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特許多腕人間方式(とっきょたわんにんげんほうしき)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-25 15:49:21  点击:  切换到繁體中文


      2

 ×月×日 晴。
 午前十時、田村町事務所へ出勤。
 きょうは、いよいよ、依頼者田方堂十郎氏のために、三本腕の発明の明細書を書く決心であった。
 机に向かって、ペンを取ったが、どうも気が落着かない。きのう懐に入った百円紙幣が、服を通して、はっきり輝いているような気がして、恥かしい。それに給仕の高木がそれを察して、背後の席で、にやにや笑っているように思えて、さらに落着けない。
「おい高木。これをやるから、映画でも見て来い。見てしまったら、あとは帰ってもいいぞ」
 高木を追払ってしまうと、余は、事務所の入口に、内側から鍵をかけた。もうこれで、誰も邪魔をしないであろう。余は、そこで百円紙幣を出して、机の上に置いた。この百円紙幣と、話をしながら、依頼の件について出願用の明細書を書こうというのであった。
「本願の、発表の名称は、どうしますかね」
「そうですわね、三本腕方式は、いかがでしょうかしら」
「三本腕方式ですか。いいですねえ。ええと。三本腕方式と」
 余は、そのように書きつけた。
「さて、その次は、その三本腕を、どこに取り付けるか、つまり取り付けの場所のことですが、なにか名案はありませんか」
「そうですね、まず、あなたから、先におっしゃってください」
「そうですね、臍の上はいかがでしょう。臍の上に、第三の腕を取りつけるのです。臍は、身体の中心ですからね。釣合の上では、そこへ取り付けるのが、一等いいと思います、かなり重い荷物をもつにも、そこにあるのが便利だと思います」
「あたくしは、臍の上に植えるのは、反対でございますわ。お嬢さんがたに植えた場合を、ちょっとご想像なさいませ、あまり美的ではございませんわ」
「もちろん、美的ではありませんが、一つは見慣れないせいですよ。見慣れると、それほどおかしくないと思いますが……」
「感心しませんねえ。それよりも、あたしくは、背中に取り付けてはいかがと思いますの。いったい人間は、背中の方に目がございませんためか、背中の方をいっこう使えませんが、それはどうも無駄をしているように思います。そこで、背中に第三の腕を取り付けまして、背面を活用いたします。そして、その第三の腕のつけ根は、他の二本の腕と同じ水平的高さに選ぶのが、力学的になっていいと思いますわ。荷物を持つのには、たいへん便利でいいと思いますのよ」
「それよりも、第三案として、両脚のつけ根のところは、どうでしょうか。ちょっと三本脚になったように見えますが、カンガルーや、尾長猿などは、太い尻尾をたいへん巧みにつかえますねえ、あのように活用するといいと思いますよ。両手に荷物をもって、夜道などするときは第三の腕で、懐中電灯をもちます」
「まあ、このへんのところでございましょうね。とにかく、第一案乃至第三案の、どれもが実現出来るように最小公倍数的な『特許請求範囲』をお書きになったら、いいじゃありませんか」
「そうですねえ。では、そうしましょう。どうも、ありがとうございました」
 というわけで、余は百円紙幣と、問答の末、ついに、特許請求範囲主文を、次のように拵えた。

  特許請求ノ範囲
本文ニ記載ノ目的ニ於テ、本文ニ詳記シ且別紙図面ニ付説明セル如ク、略ボ腕ト等効ナル動作ヲナス機械腕ヲ、腕関節ノ運動ト無関係ナル如キ身体ノ部位ニ取付ケ、従来ノ二本ノ腕ト共ニ、少クトモ三本ノ腕ヲ保有操作シ得ルコトヲ特徴トスル多腕人間方式。


 これでいい。
 発明者田方堂十郎氏は、人間が三本の腕を持つことだけしかいっていかなかったが、余は、『少クトモ三本ノ腕ヲ保有操作シ得ル云々ノ多腕人間方式』と書いて、その特許を使えば、三本腕はもちろんのことその範囲だし進んで四本腕、五本腕、六本腕と、いくらでも腕が殖やせるようにも、特許範囲を拡大した。ここらが、弁理士の腕前である。
 なお、この次に、『附記』として、第一項、第二項、第三項を設け、腕の取り付け個所につき例の第一案乃至第三案を並べたものである。これで金城鉄壁である。
 余は、もう一度読みかえすと、それをタイプライター学校へ持って行って、至急叩いてくれるように頼み、その足で、製図商会へいって、三本腕の製図を依頼して来た。

