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第五氷河期(だいごひょうがき)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-25 6:25:30  点击:  切换到繁體中文


     火山総活動

 植松総監は、急に忙しい身の上となった。
 なにしろ、思いがけない大地震のため、堅牢を誇っていた警視庁は、無残にも、半壊してしまった。
 そういうわけだから、東京全市にわたって、倒壊家屋は数しれず、しかも先年の震災のときと同じように市内七十数カ所から、火災が出た。
 警防団は、すぐさま手わけをして、組織的な消防作業をはじめた。市民たちは、すこしばかりの荷物をまとめて、続々と郊外へむけて避難を開始した。
 電気は、すぐとまってしまったので、人々は、歩いていくほかはなかった。トラックや自動車はあったけれど、これはすべて、ただちに徴発されて官公用になってしまった。
 放送局だけが活躍をして、さまざまのニュースを伝え、市民たちに警告を発した。しかし、市民たちの持っていた受信機は、交流式だったから、放送局は、ただ自分ひとりで忙しそうに活躍しただけのことで、効果はいっこうあがらなかった。
 そのかわり、自動車に、電池式の受信機と高声器をつんだ移動ラジオが、すこぶる活躍をして、避難民や、火事場で活動している市民たちへ、ニュースを送った。
 そのニュースの中に、市民たちの予想もしなかったものがまじっていた。
「――このたびの地震は、全国的であります。震源は、一カ所ではなく、同時に十数カ所にのぼるものと思われます。北の方から申し上げますと、まず帯広付近、青森県においては……」
 というわけで、地震は、まことにめずらしい話だが、全国的に、ほとんど同時に起ったのであった。
 そんな奇妙なことがあっていいだろうか。従来、震源地は一カ所にきまっていたようなものである。別のニュースは、それについて、一つの解説を与えていた。
「――中央気象台の発表によりますと、このたびの驚異的大地震は、わが国の七つの火山帯の総活動によるものでありまして、従来五十四を数えられた活火山は、いずれも一せいに噴火が増大しました。また従来百十一を数えられた休火山のうち、その三分の二に相当する七十四が、このたびあらためて噴火を始めました。中でも、富士火山帯の活動はものすごく、富士山自身もついに頂上付近より噴煙をはじめました。今後さらに活発になるものと思われます……」
 富士山が噴火をはじめたというのだ。
 なんという驚きであろう。市民たちは、それを聞くと、争って西の空を仰いだ。
 すると、ようやく暮色せまった西空が、火事のように赤く焼けているではないか。夕焼とはちがう。
「おお、あそこだ。富士山が燃えている」
 真赤な雲の裾から、左右に、富士山のゆるやかな傾斜が見えていた。山巓のところは、まさに異状があった。黒いような赤いような大きな雲の塊が、すこしずつ、むくむくと上にのびあがっていくのが見える。そして、ときどき、電気のようなものが、慄えながら見入っている人々の目を射た。
 富士山の噴火は、ついに事実となって、市民の目の前に現われたのである。
 余震は頻々として、襲来した。いや、余震ではなく、新しい噴火や爆発が、ますます強度の地震を呼び迎えたのであった。
 東京市民は、だんだんと事態の容易ならざることを悟るにいたった。ニュースは、ほんのわずかしか伝えられないが、この調子では、さだめし全国的に、たいへんな被害が生じていることであろう。
 火災、海嘯つなみ、山崩れ、食糧問題、治安問題などが、いたるところに起っているのであろう。日本全国が、今や恐るべき天災のために、刻々とくずされ、焼きつくされ、そして大洋の高潮に洗われていることであろう。
 救援は、誰がする?
 関東震災のときは、関西、東北、九州、北海道をはじめ、日本各地からの救援の手が、さしのべられた。しかしこんどの驚異的大震災は全国に拡がっているから、国内同士では、救いの手を伸ばしようがない。自分たちが、まず救われたいのであったから。
 関東震災のときは、外国からの救援があった。アメリカなどは、慰問品を軍艦につんで、急派してくれたものだ。
 アメリカは、今度も、そのような同情を寄せてくれるであろうか。
 アメリカに、それは望めないとしたら、ソ連はどうであろう。南米はどうであろう。また中華民国や、大南洋はどうであろうか。
 植松総監は、この緊急の事態に面して、はなはだ不本意ではあるが、外国からの救援に、焦けつくような望みをかけたのであった。
 ところが、だんだんと外電が入ってくるにおよんで、それはいっさい、望み得ないことが分ってきた。
 なぜであろうか?
 理由は、日本内地と同じことであった。というのは、それらのどの国々においても、空前の大地震が起こり、新しい火山の活動となり、日本と同様に、極度の混乱をきわめているという事情が判明したのであった。
 地球は、陸といわず海といわず、その全面より、大噴火を始めたのであった。有史以来の大異変が襲来したのであった。

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