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地球要塞(ちきゅうようさい)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-25 6:37:28  点击:  切换到繁體中文



   恫喝どうかつ代行――人間でなければ彼は何者ぞ?


“ピース提督、改めて聞こう。欧弗同盟軍に対し砲門を開くかどうか”
 X大使の、膝づめの談判だった。
「うむ。黒馬博士が、もうこれ以上、わが艦隊に害を加えないと約束されるなら、余は、欧弗同盟軍を攻撃するであろう」
“約束とは、何だ。約束とは、対等の位置の者に対していうべきだ。今、われは勝利者だ。貴官は、降服者だ。それを忘れてどうするのか”
「うむ――」
“貴官が「わが艦隊をこれ以上傷つけないように」と希望するならば、それも遂げられるであろう。但し、それがためには、貴官は、今言明したことを、早速実行のうえに示さなくてはならぬ”
「ええっ――」
“今、欧弗同盟の空軍の一部は、アフリカ東岸の基地を出発して、極東へ向っているが、あと十数分のうちに、貴艦隊の左舷前方さげんぜんぽうから現われるであろう。よって貴艦隊は、これに対し、直ちに高角砲をもって砲撃せよ。よろしいか。そうすることを約束するなら、私は一時、退席しよう”
「やむを得ん。たしかに、余はその約束をまもるであろう」
“約束をまもらないときは、貴艦隊はどんなことになるか犠牲ぎせい戦艦オレンジ号の例によって、よく考えておくがいい”
「ああ、黒馬博士。オレンジ号を、かえしてもらいたい」
“いや、それは聴かれない。全艦隊が没収されなかったことを、せめてもの拾いものだと思うがよろしい”
 X大使は、そこで、私の耳にささやいていうには、
“さあ、もうこのへんで、君は引込むのがいいだろう。では元の場所へかえしてあげよう”
 そういったかと思うと、私は又、きつい目まいに襲われた。そして数秒後、その目まいが去ったとき、私は再び元の三角暗礁あんしょう内の一室に戻っていたが、目の前には例の怪しい姿をしたX大使が、厳然げんぜんと立っているではないか。
 私は、はっと夢から覚めたように感じた。
「黒馬博士。どうも、ご苦労だった。君は、なかなかうまくやってくれたので、わしはよろこんでいる」
「いやあ、ご挨拶あいさつ、いたみ入る」
 と、私は、くすぐったい返事をした。
 実をいうと、私はあまりいい気持ではなかった。虎の威をかる狐という悪口があるが、それと同じ事をやってきたのだ。まことにやむを得ないことではあったけれど。
「X大使、これから、どうなるのかね」
「どうなるって、君の心配しているのは、米連主力艦隊のことであろう。うむ、いよいよ米連側は、高角砲をもって火蓋を切りだしたよ。おお、三千機の超重爆機から成る欧弗同盟のアフリカ第四空軍は、今、異常なる混乱に陥った。おお、空中衝突だ。不意うちをくって、空軍の損害はなかなか大きいぞ。いや、陣形がかわってきた。いよいよ敵意がはっきりしたようだ。これはますますやるぞ」
 X大使は、じっと直立ちょくりつしたまま、うわごとのように観戦光景を喋った。
「すると、不測ふそくの戦闘が起ったというわけですね」
「そうじゃ。これが、開戦のきっかけじゃ。たとえ間違いから起っても、これだけの戦闘が開始されると、ついに全面的大戦争に追いこまれる筈なんだ。……いや、米連主力艦隊が苦戦だ。あっけなくやっつけられては、こっちの計算に反する。どりゃ、ちょっと、向うへいって来る」
「また、向うへいくのかね、X大使」
「そうだ。わしは、これから出掛ける。じゃあ失敬。そのうちに、また会おうよ」
「うむ。まあ、気をつけていきたまえ」
「なに、気をつけていけって。あははは。人間じゃあるまいし、心配することなんか、何もありはしないよ。あははは」
 X大使は、奇怪なる放言をのこして、かき消すようにその姿は見えなくなった。
“人間じゃない!”
 かねて私は、X大使の身の上に、疑いをもっていた。彼は人間ではなさそうだと思っていたが、今彼は、わざとそういったのか、それとも不用意にいったかはしらないが、ともかく、
“人間じゃあるまいし……”と放言して、姿を消した。
 人間でなければ、彼は何者ぞ?
 四次元世界の生物?
 或いは、四次元世界へ跳躍することを会得えとくした超人であるかもしれない。
 しかし、今のところ、彼はわれわれ日本の側に立って力を貸しているが、それが、私にとって最も合点のいかないところであった。


