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爆薬の花籠(ばくやくのはなかご)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-25 16:06:33  点击:  切换到繁體中文


   ニーナじょう

 この雷洋丸の一等船客に、一きわ目立って、姿のうつくしい、外国人の令嬢がいた。その名をニーナ・ルイといって、国籍は、メキシコと届けられていた。
 ニーナ嬢は、いつもすっきりした軽い服に、ひょうの皮のガウンを着て、食堂へ入っていったり、またAデッキの籐椅子とういすにもたれて、しきりに口をうごかしているのが、とくに船客の目をひいた。
 ニーナ嬢は、一人旅ではなかった。伯父おじさんだという師父しふターネフと、二人づれの船旅であった。
 師父ターネフは、もちろん宣教師せんきょうしで、いつもすそをひきずるような長い黒服を着、首にまいたカラーは、普通の人とはあべこべに、うしろで合わせていた。いかにも行いすました宗教家らしく、ただ血色けっしょくのいい丸顔や、分別くさくはげかかった後頭部などを見ると、たいへん元気にみえ、なんだか、その首を連隊長か旅団長ぐらいの軍服のうえにすげかえても、決しておかしくはないだろうと思われた。
 そのニーナ嬢が、階段のところで、曾呂利本馬と、鉢合はちあわせをした。
 ニーナ嬢は、うすぐらい階段を、急いで上からおりて来る。曾呂利は、松葉杖まつばづえをついて、階段を四、五段のぼっていた。ニーナ嬢が、勢よくというより、少しあわて気味に足早におりて来たため、あっという間に、二人は下にころげおちた。
 からだが不自由な曾呂利は、後頭部こうとうぶを床にうちつけて、しばらくは、気がとおくなっていた。
 ニーナ嬢の方は、すぐさま起き上った。そして、いまいましいという表情で、たおれている曾呂利を、靴の先で蹴とばしておいて、そのまま行きすぎようとした。が、そのとき、彼女は、何おもったのか、また戻ってきて、さっきとは別人のようなふるまいで、曾呂利を抱きおこした。
「うーん」
 曾呂利が、彼女の腕の中で、うなりごえをあげた。
 ニーナ嬢は、ハンケチをだして、曾呂利のひたいをふいてやった。そして、
「ごめんなさい。ごめんなさい。わたくし、たいへん、あやまりました」
「……?」
 曾呂利は、ちょっとうす目をあけたが、またすぐ目をつぶった。
「ごめんなさい。わたくし、あやまりました。おわびのため、このお金、さしあげます」
 ニーナ嬢は、どこに持っていたのか、紙幣さつを一枚、曾呂利の手に握らせ、
「どうか、ごめんください。そして、わたくしのため、このことは、誰にもいわない、よろしいですか。きっと、きっと、誰にもいわない。わたくしと、ここで衝突したこといわない。あなたいいません! いわないこと、約束してくれますか。それを守ってくれるなら、あとでまた、お礼のお金をさしあげます」
 ニーナ嬢は、ねっしんに、そして早口で、曾呂利をかきくどいた。
 曾呂利は、かすかにうなずいた。
「よろしいですね。わたくし、あなたを信用します。お礼のお金、あとできっとさしあげます。あっ!」
 ニーナ嬢は、とつぜん、おどろきのこえをあげた。階段の上に、誰かのわめきごえがきこえたからである。
「約束、きっと、守るのです!」
 ニーナ嬢は、最後にもう一度、命令するかのように、曾呂利の耳にのこすと、曾呂利をそこに寝かしたまま、とぶように立ち去ったのであった。
 階段の上から、あらあらしい足音とともに、二、三人の船員がおりてきた。
「やっぱり、こっちじゃないかな」
「どうも、こう暗くては、探せやしない」
 船員たちは、おりてくると、そこに曾呂利がたおれているのを発見して、おどろいてかけより、
「おう、あなた。ここへ誰か来なかったでしょうか。この階段を、あわてて上からおりてきたものはありませんか」
 曾呂利をだき起そうともせずに、いきなり質問だ。
 曾呂利は、首をふって、
「誰も、見えませんでしたね。僕は、松葉杖を階段からつきはずして、落ちたんです」
 と、わりあい、しっかりしたこえでいった。曾呂利は、ニーナとの約束を守ったのである。というよりも、うそをついたのである。彼は、ニーナ嬢から握らされた紙幣に、良心を売ったのであろうか。

