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太平洋魔城(たいへいようまじょう)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-25 6:28:03  点击:  切换到繁體中文



   ぽっかりと窓があいて


 それは大きなエンジン室らしく、はるか下の方に甲虫の化物みたいなエンジンの一部分らしいものが見える。
 がんがんがんがんという音は、ここから聞えて来るのだ。
(一たい、どこだろう?)
 太刀川はずきずきいたむ頭の中で、もう一度考えてみた。
(大渦巻にまきこまれて、水中にひっぱりこまれたことは、たしかだが、それから……)
 それからが、どうしても分からない。
 夢でないことは、自分の服がびしょびしょにぬれていることでもわかる。この室内もどことなく潮の香くさく、しめっぽい。
「海に近い場所かな」
 と思ったが、瞬間、ある考えが、頭をかすめた。
「ひょっとすると、海底にある建物ではあるまいか。いや、まさか、そんな馬鹿なことが……」
 自分の考えを自分で、うち消すようにつぶやいた時である。
「おい、小僧。目がさめたか」
 とつぜん声がした。妙ななまりのあるロシア語だった。
「えっ、――」
 太刀川は、声のする方をふりかえってみた。
 おどろいたことに、冷光灯かがやく壁のところに、ぽっかりと四角な窓が開き、その中から一つの赤い顔が、こっちをのぞいて、あざ笑っているのであった。
 その顔は、鼻の形、額の恰好からいって、たしかにユダヤ人だ。
「うふふふふ。やっと、気がついたようだね。だが、不景気面をしているところをみると、まだ夢でもみているのかね。おい、日本蛙、ここをどこだと思う。海の底だよ。海の底も底、太平洋の底だよ。ある仕掛で渦を起し、貴様をすいこんで、ここへ運んできたのは、貴様にちょっとばかり用があったからだよ。うっふふふ、そうおどろかんでもよい。ちょっと待て、もっとよいところへ案内してやるからな……」
 その言葉が終るか終らないうちに、ジーというベルの音がしたかと思うと、太刀川の立っていた鉄格子の一方のはしが、がたんと外れて下におちた。
「あっ」
 といったが、おそかった。太刀川の体は中心をうしない、鉄格子の上をすーっとすべり、そしてその下にあいた口から、まっさかさまに落ちて行った。


   自分の名を知る覆面の男


 肩先を、ぽんと、けられたいたみに、太刀川は、はっと、我にかえってあたりを見まわすと、そこには、例の男が立っていた。
「ふっふふふ、だいぶ、おやすみのようだったね。あれぽっちのことで、目をまわすとは、案外、意気地のない奴だ」
 あくまで、にくにくしげにいう。
 そこは、何の飾もない物置小屋のようなところだった。
 太刀川は、鉄格子から落ちると、途中で網で受けとめられたような気がしたが、そのまま気を失ってしまった。その間に、この部屋に運びこまれたものらしい。
 あれから、どのくらいたったものか、とにかく相当時間がたっていることは、着ている服が、かわきかけていることでもわかる。
「おい、何をぼやぼやしている。早く立て、委員長閣下のお呼びだ」
「何、委員長?」
 太刀川は、そうつぶやきながら、いたむ体をやっと起して、たちあがろうとした時、
「おおそうだ。早くしろ」
 そういう声と共に、ユダヤ人の右足が、まるで犬ころでもけるように、太刀川の肩先へ、シュッと伸びてきた。
 とたんに、太刀川は、かるくかわした。そしてその足をぐいと引いたからたまらぬ。かの大男は、後向けに、どうとたおれた。
 さあ、ことだ。こんどはほんとに怒って、
「やったな。日本小僧」
 叫びながら両手をひろげて、鷲づかみにしようと、おそいかかって来たのだ。
 太刀川も覚悟はきまっていた。
 どうせ死地にあるのだ。はずかしめをうけるより、日本人らしくたたかって、死のう。
「来い」
「おう」
 大男が、えるような声をあげて、さっととびかかろうとした時である。
「何をする。カバノフ」
 後から鋭く呼びとめた者があった。
「お前に、そんなまねをしろと、誰が命じた。委員長は先程から、待ちきっていられるぞ」
 するとかのカバノフと呼ばれた大男は、
「あ、ああ……」
 わけのわからぬ叫声さけびごえをあげて、手をふり上げたまま、後じさりながら目を白黒。それをみて、
「はははは……そのざまは何だ。いくら貴様が力自慢でも、貴様の手におえる相手ではない。早くひけ」
 見ると、部屋のすみの入口に、覆面、黒の法服のようなものをまとった大男が、銃剣を持った水兵を従えて、じっと、こちらを見つめているのである。
「太刀川君、どうぞ、こちらへ」
「おや」その声のどこかに、聞きおぼえがあるような気がしたが、どうしても思い出せない。
 太平洋の底に、自分を知るものがいる?
 太刀川は、しばらくは茫然と立ちすくんで声も出なかった。


