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爆薬の花籠(ばくやくのはなかご)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-25 16:06:33  点击:  切换到繁體中文


   ああ、惨事さんじあと

 房枝は、ニーナたちのとめるのをふりきって邸を出た。それは一刻もはやく、城南じょうなんの惨事のあとへいって、団員たちの様子を見たいためだった。
 房枝が、停留場の方へかけだしていくあとから、ニーナが追ってきた。
「もしもし房枝さん。あたくし、あなたを自動車で送ってさしあげます。自動車で、スピードを出すのが一等早く、向こうへつきます」
 それから、二十数分後に、城南の曲馬団の惨事のある附近まできた。
「ニーナ嬢、すぐかえりますか」
 と、自動車を運転してきたワイコフ医師がいった。
「いいえ、もうすこし、ここにいます。あたくし、房枝さんのこと、心配です」
「では、ここに自動車をおいておくのはまずいから、例のホテルへ車をまわしておきますよ」
 ワイコフ医師は、そういって、急いで、車をまわして立ち去った。
 房枝は、惨事の小屋跡へかけよった。
「こらこら、はいっちゃいかん」
 警官が、房枝の前に、立ちふさがった。
 ニーナが、房枝をかばうようにうしろから抱きとめた。
 しかし警官の肩越しに、惨事の跡がよく見えた。一夜のうちに、こうもかわるものであろうか。目をおおいたい惨状であった。天幕の柱が燃えおちて、ひどく傾いている。天幕の燃えのこりが、泥にそまって、地上に散らばっている。火事は全焼とまではいかず、八割ぐらいの火災で、二割がたは焼けのこっていた。だが焼けのこっているものも、どれ一つ満足なものはなかったのである。
「だって、あたし、ミマツ曲馬団のものなんですのよ。ゆうべ、団長の黒川さんが、丸ノ内で負傷したので、それを介抱かいほうして、ここにはいなかったんですの。新聞をよんで、いそいで様子を見に戻ってきたんですわ」
 房枝は、けんめいになって、事情を説明した。
「なんだって、ミマツの団員で、ゆうべ、ここにいなかったというのか。おお、それは逃がさんぞ」
 警官は、房枝の手を、しっかりつかまえた。
「お前の名は、なんというのか」
「房枝ですわ」
「房枝? そしてこっちの西洋人は?」
「あたくし、ミマツ曲馬団に関係ありません。房枝さんを車にのせて、ここまでとどけたのです」
 ニーナが、こたえた。
「いいわけはあとにして下さい。だれであっても、一応しらべなければ、ゆるせません」
 警官が手をあげたので、附近にいた警官たちが、応援のため、ばらばらとかけつけてきた。そして房枝とニーナとは、いやおうなしに、捕りおさえられてしまった。
「こっちへきなさい」
 ニーナは、怒るかと思いのほか、あんがい平気であった。そして、惨事の現場げんじょうを、めずらしげにしきりに眺めていた。
 房枝の方は、そんなに落ちついていられなかった。散らばったのぼり破片はへん、まだぷすぷすといぶっている木材、なにを見ても胸がせまる。生きのこった団員は、どこにいるのであろうか。その姿が見えない。そしてこの惨事のほんとうの原因は何であったのか。
 二人は、警官のため、前後をまもられて、その場を引立てられていったが、そのとき、ばたばたと駈けてきた男があった。
「おお、房枝さんですね。いつ、ここへかえってきたのですか」
 そういった男は、外ならぬ帆村であった。
「ああ帆村さん。あたし、今ここについたところよ。皆さんのことが心配になって、焼跡へいってみようと思ったら、この警官の方におしもどされたのよ」
 警官は、帆村の顔と房枝の顔とを見くらべて、
「おや、帆村さん。この女を知っているのですか」
「知っていますとも、これはこのミマツ曲馬団の花形で、房枝さんという模範少女ですよ」
「ほ、やっぱりほんとうでしたか。私は、こいつはあやしいやつだと思いましてね。しかし、団員とあれば、他の団員も全部、警察におさえてあるのですから、やっぱりこの女、房枝といいましたかな、この房枝嬢も、連れていかなければなりません」
 帆村は、うなずき、房枝の方を向いて、
「房枝さん、このミマツ曲馬団の火事には、いろいろうたがいがあるのです。火事を出したということよりも、火事のまえに起った爆発のことが、問題になっているのです。あなたも知っていることを、みんな警官に話してくださいよ」
 と、注意を与えた。
「そうだ、帆村君のいうとおりだ」
 部長の服をきた警官は、大きくうなずいて、
「房枝さん、あなたは、きっと知っているだろう。新聞には、ガソリンの樽がどうとかしたと書いてあるが、われわれは、そんなことを信じていない。どんな爆発物があったか、それを話してください」
 帆村が来てくれたので、房枝に対する警官の態度は、にわかにていねいとなった。
 房枝は、あの花籠のことを、いおうかどうしようかと思い、何の気なしに、ニーナの方をふりかえった。すると、さっきから房枝を見つめていたニーナは、なぜかあわてて目をそらした。

