少年の協力(きょうりょく)
がっちゃん、がっちゃん、がっちゃん。異様(いよう)な顔をした機械人間(ロボット)は、階段をおりきると、谷博士と五人の少年がかたまっているところへ、金属音(きんぞくおん)の足音をひびかせながら近づいた。
少年たちは、目を丸くして、このふしぎな機械人間の運動ぶりを見まもっている。少年たちは、科学雑誌やものがたりで、こういう機械人間のことを読んで知っていて、いつかその本物を見たいとねがっていた。ところが今、はからずもこの研究所の塔の中でお目にかかったものだから、少年たちは、ものめずらしさに機械人間の運動にすいつけられていた。
(すごいなあ!)
(よく動くねえ。人間がからだを動かすのと同じことだ。どんなしかけになっているのかしらん)
(こういう機械人間を一台買って持っていると、いろいろおもしろいことをやれるんだがなあ)
少年たちの頭の中には、思い思いの感想がわきあがっていた。
ところが谷博士の方は、少年たちのように明かるく機械人間(ロボット)をながめてはいなかった。もっとも博士は視力(しりょく)をうしなっているので、見えるはずはなかったが、しかし博士は、見えない目を見はり、両方の耳たぶに手をあてがって、機械人間の発する足音や、動きまわる気配(けはい)に、全身の注意力をあつめて、何事かを知ろうとあせっている様子だった。
博士の顔は蒼白(そうはく)。ひたいには脂汗(あぶらあせ)がねっとり浮かんでいる。耳たぶのうしろにかざした博士の手が、ぶるぶるとふるえている。いや、耳たぶもふるえている。博士のからだ全体がふるえている。博士の息は、だんだんにあらくなっていく。唇がわなわなふるえる。
「……たしかに、わしの作った機械人間にちがいない。だが、ふしぎだ。何者がその機械人間を動かしているのか。制御台(せいぎょだい)のところへ行ってみれば、分かるんだが、ああ、わしは目が見えない」
谷博士は、前に立っている機械人間を、自分の作製したものであると認めたのであった。が、それにつづいて起こった疑問は、目の見えない博士をどんなにいらだたせたかしれない。
博士が、ものをいったので、戸山少年はわれにかえって、博士のそばに寄りそった。
「この機械人間はおじさんがこしらえたのですか。おじさんはえらい技術者なんですね」
「おお、君。わしのため力を貸してくれんか」
博士は、戸山のほめことばに答えず、急に気がついたように少年にそういって、手さぐりで少年の肩をつかんだ。
「ああ、いいです。ぼくたち、よろこんでおじさんのために働いていいですよ。そのかわり、あとで、もっとくわしく機械人間(ロボット)の話をしてください。そしてぼくたちにも、機械人間を貸してください」
「それは、わけないことじゃが――ああ、今はそれどころではない。ただ今、わしの目の前においてふしぎなことが起こっている。そのふしぎの正体を急いでつきとめなくてはならない。君――なんという名まえかね、少年君」
「ぼくは、戸山です」
「おお、戸山君か。戸山君、わしを機械人間の制御台のところへ早くつれていってくれ。おねがいする」
「いいですとも。その制御台というものは、どこにあるのですか」
「この部屋の……この部屋の階段の右手に、奥にひっこんだ戸棚(とだな)がある。そのまん中あたりに立っている横幅(よこはば)二メートル、高さも二メートルの機械で、正面のパネルは藍色(あいいろ)に塗ってある。それが制御台だ」
「ああ、それは、めちゃめちゃにこわれています。まん中と、そのすこし上とに、砲弾(ほうだん)がぶつかったほどの大穴があいて、内部の部品や配線がめちゃくちゃになっているのが見えます。あんなにこわれていてはとても働きませんね」
「うーん、それはたいへんだ。だれがこわしたのかしら。するといよいよおかしいぞ。機械人間(ロボット)は、ひとりで上に動きだすはずはないのだ。いや、待てよ。地階(ちかい)の倉庫(そうこ)に、古い型の制御台が一つしまってあった。あれをだれかが使って、機械人間をあやつっているのかな」
「それなら地階へいってみましょうか」
「おお。すぐつれていってくれたまえ。ここから見えるはずの階段のわきから、地階へおりる階段があるから、それをおりるんだ」
「はい。分かりました。おい羽黒君、井上君。手を貸してくれ。おじさんを両方から支(ささ)えてあげるのだ。……おお、よし。おじさん、さあ歩いてください」
「ありがとう」
一同は歩きだした。
がっちゃん、がっちゃん、がっちゃん。
「あ、あの音は……」
博士は、さっと顔色をかえて立ちどまる。
