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大宇宙遠征隊(だいうちゅうえんせいたい)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-25 6:20:48  点击:  切换到繁體中文



   近づく月面


 艇長辻中佐は、司令塔より、号令をかけるのにいそがしい。風間三郎少年は、そのそばについていて、ただもう、胸がわくわくするばかりだった。
 ああ月! 月の上に上陸するなんて、全くおもいがけないことだ!
「重力装置を徐々に戻せ」
 艇長の号令がとびだした。
「重力装置を徐々に戻せ」
 信号員が、伝声管の中へ、こえをふきこむ。するとそのこえは、機関部へ伝わって、重力装置が元へ戻されていくのであった。
 重力装置を戻すと、どんなことになるであろうか。
「おや、なんだか、身体が急に軽くなった」
 風間三郎は、おどろいて口に出していった。身体がふわりと浮き上るような気持になった。それもその筈であった。今までは、地球の上にいるのと同じくらいの重力が、乗組員たちの身体に加えられていたのだ。ところが今、それがしずかに減らされていったのである。重力が減るから、身体が軽くなる道理であった。
「おやおや、これはふしぎだ。重い宇宙服をきているのに、らくに歩けるようになったよ。金属製の宇宙服をきているとは思われない。まるで冬の外套がいとうを一枚きているぐらいのかるさだ」
 三郎は、ふしぎそうに司令塔の中をこつこつとあるいてみた。
 ところが、おどろきは、そのくらいではおわらなかった。彼の身体は、もっとかるくなっていったのである。冬の外套ぐらいの重さに感じていた宇宙服が、もっとかるくなって、やがて浴衣ゆかたをきているくらいのかるさになってしまったから、三郎は、全くびっくりしてしまいました。
「どうした、風間三郎」
 艇長辻中佐が、こえをかけた。三郎が、あんまりへんな顔をしていたからであろう。
「は、どうも気持がへんです」
「気持がへんだって。胸がむかむかしてきたのかね」
「いえ、そうではありませんです。この宇宙服の重さが急になくなって気持がへんなのです。まるで紙でこしらえた鎧をきているようで、狐に化かされたような感じです。艇長は、へんな気持がしませんか」
「はははは。そんなことは、べつにふしぎでないよ。月の上で、身体が自由にうごくようにと、この宇宙服の重さがはじめからきめられてあるんだ。これでいいのだよ」
 艇長のいうことは、三郎には、はっきりわかりかねたが、心配のことだけは、よくわかったので安心した。
 その艇長は、腕時計をちょっと見て、それからまた別な号令をかけた。
「窓を開け!」
 すると信号員が、窓を開けと、号令をくりかえした。
 窓が開くのだ。
 ごとごとごとと、妙な音がきこえたと思ったら、急にあたりがしずかになった。それまでにきこえていたエンジンのひびきも、司令塔内の話ごえも、みな急に消えてしまった。なんだか気がとおくなりそうであった。三郎はあわてて、あたりをきょろきょろ見まわした。
 それと気がついたのであろう、艇長は三郎の腕を、ぎゅっとつかんでくれた。
「あ、艇長……」
 と、三郎は叫んだ。がそのこえは、いつものこえとはちがって、たよりなかった。
「おい、風間艇夫。おどろいちゃいけないね。お前も、日本少年じゃないか。しっかりしろ」
 艇長のこえが、三郎の耳もとで、がんがんとひびいた。
 三郎は、艇長のこえに、元気をとりもどした。
「すみません、すみません」
 三郎は叫んだ。
「おい艇夫、お前は何かいっているらしいが、喋るときはお前の兜から下っている二本の触角を、わしの触角につけてから喋らないと、お前が何をいっているのやら、わしには一向お前の声がきこえないよ」
 艇長が注意をした。
「ああ、そうそう。それをすっかりわすれていた」
 三郎は、やっと気がついた。そして彼の触角を、艇長の触角の方へもっていきながら、
「ええ、たいへん失礼ですが、艇長の触角にさわらせていただきます。あのう、艇長、今まできこえていた声が、急にきこえなくなったので、おどろいたのです」
 と、目をくるくるうごかしていうと、艇長の目が兜の中で笑って、
「さっき、わしが号令をかけて、窓をあけさせたのは知っているね」
「ええ、知っていますよ」
 三郎は、自分の触角を艇長の触角からはずすまいと、一生けんめいに首をつきだしている。首の骨がいたい。
「窓をあけると、わが噴行艇の中の空気は、一せいに外へながれだして、艇内に空気がなくなったのだ。音は空気の波だから、空気がなくなれば、音は急にきこえなくなったのだ。それくらいのことは、お前にもわかるじゃろう」
「ははあ、なるほど」
 噴行艇のそとには、空気がすこしもないのである。だから窓をあけると、空気はどっと外へにげて、ひろがってしまったのである。音がきこえなくなったのは、このわけであるか。三郎はそのわけがやっとのみこめた。
「艇夫。そこの窓から、下をのぞいてみるがいい。これから着陸しようとする月の陸地が見えているよ。しかし、おどろかないがいいぞ」
 と、丸い窓を指さして、艇長はいった。


