8
帆村は一名の警官と連れ立って、黒河内子爵を訊ねた。子爵の代りに、例の白丘ダリアが出て、子爵は重態で、看護婦が二人もついている騒ぎだからと云った。
「実は、失踪された子爵夫人のことに関し、是非ご覧願いたい映画の試写があるのですが、それは困りましたネ」と帆村は長くもない頤を指先でつまんだ。
「映画ですか。あたし、代りに行きましょうか」
「そうですか。じゃ子爵の御了解を得て来て下さい。よかったら御一緒に参りましょう」
「ええ、いくわ」
ダリアは、まだ繃帯のとれぬ大きな頭を振り振り奥に引きかえしたが、直ぐコートと帽子とを持ってあらわれた。
「さあ、お伴しますわ」
三人が警視庁についたのは、すこし早すぎた。
「ねえ、ダリアさん。まだ四十分もありますよ」
「退屈ですわネ」
「ちょっと永いですネ」と帆村は云った。「そうそう、この中に面白いものがありますよ。警官に射撃を訓練させるために、室内射的場がつくってあります。僕たちが行っても構わないのです。行ってみませんか」
「射的ですって? あたし、これでも射撃は上手なのよ」
「じゃいい。行ってみましょう」
呑気千万にも帆村は、ダリアを引張って、警官の射的室へ連れて来た。そこは矢場のように細長い室だが、手前の方に、拳銃を並べてある高い台があって、遥か向うの壁には、大きな掛図のような的がかかっていた。その的というのは、白い紙の上に、水珠を寄せたように、茶椀ほどの大きさの、青だの、赤だの、黄だの円が、べた一面に描いてあって、その上に5とか3とかいう点数が記してあった。
「僕やってみましょうか」帆村は気軽に拳銃をとって、覘いを定めると、ドーンと一発やった。3点と書いた大きな赤円に、小さい穴がプスリと明いた。
「どうです。相当なものでしょう」
そういいながら、彼は次から次へと、あまり点数の多くない色とりどりの円を、撃ちぬいていった。
「今度は、ダリアさん、やってごらんなさい」帆村は拳銃を彼女の方に薦めた。
「エエ――」とダリアは答えたが、「あたし、よすわ」とハッキリ云った。
「そんなことを云わないで、やってごらんなさいな」
「だってあたし……あたし、眼が悪くて駄目なんですわ」
そういってダリアは、カラカラと男のような声で笑った。
まだ時間はあったから、二人は食堂へ行った。そこでオレンジ・エードを注文して、麦藁の管でチュウチュウ吸った。
「警視庁なんてところ、随分開けてんのネ」ダリアは、帆村をすっかり友達扱いにしていた。
「それはそうですよ。貴女みたいな方をお招きすることもありますのでネ」
「だけど、このオレンジ・エード、なんだか石鹸くさいのネ。あたし、よすッ」
半分ばかり吸ったところで、ダリアは吸管を置いた。
そんなことをしている裡に時間が経って、警官がわざわざ二人を探しに来た程だった。
階段を地下へ降りて、長い廊下をグルグル廻ってゆくと、大変天井の低い暗いところへ出た。例の赤外線男が出て来そうな気配だったが、しかし仄暗いながら電灯がついているから停電でもしない限り先ず大丈夫だろう。
映画検閲用の試写室は、思いの外、広かった。壁は一様にチョコレート色に塗ってあり、まるで講堂のような座席が並んでいた。正面には二メートル平方位のスクリーンがあった。
