰めになる頃だぞ。


   大椿事だいちんじ


「ほほ、敬二君。いよいよ○○獣がセメントの中に動かなくなったらしいぞ。見えるだろう。さっきまで穴の中から白い煙のようなセメントの粉が立ちのぼっていたのが、今はもう見えなくなったから」
「えっ、いよいよ○○獣が捕虜になったんですか」
 博士の云うとおり、○○獣の落ちた穴の中からは、最前までゆうゆうと立ちのぼっていた白気はっきは見えなくなっていた。
 博士は穴の方へ飛びだしていった。
「おおい、皆こっちへ集ってくれ。○○獣を掘りだすんだ」
 さあ、いよいよ問題の○○獣を掘り出すことになった。消防隊はシャベルや鶴嘴つるはしをもって、穴のまわりに集ってきた。蒸気で動くハンマーも、レールの上を動いてきた。
 がんがんどすんどすんと、○○獣のうずまっている周囲が掘り下げられていった。セメントはもはや硬く固っていた。
 やがて掘りだされたのは、背の高い水槽タンクほどもあるセメントの円柱だった。
「うむ、うまくいった。この中に○○獣がいるんだ。よかったよかった」
 と蟹寺博士はもみ手をしながら、そのまわりをぐるぐると歩きまわる。
 警備の隊員も見物人も、ざわざわとざわめいたが、折角の○○獣も、セメントの壁にへだてられて見えないのが物足りなさそうであった。
博士せんせい。○○獣はセメントで固めたままほうって置くのですか」
「うん、分っているよ、敬二君。こいつは用心をして扱わないと、飛んだことになるのだ。まあわしのすることを見ているがよい」
 蟹寺博士は、セメント詰めの○○獣をトラックの上に積ませた。そしてそのトラックは騒ぎを後に、東京ホテルの広場から走りだした。そのうしろからは、幾十台の自動車がぞろぞろとつき従ってゆく。
 やがてこのセメント詰めの○○獣は、帝都大学の構内にはこびこまれた。
 蟹寺博士は先頭に立って、指図さしずをしていた。まずX線研究室のドアがひらかれ、その中に○○獣を閉じこめたセメントはしらが搬びこまれた。室内は直ちに暗室にされた。ジイジイとX線が器械から放射され、うつくしい蛍光が輝きだした。
「ああ、見えるぞ」
 博士は叫んだ。蛍光板の中にぼんやりと二つの丸い球が見えだした。
 後からついてきた人たちも、それっというので眼をみはった。
「どうもこのままでは危い。この二つの○○獣を互いに離して置かないと、いつまた前のようにぐるぐる廻りだすか分らない。さあ、この辺から、セメントの柱を二つに鋸引のこぎりびきをしてくれたまえ。柱がこわれないようにそろそろやるように注意を頼む」

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