   疑問ぎもん空襲くうしゅう

 曾呂利が、医務室につれこまれるところを、ちょうどそこを通りかかった房枝が、見かけた。
「まあ、曾呂利さん。足のわるいのに、ひとりで出かけたりするから、また、どうかしたんだわ」と、つづいて、彼女も、曾呂利のあとから、医務室に入った。
 曾呂利は、診察用のひじかけ椅子に、腰をかけさせられていた。
 船医が、すぐやってきて、曾呂利が痛みをうったえる後頭部をかんたんに診察した。
「なあに、大したことはありませんよ。湿布しっぷしてあげましょう」
 船医は、看護婦を呼んで、湿布のことを命じているとき、入口の扉をあけて、船長が入ってきた。
「やあ、ドクトル。赤石あかいしは、その後、どうです」
 赤石とは、れいの爆発事件のとき、甲板でたおれた船員の名だ。
「やあ、船長。赤石君は、奥に寝かせてあるが、もうすこし様子を見ないと、なんともいえませんねえ」
「うむ、そうすると、会って、こっちが聞きたいことを聞くわけには、いかんですかな」
「まあちょっと待ってください。もう三十分ぐらいは」
「そんなに、容体ようたいがあぶないのかね」
「何ともわからんですよ、それは。すこし、ここに来ているらしいので、警戒しているのです」と、船医は、自分の頭を指さした。
 船長は、困ったという表情で、
「じつは、本船の上を、怪しい飛行機が飛んだことについて、赤石に聞いてみないと、事実がはっきりしない点があるのでね」
「赤石君にきかないでも、外の人だけで、わからないのですかね、私も聞いたが、あれだけはっきりした爆発音だから、それでも分かりそうなものだが」
「いや、ドクトル。どうも、それだけのことじゃないらしいんでね、それで困っとる」
 と、船長は、口を大きくむすんで、
「第一、空襲らしいというのに、本船の者で、誰も飛行機の近づく爆音を聞いたものがないのが、おかしい。もちろん、飛行機の姿も見えなかった」
「船長。爆弾がふってきたんだから、それでもう、飛行機の襲来だということは、たしかではありませんか」
「いや、それが、そうかんたんにきめられないのだ。それに、赤石のたおれていたとこに、ばらばらと落ちていたうつくしいきり花だが、こんなものがどうして、あんなところにあったか、これは赤石に聞かないと、わからないことなんだ」
 と、船長は、手に握っていた数本のきり花を、机のうえに投げだすようにおいた。
「たったこれだけの花ぐらいのことを、そう気にすることはないでしょう」
「いや、これは、その一部なんだ。もっとたくさんある」
 船長は、いよいよにがりきって、
「もっと、困ったことがある。今しらべてみてわかったんだが、あの爆発事件の最中に、この船内から、二人の船客が、姿を消したんだ。二人ともミマツ曲馬団の人たちで、一人は団長の松ヶ谷さん、もう一人は、トラとよばれている丁野十助という曲芸師だ。船内を大捜査したが、たしかにこの二人の姿が見あたらない。それから、三等食堂の血染ちぞめのテーブル・クロスの事件ね」
「ああ、あの血染事件の血液検査を、やることになっているが、こういう次第で、手が一ぱいですから、あとで、なるべく早くやります」
「とにかく、わしの直感では、この船は、横浜へ入るまでに、どうかなってしまうのじゃないかと思う。単なる空襲事件ではない。もっと何かあるのだ。今、手わけして、探してはいるがね。ねえ、ドクトル、あんたも、なにかいい智恵をひねりだしてくださいよ」
 船長は、苦笑くしょうしていった。
 そのとき、房枝の手をひっぱるものがあった。房枝は、船長とドクトルの対話に、気をとられていたが、手をひっぱられたので、その方をみると、それは曾呂利がやったのだ。
「ねえ房枝さん。そこへ船長さんがもってきた花を、私に見せてください」
「まあ、あなたが見て、どうなさるの」といったが、房枝は、テーブルのうえから、花をとって、曾呂利に渡した。
 曾呂利は、その花を手にとって自分の鼻に押しあてた。そのとき、彼の目が、急に生々とかがやきだした。
「ほう、この花は、非常に煙硝えんしょうくさい。おや、それに、なめてみると、塩辛しおからいぞ、海水に浸っていたんだ。すると、この花は、船の上にあった花ではない、海の中にあった花だ。これは、ふしぎだ」
 曾呂利は、まるでなにか怪物につかれた人のようにぶつぶつと口の中でひとりごとをいった。しかし房枝は、その一言半句いちげんはんくも聞きのがさなかった。そして、曾呂利の顔を、穴のあくほど見つめていたが、はっとした面持で、
(この人は、どうしても、帆村荘六という名探偵にちがいないと思うんだけれど。なぜ、曾呂利本馬などと、名をかえているのでしょう)
 と、ふしん顔。
 そのとき、電話のベルが鳴った。看護婦が出ると、船長に急用だという。そこで船長が、かわって電話機をとりあげたが、一言二言ひとことふたこといううちに、船長は、おどろきのこえをあげた。
「えっ、見つかったか。ふーん、そりゃ、たいへんだ。今すぐ、わしは、そこへいく」
 なにが見つかったというのだろう。
 それをきいて、曾呂利本馬が、すっくと立ち上った。松葉杖なしで、曾呂利がつっ立ったのである。