もう七八人の人が入っていた。雁金検事、中河判事、大江山捜査課長の顔も見えた。
そこへ別の入口から、警官に護られて、潮十吉が手錠をガチャガチャ云わせながら入って来て、最前列に席をとった。そこは、帆村探偵と白丘ダリアとが並んである丁度その横だった。
「もうこれで皆さん全部お揃いですか」
警官の映写技師が、一番後方から声をかけた。
「うん、揃ったぞ。もう始めて貰おうか」
帆村のうしろにいた捜査課長が声をかけた。
「じゃ始めます。あれを演る前に、一つ調子をつけるために、実写ものを一巻写してみます。ウィーンの牢獄です」
スクリーンの上へ、サッと白い光が躍ると、室内の電灯がパッと消された。一座はハッと緊張した。まずスクリーンの明るさで、室の中は暗闇だというほどではないが、しかし椅子の下、後方の両脇などには、小暗い蔭があった。それにこうして平然と、画面に見入っていていいものかしら、赤外線男の出てくるには屈強な地下室ではないか。
しかし一巻の映画は、極めて短いものであった。そしてまだ映画がうつっているのに、早くも電灯がパッと明るく室内を照らした。
「さあ、いよいよこの次だ」
「一体どんな映画なのだろう」
人々は胸のうちに、あれやこれやと想像をめぐらせた。
「私を外へ出して下さい」潮十吉は隣りに遊んでいる警官に訴えた。
「いや、ならん」
警官の声はあっけなかった。
さあ、いよいよ問題の映画が写し出されようとしている。潮十吉が、深山理学士のところから奪って来たフィルムはこれだ。そして身許不明の轢死婦人のハンドバッグの底に発見せられたのも、矢張り同じフィルムだった。この映画が写し出されたが最後、意外なことが起るのではないか。既に靴の跡によって嫌疑の深い潮十吉であるが、この一巻の映画によって、彼の正体が暴露するのではあるまいか。赤外線男は潮十吉か。或いは赤外線男の合棒でもあるか。
カタリと音がして、スクリーンの上に、青白い光芒が走った。こんどは十六ミリであるから、画面はスクリーンの真中に小さくうつった。
「ああ、これは……」
「ウム……」
画面の展開につれ、人々は苦しそうに呻った。誰かが、いやらしい咳払いをした。
いまスクリーンに写っている画面には二人の人物が出ている。
「ああ、こっちは、潮十吉だな」帆村は、あえぐように叫んだ。
「ああ、あれは伯母様ですわ。伯母様に違いないわ。だけど、ホホ……まッ……」
といったきり、白丘ダリアは口を噤んだ。
さて画面に、それから如何なる情景が展開していったか、その内容についてはここに記すことが許されぬ。しかしそれは密閉されたる室のうちで演じられている怪しげなる戯れだった。斯かる情景は人目のつかぬ真夜中に行うべきものだと思うのに、それがまことに明るい光の下に於て行われている。そのいぶかしさは、尚も仔細に画面を点検すれば、次第に明瞭だった。それは赤外線で撮影した活動写真であったのだ。
恐らく場面は、真夜中であったろう。真暗な室の中に、この場のことは演ぜられたのに違いない。それにも係らず、この室にどこからか赤外線を当て、それを赤外線の活動写真に撮影したのだった。そして人物は子爵夫人黒河内京子と青年潮十吉!
