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十八時の音楽浴(じゅうはちじのおんがくよく)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-24 16:59:47  点击:  切换到繁體中文


      5

「まあ、貴下はどうかなすっていらっしゃるのじゃない?」
 と、ミルキ夫人は博士の膝の上で、愕きの声をあげた。
 博士は別になんにもこたえず、相変らずじっと前方を見つめていた。
「だって、貴下のお身体は死人のように冷たいんですもの。わたしの身体はまるで氷の上に載っているように冷えてきましたわ。おお気味が悪い。貴下は本当に生きてらっしゃるのでしょうね」
「フフフフ」と博士が笑った。「生きているようでもあり、また死んでいるようでもありますよ」
「えッ、も一度おっしゃって!」
 と、夫人が博士の胸にすがりついたその時だった。入口のドアが荒々しくあいて、サロンへドタドタと飛びこんできた者があった。一人はミルキ閣下、一人は針金毛の女大臣アサリ女史だった。
 ミルキ夫人は、それと見るより早く、博士の膝から跳ね下りた。ミルキ閣下は、髭の中から大きな両眼をむきだし、鉄丸のような拳を振り上げながら、
「どうも結構な場面を拝見するものだ。法令では大統領夫人と庶民との恋愛的交渉を禁止してあるので、こんな場面なんか永遠に見られないかと思っていたのだ。お前は知ってやったか知らないでやったか分らぬがこのひどい冒涜の場面は先程からテレビジョンで全国へ放送されていたんだぞ。余が識ったばかりではなく、国民全体が識っているわ。そうなれば後はどうなるか、二人とも充分覚悟していることだろうな」
 と博士コハクに詰めよった。
 博士はそれでも冷然と構えていた。
「テレビ放送で全国に送られていたとすれば、この部屋で私の言った言葉も理解されているはずです。私の潔白はそれで証明されるでしょう」
 すると後から女大臣アサリ女史が憎々しげな赭ら顔を出して、
「博士、それはまことにお気の毒ですがネ、テレビ放送にはお二人の所作事が見えただけで、声の方はラジオが停ったきりで高声器はウンともスンとも鳴りませんでしたよ。だから貴下が何を喋ったか、それを知っている国民はただ一人もありませんでしょう」
「えッ、私たちの動作だけを放送して、声を放送しないなんて、そんなばかげたことがあっていいものですか。閣下のお言葉じゃないが、法令によればテレビは必ずラジオとともに放送する規程になっています」
 博士コハクは、今までの沈黙を破って、突如雄弁に喋りだした。
「はッはッはッ」と女大臣は無遠慮に笑って、「法令は閣下のお出しになるものです。今日閣下がテレビとラジオとは必ずしも同時に放送するを要せずという改正法令をお出しになったと仮定すれば、博士の抗議は意味ないことになるじゃありませんか。そして謹んで一言申し上げる光栄を有しますが、今日そのように改正法令が出たところなんです。だからテレビだけ送っても違反ではない……」
「それは許せない欺瞞だ。ことさら私たちの関係を誤解させるための悪辣な計略だ。何故なにゆえの中傷です。何故なにゆえの欺瞞です。それを説明して下さい」
 博士コハクは直立した身体から火のような言葉を吐いた。
 髭の閣下はみるみる蒼ざめた。が、彼はこのときブルブル慄える声で号令した。
「問答は無益だ。女大臣アサリよ、はじめ命じておいたとおり二人を処刑するんだ。それッ」
 ミルキ閣下は言い捨てるなり、アサリ女史をしたがえ外へ飛びだすなりドアをしめた。
 このときまで壁を背にして傍観していた美しきミルキ夫人は、この様子に愕いて自分もともに室外へ飛びだそうとした。しかしドアは鉄の壁でもあるかのようにビクとも動かなかった。
「おお、開けて下さい。わたしをどうしようというのです。閣下それではお話が違うではありませんか」
