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ふしぎ国探検(ふしぎくにたんけん)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-26 6:25:18  点击:  切换到繁體中文

底本: 海野十三全集 第12巻 超人間X号
出版社: 三一書房
初版発行日: 1990(平成2)年8月15日
入力に使用: 1990(平成2)年8月15日第1版第1刷

 

夏休の宿題


 やけ野原のはらを、東助とうすけとヒトミが、汗をたらしながら、さまよっていた。夏のおわりに近い日の午後のことで、台風たいふうぎみのくもり空に、雲の行き足がだんだん早くなっていく。
 東助少年は手に捕虫網ほちゅうあみをもち、肩からバンドで、毒ビンと虫入れ鞄とを下げていた。ヒトミの方は、植物採集用のどうらんを肩からひもでつっていた。この二人の少年少女は同級生であるが、夏休みの宿題になっている標本がまだそろわないので、今日はそれをとりにきたわけだった。
 東助の方は、今日はどうしても、しおからとんぼか、おにやんまを、それからどんな種類でもいいから、あげはのちょうを捕る決心だった。ヒトミの方は、ぜひ、かや草と野菊とをさがしあてたいとおもっていた。
 だが、二人のもとめているものは、いじわるく、なかなか手にはいらなかった。
「だめだわ、東助さん。こんなにさがしてもめっからないんだから、もうあきらめて帰ろうかしら」
 と、ヒトミががっかりした調子でいった。
「いや、だめ、だめ。もっとがんばって、さがしだすんだよ。これだけ草がはえているんだから、きっとどこかにあるよ」
「そうかしら。だって東助さんも、まだとんぼがつかまらないんでしょう」
「とんぼのかずが少いんだよ。それに、みんな空の上をとんでいて下へおりてこないんだ」
「やけ野原でさがすことが無理なんじゃないかしら」
「だってしようがないよ。この近所で、やけ野原じゃないところはないんだから」
「それはそうね」
 ヒトミは、まぶしく光るやけ野原を見まわして、ため息をついた。東助は、またとんぼににげられてしまった。
「ヒトミちゃんの理科の宿題論文は、なんというの」
 東助は、きいた。
「理科の宿題論文? それはね、『ユークリッドの幾何学について』というのよ」
「ユークリッドの幾何学についてだって。むずかしいんだね」
「それほどでもないのよ。東助さんの方の宿題論文はなんというの」
「僕のはね、『空飛ぶ円盤と人魂ひとだまの関係について』というんだ」
「空飛ぶ円盤と人魂の関係? まあ、おもしろいのね」
「おもしろいけれど、僕はまだどっちも見たことがないんだもの。だから書けやしないや」
「あたしね、人魂の方なら一度だけ見たことがあるの」
「へえーッ、本当? ヒトミちゃんは本当に人魂を見たことがあるの。その人魂は、どんな形をしていたの、そして人魂の色は……」
「あれは五年前の八月の晩だったわ。お母さまとお風呂ふろへいったのよ。その帰り路、竹藪たけやぶのそばを通っているとね――あら、あれなんでしょう、ねえ東助さん。あそこに、へんなものが飛んでいるわ。あ、こっちへくる」
 急に人魂の話をやめたヒトミが、空の一角をゆびさしておびえたような声をあげた。
「え、なに? どこさ」
 たおれた石門の上に腰を下していた東助が、おどろいて立上り、ヒトミの指す方角を目で追った。
「あそこよ、あそこよ。ほら、空をなんだか丸いものがとんでいるわ。お尻からうすく煙の尾をひいて――」
「あッ、あれか。あ、飛んでいる、飛んでいる。飛行機じゃあない。へんなものだ。へんなものが空を飛んでいく」
 東助少年は見ているうちに、寒気さむけがしてきた。それは色の黒っぽい丸みのある物体だった。それは何物か分らなかった。お尻のところからたしかに茶色がかった煙がでている。そしてそれは一直線には飛ばないで、ぶるんぶるんと三段跳びみたいな飛び方を空中でしていた。
「東助さん。あれが、『空飛ぶ円盤』じゃない?」
 ヒトミがさけんだ。
「そうかしらん。僕も今そう思ったんだけれど、『空飛ぶ円盤』ともすこしちがうようだね。だってあれは円盤じゃないものね。ラグビーのボールを、すこしかどばらせたようなかっこうをしているもの」
「西洋のお伽噺とぎばなしの本で、あんなかっこうのたるを見たことがあったわ」
 二人がそういっているうちに、そのあやしい物体は気味きみのわるい音をたてて近づいてきたが、そのうちに、急にすうーッと空から落ちてきた。二人が立っていたところから五十メートルばかりはなれた大きな邸宅ていたくのやけあとの、石やかわらのかけらが山のようにつみかさなっているところへ、どすんと落ちた。
 たしかに落ちたことは、二人が目でも見たし、またそのあとで地震のような地ひびきがして、二人の足許から気味わるくはいあがってきたことでも知れる。
 東助とヒトミは、恐ろしさに顔色かおいろを紙のように白くして、たがいにきあった。

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