さてこの呪うべき撮影者は、一体誰であるか。
潮はこの映画の写っている間は、頭を下げ顔を掩うたまま、一度も首をあげようとはしなかった。映画が終って、一座の深い溜息と共に、パッと電灯がついた。
「潮」大江山課長は声をかけた。「この撮影者は誰か」
「あいつです」青年はグッと首をもちあげた。「あいつです。深山楢彦――彼奴がやったんです。子爵夫人と僕とは間違ったことをしていました。深山は而も夫人に恋をしていたのです。彼奴は私達の深夜の室をひそかに窺って暗黒の中にあの赤外線映画をとってしまったんです。深山はそれをもって可憐なる子爵夫人を幾度となく脅迫しました。一度は夫人があのフィルムの一端を奪ったのですが、それは焼いてしまいました。バッグの底にのこっているフィルムの焼け屑は、あれだったんです。鬼のような深山は、赤外線利用の技術を悪用して、それまでにも、人の寝室を密かに写真にとっては、打ち興じていたという痴漢です。しかし飽くまで夫人に未練をもつ彼は、夫人が意に従わないときはあの映画を公開するといって脅かしたのです。夫人は凡てを観念し、とうとう新宿のプラットホームからとびこまれたのです。これも皆、深山の仕業です。夫人は身許のわかることを恐れて、いつもあのような服装を持って居られました。あれは最も平凡な、世間にザラにある持ちものを集められたのです。いわば月並の衣類なり所持品です。それがうまく効を奏して隅田氏の妹と間違えられたのです。顔面の諸に砕けたのは、神も夫人の心根を哀み給いてのことでしょう。僕は復讐を誓いました。そして深山の室に闖入して、あのフィルムを奪回したのです。彼奴を探しましたが、どうしたものかベッドはあっても姿はありません。早くも風を喰らって逃げてしまった後だったのです。それから僕は……」
このとき白丘ダリアは、先刻から耐えていた尿意が、どうにももう持ちきれなくなった。その激しさは、いまだ経験したことが無い位だった。彼女は慌てて試写室を出ると、薄暗い廊下に飛び出した。見ると、直ぐ間近かに、赤い灯火が点っていて、それに「便所」という文字が読めた。
彼女は、飛び立つ想いで、そこの扉を押した。扉があくと、そこには清潔な便器が並んでいる洋風厠だった。ダリアはその一つに飛びこんで、パタリと戸を寄せると、気持のよい程、充分に用を足した。
大きい鏡があったので、ダリアはそこで繃帯を気にしながら、硫酸の焼け跡のある顔へ粉白粉を叩いた。そして入口の扉を押して、廊下に出た。その途端にダリアはハッと駭いて、
「呀ッ」
と声をあげた。
そこには思いがけなくも、帆村を始め、捜査課長、検事、判事など十四五人が、ダリアの方に身構えをしていた。
「まア、どうしたんです。帆村さん」
ダリアの救いを求めた帆村は、最早、先刻、射的で遊んだ帆村とは別人のようであった。
「白丘ダリアさん。それは今大江山捜査課長から説明して下さるでしょう」
言下に大江山課長はヌッと前へ出た。
「白丘ダリア。いま汝を逮捕する」
「あたしを逮捕するって、冗談はよして下さい」
「まだ白っぱくれているな。吾々の眼はもう胡魔化されんぞ。白丘ダリアが嫌いだったら、『赤外線男』として汝を捕縛する。それッ」
ワッと喚いて、選りぬきの腕に覚えのある刑事が、ダリアの上に折り重なった。もう遁げる道もなければ、方法もなかった。
「赤外線男」は、それっきり自由を奪われてしまった。
* * *
事件が一段落ついた後の或る日、筆者は南伊豆の温泉場で、はからずも帆村探偵に巡りあった。彼は丁度事件で疲れた頭脳を鳥渡やすめに来ていたところだった。仄かに硫黄の香の残っている浴後の膚を懐しみながら、二人きりで冷いビールを酌み交わした。そのとき彼の口から、この事件の一切の顛末を聞くことが出来たのだった。彼は中学校で同級だったときのあの飾り気のない口調で、こんな風に最後の解決を語った。
「『赤外線男』が白丘ダリアといったんでは、警官の中にも本気にしない人があった位だよ。しかし要点を云うとネ、元々『赤外線男』という名称は、殺された深山理学士がつけたものなのだ。彼は『赤外線男』を見たといって、いろいろな話をしたが、本当は一度も見たわけじゃなかったのだ。それは彼が便宜上拵えた創作的観念であって、実在ではなかった。