      3

 ×月×日 晴後曇。
 本日『多腕人間方式』の出願書類を麹町三年町の特許局出願課窓口へ持参し、受付けてもらった。これで、あとは、審査官の出様を待つばかりである。
 今、特許局は、人手不足であるから、審査の済むのは、明年の春ごろであろう。
 ×月×日 雪。
 午前十時、田村町事務所へ出勤。
 錠をあけて、部屋に入る。
 給仕高木は、ついに辞職した。母親が病気だといっていたが、これは嘘で、本当は軍需工場へ通うことになったらしい。その工場には、日比谷公園のよりも、もっといいブランコがあるのであろう。
 そこで、このごろは、余ひとりで出勤し、余ひとりで掃除もすれば、茶も沸かす。結局この方が、気楽でよろしい。
 外套を脱ぎながら、ふと気がつくと、入口に封筒がおちている。特許局からの通知状だと、一目で分った。
 上を見ると、鉛筆で、『代印デトッテオキマシタ、ビル管理人』と書いてあった。
 一体何事だろうと、余は、急いで封を切った。すると、意外にも、例の『多腕人間方式』について、審査官からの通知書が入っていたではないか。出願してから、まだ三週間にもならないのに、この通知に接するとは、異数のことである。余は、大いによろこんで、その通知書を読んだ。ところが、これは、出願の拒絶理由通知書であったのである。

『本願ハ左記理由ニ仍リ拒絶スベキモノト認ム。意見アラバ来ル×月×日迄ニ意見書ヲ提出スベシ』


 と、あっさり殺し文句があって『左記』のところには、

『本願ノ要旨ハ、義手ヲ人体ニ添架スルニ在ルモノト認ム。然ルニ本願出願以前、帝国領土内ニ於テ、義手或ハ義足ガ公然製造使用セラレタルコトハ、例エバ明治三十九年東京市下谷区御徒町仁愛堂発行ノ「義手義足型録」ニ依リテ公知ノ事実ナリ、仍リテ本願ハ特許法第一条ニ該当セザルモノト認ム』


 と、拒絶理由が述べてあった。
 これで見ると、審査官は、三本腕の要旨を、義手義足の願いと同一視してしまったのである。余は、腹が立った。特許局の役人は、なんという分らず屋であろうか。
 余は、その拒絶理由通知書を机の上に置いたまま、二時間あまり、溜息ばかりついていた。時間が経つに従って、審査官に対する向っ腹は引込んで、だんだんと情けなさが、こみあげて来た。これは、なんとかしないといけない。
 ×月×日 雪なおやまず。
 余は、ついに、審査官に面会を求めた。『多腕人間方式』に関して、審査官の蒙を啓かんものと、特許局の階段を踏みならしつつ、三階まで上って来たのである。
 応接室に待っていると、係りの神谷審査官が、横手の厚い扉を開いて、現われた。審査官は、余の顔を見るより早く、
「どうも君、困るね。この忙しい中を、あんなものを出願して、われわれをからかうなんて、困るじゃないか」
 と渋面を作った。
「いえ、からかうなんて、そんな不真面目な考えはありません。ぜひ、本気でもって、ご審査願いたいのです。早く審査をやっていただいてありがとうございました」
「なんだ、君は本気なのか。いや、それは呆れたものだ。で、今日の用件は、そのことで来たのかね、それとも他の事件で……」
「いえ、あの『多腕人間方式』のことについて、審査官に、もっと認識を深くしていただこうと思いまして、参りました。あれは、義手とは違います。ぜんぜん違うのです」
 と、余は、所信を滔々と披瀝した。
「いやだねえ、君は案外本気なんだね。とにかく、その旨、意見書を出したまえ。僕も、もう一度、考え直してみるから」
 余は、来た甲斐があったと悦び、審査官の後姿を拝みながら、そこを辞去した。
 ×月×日 雪やむ。
 意見書を提出せり。

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