ふしぎな再会
モール博士と、行きあったのだ。ふしぎなところで、一緒になったものだ。
「おどろいたのは、わしの方のことだ。君はいつの間に、あの黒い筒の中に入れておいた設計図を使って、こんな人造人間を作りあげたのかね」
博士は、車上から、こわい顔をして、私たちを睨みつけた。
そういわれると、私は一言もない。私は、もう仕方がないと思ったので、こうなったわけを手短かに、博士に報告した。
博士は、私の一語一語に、顔を赤くして、ドイツ軍を呪っていた。しかし、私に対しては、思いの外、不快に思っていないらしい。
「博士。でも、へんですな」
「なにが、へんだ」
「でも、私は、この人造人間が、私たちを国境附近へつくまでは、全速力で走るように、ちゃんと器械を合わして来たのに、ここで停ってしまったのは、どういうわけでしょうか」
「なんだ、そんなことか。それは造作ないことさ。ふふふふ」
博士は、奇妙なこえをあげて、笑った。
「造作ないとは?」
「つまり、わしが停めたのさ。発明者であるわしには、あの設計によるA型人造人間を停めることなんか、わけはないのだ。幸いに、その器械をつんだ自動車が、あそこにああして、こわれずに、ちゃんとしているんだ」
と、博士は得意そうにいった。
なるほど、これは道理である。この人造人間がA型という名のついているものであることは始めてしったが、そのA型人造人間の発明者であるモール博士が、それを停めたり、また走らせたりする器械をもっているのは、ふしぎなことではない。
「そんなことは、なんでもないが、ベン隧道の下の、ドイツ軍の秘密の地下工場で、早速このようなりっぱな実物をつくりあげてしまったことは、腹も立つが、なんとおどろくべき、製造力だろう」
と、さすがの博士も、舌をまいた。
「博士はこれから、どうされるのですか」
「わしかね。わしは、やはり国境を越えて、フランスに入るつもりだ。君にあって、たいへんうれしいが、あと、ハンスのことが気がかりだが、仕方があるまい。では、君たち、わしの自動車に、一緒にのったがいい」
博士は、車上から手招きをした。
ニーナは、さっきから、道傍に身体をなげだして、死んだようになって、疲れを休めていたが、これを聞くと、むくむくと起きあがって、博士の自動車の方へ、よろめき歩いて行った。私も、ニーナにならうより外はない。しかし、この人造人間を、このままにしておくのは、たいへん勿体ないことだと思ったので、
「博士、この人造人間は、どうしますか」
と、たずねた。
博士は、車上にかがんで、受話器を耳にあてて、何かの音を聞いていたが、このとき髯もじゃの顔をあげ、
「この人造人間は、ここで片づけていく」
「片づけていくとは……」
「なあに、壊していくのさ」
「そんなことが出来るのですか」
「出来るとも。わしが設計したんだもの。しかもこのA型人造人間も、ハンスの持っているB型人造人間も、じつはどっちも、不完全なんだから、こわすのは、わけなしだ」
博士は、妙なことをいいだした。
「不完全ですって。なにが、不完全なんですか」
「そのわけは、ちょっと簡単にいえない。が、要するに、ちょっとやれば、すぐ壊れてしまうようなものは、不完全の証拠だ。わしは……」
といいかけた博士は、そこで急にことばをきって、熱心に受話器から流れ出す音をきき始めた。
「おお、そうか。いよいよやって来たか」
「やって来た? なにがやって来たのです」
「人造人間部隊の襲来だ。おそらく、お前たちが出発してすぐその後から、ドイツ軍がくりだしたものだろう。おお、見える見える。もうあそこまで来た。畜生、わしのものを失敬して、わしを攻めるとは、けしからんドイツ軍だ。だが、今に見ておれ」
博士は、かずかずの呪いのことばを、地平線のあなたに投げつけた。はるかうしろの、もうすっかり明け放れた地平線上には、いつの間に追いついたのか、三四百人の人造人間部隊が、肩を揃え、顔を並べて、大河の流れのように、こっちへ押しよせてくるのであった。
「あっ、撃った」
「えっ」
「人造人間の腕に仕掛けてある機銃が、一せいにこっちに向いて、撃ちだしたぞ」
だだだン、だだだン、だだだン。
ものすごい銃声だ。銃弾は、ひゅーン、ひゅーンと、呻りごえをあげて、私たちのまわりにとんで来る。私は、博士にうながされて、いそいで自動車上の人となった。
「見ていろ、千吉。今あの人造人間部隊を、一時にぶっつぶしてみるから」
博士は、しわがれたこえで叫ぶと、車上の器械のスイッチを入れて、釦をぽンぽンと押した。
「あれ、見よ!」
轟然たる音が、人造人間部隊の中から、起った。私は、今までに、こんな痛快な光景をみたことがない。一瞬のうちに、人造人間部隊は、ばらばらになって、空中に飛び散ってしまったのである。その有様は、飛行機の空中分解と、あまりかわらなかったが、しかし、これは、何百というA型人造人間が、一せいに分解して飛び散ったのであるから、その壮観な光景といったら、なんといってあらわしたがいいか、見当がつかないほどだ。
ドイツ軍が、人造人間で追撃させたことも、博士のために、無駄に終った。
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