   おお恐るべき海底要塞


 ガーンガーンガーン、エンジンらしい音。
 ゴーゴーガタガタ、工事らしい音。
 そんな音がすぐ近くに聞える。要所要所に、銃剣を持った水兵が立っている。
 太刀川は、みちびかれるままに、長い廊下をいくつかまがって、とある大きな部屋へ通された。
 そこは、まるで法廷のような感じのいかめしい部屋であった。大きな長方形のテーブルをかこんで、覆面黒服の男が十人ばかり、そのまん中に、首領らしい男が、どっかり腰をおろしている。
 すでに覚悟のできている太刀川は、臆する色もなく、一同をじろりとにらめわたしながら、悠然とつったっている。かの首領らしい男は、始めて口を開いた。
「ははは……、太刀川君、何もそんなこわい顔をしなくてもよろしい。実は君に、折入って相談したいことがあって来てもらったのだが……」
 その声を聞くと、太刀川はぎくっとした。
 おう! 聞きおぼえのあるその声、まさかと思ったが、……
 太刀川は、目をかがやかしながら、
「そういうあなたは、共産党太平洋委員長、ケレンコ」
 暴風雨の太平洋上にとびおりたあのケレンコだ。
「いかにもお察しの如く……」
 首領は覆面をとった。まぎれもなく、あの赤ら顔、あの大髭、あの鷲鼻、まさにケレンコである。
「太刀川君。そう驚くには及ばない。今君の案内をつとめたのが、おなじみの潜水将校リーロフなのだ。クリパー号の中では、君にうまくやられた形だったが、そのまま、まいってしまう我輩ではないのだ。クリパー号の進路には、われ等の快速潜水艦が、ちゃんと配置されていたのだ。我輩もリーロフも、落下傘で降りると、着水と同時に、それに救助された。リーロフかい。彼はなるほどクリパー号から、まっさかさまに落ちた。が、途中から洋服下にしのばせた小型落下傘を用いて、これも無事に着水したのだ」
 太刀川は、彼等の抜目のないのに、唯あきれるばかりであった。
「よろしい。君等の宣伝はその位にして、用件というのを承ろうじゃないか」
「ははは……太刀川君。まず腰を下したまえ、君がいかに強くても、もはや我々のとりこだ。生かすも、殺すも我々の意のままだ」
 ケレンコは言葉こそていねいだが、悪魔のような笑をもらしながら言った。
「だがとりこでも、君は大事なとりこだ。われわれは、われわれの目的のために、君をわざわざここまでつれて来たといってもよいのだ。君が、原大佐の頼みで、南洋にむかったと、スパイからの知らせによって知ったとき、一時はこれは困ったことになったと思った。だが、われわれはやがて、君をとらえて、君のすぐれた頭と、君の海洋学の知識を、われわれの目的のために逆に利用することを思いついたのだ。いや、君の頭と、君の海洋学は、絶対に必要なことがわかったのだ。
 われわれは日本をのっ取るために、おどろくべき熱心さで、長い間共産主義の思想をふきこんで来た。が、無駄であった。君等のいう日本精神は、びくともせず、この方法によるわれわれの計画は、完全に失敗してしまった。やはり、武力戦よりほかはない。しかし、日本には、世界無比の強大な陸海軍がある。通り一ぺんの軍備では、到底望をとげることは出来ない。そのことを十分知りつくしているわれわれが、ひそかにもくろんだものは何か。太刀川君。賢明なる君は、すでに承知しているであろうが、われ等がほこるべき海底要塞だ」
(うーむ)
 太刀川は心に叫んで、唾をのんだ。
