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蠅(はえ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-25 15:56:18  点击:  切换到繁體中文



   第六話 雨の日の蠅


(妻が失踪しっそうしてから、もう七日になる)
 彼は相変あいかわらず無気力な瞳を壁の方に向けて、待つべからざるものを待っていた。腹は減ったというよりも、もう減りすぎてしまった感じである。胃袋は梅干大うめぼしだいに縮小していることであろう。
 妻を探しにゆくなんて、彼には、やりとげられることではなかった。外はどこまでも続いた密林、また密林である。人間といえば彼と妻ときりしか住んでいない。食いつめて、しいたげられて、ねじけきって辿たどりついたこの密林の中の荒れ果てた一軒家だった。主人のない家とみて今日まで寝泊りしているのだった。
 失踪した妻を探しにゆく気力もなかった。それほど大事な妻でもなかった。結局一人になった方がしあわせかもしれない。しかし、倖なんておよそおかしなものである。腹の減ったときに蜃気楼しんきろうを見るようなもので、なんの足しになるものかと思った。
 陽がうっすらとさしていたのが、いつの間にやら、だんだんと吸いとられるように消えていった。そしてポツポツ雨が降ってきた。密林の雨は騒々そうぞうしい。木の葉がパリパリと鳴った。
 丸太ン棒を輪切りにして、その上に板をうちつけた腰掛の下から、一陣の風がサッと吹きだした。床に大きな窓が明いているのであった。とたんにどッと降りだしたしのをつくような雨は、風のために横なぐりに落ちて、窓枠まどわくをピシリピシリと叩いた。密林がこの小屋もろとも、ジリジリと流れ出すのではないかと思われた。
 流れ出してもよい。すべて天意のままにと彼は思った。
 雨は、ひとしきり降ると、やがて見る見るいきおいを失っていった。そしてあたりはだんだん明るさが恢復かいふくしていった。風もどこかへ行ってしまった。
 やがてまたホンノリと、薄陽うすびがさしてきた。彼はまだ身体一つ動かさず、破れた壁を見詰みつめていた。雨があがったら、どこからか妻がキイキイ声をあげながら、小屋へ駈けこんでくるように感じられた。だがそれは、いつもの期待と同じように、ガラガラとくずれ落ちていった。いつまでたってもキイキイ声はしなかった。
 壁を見詰めている彼の瞳の中に、なんだかこう新しい気力きりょくが浮んできたように見えた。壁に、どうしたものかたくさんの蠅が止まっている。一匹、二匹、三匹と数えていって、十匹まで数えたが、それからあとはいやになった。十匹以上、まだワンワンと居た。
(どうして蠅が、こう沢山居るのだろう)
 彼はようやく一つの手頃な問題にとりついたような気がした。別にけなくともよい。気に入る間だけ、舌の上にせた飴玉あめだまのように、あっちへ転がし、こっちへ転がしていればいいのだ。さて、蠅がどうしてこんなに止まっているのか。
(ウン、そうだ……)
 そうだ。蠅はさっきまで一匹も壁の上に止まっていたように思われない。蠅が急に壁の上にえたのは、先刻さっき豪雨ごううがあってから、こっちのことだ。
(そうだ。雨が降って、それで蠅が殖えたのだ。どうして殖えたのだ?)
 窓には硝子板ガラスいたなんてものが一枚も入っていなかった。板で作った戸はあったけれど、閉めてなかった。この窓から、あの蠅が飛びこんできたのに違いない。しかし飛びこんでくるとしても、このおびただしい一群の蠅が押しよせるなんて、彼がこの小屋に住むようになった一年この方、いままでに無いことだった。
(なぜ、今日に限って、この夥しい蠅の一群が飛びこんで来たのだ。どこから、この夥しい蠅が来たのだ)
 彼の眼は次第に険悪けんあくの色を濃くしていった。
 どこから来たのだ、この夥しい蠅群は!
「ああッ。――」
 と彼は叫んだ。
「この蠅が来るためには、この家の外に、なにか蠅が沢山たかっている物体があるのだ。雨が降って――そして蠅が叩かれ、あわててこの窓から飛びこんできたのだ。そうだそうだ、それで謎は解ける!」
 彼は爛々らんらんたる眼で見入みいった。
(だが、その蠅のおびただしくたかっている物体というのは、一体なにものだったろう)
 彼は急に落着かぬ様子になって、ブルブルと身体をふるわした。両眼はカッと開き、われとわが頭のあたりにワナワナとふるえる両手をからみつけた。
「ああッ。――ああッ、あれだッ。あれだッ」
 彼は腰掛から急に立ち上った。くぎをうったように棒立ちになった。ひどい痙攣けいれんが、彼の頬にいのぼった。
「妻だ。妻の死体だッ」彼の声はみにく皺枯しわがれていた。「妻の死体が、すぐそこの窓の下にまっているのだ。それがもう腐って、ドンドン崩れて、その上に蠅がいっぱいたかっているのだ。……先刻の雨に叩かれて、そこにいる蠅の一群が、窓から逃げこんできたのだ。ああ、妻の死体をめた蠅が、そこの壁の上に止まっている!」
 彼は後退あとずさりをすると、背中を壁にドスンとぶつけた。
「……で、その妻は、一体誰が殺し、誰がそこに埋めたのだろうか」
 彼は土の下で腐乱ふらんしきった妻の死体を想像した。いまの雨に、その半身はんしんが流れ出されて、土の上に出ているかもしれないと思った。
「殺したのは誰だ。この無人境むじんきょうで、妻を殺したのは誰だッ」
 そのとき、入口のドアがコツコツと鳴った。誰かがノックをしているのだ。
「あワワ……」
 彼は身をひるがえすと、部屋の隅に小さくなった。まるで蜘蛛くもの子が逃げこんだように。
 コツ、コツ、コツ。
 又もや気味の悪い叩音ノックが聞える。
 彼は死んだようになって、息をころした。
 そのとき扉の外で、ガチャリと音がした。鍵の外れるような音であった。そしてイキナリ、重い扉が外に開いた。その外には詰襟つめえりの制服にいかめしい制帽を被った巨大漢きょだいかんと、もう一人背広を着た雑誌記者らしいのとが肩を並べて立っていた。
「これがその男です」と、制服の監視人が部屋の中の彼を指して云った。「妻を殺して、窓の外にその死体を埋めてあるように思っている患者です。この男は何でも前は探偵小説家だったそうで、窓から蠅が入ってくると、それから筋を考えるように次から次へと、先を考えてゆくのです。そして最後に、自分が夢遊病者むゆうびょうしゃであって、妻を殺してしまったというところまで考えると、それで一段落いちだんらくになるのです。そのときは、いかにも小説の筋が出来たというように、大はしゃぎにねまわるのです。……強暴性の精神病患者ですから、この部屋はこれまでに……」

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