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爆薬の花籠(ばくやくのはなかご)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-25 16:06:33  点击:  切换到繁體中文


   予言的中よげんてきちゅう

 一輪ざしには、まっ赤なカーネーションと、それに添えてアスパラガスの青いこまかな葉がさしこんであった。それは、精密な器械類のならぶこの船橋内の息づまるような気分を、たぶんにやわらげているのだった。
 帆村は、このやさしい一輪挿いちりんざしの花に、目をつけたのだった。
 船長をはじめ、一同も、帆村が顔色をかえて立ち上ったので、それにつられて、腰をうかしたが、
「し、静かに!」
 と、帆村は、一同を手で制した。そのとき、帆村の手には、どこにかくし持っていたのか、一ちょうの丈夫なのついたナイフがにぎられていた。
 帆村は、しのび足で、花活はないけのところに近づくと、目を皿のようにして、花活のまわりをしらべていたが、やがて、大きくうなずくと、ナイフをもちなおし、ぷつりと、花活のうしろに刃をあてて引いた。
「これでいい」
 帆村探偵は、花活のうしろから、切断された二本の針金をつまみだした。
「船長。ゆだんがならぬといったのは、このことです。もうちょっとで私たちの話を、すっかり盗みぎきされるところでした」
「ええっ。それは、盗み聞きの仕掛だというのですか」
「そうです。ここへ来て、よくごらんなさい。花活の中には、マイクが入っています。ほら、このとおりです」
 と、帆村が、花をぬいて、花活を逆さにすると、中からマイクがころがりだした。マイクについていた二本の電線は、きれいに切られていた。それは、帆村のナイフで切られたあとだった。
「ふーん、しからん。いったい、だれが、こんなぬすみ聞きの仕掛を、ここへ取りつけたか。さっそくきびしく、とり調べなくちゃ」
 船長は、顔色をかえた。帆村は、これをなだめて、
「船長。そんなことを、今さら調べていては、もうおそいのです。きっき私の申した手配を、すぐされるように」
「うむ、手配はやりましょう。が、おそるべき人物というのはだれですか。早くそれをいってください。すぐ取りおさえますから」
 船長は、せきこんだ。帆村は、
「はたして、それが怪人物であるかどうか、まだ私には、はっきりしませんが、とにかくこの船の特別一等の船客で、ニーナ嬢という美しい婦人は、十分に怪しいふしがあります」
「ニーナ嬢? ああ、ニーナ嬢ですか。こいつは意外だ。あれは、メキシコの実業界の巨頭の令嬢です。そしてニーナ嬢自身は、慈善団体の会長という身分になっている」
「慈善団体であろうが、なんであろうが、とにかく、嬢については怪しむべき節が、いろいろある。さっき、私をピストルでうったのは、ニーナ嬢なんですからねえ」
「え、ニーナ嬢が、あなたや、私たちをうったのですか。これはまた、意外中の意外だ」
「ニーナ嬢は、ある事からして、私を生かしておけないと思ったのでしょう。もうあれ以上、私は曾呂利本馬の姿をしていることは危険なので、こうして、服装を改めたのです」
 帆村の話は、すじが立っていた。船長もようやく帆村の言葉に、すがりつく気持ちができた。
「よろしい。直ちにニーナ嬢に監視員をつけましょう」
 船長の言葉は、どうも生ぬるい感じがあった。でも、船長としては、それが大決心であったのだ。彼は誰を呼び出すつもりか、自ら電話機の方へよって手をのばした。とその時、とつぜん船長も帆村も、そこに居合わせた一同、はげしい振動におそわれた。今まで、静かな航海をつづけていた雷洋丸に、帆村の心配していた大事件が突発したのだ。
 警笛が、ぶーッと鳴りだした。
 宿直の二等運転士のところへ電話がかかって来た。彼は、おどろいて、電話機をにぎったまま椅子から立ち上った。
「えッ、第一船艙せんそうが爆破した? ほんとか、それは。大穴があいて海水が浸入! 防水ドアがしまらないって? 機関部へ水が流れ込んでいる。エンジンはどうした。機関部も故障だというのか。船長? 船長は、ここにいられるが」
 雷洋丸の第一船艙におこった爆発事件! そして、運わるく防水ドアはしまらないで、浸入した海水は、洪水のように機関部へ流れこんでいくという。
 船長が、電話をかわった。
「おい、どうした。そこは機関部か。なに、機関長だと、それで、どうした。極力手をつくしているが、非常に危険だというのか。よろしい、分かった。すぐ避難命令を出す。そっちは一つ死力をつくして、がんばってくれ!」
 電話機を下においた船長の顔は、まったく、一変していた。眉の間には、つよい決意の色があらわれていた。
「総員、甲板へ。それから、無電で、救難信号を出すんだ。早く」
 船長は、てきぱきと、次から次へ命令を出した。
 しばらくして、船長は、帆村探偵のことを思い出して、彼の名を呼んだ。
 しかし帆村探偵の姿は、もうそこにはなかった。彼は風のように、いつともしれずこの部屋を出ていったのであった。
 雷洋丸の船腹の損傷は、意外に大きく船は見る見る左へ傾いた。機関部もやられてしまって、船内の電灯は一時消えた。甲板には、救命艇の位置へいそぐ船客たちが、互いにぶつかり転り踏みつけあい、くらがりの中に、がやがや立ちさわいでいるばかりだ。
 沈没までに、あと二十分とは、もたない。
 房枝は、どこにいる。ニーナ嬢は、なにをしている。帆村探偵は、どこへいったのであるか?
 このさわぎの中に、くらがりのマストのうえで、けもののように、からからと声をたてて笑いつづける者があった。誰も、さわぎの最中のこととて、この怪人物に気づく者はなかったが、この人物は、意外も意外、それは死んだとばかり思っていたトラ十であったではないか。

