金星超人――海底にかくれた日本
色彩通信は、間もなく停った。
それとともに、水中塔は、ずぶずぶと、ベトンの中に沈んでいった。そして、そのあとは、平坦なベトン面となり終った。
「オルガ姫、信号の解読は、まだ出来ないのか」
私は、待切れなくって、催促をした。
「はい、もう五分間、お待ち下さい」
「早くやってくれ」
早くやってくれといいつけても、相手は人造人間だから、どうなるわけのものではないが、それにも拘らず、催促しないではいられない。私は、元帥が、なにをいって来たか、早く知りたくて仕方がないのだった。
「はい、解読を終りました」
「そうか。じゃあ、始めから、読んでくれ」
私は、胸をおどらせて、オルガ姫が、どんなことを読みあげるかと、それを待った。
「では、読みます。――鬼塚元帥は、黒馬博士坐乗の魚雷型快速潜水艇を認めて、博士の健在を大いに慶祝するものである」
「おお、そうか。想像していたとおり、やっぱり、鬼塚元帥からの通信だったか。それで、どうした。先を読め」
「――わが敬愛する黒馬博士に対し、甚だ遺憾なることなれども、余は博士を、当分の間、わが日本より閉め出すの已むなき事態に至れることを、謹みて通告する次第である」
「なに、日本より閉め出すというのか。オルガ姫、その先を……」
「――何故に、かくの如き手段をとるに至りたるかについては、余はその説明に、非常なる困難を覚ゆるものにして、まず劈頭において、わが日本国が、海面沈下したることを告ぐるなり」
「海面下に沈下したことは、知っている」
「――海面下○○メートルまでの陸地は、これを原子弾破壊機によりて、悉く削り取り、瀬戸内海をはじめ各湾、各水道、各海峡等を埋め、もって日本全土を、簡単なる弧状に改め、その外側を、堅牢なるベトンをもって蔽いたり」
「ほう、たいへんなことをやったものだ。とうとう原子弾破壊機をもち出したのか。なるほど、それを使えば、このような大工事も、極く短い時間内に、仕上がるだろう」
原子弾破壊機というのは、すこぶる強力なる機械である。今から三十年前、物理学者は、このような機械が、将来必ず出現するだろうと、理論のうえから推理をして、一部の世人を愕かしたものだが、それ以来、わが国では、新体制下の科学大動員によって、極秘に研究をつづけ、そしてようやく五年前、その最初の機械を試作したのであった。これはすこぶる能率のいい機械で、一端から一のエネルギーを加えると、他端からその三百倍のエネルギーが出てくるというすごいものであって、その原理は、原子を崩壊して、これをエネルギーに換えることにある。
ずっと昔は、科学力において、世界の第十何位かにあった日本は、新体制をとってから、めきめきと科学力を増強し、二十五年後には、右にのべた原子弾破壊機の第一試作品をつくり上げることに成功し、それからこっちへ五年、とうとう、世界に魁けて、強力なるその機械を十万台から整備するようになったのである。これを使えば、あの海抜四千メートル余もある富士山も、百台の機械でもって、わずか一時間のうちに、きれいに削り取られてしまうのであった。こんなことをいっても、三十年前の人間には、とても想像さえつかないであろう。
オルガ姫が、先を読んでいる。
「――かくして、わが日本は、外部より見て、完全に、要塞化したるばかりか、内部においても高度の要塞設備を有するに至りたるものにして、特に四次元振動を完全に反撥するように留意せられたり」
「四次元振動! はて、耳よりな話が出てきたぞ」
「――四次元振動の反撥装置は、かねて未来戦科学研究所において、研究ずみのものにして、これは凡そ百年ののちに役立つ見込みのものなりしが、最近急に実施の必要を生ずるに至りたるものにして、その理由は、実に、わが地球が、地球外の強力なる敵より、襲撃せらるる徴候見えしによる」
「地球外の敵? はてな、ではその敵というのは、あのX大使のことではあるまいか。オルガ姫、早く、その先を読め」
「――地球外の敵とは、実に、かの金星に住む超人のことなり。金星超人は、わが地球人類よりも、はるかに高度の文化を有す。その証拠の一をあぐれば、かれ金星超人は、四次元振動を発生するの技術を心得おりて、その怪振動を利用し、自己の姿を透明にし、いかなる鉄壁なりといえども、自由に侵入し来ること之なり。ああ、金星超人こそ、正に現代の恐怖の生物、宇宙の喰人種というも過言にあらざるなり」
「ああ、四次元振動か。なるほど、四次元振動で、海が見えなくなったり、鉄扉を透して侵入したり、ふしぎなことをして、私を愕かしたのか。すると、X大使というのは、金星超人だったというわけだな。ほう、おそろしいことだ!」
私は、急に、はげしい戦慄に襲われた。目の前が、まっくらになったように感じた。
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