您现在的位置: 贯通日本 >> 作家 >> 海野 十三 >> 正文

地球要塞(ちきゅうようさい)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-25 6:37:28  点击:  切换到繁體中文



   苦悶くもんする米提督――欧弗同盟軍に砲門は開けない


「おお、では君は、日本人だったのか。なぜ初めから、そのとおり姿を見せてくれなかったのか」
 提督は、非常な驚愕きょうがくを示して、椅子から立ち上った。そして、うめくように、
「おお、日本人、たしかに日本人だ。……」
 と云って、手で自分の眼をおおう。
 私は悟った。私の姿が、提督の前に現われたのだ。それは全て、X大使の余計なおせっかいであった。このへんで、私の姿を、ピース提督に見せてやろうと考えて、いきなり実行したのであろう。私には何の相談もなかったのだ。私は結局、傀儡かいらいである。X大使の手によって、勝手にうごかされている人形でしかない。私は口惜しかった。だが、どうすることもできない。なに分にも、相手は四次元の生物X大使だから……。
 私は観念して、ピース提督の前に立ち、彼がどうするかを凝視ぎょうしした。
 ところが、提督は思いの外、周章狼狽しゅうしょうろうばいしているのだった。彼は、後ろの壁に、ぴったりと体をつけ、恐怖のなざしをもって、私を見据えた。
「おお黒馬博士。余は、博士に謝罪をするものである」
 提督は、私の顔を見て、黒馬博士だと悟ったのだ――そんなに愕かれる程の私でもないが……。
「おお黒馬博士。余は博士が、四次元の世界に跳躍せられる力があるとは、想像していなかった。先程からの非礼をことごとく詫びる。そして……」
 提督は、ひとりで喋った。
「そして、余は、黒馬博士と識るを得たことを悦ぶ者である。そこで博士よ。余は突然ながら、折入って博士に相談したいことがある。その内容を、はっきりというならば、博士よ、余にその四次元世界への跳躍術をコーチしてくださるまいか。そのために、余はアメリカに有する七千万ドルの財産を、すべて博士に贈ることを、ここに誓う者である。どうです。さあ、イエスと返事をしてください」
 提督は、勘ちがいをしている。X大使にねだるべきことを、私に訴えているのだ。
 もちろん私は、提督の願いを一蹴した。すると提督は、私の真意を勘ちがいして、更に歎願するのであった。
 そのとき、私の耳許に、ささやいた声があった。
「黒馬博士。ピース提督に、こう云ってみたまえ。“では提督は今直ちに立って、欧弗同盟国軍に対して、砲門を開くだけの決心があるか”と……」
 それは、X大使のこえだった。
 私は、ちょっと無念だったけれど、前からの約束でもあったから、大使のことばを、提督につたえた。
 すると提督は、失心せんばかりに愕いて、
「いや、そんなことは出来ない。それは、絶対に不可能だ」
 X大使のこえが、また私の耳にささやいた。私は大使の代弁者となって、大使のささやくとおりを云う。
“君が、欧弗同盟軍に対して砲門を開くことは、絶対不可能だというなら、こっちも四次元跳躍術をコーチすることは真平だ”
「ま、待ってください。余に、しばらく考える時間をあたえよ」
“ぐずぐずしていられないぞ。副長が、こっちへ来る様子だ”
「あっ、副長が……。ここからは見えない筈の艦内まで、博士は見る力を持っているのか。うむ、愕いた。……が、今しばらく……」
 気の毒にピース提督は、すっかり元気をなくしてしまった。彼はどうしていいかわからないという風に、身悶みもだえしていたが、やがて、やっと決心がついたという顔になって、
「では、こうしましょう。欧弗同盟軍へ砲を向けることは出来ないが、欧弗同盟軍に対し、戦闘を中止するように勧告しましょう。それで、日本も大東亜共栄圏も安泰です。このへんを妥協点として、我慢していただきたい」
 すると、X大使は、急に狼狽したようなこえになって、
“それは賛成できない。平和になってしまうのでは、仕様がない。あくまで、欧弗同盟軍と闘ってもらわないと困る。闘わないというのなら、こっちにも覚悟がある”
「それは無理というものだ。余には、欧弗同盟軍を砲撃せよと命令する権限がない。ワイベルト大統領にいっていただきたい」
“おいおい、呑気のんきなことをいっては困る。貴官の話を聞いていると、まるで、ワシントンの海軍省の応接室で、貴官の話を承っているようじゃないか。現在の事態は、そんなものではないぞ。おいピース提督、貴官及び貴艦隊は、いま私の掌中ににぎられていることを知らないのか”
「それは分っている。しかし余には、そんなことはできない」
 と、ピース提督は、あくまで欧弗同盟軍に砲火を向けることを好まないと、云いはった。