   東京湾いずこ――空前の大激戦


 世界情勢は、三転した。
 米連対欧弗の戦争勃発ぼっぱつが伝えられ、それが再転して、両国の握手となり、極東に対して共同作戦をとると見えたが、今また三転して、再び米連と欧弗とは、険悪なる関係に投げこまれ、すでに両軍の間には、激戦が展開されているようであった。
 この間に立って、私は、何をしたらいいのであろうか。
 私は、しばし静思をしたが、そのとき忽然こつぜんとして、脳底にうかび上ったのは、祖国日本の安否であった。
 さきに、祖国との通信は、とつぜん杜絶とぜつしてしまったのであった。あれほど、自分と堅い約束をした鬼塚元帥さえ私の電波に応じて、答えようとはしなくなった。しかも祖国から発せられる各種の電波信号は、ことごとく何者かによって、妨害されていた。だから、言葉をかえていえば、祖国日本は、いま行方不明であるともいえる。私は、この際、なにはおいても、祖国の安否を知るため、急行で引返すのがいいと思った。
(うむ、祖国へ帰ろう。ついでに、元帥に会って、親しくX大使の事件を報告しておく必要がある。もしも祖国へ予告もなしにX大使があらわれるようなことがあったとして、誰か取扱い方をあやまるようなことでもあれば、一大事だ。折角の味方が、敵になっては困る。しかも敵といっても、大敵なんだから……)
 私は決意した。
「オルガ姫、快速潜水艇の修理は、出来あがっているのか」
 私は久しぶりに、オルガ姫の名を呼んだ。
「はい。修理はすみました。いつでも、出動できます」
「そうか。では、すぐ出かけよう。日本へ急行するのだ」
「はい」
 私は、「三角暗礁あんしょうの日記」に、簡単に祖国への出発の次第を記して、この重宝な基地を、また立ち出でた。私たちは、また、狭くるしい魚雷型潜水艇の中に、横になった。
「出発します」
 洞窟どうくつの壁がうごきだした。窓の外を、ふかがさっと通りすぎた。間もなく窓外そうがいは、まっくらとなった。三角暗礁を出たのである。
「全速力だ。そして、いつものところへつけるのだ。東京港の潜水洞せんすいどうへ!」
 艇は、おいおいと速度をあげていった。海流にぶつかり加速度が不意に落ちると、ずきずきと頭痛が始まった。この潜水艇による大渡洋は、なかなか骨が折れる。
 しばらくいくと、水中聴音器から、気味のわるい振動音が聴えてきた。それは、いけばいくほど激しくなってきた。
「爆雷のようだが……」
 私は、透過式とうかしきの電子望遠鏡をひきよせて、はるかに音のする海底を見やった。
「ああ、爆撃だな、すると、あそこは、米連主力艦隊の位置であろう」
 私は、電子望遠鏡を調整して、海面から上を覗いた。
「おう、やっているな。これは、空前の大激戦だ!」
 なんたる壮観そうかん! 空中には、何千機とも知れず、さまざまの形をした飛行機が、入り乱れて闘っていた。そのあたり一帯は、無数の小さい雲の塊のようなものがとんでいる。それは、真下にあえいでいる米連主力艦隊が、必死となって撃ちあげている角砲の硝煙であった。
 米連側は、艦載かんさいの快速戦闘機をもって、対抗しているらしいが、見たところ、欧弗同盟軍の方が優勢らしい。米連の艦隊は、煙幕の中に隠れているが、その半数は爆撃のため損傷をうけ、傾いている。惨状さんじょうは、目をおおいたいくらいだ。その中に、旗艦ユーダ号が、なおもひらひらと司令長官旗を掲げ、陣頭に立っているのは、むしろ悲壮な感じがした。この様子では、ピース提督も、間もなくユーダ号とともに、海底に沈んでしまうことであろう。
 私は、両軍の大死闘をもっと見ていたかったが、それよりも祖国のことが心配になるので、興味あるその戦場を、ほんの十数秒の間にすりぬけてしまった。
 それから一時間ばかり経った。もうそろそろ、東京港のシグナルが聞える筈であった。が、一向に、それが聞えない。そのうちに、潜水艇が急に速度をおとしてしまった。
「どうした、オルガ姫」
「たいへんです。東京港の潜水洞があった場所まで来ましたが、肝腎かんじんの潜水洞が見えません」
「場所がちがっているのではないか、よく探してみろ」
「いいえ、間ちがいなく此処ここなんです」

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