   ひどいさかねじ

「さあ、よくは存じませんが、あたしたちの曲馬団を爆破するかもしれないぞ、という脅迫状がきていたのです」
 房枝は、ありのままをいった。そしてバラオバラコという名前のあった、その脅迫状のことをいった。
「その手紙を今持っていますか」
「いいえ、持っていません」
「どこにあるのですか。ぜひ見たいものだが。ねえ、部長さん」
 と、帆村は、警官をふりかえった。
「そうだ、手紙を見れば、また手がかりもあるはずだ。その手紙はどうしたのですか」
「黒川団長が持っているはずです。団長さんは、ゆうべ重傷を負い、いまニーナさんのお邸でやすませていただいているのですわ」
「えっ、ニーナさんの邸?」
 帆村は、そういって、ニーナの顔を仰いだ。
「そうです。あたくし、房枝さんと黒川さんとを助けました。ゆうべからけさまで、あたくし、いろいろ介抱しました。黒川さん、だいぶん元気づきましたが、まだうごかすことなりません」
「ほう、すると、ニーナさんは、ゆうべ黒川氏を助けてからのちは、一歩も外に出なかったのですか」
「そのとおりです。なぜ、そんなことを、たずねますか」
「いや、ちょっとうかがってみたのです。では、師父のターネフさんは、やはり邸にずっといられましたか。もちろん、ゆうべ、あなたがたが、房枝さんたちを助けて、邸に戻られてからのちのことをいっているのですが」
「ああ、師父ターネフですか。ターネフは、どこへも出ません。ゆうべは、ずっと邸にいました」
「あらっ、そうかしら」
 房枝は、ニーナのことばにあやまりがあるように思った。けさがたターネフを見かけたが、ターネフは疲れたような顔をしており、どこを歩いたのか、靴は泥だらけであったようにおぼえている。
「房枝さんは、師父ターネフが邸にいなかったことを知っているようだな」
「いえ、そんなこと絶対にありません。ターネフは、ずっと邸にいました」
 ニーナは房枝に代って、ターネフが邸にいたといいはった。
 部長が、なにかいおうとしたが、そのとき帆村が、それと目くばせをしたので、部長はなにもいわなかった。
「じゃあ房枝さんも、ニーナさんもとにかく一度向こうへいって、捜査本部の方の質問に、こたえられたらいいでしょう」
 帆村は、別れのあいさつのかわりにそういった。
「あら、帆村さん。あたしを助けてはくださらないのですか」
 房枝は、不服ふふくそうにいった。
「いや助ける助けないも、警官のいうところに従われたがいいでしょう。なにしろ、東京のまん中に原因不明の爆破事件が起るなんて、物騒ぶっそうなことですからね。当局はこういう方面のことについては、たいへん警戒をしているのです。知っていることはなんでも正直に話されたがいいでしょう」
 帆村探偵のことばは、房枝にとって、なんだかひややかに聞こえた。
「房枝さん、元気をお出しなさい」
 とニーナが、かえって房枝をなぐさめた。