   宙吊ちゅうづり戦艦――有りえない奇蹟


 私は、X大使の代弁者をつとめながら、妙な感にうたれていた。
 X大使は、平和はいけないという。米連艦隊は欧弗同盟軍に対して戦闘を開始せよというのである。なぜ平和はいけないのであろうか。
 これは、私の口をもっていっているのであるから、ピース提督には、この言葉が、あたかも日本は、米連と欧弗同盟軍とを衝突させ、自分は両虎りょうこ相闘あいたたかって疲れるのを待っているようにとれるのであった。その結果は、明白だ。日本は闘わずして、世界を支配することになるのだ。そんなことを、ピース提督が承知する筈がない。
(X大使は、日本を後援するつもりらしい)
 私は、一先ず、そういう結論に落着いた。なぜかはしらないが、たびたび私に力を貸したり、今また日本のために、米連と欧弗同盟との間に戦争を誘致しようと、つとめているのであった。
 X大使は、しばらく黙っていたが、やがて重々しく口を開いた。
“それを、貴官の最後的回答と認めて、よろしいかね”
 私は、そのとおり代弁した。
「博士のお気に入らんらしいが、余には、このような権限はない。重ねて、そうお答えするほかない」
“よろしい。そうはっきり云えば、こっちでも、やりようがある。では、貴官は、そのカーテンを揚げて、海を見られるがいいであろう。提督のために、私は、ちょっとした魔術をごらんに入れる。早く見られよ。さもないと、肝腎かんじんのいい場面を逸するであろう”
 これを聞いた提督は、ぎくんとしたようであった。彼は強いて平心を装い、カーテンを揚げて窓から外を見た。
“見えるだろう。この旗艦ユーダ号につづく主力艦隊の諸艦が”
 X大使のこえは、意地悪い響をもっている。
“さあ、見たまえ。後続艦オレンジ号が、これからどんなことになるか”
 私は大使の代弁をしながらも、大使が戦艦オレンジ号に対して何をするのかと、好奇心にかられた。
 ピース提督は、今や不安の色をかくす余裕もなく、窓外を注視している。
“さあ今だ。戦艦オレンジ号を見ているがいい”
 X大使は、あざけるようにいった。私もまた、その口調を真似て、ピース提督にぶっつけた。
 その刹那せつなであった。
 有り得べからざる奇蹟――提督にとっては、全く有り得べからざる奇蹟が海上において起ったのである。
 見よ、戦艦オレンジ号は、とつぜん艦首を水面から持ち上げた。赤いペンキで塗ったふくれあがったバルジが、海面から現われた。そして、なおも艦首は高く引き上げられていく。甲板では、大騒ぎが始まった。
 もう四十五度ほど傾いた甲板を、水兵達は滑りおちまいとして、懸命に舷索や煙突にぶら下っている。恐怖と狼狽ろうばいのあまり、海中へとびこむ水兵もいる。そのうちに、艦尾できらりと光ったものがある。それは推進機であった。推進機は、空中で空まわりをしている。戦艦オレンジ号は遂に宙に吊り上げられてしまったのだ。それがX大使の怪力によることは、私によく分っていた。
 提督は、驚きのあまり、両眼を大きく見開き、そして大きな息をはいて、窓にしがみついていた。
「わかった。もう、わかった。停められい、黒馬博士!」
 しかしX大使は、なおも意地悪くいった。
“これからが、見物なんだ。まだ愕くのは早い。よく見ているがいい”
 戦艦オレンジ号は、見えない糸によって宙吊りになってるようであったが、このとき、とつぜん戦艦オレンジ号の艦体が、真中のところから、切断されてしまった。つまり前部煙突のところから後が、切断されて、無くなったのであった。もっとも、その切断された半分が、海上へ墜落していくところは見えなかったが……。
「あっ、もう、よしてくれ。もう、わかった。お、黒馬博士。これ以上、艦隊のうえに、怪力をふるうのは許してくれ」
“今さら狼狽するのは見苦しいぞ。なぜ初めから、わが申し入れに応じないのか”
 そういっているうちに、戦艦オレンジ号の艦隊の半分も見えなくなった。戦艦一隻が、一、二分の間に見えなくなってしまったのである。……
 室内では、警報ベルがしきりに鳴っている。そして入口の扉は、破れんばかりに、うち叩かれている。怪事は、果然かぜん、米連主力艦隊を大恐慌だいきょうこうの中にげこんでしまった。

 << 上一页  [11] [12] [13] [14] [15] [16] [17] [18] [19] [20]  ... 下一页  >>  尾页


 

作家录入:贯通日本语    责任编辑:贯通日本语 

  • 上一篇作家:

  • 下一篇作家:
  •  
     
     
    网友评论:(只显示最新10条。评论内容只代表网友观点,与本站立场无关!)
     

    没有任何图片作家

    广告

    广告