   沈没ちんぼつせま

 ああ。なんという不運な雷洋丸よ!
 もうあと一日たてば、母国の横浜港にはいれるところまで、もどってきたのだ。ところが、とつぜん、この大遭難である。これを不運といわないで、どうしようぞ。
 なぜ、第一船艙が、とつぜん爆発したのであろうか?
 そんなことを、いま、しらべているひまはない。なぜといって、いま雷洋丸はぐんぐんと左舷さげんへかたむいていく。
 船客たちは、てんでに、なにかしら、わめきつづけている。なにしろ、船内の電灯は、はやく消えて、たよりになる光は、船員の手にしている手提てさげランプと、わずかに電池灯ばかりである。
 それだけでは、足もとまで、とても光がとどかない。しかも、足もとに踏まえている甲板は、ひどく左舷へかたむき、船首の方は、もはや海水に、ぴしゃぴしゃ洗われている。だから、気味のわるいことといったらない。
 船員は、声をからして、しきりに、救命ボートへ、船客をのせているが、これは老人や女子供が先であった。なにしろ、船がいきなり左へかたむいてしまったので、右舷の救命ボートは、下へおろせなくなった。だから、右舷のお客さまたちは、のるにもボートがなく、しかたなしに左舷のボートのあるところへあつまってきた。そこで、さわぎは、ますます大きくなり、船員が声をからしてせいりをするが、なかなかうまくいかない。
「まだ、大丈夫ですから、さわいじゃいけません。老人と子供とを先に」
「おい君、老人をつきのけて、ボートへはいりこむなんて、ずるいぞ」
「もしもし、あなたは、あとです。若い人だから」
「わたくしは、特別一等の船客であります。ボートへのりこむけんりが、あるのです」
 そういって、いやにいばった外国人があった。それは、師父しふターネフであった。ターネフのうしろでは、例のうつくしいめいのニーナ嬢が、そわそわしながら、しきりにあたりに気をくばっている様子。
「なんといっても、だめ、だめ。老人の方と子供衆こどもしゅうが、先ですぞ」
 と、船員は正しいことを、いいはる。
「わたくし、姪のニーナをつれています。ニーナは、かよわい女です。そして、彼女は、国際的に高い地位を持った淑女しゅくじょです。ニーナを、はやくボートにのせるのが、礼儀です。日本の船員、礼儀を知りませんか」
 師父ターネフは、やっきとなって、ボートの中へ、わりこもうとつとめている。
「ニーナ嬢は、子供さんでもないし、おばあさんでもないでしょう」
「気高い淑女です」
「男であろうが、女であろうが、若い人は、あとにしてもらいます。もう、これ以上、問答無用です。あなたは、うしろへさがってください」
 と、船員は、師父ターネフに対し、このあわただしい際にも、一通り話のすじみちをたててターネフの横車をおしもどしたのであった。
「日本の船員、礼儀を知りません。あなたがた、いまに、思い知ること、ありましょう」
 と、師父ターネフは、捨台辞すてぜりふをのこして、うしろへ下った。
「師父、ボートは、だめなの」
「うん、だめだ。われわれは、別の道をひらくしかない」
「困ったわねえ。とにかく、このままでは、汽船とともに沈んでしまうわよ。なんとかして、船をはなれなければ。あの連中は、来てくれるはずだというのに、なにをしているのでしょうね」
「たしか、もうそのへんに、来ているはずなんだがねえ。仕方がない。マストのうえへよじのぼって、懐中電灯で信号をしてみよう。ニーナ、おいで」
 師父とその美しい姪とは、傾斜した甲板を走りだした。