「ええ、ありがとう」
 ニーナは、房枝の肩に手をかけて、
「房枝さん。警官たちは、あなたを不必要にくるしめています」
「な、なにをいう」
 若い警官が、ニーナを叱りつけた。それは、始めに彼女たちをとりおさえた若い警官だった。
「あたくし、いいます」と、ニーナは、胸をはっていった。
「この爆破事件の容疑者は、すでにあなたの手にらえられているではありませんか。そのうえに、房枝さんをうたがうのはいけません」
 ニーナは、妙なことをいいだした。
「なにッ!」
「あたくし、よく知っています。トラ十というあやしい東洋人が、あなたがたの手に捕らえられたはずです」
「えっ、それを知っているのか。どうして」
「そのあやしい東洋人トラ十は、ミマツ曲馬団の爆破が起って間もなく、三丁目の交番を走りぬけるところを、警官にとらえられましたのです」
 おどろいた。全くおどろいた。警官たちも、帆村もニーナのことばには、おどろいてしまった。
「ニーナさん。あなたは、なぜそんなことを御存じなんですか。どこから知ったか、こたえてもらいましょう」
「ほほほほ。あたくし、公使館の人から聞きました。日本中のこと、なんでも、すぐわかります」
「えっ、公使館の人? とにかく、向こうへいって、もっとくわしく聞きましょう。さあニーナさんも、向こうへ歩いてください」
「いやです」
 ニーナは、首をつよくふった。
「あたくしは、もうかえります」
「いや、かえることはなりません」
「いいえ、あたくし、あなたのような警官に自由をしばられるような、わるいこと、しません。あなた、たいへん無礼です。そんなことをすると、わが公使館は、だまっていません。むずかしい国際問題になります。それでもよろしいですか」
「うむ」
「ほほほ、あたくし、邸にいます。逃げかくれしません。話あれば、公使館を通じて、お話なさい。ほほほほ」
 ニーナは、勝ちほこったように、警官たちの顔を見おろした。ニーナをおさえようとすればおさえられるが、こんな小さいことで、国際問題を起しては申訳ないと、このうえニーナをとめることを断念した。
 だが、後日になって、メキシコ公使館へ連絡をしたところ、公使館では、ターネフやニーナはメキシコ人ではないから、公使館では、彼らのことで責任はおわないと明言した。が、そのときはもう、あとの祭だった。
 それはさておき、ニーナは、にんまりと嘲笑ちょうしょうをうかべたのち、こんどは房枝の手をとって、
「ねえ房枝さん。曲馬団だめになっても、あたくし、あなたを保護します。あたくしの邸へおいでなさい。そのうちお迎えにきます」といった。
「はあ、ありがとうございます」
 房枝は、ほんとうに、感謝しているらしい。ゆうべからのニーナの親切が身にしみているからそういったのだろうが、それでいいのか。
 そばで、帆村は、唇をかみながら、もくもくとして、ふかい考えにおちている。