   月の引力


(おどろいては、いけない)
 艇長は、そういったが、三郎はそんなにいちいちおどろいていてはしようがないと思った。なに、おどろくものか、と度胸どきょうをすえて、窓から下を見おろした。
「あっ!」
 だが、やっぱり三郎はおどろきのこえをあげた。なんという怪奇な月世界の風景であろう。
 飛んでいく噴行艇の下は、まっくらであったが、それからずっと向こうの方を見ると、これはまたまぶしいまでに光る銀色の大きな陸地があった。
 よく見ると、その光る陸地は、けわしい山々が肩をならべて、そびえている。山のはしが光って、その後はすみでぬりつぶしたように、まっ黒な山脈が手前の方にあった。それより向こうの山脈は、全体がまぶしく光っていた。その間に、明るいひろびろとした原が見えていた。山脈の多くは、のようにつらなって、まん中が低くおちこんでいた。まるで爆弾をおとしたあとのように見えた。
 光る陸地は、帯のように、左右へ長々とのびてつづいていた。ちょっと見ると、月の世界は光の帯のように見えるのであった。月は丸いものと思っていたのに、これはふしぎな見え方をするものである。
 しかし、よく気をつけてみると、噴行艇のま下にある黒いところは、やはり月の陸地であった。空も黒いけれど、そこには、たくさんの星が、きらきらとうつくしくかがやいていた。しかるに、噴行艇のま下は、黒いだけで、星は見えなかった。星は見えない黒いかたまりこそ、月の陸地であった。
 まぶしい光の帯に見えるところには、太陽の光があたっているのであった。太陽のあたらないところは、墨でぬりつぶしたように、真黒であった。これが地球であると、昼と夜との境の陸地はうすぼんやりとあかるく見えるのであるが、それは空気があるため、太陽の光がちらばって、うすぼんやりあかるく見えるのであった。しかし月には空気がない。だから、太陽のあたるところはあかるく、あたらぬところはまっくらで、その境目は、たいへんはっきりしている。昼と夜としかないのが月の世界であった。あかつきだの夕暮だのぼんやりと明るいときはない。
 だから月の世界は、あれはてたように見える。やわらかさがない。死の世界である。けものもすんでいなければ、虫もとんでいない。花もなければ、木も生えていない。
「ああ、なんというさびしい月の世界であろう」
 三郎は思わず、ため息をついた。
 ただ心地よいのは、わが噴行艇が、光の尾をひいて、いさましくとんでいることであった。噴行艇は生きている。ま下の月の世界は死んでいるのだ!
 三郎は、とうとう窓から、身体をひいた。あまり荒れはてた月の世界の光景をながく見ていると、気がへんになってくるのだった。
 三郎が妙な顔をしていると、そこへ艇長がやってきて、触角をさしだした。
 三郎も、こんどは心得て、触角をさし出した。艇長が何か話してくれるのであろう。
「どうだ。月の世界が、はっきり見えたろう。すさまじいところなので、びっくりしたろう」
 三郎は、うなずいた。
「光っている陸地が見えたろう。『笑いの海』は、あの中にある。もうすぐ着陸だ」
「ああ艇長。『笑いの海』というと、月の世界に、海があるのですか」
「ほんとうの海ではないよ。月には水がない。だから海どころか、小川も水たまりもない」
「じゃあ、いよいよへんですね、『笑いの海』だなんて……」
「それは、こうだよ。地球のうえから月を見ると、黒ずんだところがある。その黒ずんだところが、ちょうど海のように見えるので、それで『海』というのだ。『笑いの海』というのが、つまりは、岩でできた平原なんだ。降りてみれば、よくわかるがね」
「はあ、そうですか。『笑いの海』の『笑い』というのは、どんなことですか」
「それは地名だよ。伊勢湾いせわんの伊勢と同じことだよ。しかし一説に『笑いの海』の黒ずんだ形がなんとなく笑っている人間の横顔みたいだから、それで笑いの海というのだと説く人もある」
「へえ、笑っている人間の横顔ですって」
 三郎は、また窓から、月の世界をのぞいた。
「ほら、あそこだ。一番高い山の左をごらん。まだ形がはっきりしないが、あの黒いところが『笑いの海』だ。笑っている人間の、鼻だの口だの頬だの、あたりが見えている」
「ああ、見えます、よく見えます」
 三郎には、艇長のいったとおりの、月の面にはいっている笑いの顔の一部が見えた。
 そういううちに、噴行艇は、月面に対していよいよ高度を下げてきたものと見え、光の帯のように見えていた太陽のあたる月面は、いつのまにやら幅が川のようにひろくなり、それがなお近づいて、ますますひろくなった。やがてそれは、洪水のようにひろがり、噴行艇のま下まで明るくなった。とたんに、魚雷のような形をした噴行艇の影が、くっきりと、月面のうえに落ちて、山脈も岩の平原も、流れるようにずんずんと後へ走っていった。
「着陸用意! 重力装置を反対にしずかに廻せ!」
 艇長の号令が、無電にのって出た。
 電力装置が、反対に廻りだした。すると、噴行艇の落下速度が喰いとめられた。艇はだんだん高度を下げていきながら、もりあがってくる月面の上に、ふわりと降りた。まるで蒲団ふとんのうえに落ちたかのように、しずかに着陸したのであった。ごとんと、たった一回だけ艇はゆれただけでじつに見事な着陸ぶりであった。
 噴行艇は、笑いの海に、巨体をよこたえたのであった。

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