   仮面かめん師父しふ

 師父ターネフは、水夫長のような身軽さをもって、マストの縄梯子なわばしごをよじのぼっていった。
 ニーナは、その下に立って、警戒の役目をつとめているようすだ。
 師父は、縄梯子をどんどんのぼっていった。そのころ、船艙から出た火は、もう甲板のうえまで、燃えうつって、赤い炎があたりをあかあかと照らしだした。
 師父は、縄梯子を途中までのぼると、懐中電灯をとりだして、ぽっと明りをつけた。そして信号をしようと、手にもちなおしたとき、彼は、
「あッ!」
 と、叫んだ。それは、懐中電灯をもった彼の手を、上の方から何者かが、ぐっとつかんだからである。
「あッ、何者だ。なにをする。手をはなせ」
 と、師父は、英語で叫んだ。そのとき師父は、マストのうえから、下をむいて笑っている怪しい東洋人の顔を眺めて見た。それはトラ十だった。
「あははは。ターネフ極東首領きょくとうしゅりょうこんなところで、怪しげなる信号をしては困りますねえ」
 と、トラ十は、流暢りゅうちょうな英語で、やりかえして、歯をむきだしてげらげらと笑った。
 ターネフ首領!
 師父は、ぎょっとしたようすだ。
「なにをいう。首領だなどと、でたらめをいうな。わしは神に仕える身だ」
「神につかえる身だって。へへん、笑わせやがる。神につかえる身でいながら、さっきはなんだって、おれを爆死させようとしたのかい」
「なにをいいますか。あなたは気が変になっている」
「気が変なのはお前たちの方だ。知っているぞ。花籠はなかごの中に、おそろしい爆薬をしかけて、おれの前へおいたじゃないか。あの停電のときだよ。ぷーんと、いい匂いのするやつがおれの前へ持って来やがったから、多分それは若い女にちがいない。どうだ。これでも知らないとしらばっくれるか」
「おどろいたでたらめをいう人だ」
「とにかくお気の毒さまだ。こっちはそれとかんづいたから、おれが死んだと見せるために、かねて用意の血のはいった袋の口をあけて、おれの席のまわりを血だらけにしてやった。それからおれはすぐ花籠をつかんで甲板に出て、それを海の中へ捨てたとたんに、どかンと爆発よ。おれは無事だったが、かわいそうにおれのあとを追ってきた松ヶ谷団長と船員がひとり、ひどい傷をうけたよ。お前たちはおどろいて、暗闇くらやみの中で松ヶ谷団長を更になぐりつけ、死にそうになったやつを石炭庫へかくした」
 師父ターネフは、ほんとうにおどろいたか、もう口がきけなかった。
「あははは、ターネフ首領。この汽船は、もうあと四、五分で沈みますよ。取引は、早い方がいい。信号をさせてもいいが、あなたがポケットに持っている重要書類を、そっくりこっちへ渡してもらいましょう」
「なに、重要書類。そ、そんなものを持っておらん」
「おい、ターネフ首領。お前さんは、ものわかりのわるい人だねえ」
 と、トラ十は、はきだすようにいって、
「あの重要書類のことを、おれが、知らないと思うのかね。お前さんは、なにをするために、師父などに化けて、日本へのりこむのかね。そのわけを、ちゃんと書いてある重要書類袋を、こっちへ早く渡しなせえ。青い封筒に入って、世界骸骨化本部がいこつかほんぶの大司令のシールがぽんとおしてあるやつさ」
「……?」
 師父は、おどろいたのか、だまっている。
「おい、ターネフ首領。どうするつもりだい。汽船は、どんどん沈んでいくぜ。もうすこしすれば、第二の爆発が起って、この汽船は、まっ二つに割れて、真暗まっくらな海にのまれてしまうのさ。信号をしたくはないのかね。『計画ハ、クイチガッタ、我等ハココニアリ、至急スクイ出シ、タノム』と、信号したくはないのかね。ほら、下をごらん、甲板をもう波が、あんなに白く、洗っているよ」
 トラ十の、毒々しいことばがきいたのか、師父は、このとき、急にすなおな口調くちょうになって、
「しかたがない。われわれの命にかえられないから、青い封筒入の重要書類を君に渡そう。だから、この手をはなしてくれ」
「おっと、おっと。その手には乗るものか。もう一方の手で、青い封筒を出せよ」
「そんなことをすれば、縄梯子から、おちる」
「大丈夫だ。お前さんの右手は、こうしておれがしっかり持っているから、大丈夫さ」
 師父は、今はもうやむを得ないと思ったものか、左手をつかって、上着のポケットの中から、青い封筒をとりだした。トラ十は、上からそれをひったくった。
「これでよし。さあ、手をはなしてやる」
「いったい、君は何者だ。名前をきかせてくれ」
「おれのことなら、これまで君がやって来た、かずかずの残虐行為ざんぎゃくこういについて、静かに胸に手をあてて思出したら、分るよ。それで分らなきゃ、世界骸骨化本部へ、問いあわせたがいいだろう。お前たちの仕事のじゃまをするこんなつらがまえの東洋人といえば、多分わかるだろうよ」
 そういったかと思うと、トラ十のからだは、猿のように縄梯子の裏にとびついて、するすると下におりていってしまった。

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