   仮面かめんを取れば

 うつくしいニーナ嬢は、ワイコフ医師の操縦する自動車にのって、邸へもどった。
 玄関をはいって、大広間でガウンをぬいでいると、階段の上から師父ターネフが、いそいで下りてきた。
「おおニーナ。いまごろまで、なにをぐずぐずしていたんだ。下手へたなことをやったんじゃないかと、わしは気が気じゃなかったぞ」
 ターネフは、いつになく、落着をうしなっていた。
「だって、あなたから命じられた、偵察任務をおえるまでは、現場を引あげるわけにはいかないではありませんか」
 偵察任務と、ニーナはいった。房枝は、ニーナが、親切にも自動車で、現場までおくってくれたのだと思っていたが、そうばかりでもなく、ニーナは、偵察にいったのだという。
「ニーナ、二階へ来い」
 ターネフは、そういって、また階段をそそくさと、上へあがっていった。ニーナは、ワイコフ医師にガウンをなげつけるようにして、師父のあとを追った。
 二階に、ターネフの占領している広い部屋があった。南向きの窓からは、例の花畠が一目で見おろせる。
 ターネフは、安楽椅子あんらくいすに、どっかと身をなげかけた。その前に小さいテーブルがあって、酒のびんさかずきとソーダ水の筒とがのっている。ターネフは、およそ師父らしくない態度で、足をくみ、そして、酒のはいったコップをとりあげると、ぐーっとあおった。
「おい、ニーナ。お前は、もっと、用心ぶかく、そしてもっと、すばしこくやってくれないと困るよ。こっちの正体を、相手にかぎつかせるようでは、役に立たない」
 ターネフは、きゅうくつな師父ターネフの仮面をかなぐりすてて、ターネフ首領をむきだしにしている。前にトラ十がずばりと指したように、ターネフは世界骸骨化本部がいこつかほんぶから特派された極東首領であり、ニーナは、そのめいでもなんでもなく、彼の部下の一人であったのである。
「バラオバラコの名で、房枝と黒川とを、うまく丸ノ内へつれだす計画だって、お前の不注意のため、トラ十にかぎつけられたんだ。そして、あべこべに、われら二人が、トラ十のために逆襲され、ぐるぐるまきにされて、自動車の中へとじこめられたときには、わしは腹が立って、気が変になりそうだった」
 ターネフは、さかんにこぼすのだった。この話によってみると、バラオバラコは、ターネフとニーナのことであることがわかる。そして又、トラ十がとつぜん房枝たちをおそったわけもわかる。
 ニーナは唇をかんでいたが、このとき急に顔をあげ、
「あたくしばかりお責めになっては、不服ですわ。あなただって、ずいぶんまずいことをなさいましたわ」
「そうでもない」
「だって、そうですわ。けさ、現場からこの邸へおかえりになったところを、房枝に見つけられたことに気がついていらっしゃいませんの。現場で房枝を訊問じんもんした帆村探偵は、それをちゃんと悟ってしまったようですわ」
「えっ、そんなことがあるものか。探偵は、わしが、爆発事件の犯人だといったのかね」
「そこまで、はっきりいいませんが、部長の警官が『ターネフはあやしい、よくしらべなければ』といおうとするのを、あの探偵は、すばやくとめたんです。あなたにゆだんをさせておいたところを、ぴったりとおさえるつもりだと、あたしにらんだのですけれど。あなたは現場で、なにかまずいことをおやりになったのではないのですか」
「うむ」
 と、ターネフは、まゆを八字によせ、
「じつは、ちょっとまずいことをやってきたんだ」
「ああ、やっぱり、そうなのね」
「それを、ごまかそうと、いろいろやっているうちに、時間をとってしまったんだ。だが、まず警官たちに気づかれることはないと思うが」
「思うが、どうしたんですか」
「うむ、万一、気がつかれたら、わしは日本の警察官に対し、あらためて敬意を表するよ。とにかく、トラ十をあそこへひっぱり出したところまでは、実にうまく筋書どおりにいったんだがなあ」
 そういって、ターネフ首領は、いまいましそうに舌打をした。
「万一、ここで分かってしまったら、かんじんの大仕事が出来なくなるではありませんか」
「ああ、そのこと、そのこと。じゃあ仕方がない。もう猶予ゆうよはできないから、わしは荒療治あらりょうじをやることにしよう。お前はわしとは別に、房枝をうまく丸めて、例の計画をすすめるのだ」
「ええ、あの子のことなら大丈夫、ワイコフさんも、手を貸してくれることになっていますわ」
 ターネフ首領、ニーナ嬢との密談は、近くなにか更に大事件をおこそうとしていることがうかがわれる。彼らは、いったい何をねらっているのであろうか。どんな陰謀を考えているのであろうか。しかもその日は遠くないようだ。気にかかる!

