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蠅(はえ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-25 15:56:18  点击:  切换到繁體中文



   第二話 極左きょくさの蠅


 その頃、不思議な病気が流行はやった。
 一日に五六十人の市民が、パタリパタリと死んだ。第十八世に一度姿を現わしたという「赤き死の仮面」が再び姿をかえて入りこんだのではないかと、都大路みやこおおじは上を下への大騒動だった。
「きょうはこれで……六十三人目かナ」
 死屍室しししつから出て来た伝染病科長は、廊下に据付すえつけの桃色の昇汞水しょうこうすいの入った手洗の中に両手をけながら独り言を云った。そこへ細菌科長が通りかかった。
「おい、どうだ。ワクチンは出来たか」
「おお」と細菌科長は苦笑にがわらいをしながら足を停めた。「駄目、駄目、ワクチンどころか、まだ培養ばいようできやせん」
「困ったな。今日は息を引取ったのが、これで六十……」
 と云おうとしたところへ、ふとっちょの看護婦がアタフタ駈けてきた。
「先生、すぐ第二十九号室へお願いします。脈が急に不整ふととのえになりまして……」
「よオし。すぐ行く」といって再び細菌科長の方を振りかえり、「今日はレコード破りだぞ。こんどが六十四人目だ」
「……」
 二人は反対の方角に、急ぎ足で立ち去った。
 入れかわりに、廊下をパタパタ草履ぞうりを鳴らしながら、警視庁の大江山おおえやま捜査課長と帆村ほむら探偵とが、肩を並べながら歩いて来た。
「……だから、こいつはどうしても犯罪だと思うのですよ、課長さん」
「そういう考えも、悪いとは云わない。しかし考えすぎとりゃせんかナ」
「それは先刻さっきから何度も云っていますとおり、私の自信から来ているのです。なにしろ、病人の出た場所を順序だてて調べてごらんなさい。それが普通の伝染病か、そうでないかということが、すぐわかりますよ。普通の伝染病なら、あんな風に、一つ町内に出ると、あとはもう出ないということはありません」
「しかし伝染地区が拡がってゆくところは、伝染病の特性がよく出ていると思う」
「伝染病であることは勿論もちろんですが、ただ普通じゃないというところが面白いのですよ」
 二人の論争が、そこでハタと停った。彼の歩調もゆるんだ。丁度ちょうど二人が目的の部屋の前に来たからである。黒いうるしをぬった札の表には、白墨はくぼくで「病理室」と書いてあった。
 ノックをして、二人は部屋のドアを押した。
「やあ――」
 と暗い室内から声をかけたのは、花山医学士だった。彼は待ちかねたという面持おももちで、二人を大きな卓子テーブルの方へ案内した。そこには硝子蓋ガラスぶたのついたかさばこが積んであった。
「このとおりです。みんな調べてみました」
 硝子箱の中には、沢山の白い短冊型たんざくがたの紙がピンで刺してあった。そして大部分は独逸文字ドイツもじで書きうずめられてあったが、一部の余白みたいなところには、アラビア・ゴムで小さい真黒な昆虫が附着していた。どの短冊もそうであった。
 それは蠅以外の何物でもなかった。
「結果は如何でした」
 と帆村探偵が、頬を染めながらいた。
「大体を申しますと、この蠅の多くは、家蠅いえばえではなくて、刺蠅さしばえというやつです。人間を刺す力を備えているたった一種の蠅です。普通は牛小屋や馬小屋にいるのですが、こいつはそれとはすこし違うところを発見しました。つまり、この蠅は、自然に発生したものではなくて、飼育されたものからかえったのだということが出来ます」
「すると、人の手によって孵されたものだというのですね」と帆村がきかえした。
「そういうところです。なぜそれが断言だんげんできるかというと、この蠅どもには、普通の蠅に見受けるような黴菌ばいきんを持っていない。極めて黴菌の種類が少い。大抵たいていなら十四五種は持っているべきを、たった一種しか持っていない。これは大いに不思議です。深窓しんそうに育った蠅だといってよろしい」
「深窓に育った蠅か? あッはッはッはッ」と捜査課長が謹厳きんげんな顔を崩して笑い出した。
「その一種の黴菌ばいきんとは、一体どんなものですか」と帆村は笑わない。
「それが――それがどうも、珍らしい菌ばかりでしてナ」
「珍らしい黴菌ですって」
「そうです。似ているものといえば、まずマラリア菌ですかね。とにかく、まだ日本で発見されたことがない」
「マラリアに似ているといえば、おお、あいつだ」と帆村はサッとあおざめた。「いま大流行の奇病の病原菌もマラリアに似ているというじゃないですか。最初はマラリアだと思ったので、マラリアの手当をして今になおると予定をつけていたが、どうしてどうして癒るどころか、癒らにゃならぬ日には、その病人の息の根が止まっていた。では、あの蠅の持っている黴菌ばいきんというのが、あの奇病を起させたのじゃないですか」
 医学士は黙っていた。その答えは彼の領分りょうぶんではなかったから。
 大江山捜査課長も黙っていた。目の前に現われた事実が、帆村の予言したところと、あまりによく一致して来たので。
「さあ大江山さん」と帆村は捜査課長をうながした。「これから、あの蠅を採取した地区を探してみるのです。もっと大胆な推定を下すならば、犯人は沢山の蠅を飼育し、その一匹一匹に病原菌を持たせて、市民に移していったのです。犯人は、あの奇病の流行した地区の幾何学的きかがくてき中心附近に必ず住んでいるに違いありません。さあ行きましょう。行って、その間接の殺人魔をとらえるのです」
 二人は病理学研究室を飛び出すと、すぐに自動車を拾った。いわゆる奇病発生地区の幾何学的中心地が、帆村の手で苦もなく探し出された。
 二人が、チンドン屋の寅太郎とらたろうという、いつも手甲てこう脚絆きゃはん大石良雄おおいしよしおを気取って歩く男を捉えたのは、それから間もなくの出来ごとだった。その寅太郎のついに自白したところによると、彼こそまさしくその犯人だった。極左の一人として残る医学士の彼が、蠅に黴菌を背負わして、この恐ろしい犯行を続けていたことが明かになった。ねじけた彼にとって、市民をやっつけることは、またとないよろこびだったのだ。彼が丹精たんせいして飼育したその毒蠅は、チンドンと鳴らして歩くその太鼓たいこの中にウジャウジャ発見された。彼が右手にもったばちで太鼓の皮をドーンと叩くと、胴の上に設けられてある小さいあなから、蠅が一匹ずつ、外へ飛び出す仕掛けになっていた。
 彼の検挙によって、例の奇病が跡を絶ったのは云うまでもない。

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