「それなら、海底要塞とはいかなるものか。それは、君が我輩の申し出を聞いてくれる前に、説明することはできない。けれども、ここ数箇月間、世界中の新聞が、さわぎたてている太平洋上の海魔、即ち、君等が昨日とくと御覧ずみの怪物は、この海底要塞のほんの一部にすぎない。それはのびちぢみが出来て、潜望鏡の役目もすれば灯台の役目もする。しかもその先は、恐しい新兵器で武装されている。賢明なる君には、説明するまでもないことだが、これでみても、海底要塞が、いかに大がかりのすばらしいものであるかがわかるだろう。しかし、わが海底要塞はなお数箇所工事中である。そこに、君の智慧を借りたいところがあるのだ。また、わが海底要塞が、いよいよ日本攻略の行動を起したとき、日本近海の海底の状態、潮流の工合、港湾の深浅等、君のすばらしい海洋学の力を借りたいところがいたるところにあるのだ。どうだ太刀川君、報酬はのぞみ次第だ。一つここで、うんと働いてみる気はないかね」
 悪がしこいケレンコは、さすがに大ものらしく、事もなげにいってのけるのであった。
 すると、それまでじっと聞いていた太刀川青年は、いきなり笑い出したのである。
「ケレンコ君、いろいろ面白い話をありがとう。いや君の親切には感謝する。君はだいぶものしりだと聞いていたが、実は案外のようだね。君は日本人がどんな国民であるか、てんで知っていないじゃないか。日本人は、国のためなら命も喜んですてる。その日本人に、金で国を売るようなことをさせようたってそりゃむだだよ。ケレンコ君。折角だがおことわりだ」
 それを聞くと、さすがのケレンコも、眉をぴくりとうごかして顔をこわばらせた。この青二才めがと、思ったのであろう。が、もちろんそんな気持をそのまま言葉の上にあらわすようななまやさしい彼ではない。
「ははは……太刀川君、ずいぶん君は、かたいことをいう人だね。いやしかし、それでこそ日本人だ。われわれがこの重大な秘密をぶちあけて、君の助を借りようとするのも、それなればこそだ。だが、太刀川君、もう一度よく考えてみたまえ。われわれが許さないかぎり、君がいかに勇敢でも、この海底要塞からは、ぬけだすことは出来ないのだよ。しかも、われわれと同じ目的のために、一しょに働いてくれさえすれば、莫大なお礼が、君のものになるのだ。ね、太刀川君。こんなわかりやすい道理を、わきまえぬ君でもないであろう」
 だが、太刀川は、
「ふん」とせせら笑って、
「いや、よくわかった。だが、ケレンコ君、重ねていうだけ無駄だ。僕は君の申し出にどうしても従うことは出来ない。そのため、君が、僕の命がほしいというなら、勝手にうばいたまえ。僕には、僕の覚悟があるのだ」
 断乎としていいはなった。
 すると、今までいておだやかによそおっていたケレンコは、いよいよ仮面をぬいで来た。
「そうか」
 あきらめたようにつぶやくと、顔色がにわかにけわしくなった。怒をふくんだ目が、太刀川をじーっと見つめた。
「よい度胸じゃ」
 皮肉な口もとに、うすきみ悪い笑をうかべながら、
「それじゃ、可哀そうだが、君ののぞみ通り、命をもらおうか」
 目で合図をすると、左右にいながれた部下たちは、無言のまますーと立ち上った。と同時に、黒服の下からニューッとつき出された十挺の拳銃、その拳銃が一せいに太刀川の胸をねらって、ぴたりと、とまったのである。
 室内にみなぎるすさまじい殺気。
 ああ、快男児太刀川時夫も、ついに最期さいごの時が来たのか。
 もとより国にささげた体なら、すてる命は惜しくない。だが、太平洋の底には、日本をねらう恐るべき海底要塞が、夜を日についで建造をいそいでいるのだ。自分が死んだらその秘密は誰が祖国に知らすのだ。
 一秒、二秒、三秒……
 息づまるような無気味な瞬間だった。
 ぶぶう――、ぶぶう――
 突然、耳をつんざくけたたましい非常警報のサイレンが鳴り出したのである。
「あ」
 扉のそばに立っていたリーロフが叫んだ。
 つづいて何やらわめき合う人声、どたどたどたどた混雑する足音が、廊下の方から聞え出した。
 ケレンコは、さっと立ちあがって、
「おい、リーロフ、君は、太刀川をこの部屋に閉じこめて見張をつけておけ、わが輩は、司令室に行く、手配がすんだら君も後からすぐにやって来い」
 そういいすてて、ケレンコは、とぶようにして部屋を出て行った。
 一たい何事が起ったのか。