何故そんなことをやったかというと、始めはあの新説で世間を呀ッと云わせて虚名を博しよう位のところだったらしいが、いよいよというときには事務室の金庫から彼が消費こんだ大金の穴埋めに、『赤外線男』を利用したわけだった。研究室が潮に襲われると、逸早く彼は避難したのだったが、そのチャンスを巧くとらえて、潮のかえった後の自室や事務室を散々自分で破壊してあるき、自ら変圧器の上にあがると、自分の身体を縛ったのだ。智恵のある人間には訳のないことだ。
しかしこの犯行の裏には三人の女が隠れているんだ。そういうと不思議に思うだろうが、一人は情婦という評判の女・桃枝だ。この女には秘密に大分貢いだものらしい。金庫の金に手をかけたのも、この女のためだ。
もう一人の女は子爵夫人京子だ。これには潮が云ってたように色ばかりではなく、むしろ慾の方が多かったのだ。夫人と潮との秘交を赤外線映画にうつしたのは、夫人に挑むことよりも莫大な金にしたかったのだ。もし夫人が相当の金を出したとしたら、深山は事務室の金庫を破る必要もなく、『赤外線男』をひねり出す苦労もしないで済んだことだろう。しかし京子夫人にそんな莫大の金の都合はつかなかった。夫人は死を選んだのだ。
そこへ、もう一人の女性、白丘ダリアという女がいけなかった。これは先天的に異常性を備えた人間だった。左の眼と、右の眼と、視る物の色が大変違うなんて、ほんの一つのあらわれだ。あの狒々のような大女は、自分と反対に真珠のように小さい深山先生に食慾を感じていろいろと唆かしたのだ。『赤外線男』も、ダリアから出たアイデアだったかも知れない。
しかしダリアの使嗾に乗った理学士も、金庫の金を盗んだり、それからダリアの喜びそうもない情婦桃枝のことを手紙から知られると、すっかりダリアに秘密を握られてしまった恰好になった。其の後に来るもの――それを考えると彼は安閑としていられなかった。そこで深山は、思い切って、ダリアが同じ室に寝泊りしているのを幸い、水素瓦斯を使って睡っている彼女を殺そうとしたが、水素乾燥用の硫酸の壜が爆発してダリアに目を醒まされ、不成功に終ってしまったのだ。
ダリアはこの事を勿論感づいた。しかしだネ、彼女は悪魔だけに賢明だった。事を荒立てる代りに、一層深山の弱点を抑えて、徹底的にこれを牛耳ってしまう考えだった。ところがあの騒ぎによって彼女の身体に大きな異変が起った。それは飛んで来た硫酸に眼を犯され、右眼は大した損傷もなかったが、左眼はまるで駄目になった。結局右眼一つというようなことになってしまった。しかし左眼が潰れたことが異変というのじゃない。左眼が潰れたために、残る一眼が急に機能が鋭くなったんだ。左右の肺の一つが結核菌に侵されて駄目になると、のこりの一方の肺が代償として急に強くなり、一つで二つの肺臓の働きをするなどということは、医学上よく聞くことだ。それと似て、ダリアは左眼の明を失うと同時に、右眼の視力が急に異常な鋭敏さを増加した。元々ダリアの右眼は、左眼よりも物が赤く見えるといっていたが、赤い光線を感ずる神経が発達していたんだ。そんなわけだから、一眼になって異常な視神経の発達により、普通の人には到底見えない赤外線までが、アリアリと彼女の網膜には映ずるようになったのだ。普通の人が暗闇と思うところでも、ハッキリ視える。――この異常な感覚を自覚したときのダリアの狂喜ぶりは、大変なものだったろう。しかしその狂喜は、同時に彼女の破滅を予約したものでもあった。ダリアは悪魔になりきってしまった。殺人淫楽者という恐ろしい犯罪者に堕ちたのだ。そして赤外線が視えるということが、彼女を裏切って秘密曝露の鍵にまでなってしまった。それは後の話だがネ」
そういって帆村は、何か恐ろしいことでも思い出したらしく、大きい溜息をつくと、ビールを口にもっていって、琥珀色の液体をグーッと呑み乾した。筆者は壜をとりあげると、静かに酌いでやった。