 ミルキ夫人は狂人のようになってドアをドンドンと叩いた。そして開閉用の釦スイッチを押しつづけたが、閉まった扉は再び動こうとも見えなかった。
 そのときどこからともなく部屋のうちに、シュウシュウという、なにかパイプから蒸気の洩れるような音が聞えてきた。
 まっさきに夫人がそれに気がついた。彼女の紅をさしたしなやかな指が我と我が円き喉をしめつけた。
「ああッ、毒ガスだ。なぜわたしまで殺すのです。ううーッ、ここを開け――開けて下さい」
 灰白色の毒ガスはプスと低い音をたてて、床の上を匍い、霧のように渦をまいて、だんだんと高く舞いのぼってゆくのであった。夫人の喉笛あたりが、みるみる真紅になっていった。細い五本の指も赤く染まっていった。そしてその赤い雫は胸の白い煉絹の上にまで飛び散っていった。夫人は蒼白な顔をして荒々しい呼吸に全身をふいごのようにはずませていた。
 博士コハクは灰白色の毒ガスの中に、まるで塑像のように立っていた。夫人の苦しむ姿も目に入らぬようであった。なにかしきりと考えこんでいるようにも見えた。
 が、突然歩きだした。室内をクルクルと栗鼠リスのように走りだした。そして四方の壁の表をしきりと探しているふうに見えた。
 この室内の光景は、外部からもテレビ受影機をとおして手に取るように見えた。一方の壁付にミルキ夫人が苦悶している。博士コハクは狂人のようにクルクル走りつづけている。
 テレビ受影機をジッと覗きこんでいるのはミルキ閣下と女大臣アサリ女史だった。二人は彼の室内の模様がいかに移りかわってゆくかについて異常な興味をつないでいた。
 ただ二人は、間もなく眼の危険を悟った。テレビ受影機のスクリーン一杯に、博士コハクの顔が写った。とうとう送影機のレンズを見つけられてしまったのだ。はたして次の瞬間博士が椅子を目よりも高く振りかぶると見る間に、スクリーンは鏡のようにひらめき、次いで映像がストンと消えてしまった。
 二人はかわるがわる受影機の前に立って、目盛盤を廻してみたが、スクリーンの上にはふたたび何の影も現われなかった。室内の様子をうかがうテレビの器械は完全に破壊されてしまったのである。ミルキ閣下と針金毛のアサリ女史は目と目とを見合わせた。
「見えなくなった。どうしたらいいだろう」
「もう見えなくてもようございますよ。二人とも死んでしまうことは、もう明らかでございますからネ」
「きっと死ねるかネ、アサリ女史」
「問題はありませんわ」
 そういっているとき、ミルキ夫人の室から轟然たる一大音響が聞えてきた。
「あッ」とミルキ閣下は耳に蓋をしながら、「あの物音は一体何が起ったんだろう」
「閣下、早く行って見ましょう。博士が逃げるためにドアを破ったのかも知れませんよ」
 だがドアは、前のようにピタリと閉まっていた。二人は相談した結果、扉を開いてみることにした。そこに番をしていた電気士がすぐに送電したので、ドアは釦を押すと同時に、また前のようにスルスルと下に落ちた。
 二人は室内に躍りこんだ。大爆発が起ったものと見え、あの豪華な装飾も跡はなくなって、じつに目をそむけたいような荒れ方だった。二人は床の上に、バラバラになって飛び散っている男女の腕や脚を見た。それを拾おうとして女大臣が一歩室内に足を入れたとき、ちょうど待っていたかのように、ボーッという音もろとも、床上が一面の火焔でもって蔽われた。勇敢をもってなる女丈夫アサリ女史も、こうなってはもう策の施しようもなく、その場に立ちすくんだ。床上に残っていたバラバラの手足も、すっかり火焔のなかに隠れてしまった。
 ミルキ夫人と博士コハクとはかくしてアロアア区の煙と化したものと見られた。しかし爆発の種がどこにあったのかは分らなかった。しいて考えれば、博士コハクが持ちこんだとしか思われなかった。でも博士がなぜ爆薬を用意してきて、自ら爆死したのか、ミルキ閣下にはそのへんの事情がいっこう腑に落ちないのだった。

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