   いまわしいうたが

 ニーナは現場から大手をふって、かえっていったが、房枝の方は、そこにとめておかれて、捜査本部の取りしらべをうけた。
 帆村探偵も、そばにいて、房枝の答えることをじっときいている。
「ニーナさんは、親切な方ですわ。あの方をあやしむのはまちがいだと思います」
 房枝は、どこまでも、ニーナを弁護しているのだった。
「じゃあニーナのことは、それくらいにして、トラ十こと丁野十助のことだが、あいつは、ミマツ曲馬団へも一度雇われたいとたのんで来たのではなかったかね」
 若い検事が、きびきびと質問をする。
 房枝は、かぶりをふって、
「いいえ、そんなことを聞いたことはございませんわ。トラ十さんは、雷洋丸らいようまるにのっているとき会ったきりで、こんど内地へかえってきてからは、丸ノ内のくらやみで会うまでは、まだ一度も会ったことがございません」
「ふーん。それは本当かね。まちがいないかね。トラ十は、ミマツ曲馬団きょくばだんへもう一度雇われたいと思って、いくどもたずねていったといっている。そのために、トラ十は、郊外のある安宿に、もう一週間もとまっているといっているぞ。本当に、トラ十が曲馬団をたずねていったことはないか」
「さあ、ほかの方ならどうか存じませんけれど、あたしにはおぼえがございません」
「それなら、もう一つたずねるが、トラ十以外の者で、誰かこのミマツ曲馬団に対してうらみを抱いていた者はないか」
「あのう、バラオバラコの脅迫状のことがありますけれど」
「バラオバラコのことは、別にしておいてよろしい。そのほかにないか」
「ございません。ミマツ曲馬団は、皆さんにたいへん喜ばれていましたし、団員も、収入がふえましたので、大喜びでございました。ですから、ほかに恨をうけるような先は、ございませんと存じます」
「そうか。取りしらべはそのくらいにしておきましょう」
 検事は、そういって、警官たちと、ひそひそとうちあわせを始めた。
「どうだ。もうこのくらいでいいだろう。トラ十をもっとしらべあげることにしよう」
「それがいいですね。そして、山下巡査が見つけた沼地についた大きな足あとが、トラ十の足あとであるという証明がつけばいいんですがねえ。あそこのところが合うように持ってきたいものですなあ」
「まあ、そのことは、後にするがいい」
 と検事は、おしとめて、こんどは帆村の方に向き、
「おい帆村君。君は何かこの娘に聞きたいことはないか。許すから何でも聞いておきたまえ」
「はあ、それでは、ちょっと」
 と、さっきから黙っていた帆村が、房枝の方へ向き直った。房枝は、帆付から何をきかれるのかと、ちょっとはずかしくなった。
「ちょっとうかがいますが」
 と、帆村は、意外にも、かたい顔を房枝の方に向け、
「あなたは、ミマツ曲馬団の誰かを殺害さつがいしようという計画をもっていたのではないですか」
「えっ、なんとおっしゃいます?」
 帆村の問は、房枝をおどろかせたばかりではない。検事はじめ警官たちも、その問にはおどろいてしまった。それは房枝を爆破事件の犯人として疑っているようにも聞える質問だったから。
「じゃあ、もう一度いいます。あなたは、ミマツ曲馬団の誰かを殺害する考えがあったのではないですか」
「まあ、帆村さん、あまりですわ。と、とんでもない」
 房枝は、肩をふるわせて叫んだ。
 帆村は、なぜとつぜん、こんなことをいいだしたのであろうか。ならんでいる警官たちの目が、一せいに帆村の顔にうつる。
「あなたは、そういう考えのもとに、爆発物を、曲馬団のどこかに仕掛けておき、そしてあなたは、自分の体を安全なところへ移すため、丸ノ内へ出掛けていったのではないですか。一人でいくのは工合がわるいから、黒川新団長をさそっていった」
「まあ、待ってください。帆村さん。あたくしが、そんな人間に見えまして、ざんねんですわ」
 房枝は、すすり泣きをはじめた。しかし帆村は、一向動じないかたい表情で、
「だから、バラオバラコの脅迫状も、実は、あなたが自分で作ったものであると、いえないこともない。あなたが安全な場所へ出かける口実を作るため、自分で脅迫状を出したのではないのですか」
「あ、あんまりです。あんまりです」
 と、房枝は、とうとう泣きくずれてしまった。
 それを見かねたものか、検事は、
「おい帆村君。その点は、われわれももちろん考えてみたが、この娘は、それほどの悪人ではなさそうだ。われわれもそのことについてはうたがっていないのだから、それでいいではないか」
「はい、それではどうぞ」
 帆村は、かるくおじきをして、後へ下った。
 房枝は、くやしくて仕方がなかった。帆村探偵は、りっぱな青年だと思っていたのに、なんというひどいことをいう人であろう。あろうことかあるまいことか、自分を殺人犯だとうたがうなんて、そんな仕打があるであろうかと、日頃の好意が、すっかり消しとんでしまった。
 帆村は、ただ沈痛ちんつうな顔をしている。彼の胸の中には、他人にいえない何かのなやみがひそんでいるもののようであった。

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