   海底司令室


 ぶぶうー、ぶぶうー。
 妙に心をかきみだすようなサイレンの音だった。
 ケレンコは、あわただしく司令室にかけこんだ。覆面、黒服をとると、海底要塞司令官の軍服姿だ。
 司令室は見るからにいかめしい部屋で海底要塞のありとあらゆる械械をうごかす仕掛が、あつまっていた。その仕掛はすりばち山みたいに、うずたかくつみ上げられていた。そのまわりを、階段が下からぐるぐるとまわって頂上にとどいている。それぞれの仕掛の前には、当番の将兵がとりついて、ハンドルをにぎりしめ計器の針をみているが、すこぶるおちつかない様子だ。
 そこへケレンコがとびこんできたのだ。彼は機械の山の階段を、するするとよじのぼり、頂上にすっくと立ちあがった。そこが彼のためにつくられた司令席だった。
「おお、ケレンコ閣下だ!」
 当番の将兵は、すくわれたように叫んだ。それを、さげすむように聞いて、
「腰ぬけどもが、洋上に軍艦があらわれたぐらいで、なんというとりみだし方だ」
 ケレンコは、仁王様のような顔つきで、はらだたしげにどなった。
「でも、委員長、すばらしく、はやい大型駆逐艦隊ですぞ。しかもわが要塞へ向けて、一直線で近づいてくるのですからね」
 そういったのは、ケレンコのすぐ下の席にいる副司令のガルスキーだった。彼のあごも、ぶるぶるとふるえている。
「君までがそんなことで、どうするのだ、戦艦陸奥が来ようと、航空母艦のサラトガが来ようと、わが海底要塞の威力の前には一たまりもないはずだ」
 といいながら、ケレンコは動物園の猿のように、鉄柵をにぎってゆすぶった。が、ふと前の壁をみて急に気がついたらしく、
「なあんだ、ガルスキー、まだ、潜望テレビジョンがつけてないじゃないか」
「いや、閣下がおいでになってから、うつしだそうと思っていたのです。では、ただ今」
 ガルスキーが、あわてながら、スイッチをひねる。と、前の壁に、映画のようなものがうつりだした。よくみると、波のあらい海上を二隻の艦影がまっしぐらに走っている。これこそ潜望テレビジョンで海上の有様をうつしたものだった。
 二隻の艦は、いずれもこちらに近づいているらしく、艦影はぐんぐん大きくなってくるのであった、ケレンコは、待ちきれないらしく、やがて、あらあらしい声で、
「おい、もっと大きく出してみろ。どこの軍艦だか、これではさっぱりわからないじゃないか」
 ガルスキーは、いわれるままに倍率をあげるハンドルをくるくるとまわした。
 艦影は、みるみる大きくなって、やがてスクリーン一ぱいにひきのばされた。
「あ、先頭のはアメリカの駆逐艦。そして後のは、イギリスの商船じゃないか。ははあ、わかった。サウス・クリパー艇の変事をききつけて、やってきたものにちがいない。それにしても、いやに正確に、わが海底要塞を目ざしているではないか。これはゆだんがならない」
 委員長ケレンコの眉がぴくりとうごいた。
 司令室内の彼の部下は、いいあわせたようにケレンコをみつめている。
 その時、入口から、影のように一人の水兵がはいりこんできたのを誰も気がつかなかった。

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