「おじさん。あの機械人間が、ぼくたちのうしろからついて来ますよ」
「うーむ、ふしぎだ。今まで、あれ[#「あれ」に傍点]はどこにどうしていたのかしらん」
「ぼくらの前に立って、おじさんの話をじっと聞いていたようですよ」
「なに、わたしたちの話を聞いていたというのか、あの機械人間が……」
博士は途中でことばをのんで、少年たちに腕をとられたまま、へたへたと尻餅(しりもち)をついた。
旧式(きゅうしき)の制御台(せいぎょだい)
少年たちは、この谷博士が非常に神経過敏症(しんけいかびんしょう)におちいっているのだと思った。
だから少年たちは、博士を左右から抱(だ)きあげ、いろいろとはげましてようやく博士を立ちあがらせた。
それから一同は、また歩きだして、地階へのおり口の方へ向かった。
機械人間は、あいかわらず、やかましい音をたてて一同のうしろからくっついて来る。
はじめは、おもしろがっていた少年たちも、なんだか気味がわるくなってきた。
博士は、歯をくいしばって、地階へ早くおりたいものと、足を床(ゆか)にひきずりながら進んでいく。見るもいたましい姿だった。
階段をおりていった。
幅のひろい階段は螺旋型(らせんけい)にぐるぐるまわっている。
地階へおりることができた。天井の高い広間がつづいていて、各室は明るく照明されていた。しかし、さっきの爆発は、この地階にもある程度の損害をあたえていた。それは、見とおしのできる通路のところへ、部品や鉄枠(てつわく)などが、乱雑(らんざつ)に散らばっているのでそれと分かる。
博士が心配すると思って、少年たちは、壁にぼっかりあいた穴や、こわれた戸棚(とだな)を見ても、あまり大きなおどろきの声を出さないことにした。
目の見えない博士のいうとおりに、地階の中をあっちに歩き、こっちに歩きして、ついに探しているものの前に出ることができた。
「ああ、この機械にちがいないです。『遠距離(えんきょり)制御台RC一号』というネーム・プレートがうちつけてありますよ」
戸山が、博士にいった。
「おお、それじゃ、で、どうじゃな、機械はこわれているかね」
「べつにこわれているようにも見えません」
「機械は動いているのかね」
「さあ、どうでしょう。機械が動いているかどうか、どこで見わけるのですか」
「パネルに赤い監視灯(かんしとう)がついていれば、機械に電気がはいっているのだ。それから計器の針を見て――」
「ちょっと待ってください。監視灯は消えています」
「消えているか。機械の中に、どこかに電灯がついていないかね」
「なんにもついていません。この機械に電気は来てないようですよ。あ! そのはずです。電源(でんけん)の線がはずされています」
「ふーん。それではこの旧式の制御台も動いていないのだ。待てよ、わしが来る前に、スイッチを切ったのかもしれん。君、戸山君。パネルに手をあててごらん。あたたかいかね、つめたいかね」
「つめたいですよ。氷のように冷(ひ)えています」
「え、つめたいか。するとこのところ、この制御台を使わなかったのだ。はてな。するといよいよわけが分からなくなったぞ。これはひょっとしたら……」
博士は戸山の手をぐっと力を入れて握り、
「君たちは、気をつけなくてはならない。もしも何か怪(あや)しいことを見たら、すぐわしに知らせるのだよ。だが……だが、まさか、まさか……」
「なにをいっているのか、さっぱり分からない。おもしろくない。ほかの場所へいってみよう」
気味のわるい声がひびいた。
「え、なんといった。今、ものをいったのはだれだ」
「私だ。なにか用かね」
「君はだれだ」
「私かい。私は私だが、私はいったい何者だろうかね。とにかくあっちへ行こう」
がっちゃん、がっちゃんと、機械人間は、妙なことばを残して、奥の方へ歩みさった。
「だれだい、君は。ちょっと待ちたまえ」
「おじさん。今おじさんと話をしていたのは機械人間ですよ。奥の方へ行ってしまいました」
戸山は、そういって、博士に教えた。
「やっぱり、そうだったか。ふーん、あんな口をきくなんて、とんでもない話だ。奥へ行ったか。それはいかん。奥には大切なものや危険なものがあるんだ。とりわけダイナマイトの箱が積んである。あれをあいつに一撃されようものなら、この研究所の塔(とう)は爆風(ばくふう)のためにすっ飛んでしまうだろう。君たち、早くわしをあいつの行った方へつれていってくれ」
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