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毒瓦斯発明官(どくガスはつめいかん)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-25 12:56:34  点击:  切换到繁體中文



     3


 博士の例の地下研究所の一室において、白い実験衣じっけんいを着た金博士と発明官燻精くんせいとが向きあっていた。
 二人は、手に手にさかずきを持っている。
 実験台の上には、いろんな形をした洋酒の壜が、所も狭く並んでいる。
 博士は盃を唇のところへ持って行き、黄色い液体を一口ぐっとのんで、後はしばらく唇と舌とをぴちゃぴちゃいわせた。
「……ふーん、どうもおかしい。燻精、お前のんでみろ」
「はい」
 燻精が盃を唇のところへ持っていった。
「はい、のみました。実にこたえられない、いい酒ですなあ」
「そうかね。わしには、それほどに感じないが……」
博士せんせい、それは先生のお身体の工合ぐあいですよ。どこかどうかしていられるのです。糖分とうぶんが出ているとか、熱があるとかでしょう。私には、十分うまいですよ。やっぱりイギリス製のウィスキーだけありますねえ。これは英帝国えいていこくさかんなりし時代の生一本きいっぽんですよ。間違いなしです」
「相当にうるさいね、君は」
「いや、酔払よっぱらったんです。これもこの酒の芳醇ほうじゅんなるゆえです。そこで先生、酒の実験はこのくらいにして、お約束ですから、かねがねお願いしてありました毒瓦斯研究の指導を早速さっそくお始めいただきたいのですが……」
「ふん、毒瓦斯研究の件か」
 博士は何となく不機嫌ふきげんに、盃をがちゃんと台の上に置いて、
「では醤との契約に基き、まさしく履行するであろう。神経瓦斯について講義をする」
「あ、その神経瓦斯というものなら、既にドイツ軍がエベンエマエル要塞戦ようさいせんに使ったということを聞いています。それはもう陳腐ちんぷな毒瓦斯で……」
「ドイツ軍が使ったという話のある神経瓦斯は、一時性いちじせいの神経麻痺瓦斯だ。それをいだベルギー兵は、恍惚こうこつとなって、しばらく何も彼もわからなくなった。もちろん、機関銃の引金ひきがねを引くことも忘れて、とろんとしておった。気がついたときには、そばにドイツ兵がいたというのだ。これは一時性の神経瓦斯だ。一時性では効力がうすい。これに対してわしが考えたのは、持久性じきゅうせいの神経瓦斯だ。これをちょっと嗅ぐと、まず短くても一年間は麻痺している。人によっては三年も五年もつづく。そうなると、その患者はもはや常人として責任ある任務をまかせて置けなくなる。どうだ、すごいだろう」
 博士は、ようやく機嫌をとりかえした。
「それは、生理学からいうと、どんな作用をするのですか」
「つまり、脳細胞を電気分解し、そのゆがみを持続させるのじゃな」
「はあはあ、脳細胞を電解して歪みを持続させる……、それはおそろしいことだ。しかし電解させるというのなら、それは怪力線かいりょくせんの一種ではありませんか。毒瓦斯とはいえないでしょう」
 燻精師長は、さすがに醤の信任があついだけに、するどく博士に突込つっこむ。
「怪力線の如きものでは、ぴりぴりちかちかと来て、相手に知れるから、よろしくない。もっと緩慢かんまんなる麻痺性のものでないといけぬ。わしの作った神経瓦斯は、全然当人に自覚じかくがないような性質のものだ。臭気しゅうきはない、色もなくて透明だ、もちろん味もない、刺戟しげきもない。もちろんく緩慢な麻痺作用を起すものだから、はじめから刺戟を殺してあるのだ。しかもその後いつまでたっても当人は、瓦斯中毒になっているという自覚が起らないのだ。つまり常人じょうにんと殆んど変りない精神状態におかれてあって、しかも脳の或る部分が日と共に完全麻痺におちいる。そうなると、たとえば、にこにこ笑って人と話をしていながら、手に握ったナイフで相手の心臓の真上まうえをぐさりと刺すといったようなことを、一向昂奮こうふんもせず周章あわてもせず、平気でやる。まあ、そういう最も常人らしい狂人に変質させるのが、わしのいう持久性神経瓦斯の効果じゃ。どうじゃな。君もそういう方向のものを考えてみてはどうかな」
「す、すばらしいですなあ」
 燻精師長は、盃を置いて、金博士に抱きついた。
「よせやい、気持のわるい」
 と、金博士は燻精を突き放し、
「さあ、もうそれだけのヒントを与えてやれば、お前は醤のところへ帰って、早速さっそく発明研究を始めていいじゃろう。さあさあ、とくとく醤の陣営へ戻れ」
「はい。では、引揚げましょう。永々ながなが御配慮ごはいりょありがとうございました」
「いやなに、たった十分間の講義だけじゃ。しかしあのウィスキーにペパミント百四十函は、授業料としては至極しごくやすいものじゃ」
「あれだけのおびただしい洋酒をささげても、まだ先生の方が御損ごそんをなさいますか」
「それはそうじゃ。はなはだわしの方が損じゃ。帰ったら醤に、そういっていたと伝えてくれ。しかし神聖なるバーター・システムのちかいの手前、こっちでもぬかりなく按配あんばいしておいたと、あの醤めにいってくれ。さあ、引取るがよろしかろう」
「はいはい承知いたしました」
 燻精には、何やら腑におちかねる点もあったが、今が引揚ひきあげ潮時しおどきだと思ったので、博士をいい加減かげんにあしらった。着換えをすますと彼は博士の前に出て恭々うやうやしく三拝九拝の礼を捧げ、きびすをかえして、部屋をでんとすれば、何思ったか金博士は、急にうしろからめた。
「ああ、お帰りはこちらだ。この狭い廊下をずっといって、やがて突当ると、自動式の昇降機がある。それに乗って一階へ出なさい。すると至極しごく交通に便なところへ出る」
 と博士は、壁のボタンを押し、壁に仕掛けてあった秘密のくぐり戸を開いて、指した。
「ああそれはどうも。こっちに通路があるとは、全く存知ぞんじませんでした」
「こっちは特別の客だけしか通さないんだ。しばらく誰も通さなかったから、顔に蜘蛛くもの巣がかかるかもしれない。手で払いのけながら、そろそろ歩いていきたまえ」
「いや、御親切に、ありがとう」
「どういたしまして。はい、さようなら」
 潜り戸を入った燻精師長のうしろで、ぱたんとドアのしまる音がした。と同時に、博士が扉の向うで、さめざめとすすり泣くような声を聞いたと思ったが……。

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