   石炭庫せきたんこの中

「おい、見つかったそうだ、ミマツ曲馬団の松ヶ谷団長が、石炭庫の中で」
 船長は、おどろくべきことばをのこすと、すぐさま医務室をとびだした。
「えっ、団長さんが、見つかったんですって、まあ、よかったわ」
 と、房枝は、よろこびの色をうかべて、曾呂利本馬の方をふりかえった。
 行方不明をつたえられた二人のうち、一人は見つかったのだ。ことに、松ヶ谷団長が、このまま、行方不明だったら、このミマツ曲馬団は、これから満足な興行こうぎょうができないであろう。やがて、一座は解散となって、団員たちは、ばらばらになってしまうにきまっている。ああ、そんなことになれば、房枝のような孤児こじを、だれが面倒みてくれるであろうか。団長が見つかったという知らせに、房枝が、ほっと安心の吐息といきをもらしたのも、わけのあることだった。
「あ、曾呂利さん」
 曾呂利の方をふりかえった房枝は、いぶかしそうに、彼にこえをかけた。
 曾呂利本馬は、足がわるく、おまけに、ニーナ嬢につきあたられて、後頭部をいやというほどうったので、ふらふらの病人であるはずのところ、彼が、足もともしっかり、すっくと立ち上っていたのを見て、房枝は、たいへんふしぎに思ったのである。
「曾呂利さん。もうおなおりになったの」
「いや、あいかわらず痛むのですけれど、今、団長が見つかったときいたものだから、おどろいて、思わず立ち上がったんですよ」と、彼は、いいわけしながら苦笑した。
「いやな曾呂利さんね。そんならんぼうなことをなさると、いつまでも丈夫になれないわ。ねえ、ドクトルさん」
 ドクトルは、看護婦相手に、船員赤石の容体を見守っていたが、
「そうですよ。若い人は、どうもらんぼうをするので、いかんですよ。いくら丈夫でも、人間の体力には、かぎりがある。それをふみこすと、体をこわしてしまう。曾呂利さん、房枝さんのいうのが、ほんとうだ」
 曾呂利は、肘かけ椅子に腰をおろし、たいへんよわった顔で、あたまをかいた。
 そこへ、また電話がかかってきた。看護婦が出ると、こんどは、船長のとこへかかってきたのではない。船長から船医のところへ、かかってきたのである。
「あ、ドクトルだね、たいへんだ。すぐ来てくれたまえ。場所は、第一石炭庫。見つけだした松ヶ谷団長は、顔にひどい怪我けがをしている。そして、なんだか[#「なんだか」は底本では「なんだが」]、様子がへんだ。妙なことを口走っている。うごかせそうもないから、すぐに来てくれたまえ」
 と、船長のこえは、うわずっていた。
 船医は、薬や注射器をもってすぐかけつけると返事をした。そして、看護婦をいそがせて、自分は鞄をもち、看護婦には、洗滌器せんじょうきなどの道具をもたせて、あたふたと、医務室を出ていった。
 あとには、赤石と曾呂利と房枝の三人きりとなってしまった。
 そのとき房枝も、そわそわしていたが、団長の様子が気になるとみえ、彼女もまたそこを出ていった。あとには、赤石と曾呂利の二人きりとなった。
 船員赤石は、死んだようになって、ベッドに寝ている。眼をあいているのは、曾呂利一人だった。
 その曾呂利青年は、しばらくあたりの様子をうかがっていたが、誰も近づく者がないのを見すますと、肘かけ椅子から、すっくと立ち上った。彼の右足は、膝のうえから下を、板切いたきれではさみ、そのうえに、繃帯ほうたいでぐるぐるとまいていて、いかにも痛そうであったが、ふしぎにも、このとき、彼は、室内をすたすたと歩きだしたのであった。そして手をのばして、赤石の倒れていたという疑問の花をつかむと、部屋の片隅にある顕微鏡の前にいった。もしもこのとき、誰かが、この曾呂利青年のあやしい行動を見つけた者があったとしたら、きっと、部屋にとびこんで、このにせ怪我人の曾呂利を、やにわにとりおさえたことであろう。
 彼は、爆薬で黒くよごれた花片はなびらをむしりとると、器用な手つきで、それを顕微鏡にかけて、のぞきこんだのであった。
 数秒間、彼は、石像のようになって、顕微鏡をのぞいていたが、やがて顔をあげると、
「おお、これはたしかに、今大問題になっているBB火薬だ! これはたいへんだぞ」と、思わず、口走くちばしった。
 いよいよ怪しき曾呂利青年だ。
 今や、曾呂利青年の正体は、読者の前に、明らかにされなければならない。曾呂利本馬とは、真赤ないつわり、彼こそは、理学士の肩書のある青年探偵、帆村荘六その人だったのである。
 おお、あの有名な名探偵、帆村荘六。
 彼はなぜか一芸人として、このミマツ曲馬団に加わっていたが、雷洋丸上にしきりに起る怪事件にだまって見ていられず、ひそかに探偵の歩をすすめていたのだった。
 そういうことが分かれば、曾呂利本馬として、これまでにたびたびおかしな振舞ふるまいがあったが、それは探偵のための行動であったのだ。

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