無念の手傷
取残された第八潜水艦
初陣に、×の哨戒艦二隻を撃沈して、凱歌をあげたわが第十三潜水戦隊は、直に隊形を整えて、前進をつづけようといたしました。ところが、ここに大変困ったことが起りました。
それは一番の手柄をたてた第八潜水艦の出入口の蓋が、敵弾に壊されたことです。これがしっかり閉じられないと、潜水することは出来ません。
これには清川艦長は勿論のこと、司令官も心を痛められましたが、しかし、これから先の大事な任務を思うと、ここでぐずぐずしているわけにゆかないのです。
司令官は心をきめて、第八潜水艦をあとへ残し、無事な四隻を率いて、目的のパナマ運河近くへ進むこととしました。
傷ついて取残された第八潜水艦の心細さはどんなでしょう。蓋を直しきらないうちに、もし先刻のような駆逐艦に見つかったら、今度こそは否応なく、撃沈されてしまいます。あれほどの大手柄をたてた艦に、なんと惨い御褒美でしょう。
だがあくまで沈勇な清川艦長は、全員を指揮して、早速修理にとりかかりました。もうこうなったら、運は天に委せるのです。委せてしまえば、かえって朗かな気持になれます。
一時間を過ぎ、もう二時間になろうというときになって、やっと出入口の鉄蓋は、間に合わせながら役に立つようになりました。大変な努力です。そして武運に恵まれたこの艦は、その間×国の艦船にも見つからずにすみました。一同の顔には、隠しきれない喜びの色が浮かびあがりました。
「やれやれ」
「お祝いに、煙草でものもう」
一同ホッとして、腰をのばしかけたその時です。
監視兵が、俄かに大声をあげました。
「艦長どの、×船が見えます。本艦の左舷二十度の方向です」
「なに×船!」艦長は直に双眼鏡をとって、海面を見渡しました。「うん、これは×国の汽船だな。これは大きい。まず、三万噸はある」
「軍需品を積んでいるようですな。甲板の上にまで積みあげています」
副長がそういっているうちに、汽船は急に進路を曲げて、こっちへ驀進して来ます。
「おや、あいつ、こっちへ向ってくるぞ」
「こりゃ怪しいですな。大砲を持っているわけでもないらしいですが」
「とにかく停船命令に一発、空砲を御馳走してやれ」
「はッ――主砲砲撃用意ッ」
艦内は急に緊張しました。実に危いことでした。もう三十分も早ければ、潜水艦の運命はどうなったかわかりません。
「艦長どの報告」監視兵が突然叫びました。「×船から飛行機が飛出しました。只今高度、約二百メートル」
「うん。とうとう仮面を脱ぎよったぞ、飛行機を積んでいるから、先生気が強いのだ」
「艦長どの。艦上攻撃機です」
「カーチス機だな」
艦長は別にあわてた様子もなく、汽船と攻撃機とをじっと見つめています。
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