「それからあの殺人騒ぎだ。暗闇の中に、次から次へ起る恐ろしい殺人事件。疑いは一応もってみても、眼のわるいお嬢さんに、そんな芸当が出来ようとは誰も思っていなかった。一方『赤外線男』という『男』の観念がすっかり普及していてお嬢さんに眼をつけることが阻害された。誰があの暗黒のなかで、選りに選って非常に正確を要する延髄の真中に鍼を刺しこむことが出来るだろうか。『赤外線男』という超人でなければ、到底想像し得られないことだった。ダリア嬢は、然りその超人的視力をもつ『赤外線女』だったんだ。これはあとで判ったことだけれど、彼女はあの銀鍼をシャープペンシルの軸の中に隠して持っていたのだった。
これに対して僕の探偵力は、全く貧弱なものだった。どう考えていっても、『赤外線男』という超人を肯定するより外に仕方がなくなるのだ。僕はそんな莫迦気たことがと排斥していたのが、そもそも大間違いではなかったかと考え直し、それからもう一度一切の整理をやり返すと、始めてすこし事情が判って来た。
『赤外線男』が殺人をやるようになったのは極く最近のことだ。以前に於ては『赤外線男』の呼び声は高かったにしろ、殺人事件はなかった。そこに何物かがひそんでいると気が付いた僕は、殺人事件の発生が、ダリアの一眼失明を機会にして其の以後に連続して行われたということを発見した。同時に探索の結果、ダリアの両眼の視力異常についても聞きこむことが出来た。よし、それなれば、何としても化けの皮を剥いでみせるぞ。そういう意気ごみで、僕はダリアに近づくと、大変心安くなった。折しも幸運なことに深山の写した子爵夫人と潮との秘交の赤外線映画が手に入ったので、そこにチャンスを掴む計画を樹てた。僕は手筈をきめて、ダリア嬢を警視庁に呼び出したわけだった。
最初の計画は、残念ながら失敗に近かった。それは庁内の警官射的場で、青赤黄いろとりどりの水珠のように円い標的を二人で射つことだった。僕はドンドン気軽に撃って、彼女にも撃たせようとしたが、ダリアは早くも危険を悟って拳銃をとりあげようとはしなかった。若しあの場合、彼女も射撃を始めたとしたら、必ずのっぴきならぬ証拠が出来る筈だった。それはあの色とりどりの円い標的の間に残る白い余白には、あの裏面から赤外線で照明している深山の別個の標的があったのだ。彼女は赤外線も赤い色も判別する力はない。それは赤外線も、吾々が赤を識別できると同様、アリアリと眼に映るからだ。しかし彼女は危険を感じて、吾々の眼には見えない赤外線標的を撃つことから脱がれた。しかし射撃を拒んだということが、僕の予想を大いに力づけて呉れる効能はあった。
さて、最後のトリック――それには鬼才ダリア嬢も見事に引っ懸ってしまった。それはすこし下卑た話だ。けれども、あの便所の一件だ。例のフィルムの映写中に彼女は激しい尿意を催したのだった。それは勿論、すこし前に食堂で彼女が飲んだオレンジ・エードに、一服盛ってあったというわけサ。映画が終るや否やダリア嬢は気が気でなく廊下へ飛び出した。もうこれ以上我慢をすると、女の身にとって顔から火の出るような粗相を演ずることになる。彼女は極度に狼狽していたのだ。暗い廊下の向うを見ると、嬉しやそこには『便所』と書いた赤い灯がついている。彼女は扉を押して飛びこんだ。果してそこには奥深く便器が並んでいた。彼女は用を足した。しかし茲に彼女は、とりかえしのつかない大失敗をしたのだった。
それは、この『便所』と書いた赤い灯は、普通の視力をもった人間には、到底発見することの出来ない光だったのだ。つまり赤外線灯で『便所』という文字を照していたのだ。吾々のようなものならば、その前を無造作に通りすぎてしまう筈だった。赤外線の見える女の悲しさに、ダリア嬢はついそのような灯の下をくぐってしまったのだ。その場の光景は予て張番をさせて置いた監視員によって、すっかり見とどけられてしまった。とうとう異常な視力の持ち主は化の皮を剥がれてしまったのだ。流石のダリア嬢もこうなっては策の施しようもなく、とうとう一切を白状してしまった。『赤外線男』――いや『赤外線女』の事件は、ざっとこんな風だった」
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